「ふぅ、ごちそうさまでした。それにしてもいつもすみませんね。会うたびにご飯作ってもらっちゃって」
雛罌粟さんが家に戻って作ってくれたお昼ごはんを彼女と一緒に食べて僕は一息ついた僕は、食器を洗っていた。せめてこれくらいはね。
雛罌粟さんも片付けを手伝ってくれている。
「ん?あぁ、たしかにそうね。でも、私がやりたくてやってるんだもん。気にしないでいいよ」
そうは言われても、やってもらってばかりってのもちょっと悪いからな。どこかでお返ししたい。
「それより、これからはちゃんとお休みの時でもご飯はちゃんと作ってみたら?」
「うーん、まぁ考えてみますけどね」
食器を洗い終えた僕はリビングのソファーに座った。雛罌粟さんはリビングで立ったままだ。
それじゃ座りなよ、とでも言ってあげたいけど、そうなると雛罌粟さんが僕のすぐ隣に来るんだよなぁ。それだと僕が大変なのでこのままにしている。
別に僕は自炊が嫌とかではないんだよな。そりゃだって平日は普通に抵抗なくやってるわけだし。さすがに平日までこんな感じってわけにもいかない。
これでも一応それなりに身体には気をつけている方なんだよな。だから偏った食事はやめているようにしているわだが。
ただ趣味に浸りたいこの長期休みに時間を割いてまでやるべきだと思うかと言われると、ちょっと違うんだよなぁ。
ゲームに時間を使うのならその辺の時間はどうしても減らさないといけない。
それなら多少の栄養面で問題はあっても、既存のものだけで済ませるってのは効率がいいと思う。
ちゃんとした栄養が取れるなら無理しなくても、既存のもので充分だ。それにこれなら失敗がないしね。
それにそれだけで済むならお金の節約も出来るしさ。趣味を満喫したい人には結構いいメニューなんだよね。
まぁ何もする事が無くなって暇になったら、ちょっとやろうかなとは考えていたけどさ。
それに別にこれは食事だけに限った話じゃない。この長期休みには基本的に家事全般を極力省略している。
ぶっちゃけ毎日パソコンとラノベとしか向き合わない生活をしていると、その辺がダラダラでもあんまり気にならないんだよね。そもそも視界に入らないわけだし。
「結局、その食事の時間を他にうまく使えないかなって考えちゃうんですよね。主にゲームとかですけど」
「なんとも君らしいねぇ。でもほどほどにね、君が倒れたりしたら私だって嫌だもん」
「…………………ま、自分の体調管理はそれなりに出来るんで大丈夫ですよ」
それは………ちょっと難しい、かな………
今一瞬ふっとそんな事が頭をよぎったけど………これは言えないよなぁ。言っていい事でもないし。
「それで、雛罌粟さんはこれからどうしますか?花火大会までここにいますか?」
どうせ後で合流するなら今から一緒にいた方が面倒が無くて楽だ。もっともする事は無いけどな。
「うーん、それもいいんだけど、私は一旦帰るよ。明日からのお店の準備もあるし。それに、今日の準備もね」
「? お店はともかく今日のって、花火大会のですか?何かやる事あるんですか?」
僕はふと気になって聞いてみた。
別にすぐそこで行われる事だし、そこまで準備するような事は無いと思うんだけど。シートとかならもう準備してあるんだろ?場所も僕がなんとかするし。他に用意するものあるのか?
「まぁちょっと、ね。そういう事で、それじゃあまた後でね」
雛罌粟さんはそう言うと僕の家を出て行った。なんだ、気になるいなくなり方してくれちゃって。
まぁ別に悪いことするわけじゃないでしょ。むしろ僕にとっていいことかも。
さてと、それなら僕はそれまでにゲームを満喫するかな。それならタイマーセットしておくか。熱中すると確実に待ち合わせ時間過ぎちゃう。
僕はソファーから立ち上がるとパソコンへと戻っていった。
雛罌粟 罔象は自分が営んでいる喫茶店兼自宅の『Cafe Red Poppy』に戻っていた。
家に到着すると罔象は明日からのお店の準備を始めた。
夏季休暇に入って昨日まで実家に帰ったのでやる事はたくさんある。
外出した時と同じ格好の罔象はとりあえず店内の掃除から始めた。ホウキで店内を掃いていく。
一応実家に行く前に一回掃除はしているんだけど、それでも自分がいなくなっている間にホコリなどは溜まっていく。
明日すぐに開けるように今のうちにある程度の掃除はしておきたい。
「それにしても、まさか一緒に行ってくれるなんてなぁ」
罔象は店内の掃除をしながらそっと呟いた。開けた窓から流れてくる風が心地よい。
今回割と前から竜胆と一緒に花火大会に行きたいとは思っていた。そのための準備もちょっとずつしておいた。
この前遊園地に行ってそれがとても楽しかった。それに花火大会なら彼も一緒に楽しめるかもしれない。
この現代本来ならスマホでパッと聞けばよかったのだが、罔象は彼の携帯番号を知らない。結局アナログではあるけど自分の足で聞きにいくしかない。
それでもそのまま誘いに行くのはなんだか恥ずかしかったので、実家から帰ってくる途中でお土産を買ってそれを彼に渡すということでそれを口実にして竜胆の家に向かった。家の場所は前に一回行っているので分かる。
何とも情け無い話だけど、いつも彼と話しているのだってほとんどが『Cafe Red Poppy』に行っているからしているわけだ。自分の意思で彼に近づき話し出すというのはあまりない。
しかしよくよく考えたら今は夏休みだ。もしかしたら迷惑になるかもしれない。
竜胆は趣味を何よりも大切にしている人だ。それは彼の家に行って、彼の生活を見ていればよく分かる事だ。
そんな彼のことだ、夏休みは自分の中にこもって、読書やゲームをして思いっきり趣味を満喫したいのではないだろうか。普段人と関わることでできている傷を癒しているのかもしれない。
そんな中で自分が遊びに行きたいなんて彼にとって迷惑以外の何者でもない。自分だけの時間を邪魔されたくはないだろう。
ただでさえ普段から耳栓をしているような子だ。趣味を満喫している間に人に邪魔されるのは嫌だろう。
という事で彼の家に来たはいいものの呼びかけるべきがこのまま帰るべきかで悩んでいた。
しかしあんまり長く悩みすぎていたのだろう、竜胆が家から出てきてしまったのだ。
彼から来てくれたのはとても嬉しいけど、どうやって話しかければいいのか分からなかった。
思いっきり狼狽してしまったけど、結果としてどこかの漫画のようなことを言ってその場はしのげた。一回閉め出されたけど。
いきなり押しかけたのに彼は特に嫌な顔をするでもない普通に出迎えてくれた。これに関しては素直に喜んだ。
それからお土産を渡して、本題を話してみた。
一蹴される可能性も充分あったがそれでも聞いてみたかった。
しかし意外にも竜胆はあっさりと了承してくれた。ノリノリってわけではなさそうだけど、少なくとも否定的ではなかった。何かブツブツよく分からない事言ってたけど。
それから色々とあって一緒にお昼ご飯を食べることになって、それから夕方まで解散して今に至る。
彼の性格からある程度すごい生活はしているんだろうとは思っていたけど、あれは予想外だった。
本来なら今のうちから行って場所取りとかをしたりするものなんだけど、竜胆が場所取りは任せてと言っていたので任せる事にした。彼ならいい所を知っていそうだ。
というわけで罔象は今こうやってゆっくりと店の掃除をしているわけだが。
まさか竜胆がこうもあっさりと承諾してくれるとは正直驚いた。まぁ彼は優しいから否定はしないにしても、嫌な顔はすると思ってたのに。
彼も私と出会ってから少しずつ変わってきてるのかな?いや、元々悪い子じゃないんだけどね。
こう言ったら失礼かもしれないけど彼は何を考えているのかよく分からないところがある。これでもこうやって隣にいることでちょっとは分かるようになってきたけど。
それでも罔象は彼といるととても安心するのだ。中途半端な関係でお互いのことをよく知らない。男女の関係にしては淡白すぎるのかもしれない。会うのだって平日の朝夜合わせても一時間あるかないかだ。
もっとも罔象も竜胆も他に付き合ったことが無いので、男女の関係というのをそもそもどうすればいいのか分からないのだが。
それでも僅かにある彼とだけの時間では素の自分でいられることが出来る。
そもそも彼がちょっと大人びてるところがあるのもあるんだろうけど。だからたまにどっちが歳上が分からなくなることがある。
たまに大人として振る舞わないとと思うこともあるけど、彼は別にいいと言ってくれた。
だからこそ…………………いや、それはいくらなんでもね。
フッと頭に浮かんだ考えを罔象は頭を振って消す。それはいくらなんでも子供すぎる。
そんなことを考えながら罔象はふと時計を見た。
「あ!いけない、そろそろ準備しておかないと」
いつでもいけるようにしないと、お店のことで集中してたら間違いなく遅れる。
実家から持ってきたシートとあともう一つ。
「竜胆君、どんな反応してくれるかなぁ」
そんなことを呟きながら罔象は準備を進めていく。