※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第38話 屋台

 こうして僕達は恥ずかしがりながらも神社に到着した。ふぅ、思ったよりも時間がかかってしまったな。

 とにかく人は多いし、人の流れが一方向ではないのでぶつかりやすいんだよねぇ。おかげで何度も転びそうになった。

 まぁこれだけのイベントならそれも当然と言えるのかな。それにこうやって目的地には着いたんだし、今からは楽しむか。

 神社の中にはたくさんの出店が並んでいて、既に来ていた人達で賑わっていた。食べ物系の屋台からは食欲をそそるいい匂いがしてくる。

 こうやって出店を見てみると今から花火大会なんだなって感じがしてくる。何となく雰囲気が、だけどね。

 雛罌粟さんの浴衣も充分そんな感じはするんだけど、浴衣だけならゲームとかでも見るからさ。この時期なら尚更。

 それにしてもやっぱり浴衣って少ないんだよな。普通もうちょっといるかと思うよね。

「わ〜!ねぇどれから見ていく?」

 隣にいる雛罌粟さんも楽しそうだ。服装は変わっても性格はいつもと変わらない。

 こういう所ではしゃいでいる姿はとても可愛らしかった。

 やっぱり僕より歳上という事でたまにどうやって接するべきなのか、未だに迷う時がある。

 僕は人によって臨機応変に対応を変えるとか出来ないからさ。雛罌粟さんを歳上として扱うべきか親しい人として扱うべきか悩むんだよね。

 だからこうやって目線を合わせて楽しめる事があるのはいいな。一緒にいてやりやすい。

 まぁこれを言うと『子供っぽい』だの何だの言ってしょげちゃうので言わないけどさ。 

 僕としてはそういう雛罌粟さんもとても魅力的だと思うんだけどな。思いっきり撫で回したくなる。

 楽しめる所でしっかりと楽しめるってのは結構大切なことだと思う。メリハリというか、そういうのは大切でしょ。

 それにしても……………

「あの、雛罌粟さん。神社の中はそこまで混んでいるわけではなさそうなので、離れてもらっても大丈夫ですよ?」

 今の雛罌粟さんは僕の腕に抱きついている状態だ。人混みの中で仕方なかったとはいえこれ以上は恥ずかしい。

 ハタから見たらバカップルにしか見えないからな。というか既に何人かから注目されている。

「え?あ………う、うん…………」

「雛罌粟さん?どうかしたんですか?」

 明らかに落ち込んだ様子の雛罌粟さんが気になり僕は声をかけた。どうしたんだ?

「あの、さ。君が嫌じゃなかったらでいいんだけど、もう少しこのままがいいな。ダメ?」

 雛罌粟さんはそう言うと僕の腕に抱きつく力を少しだけ強くした。柔らかいものがよりしっかりと押しつけられる。

 え?この状態って事か?このべったりくっついている状態を?正直周りからも見られているから恥ずかしいんだよなぁ。

 でもこんな上目遣いで言われたら断れないだろ。

「まぁ………いいですけど」

 僕がそう言うと雛罌粟さんは笑って嬉しそうに歩き出した。

 この笑顔が見れるならこれくらいの恥ずかしさは安いもの、なのかね?どっこいどっこいだと思わなくもないけど。

 そう思いながら僕はこの状況を受け入れた自分は変わったなと感じて苦笑いをした。

 ちょっと前だと人が近くにいるだけで、やってる事が楽しくなくなるまであったのに。ここ数ヶ月で変わったな。

 もっともそれは雛罌粟さんだから、だけどな。後こうなるのは………()()()くらいか。でも今はいないからノーカンね。

 それ以外はやっぱり近くにいて欲しくないと思ってしまう。どうしてもその人の心理を読もうとしてしまうから落ち着かない。

 でも彼女だけとはいえ、こうやって純粋に楽しめそうならこの関係もいい方向に進んでる、かな。

「さてと、これからのために夕ご飯は軽めにしておいたから、まずは何か食べようよ」

「そうですね。まずは………あそこにしますか」

 僕は最初に向かう屋台を見つけると歩いて行った。

 

 

 

「う〜ん、美味しいね!」

「はい、そうですね」

 屋台を見回りながら僕達は話していた。さっきみたいに抱きつくのはやめたけど、手は繋いでいる。正直………すごい恥ずかしい。これは慣れる事はないのかな。

 というかこの前の遊園地以来ちょいちょい思ってたけど、一応僕と雛罌粟さんは付き合ってはないわけだ。

 ただそれが最近はほとんど建前になってる気がする。まぁ僕としても嬉しいからいいんだけどさ。

 人がさっきよりも多くなってきたな。ここから花火を見るって人もいるのだろう。

 屋台のものってこういう時でないと食べられないからかな、すごい新鮮なんだよね。

「それにしても、最初にチョコバナナ食べてそのあとりんご飴で今鯛焼きって。やっぱり君甘いもの好きなんだ」

 雛罌粟さんが僕の食べている鯛焼きを見ながら言った。ちなみに雛罌粟さんも僕と同じで鯛焼きを食べている。僕ば餡子で雛罌粟さんはクリームだけど。

「そういえばそうですね。たしかにそうかもしれません」

 塩辛いものとかも嫌いではないけど、どちらかというと甘いものの方が好きかも。

 そして前々から思ってたけど屋台の食べ物ってガッツリしたもの多いよね。これは夕飯少なめにして正解か。

「そっか、それじゃあ私の予想も当たってたんだ。よかったぁ」

「予想ってなんですか?」

 何、僕の好みなんて予想してたのか?何の為に?

「君のコーヒーの事。よく飲んでもらってるんだから、君の好みに合わせたいなぁって思って最近考えてるの」

 そんな事してたのかよ。たしかに前に比べて飲みやすくなったなとは思ってたけどさ。

「君が頼むものとかを考えて、君は甘いものが好きかなって思ってたの。それでブレンド考えてたんだ」

 バッチリ分かってたんかい。なんか恥ずかしいな。でもすごく嬉しい。

「だからさ………また飲みに来てよ」

 そう言う雛罌粟さんの声はちょっとだけ元気が無かった。どうかしたのかな?

「雛罌粟さん?どうかしましたか?」

「ん?あぁ、いや大丈夫」

 そ、そうか?ならいいんだけど。

「そういえば私はクリームだけど、君のって餡子でしょ?ねぇ、ちょっとだけ食べさせてよ」

「いいですよ。それじゃあ僕にもそっちの食べさせてくださいよ」

「うん、いいよ」

 僕達はお互いの鯛焼きを交換して食べた。うん、こっちも美味しいな。帰りに買って行こうかな?

「こっちもいいね、って……………あ……………」

 美味しそうに食べていた雛罌粟さんが顔を赤くさせて俯かせてしまった。

「雛罌粟さん?どうかしましたか?」

 そっちの鯛焼きは好みじゃなかったか?でも美味しそうに食べてたしな。

 

 

「えっと………今のって………その………か、間接キス………だよ、ね」

 

 

 あ………………………

「そうかも、ですね」

 僕も顔を俯かせてしまった。やっちゃったなぁ。

 ただでさえ手を繋ぐという恥ずかしい事をしてるのに、ここでさらにやってしまった。しかも結構ナチュラルに。

 ふと周りを見てみると何人かの人がこっちを見ていた。中にはニヤニヤしている人も多い。

 浴衣姿の大人と高校生というコンビがイチャイチャしているのが大層珍しいのだろう。僕がひと睨みしたら顔を逸らしたが。

 それなりに人がいるってのに何やってんだか。楽しみすぎてその辺の注意忘れてたな。

 雛罌粟さんとの距離がちょっとずつ縮められてるのは嬉しいけど、こういう事を躊躇なくしてしまうのは考えものだな。

 いや、やる事自体は別にいいんだけど、人前ではちょっとね。

「知り合いの人にも見られたかも………」

 雛罌粟さんが手で顔を覆って首を振っている。

 え?知り合いいるの?って当たり前か。

 僕達の住んでいる近くで行われてる花火大会なんだから知り合いがいて当たり前だ。

 というかむしろ知り合いの方が多いのかもしれない。『Cafe Red Poppy』は地元民が結構来るからな。

『Cafe Red Poppy』の常連さんとかもいるかもしれない。しかもおしゃべり好きなおばさん達が多いからなぁ。これはしばらくイジられるかもな。

「まぁ気にしないでおきましょうよ。こういうのって気にしたら終わりですよ」

「君は被害が無いからってぇ………」

 雛罌粟さんは恨みがましそうに見てきた。そんな顔で見ないでよ。

 でもまぁそうだな。というか交換しようって言い出したのは雛罌粟さんでしょ?

 僕の方はそもそもこの街での知ってる人なんて、それこそ雛罌粟さんくらいだ。学生の知り合いなんていないし、いたとしても向こうも覚えてないだろう。

 最近は『Cafe Red Poppy』に行くのは夜中、人がいなくなってからだから、僕がどうこうされて言われる事はまず無いな。

 というかそれ関係無く、良くも悪くも人に見られるのには慣れたからな。睨めば大体終わる。その後の事はどうでもいいし。

「あ、そうだ。雛罌粟さんちょっといいですか?確認したいことがあるんですけど」

「確認したいこと?」

 顔を俯かせていた雛罌粟さんの手を引いて僕は屋台の間を歩いて行く。たぶん大丈夫だと思うんだけどな。

 えっと………どこかな?……………お、見つけた。僕は目的地で立ち止まった。

 

 

「ここは………射的屋?」

 

 

 雛罌粟さんは僕が立ち止まった所を見上げて呆然と言った。

 さてと、ここに来た目的を果たすかな。

 

 

 

「たしかにこの前の遊園地でも射撃ゲームすごい高得点だったけど、君が遊ぶの?」

 射的屋の屋台を見上げながら雛罌粟さんが尋ねてきた。不思議そうに首を傾げている。

「遊ぶというか、まぁそれもあるんですけどね。どちらかというと確認ですよ」

 たぶん大丈夫だとは思うんだけどなぁ。よく分からないからまだはっきりしてなかったんだよね。

「確認?屋台で確認って、何するの?」

「それは……追々話しますよ。話すタイミングがあったら、ですけどね」

 僕はそう言うと雛罌粟さんを連れて屋台にいたおじさんに声をかけた。正直これを話していいものか不安だったけど、一人にするわけにもいかないしな。

「あの、すみません」

「いらっしゃい………ってお前さんかい!」

 あ、ちゃんと覚えられてるのか。前に来たの結構前だよ?てっきり忘れられてるのかと思ってた。僕もお昼まで忘れてたし。

 というかこの人に至っては未だに思い出せない。誰なんだ?

「えっと………お久しぶりです、でいいんですかね?」

「何だ、俺のこと覚えてないのかよ。そうだよ、あの時にいたのも俺だよ」

 へぇ、そうだったのか。まぁどうせまたすぐ忘れるから覚える気もないけどね。

 っと、そんな事どうでもよかったんだ。雛罌粟さん待たせないように手早く確認するか。

「あの、それで今日はその確認に来たんですけど。僕ってもう大丈夫なんですかね?」

「ん〜?たしかあの時から七年くらい経ってるから………もう大丈夫じゃねぇか?」

 きっちり時間も覚えられてたよ。しっかりしてるねぇ。

「ねぇ竜胆君、君何かあったの?何、大丈夫かどうかって?」

 隣で僕とおじさんのやり取りを聞いていた雛罌粟さんが声をかけてきた。おっと、置いてけぼりにしてしまったか。

「君は………西の喫茶店の嬢ちゃんか?何だお前さん達知り合いなんか?」

「あ────そんなところです。それで何なんですか?」

 さっきの事もあり関係を濁した雛罌粟さんはおじさんに尋ねた。あ、それ言うのはちょっと待った。

 

「まぁ簡単に言うと………コイツはこの辺の屋台から出禁食らってたんだよ」

 

「出禁⁉︎」

 雛罌粟さんは驚いたように僕の方を見てきた。あーあ、余計なことを言いおって。

「君何か問題起こしたの?」

「問題ってほどじゃないですよ。ただ普通にこの射的屋で遊んでたら出禁食らったんですよ」

「おい!言い方があるだろ!コイツはウチの屋台の景品根こそぎ持っていきやがったんだよ」

 僕が雛罌粟さんに説明してると、横からおじさんが怒鳴ってきた。何だよ、うるさいなぁ。

「僕はちゃんと正攻法で取ったつもりだったんですけどねぇ」

「こっちも商売でやってるんだよ。一気に全部持ってかれたらたまったもんじゃないんだよ」

 お客様は神様でしょうが。というかアレに関してはならない使ってる銃の射程と目標の距離がズレてたもん。当たって当たり前だ。

「あー、要は君が射的で取りすぎたから出禁になったってこと?」

「まぁそんなところです。それが七年くらい前の事で、もう出禁解けてるのか確認がしたかったんですよ。出禁がどれくらいで解けるのか知らなかったので」

 もっとも僕はあの時純粋に楽しみたかっただけだから、別に反省はしていないが。

「でもこういう遊び系の屋台ではそれなりにある話だと思うけど。結構覚えられてるんだね」

 たしかに雛罌粟さんの言う通りだな。ちょいちょい聞きそうな話だから、てっきり覚えられてないかと思ったし。

「こんな目つきの悪いヤツは忘れたくても忘れられないよ。それにコイツ、ウチ以外でもやらかしてるからな」

「他にも問題起こしたの⁉︎」

 え?………僕他に何かやらかしたか?覚えがないんだけどなぁ。

「いや、僕にもさっぱり。何かやっちゃいましたかね?」

「お前本当に覚えてないのか?大体、ウチの屋台で取りすぎただけでそんな何年も出禁になるわけないだろ」

 それもそうか。

「僕何やったんですかね?全く覚えがないんですが」

「一応問題起こしておいて、それはどうなの?」

 雛罌粟さんが苦笑いして言ってくるが覚えのない事言われてもなぁ、本当に心当たりがない。

 

「お前なぁ………暴力沙汰起こしておいてそれは無いだろ」

 

 暴力沙汰…………?そんな事したか?

「竜胆君?どういう事?」

 雛罌粟さんがいよいよドン引きした目で僕を見てきた。え⁉︎本当にそんな事したか⁉︎僕は思いっきり首を振った。

「僕そんな事した覚えは無いんですが⁉︎」

「ほ、本当に忘れてるのかよ………当時高校生くらいの男二人くらいと喧嘩してただろ」

 ん?高校生くらいの男?…………………それだけだと心当たりがありすぎるな。

「たしか………お前連れがいなかったか?同い年くらいの女の子」

 …………あー‼︎何となく思い出してきた‼︎最初からそれで言ってくれよ。たしかに前来た時にそんな事があったな。

「はいはい、何かありましたね」

「え?本当に暴力沙汰起こしたの⁉︎」

 雛罌粟さんが驚いて声をあげている。そんなに驚くような事だったかなぁ。

「僕としてはあれは暴力沙汰のつもりは無かったんですけどねぇ。向こうが勝手絡んできただけで、それを軽く対応しただけですよ。話が誇張されてるだけです。

 要はカツアゲってヤツだ。それをちょっと比喩抜きでシメたら騒ぎになったというわけだ。

「あれが軽い対応か。お前おっかないな」

 おじさんは引きつった笑みを浮かべている。ちゃんと生かしてはおいただろう。あそこまで大騒ぎすることだったかな?

「僕の昔の話はどうでもいいんですよ。それで結局僕はもう大丈夫なんですね?」

「まぁ一応な」

 それだけ分かればいいや。せっかく来たんだもん、ここでしか出来ないようなゲームもしたいじゃん。

 僕はお財布からお金を出すとおじさんに渡した。

「それじゃ、一回やらせてください」

「お、おう、いいけどよ………」

 さすがに出禁の解けた人に対して断る事は出来ないのか、おじさんは銃を渡してくれた。

 さてと、それじゃあやりますかね。僕はガチャッと銃を構える。

「遊園地でもそうだったけど、竜胆君が銃を構えると何でか様になるよね」

 雛罌粟さんが感心したように言ってくる。そりゃそうだろうなぁ。

「それはどうも」

 僕はそれだけ言うと狙いを定めた。まずは手始めにぬいぐるみでも狙ってみようと思う。

 リアサイトもフロントサイトもない銃だけど、やっぱりテンション上がるもんだなぁ。拳銃だったら使い慣れてるからなおよかったんだけどね。そういう問題でもないか。

 

 ターゲットロックオ〜ン……………バンッ!




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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