※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第39話 森

 「ねぇ、竜胆君………」

「………何ですか」

 僕達ら再び屋台を歩き回っていた。歩きながら雛罌粟(ひなげし)さんが呆れたような声で言ってくる。

「君さぁ………前に出禁になってんでしょ?それなら学習しようよ」

 雛罌粟さんか僕の手元を見ながら言ってくる。そんな事言われてもなぁ。そこは褒めてよぉ。

 僕の腕には大きな紙袋が三つほどある。その中には射的の景品がこれでもかと詰まっていた。

 要はまたやらかしたわけだ。射的で本気になりすぎて景品全部取っていった。 

「仕方ないじゃないですか。やってるうちにテンション上がってきちゃったんですよ」

 僕は唇を尖らせて言った。

 もちろん最初は手加減するつもりだったんだよ?それこそ出禁食らったわけだしさ、そこは考えたよ。

 ただやってるうちにテンションが上がっちゃって、本気になり始めてしまったわけだ。

 何か途中から雛罌粟さんが声をかけてくれてたらしいんだけど、全く耳に入ってなかったよ。ゲームに熱中しすぎてた。

 そして得た結果はこの大量の景品と再びの出禁だ。まぁ何となくこうなるかもとは思ってたけどさ。

 いや〜やっちゃったね。ついゲームになるとつい本気になっちゃっうんだよね。

 まぁ今回は今のところ前のような暴力沙汰(向こうが言ってるだけ)は起こしてないので、この前よりかは期間短かったけどね。射的屋以外は問題ないので、それ以外には行けるわけだ。前よりかはマシか。

「まぁ景品は山分けって事にしましょうよ。ほら、ぬいぐるみもありましたからあげますよ?」

 雛罌粟さんの部屋にいくつかあったからな。それに僕が持ってても意味ないし。

「わ、私は別に……いいけど………まぁ、ありがとう……」

 何が別にいいけどだ。さっきからチラチラと紙袋見てたでしょって。

 僕はただ撃ちたかっただけだから、雛罌粟さんのために取ったわけじゃないけど。

「さてと、そろそろ花火が上がるんじゃないかな?」

「そうみたいですね。それじゃあ移動しますか」

 僕は雛罌粟さんを連れて屋台間を歩いていく。花火を見る所は僕が案内することになってるからな。さっきよりも人が多くなってきたな。

 ここで花火を見ようとする人もいるだろう。これ以上混む前に抜け出すか。

 神社を抜け出すと、僕は目的地に向けて歩いていった。人混みを避けてヒョイヒョイっと。

 

「ちょ、竜胆くーん!置いていかないでー!」

 

 呼ばれて後ろを振り返ると、人混みの中でもみくちゃになってる雛罌粟さんがこっちに手を振っていた。

 あ、そうか。射的の時に手を離して、それから繋いでなかったからついて来られないんだった。どうりで恥ずかしくなかったわけだ。

 僕は慌てて雛罌粟さんの所へと戻っていった。

 

 

 

 雛罌粟さんと手を繋ぎながら僕は目的地まで歩いて行った。歩いている間は恥ずかしくてあんまり話さなかったけど。

 外はすっかり暗くなっていて、良い子はそろそろ寝る時間かな。周りからは時々猫の鳴き声が聞こえてくる。

 目的地な近づくにつれて周りからは人がいなくなっていた。やっぱりこの辺人が来ないんだよなぁ。まぁ理由は知ってるけど。

 そうこうしていくうちに僕達は小さな森の中に入って行った。ここはたまに町の子供とかが遊びに来るような所だ。

 街灯すら無くなって辺りが真っ暗になった。僕は暗い中にはある程度慣れてるけど、雛罌粟さんはちょっとマズいかな。何かね、僕の手を握ってる力が強くなって若干震えてるのよ。

 そういえば雛罌粟さん不気味な所とか苦手なんだったな。さすがにそんな彼女に夜の森は怖いか。

 僕はスマホのライトを点けると辺りを照らした。まぁ街灯ほどではないけど、無いよりかはマシだろ。

「はい、これで大丈夫ですか?」

「あ、うん。ありがと………」

 少しホッとしたような顔をした雛罌粟さんの手からスッと力が抜けた。

 こうして森の中を歩いているわけだが、子供が遊ぶこともあるので一整備がされていて、決して足場が悪いわけではない。僕はともかく雛罌粟さんは草履なのでちょうどよかった。

 夜の森はとても静かだった。さっきまであんなに騒がしかった出店の所から数キロ地点にあるとは思えないほどに。

 虫の泣き声が木々の間をこだましていて、ひんやりとした空気が僕達を包んでいる。

 これを素晴らしいと思うか怖いと思うかが、こういったところが苦手かどうかに繋がると思う。

 雛罌粟さんはおそらく無理な方だけど、僕は結構大丈夫だな。こういった所に慣れてるからかな。

 まぁここは木が多いから何も見えないけど、目的地に着けばそれなりに周りは見えるだろ。

 さてと、そろそろだと思うんだけどな。何ぶん僕自身そんなに来たこと無いからさ。

 そんなことを考えている間に段々と木が減ってきて周りが明るくなってきた。お、そろそろか。

 森を抜けると黄色い月明かりが僕達二人を照らしてきた。

「雛罌粟さん、着きましたよ」

 僕は未だに若干怖がっていた雛罌粟さんに声をかけた。雛罌粟さんは僕の言葉にそっと顔を上げた。

「………お〜、見晴らしいいね!」

 そこは全体が原っぱで、低い草が一面に生えている。その一本一本が月明かりに照らされて輝いているようだった。

 そして、そこからはこの街が一望することが出来た。場所が高い所なのでどの家も小さく見える。

「ここなら花火もしっかりと見えますよ。人もいないので貸し切り状態ですし」

「本当だ。しかもすごい広いよ」

 雛罌粟さんはその景色に感嘆していた。気に入ってもらえてよかった。

「それじゃあ花火までもう少しだと思うのでどこかに座りますか」

 僕はそう言って適当な場所を示した。そこに雛罌粟さんが持ってきたシートを広げると、その上に座った。

 腰を下ろした僕はふぅっと一息ついた。久しぶりに来たけどあまり変わってないな。

「こうやって見ると今本当に人が多いね。これはあの混雑も納得だよ」

 たしかにここからだと今街にどれだけの人がいるのかがよく分かる。神社なんか人だらけだ。早めに抜けてきて正解だったな。

「そういえば何で竜胆君はこの場所知ってたの?誰にも知られてないような場所なんてよく知ってたね」

「別に、簡単な話ですよ。昔、今と同じ目的でここに来たことがあるからですよ」

 その時も人がいなくて貸し切り状態だった。だからよく花火か見えたんだっけな。

 何でここまで人がいないのかは…………言わない方がいいよな。せっかく来たんだし。やっぱり雛罌粟さんは知らなかったのか。

「昔もって、さっき射的屋のおじさんが言ってた同い年の女の子と花火大会に来たってこと?」

 そんなことよく覚えてたな。さっき何も言われなかったから、てっきりスルーされたかと思ったよ。

「まぁそんなとこです。この場所も僕じゃなくてソイツが見つけた場所なんですよ」

 久しぶりに思い出したな。もう六年近く前の話だっからな、つい忘れてしまっていた。

「君いつも一人だとか言っておいてちゃんと友達いたんだね。しかも女の子って、ちょっと意外だな」

「いや………アイツは友達とはちょっと違うんですけど………」

 たしかにつるんでる感覚はあったけど、友達と思ったことは無かった。じゃあ何だと言われたら判断に迷うけど。

「今は一緒にいないの?ここに来たって事は近くにいるんでしょ?高校違うから会わないとか?」

 今時それは無いだろう。SNSのおかげで疎遠ってのはあんまり無いと思うんだが。

「いえ、僕が小六の時に転校したんですよ」

「………あ、ごめん。聞いたらダメだった?」

「いや大丈夫ですよ。そこまで深い仲ってわけじゃなかったので」

 それにアイツの転校に関しては僕も無関係ってわけじゃないしな。というか見方を変えれば僕が原因だ。

 それにしてももうあれから五年前になるのか。そんなに経った感覚しないなぁ。

 まぁ雛罌粟さんと会うまではアイツとの記憶が一番鮮明だったからな。そこまで懐かしい感じはしないのかもしれない。

「そっか………私もまだ君の事には知らない事だらけだね」

「そんなこと言ったら僕もですよ。あなたの事はよく知らないですから」

 雛罌粟さんの家族のことや過去のこと、知らない事を挙げたらキリがない。お互い好きになった理由すらも曖昧なのだ。

「何か変だね。ここまで付き合っていたら普通知っててもおかしくないのにね」

「たしかに、そうですね」

 もっとも雛罌粟さんの事は調べようと思えば出来ない事もないけど、それは何となくやってはいけないような気がしてやってない。

 それをやってしまえば今の関係が壊れてしまうと思ったからだ。

「でもそれでいいと思いますよ。僕達の今の関係を続けるなら、ね」

 お互いの気持ちをぶつけるのにお互いの事情を知ってしまえば、どうしても感情移入してしまう。それでは気持ちぶつけられないしぶつからない。

 お互いの事をよく知らないからこそ気兼ねなくぶつけ合えるんだと思う。そのバランスが大切なのだ。

 少なくとも僕はこれ以上自分から雛罌粟さんのことを知ろうとは思わない。今の具合でちょうどいい。

 SNSの誹謗中傷と同じだ。画面の向こうにいる人がどんな人が分からないから好き放題言う人がいる。

 どんな人か知ってたら少なくとも言う場所は選ぶだろう。分からないから相手のことをを受け止めることもせずに遠慮なく言えるんだ。

 僕も昔のことを雛罌粟さんに受け止めてもらおうとは思わないし、雛罌粟さんの過去を受け止められるとも思わない。

 それでいいのかどうかは正直分からないけど、必要なく出来ないものを背伸びしたくないかな。

「今の関係、か………ねぇ、竜胆君」

「ん?何ですか?」

 僕はバッグから水筒を取り出すと水を一口飲もうと………

 

「私達いつになったら恋人同士になるんだろうね」

「ぶはぁッ⁉︎」

 

 雛罌粟さんの言葉に僕は思いっきり水を吹き出した。

「きゃっ!ちょ、ちょっと何してるの?」

「雛罌粟さんが変なこと言うからですよ!急に何言うんですか!」

 急に恋人とか言うからビックリしちゃったんだよ!まったく脈絡のない。

「変って………それは、今は違うけど、そもそも私達ってそうなる予定でしょ?」

「それはそうですけど………タイミングってものがですね………」

 そりゃいつかはなるのかなとは思ってるけど、そういうことをはっきり言われちゃうと………。

「まぁ………少なくとも今は無理、ですかね。こうやって一緒にいるのが精一杯ですよ」

 お互いがちゃんとちゃんと自分のことにカタがついたら、その時に付き合おうと思う。今の僕じゃ雛罌粟さんとは付き合えない。事情的にも気持ち的にも。

 まぁ気持ちはともかく事情を言い出したら無理じゃないかとなりそうなんだけど、完璧とは言わないけど一区切りはつけたいんだよな。

「そっか、そうだよね。私もまだ自分の事ちゃんと片付いてないもん。今の状況じゃ付き合えないな」

 僕の事情に雛罌粟さんは巻き込みたくない、それは雛罌粟さんも同じなんだろう。

 すると雛罌粟さんが頭をこてんと僕の肩に預けてきた。シートを広げる時に離していた手も握ってくる。

「雛罌粟さん?」

「ごめんね、何か、昔のこと思い出しちゃって………ちょっとだけこうしてていい?」

 そう言う雛罌粟さんの顔はどこか弱々しく感じられた。嫌なこと思い出しちゃったんだな。

「………もちろんですよ」

 そう言って僕も雛罌粟さんの手を握り返した。やっぱり今はこの関係が一番落ち着くなぁ。

「これでも最近はね、昔のこと思い出すこと少なくなったんだよ。君のおかげかな」

「そんなこと無いですよ。ちゃんと自分で乗り切れてるって事じゃないんですか」

 僕は特に何もしてない、むしろ色々としてもらってるのは僕の方だからな。

「昔はよく思い出しちゃってたんだけどね、今は別のことを思い出すようになったんだ」

「別のこと、ですか?」

 

 

「うん、竜胆君、君のことだよ。これまでの思い出とか君がかけてくれた言葉が昔のことの代わりに思い浮かんでくるの」

 

 

 そう言って雛罌粟さんはにっこりと笑った。それを見計ったかのように花火が打ち上がり始めた。

 一番最初に打ち上がった花火は雛罌粟さんの笑顔をより一層綺麗に引き立てていた。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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