僕達はしばらくの間ギュッと抱き合っていた。
そろそろ花火も終わる頃だろう。最後とばかりに勢いよく打ち上がっている花火の音とお互いの心臓の鼓動だけが聞こえてくる。
「竜胆君………」
雛罌粟さんは嬉しそうに喉を鳴らしている。彼女の温もりがじんわりと伝わってくる。
浴衣姿の事もあってこれまでとは違う感触に新鮮味を感じる。
「何か外でこういう事してると、イケナイ事してるみたいで恥ずかしいですね」
こういうところはまだ完全にこの関係に慣れてない証拠かな。人はいないけど堂々と出来ない。どうしても周りを気にしてしまう。
まぁこういう事に慣れてきちゃうとさっきみたいに無意識にイチャついてしまうんだろうな。そう思うとこれはこれでいいのかも。
「私も恥ずかしいけど………やっぱりこういう事はやりたい、かな。こうでもないと普段はしないしさ」
そりゃあなぁ。僕達が普段会うのは街でなんだから、いくら喫茶店の中とはいえそれはちょっとね。
「そこは勘弁してくださいよ。雛罌粟さんだって万が一人に見られたりしたら嫌でしょう?」
周りなんか気にしない関係だとは言ったものの、それとこれとは別問題だ。こういうところを人に見られたくない。
恥ずかしいというのもあるけど、なんというかこうやって蕩けている雛罌粟さんを他の人に見られたくないかな。
「そうじゃなくて………その……最近、会ってなかったじゃん………だから………」
雛罌粟さんがボソッと言ったことに僕はどう反応していいのか分からなかった。
たしかに夏休み入ってから全く会ってなかったからなぁ。こうやって抱き合う以前に話すことすらしてなかった。
「いつも来ないかなぁって、期待してたりもしてたんだよ?」
「そう、だったんですか………でも夏休み入ったし、忙しそうだから雛罌粟さんだってゆっくりしたいんじゃないかなって」
「別に君がいてもちゃんと休めるよ。むしろ話し相手がいなくて、ちょっと寂しかったな………。でもこっちから行くのは何か違うと思ったし」
「そ、そうですか………」
どうやら余計な気を回してしまったみたいだ。
この辺は僕と雛罌粟さんとの違いだよな。僕はその辺はあんまり苦としないからな。
「だから今日誘おうと思ったし、こうやって来てくれてすごく嬉しかったよ。まぁ君の家に行ったのは、どうしても君に会いたかったからってのもあるんだけどね」
そういう事だったのか。それで僕が行くって言って嬉しがってたのね。
なんか遊園地の時もこんなんだったな。
「別に理由なんていらないからさ、いつでも来てよ。私、待ってるね」
「………はい」
雛罌粟さんとこういう関係になって、これまで僕が『Cafe Red Poppy』に行く時は大体夜にお弁当箱届ける時と、朝お弁当を受け取る時だけだった。
それ以外では特に行く理由が無かったからな。それで行くと迷惑になってしまうかもと思っていた。
そもそも理由なく趣味以外のことをするのは慣れていない。これまで必要もしてこなかったからな。
けど、それでいいんだな。やっぱりこういう距離感を掴むのは雛罌粟さんの方が上手い。というか僕が下手なのか。
雛罌粟さんは僕から少しだけ身体を離すと、ジッと僕を見つめた。ただ結構恥ずかしいのか耳の先まで真っ赤だ。
そんな顔されたら、僕もどうしていいのか分からなくなるだろ。それでも、雛罌粟さんを求めているのだけは分かった。
やがて気がつけば僕達の距離はとても近くなっていて、鼻先がぶつかりそうになっていた。
「はは、なんか、顔近いね」
「そう、ですね」
僕はそっと雛罌粟さんの頬に手を添えた。彼女は特に嫌がったりはしない。
そして僕達はどちらからともなく唇を重ねる。それと同時に最後の花火が大きく打ち上がり、僕達を照らした。
久しぶりのキス。さっきまでは特に求めていたわけではないのに、こうなると欲しくなってしまう。
それでも激しくはしないでゆったりと舌を絡ませた。この時間が早く終わらないように。
「んあっ、ふむっ……んっ、くちゅ、ふあっ………れろ、んんっ……ぐちゅ、はむっ………んんっ、ちゅむっ」
ゆったりと舌を絡ませたりお互いの口腔内を味わったりして、僕達は抱き合った。
お互いがお互いの舌をあやすようにして、たまに唾液を交換したりもする。とにかく二人きりでの時間を楽しんだ。
花火が終わり僕達を照らすのは月明かりだけとなった。
どれほどの時間を楽しんだだろうか。ゆったりしているとはいえさすがに酸欠になってきたので、僕達は唇を離した。
「ぷはぁっ………はぁ、はぁ………ふむっ」
息継ぎもそこそこに僕達はまた唇を重ねる。
雛罌粟さんの浴衣姿が綺麗で今度はさすがに衝動を抑えきれずに、少しだけ激しくしてしまった。
それから僕達のキスが止まるのはずっと後だった。お互いに火がついてしまい止める事が出来なかった。
ここは外、人が見えないとはいえ誰かが見ている可能性だってある。月明かりもあるし確実に見えてしまう。
頭の中ではそれが分かっていても、身体が止まる事を許さない。夜の暗さがお互いの興奮をさらに増長させる。
雛罌粟さんも抵抗はせずに、むしろ僕に抱きついてきて僕の口腔内に激しく舌を這わせてくる。
やがてキスが終わると、お互いに身を預けた。
「なんていうか、外だとこうやっていても暑くならないからいいね」
「そうですね」
今の時期部屋の中だと暑い時もあるけど、外だと夜風に当てられてちょうどいい。まぁ秋が近いってのもあるんだろうけどね。
だから今日はじっくりと絡み合っていたかった。室内だとどうしてもその辺が気になってしまうからな。
僕は雛罌粟さんを抱きしめる力を強める。お互いの火照った身体を夜風がゆっくりと冷ましていく。
それでもお互いから熱が無くなることはなかった。むしろ夜風の冷やすペースが追いつかないほどに熱くなっている。
お互いに息も荒くなってきて、自分の身体を相手の身体に擦り付けている。
「んっ……ねぇ、竜胆君。本当にここって誰も来ない?」
「……………はい、おそらく」
完璧に保証出来るわけじゃないけど、ここが少なくとも他よりかは断然人の出入りが少ないのを僕は知っていた。
「そっか…………それなら、さ…………」
雛罌粟さんはそう言うとしゅるっと髪を解いた。結われていた艶やかな黒髪が解けて、流れていく。
そのまま雛罌粟さんはシートの上に身体を寝かせた。そして僕の方へとゆっくりと手を伸ばす。僕はその挙動一つ一つに目が離せなかった。
「竜胆、君…………」
雛罌粟さんは顔を真っ赤にしながらも微笑んできた。僕にはそれだけで彼女の意思が分かった。
僕はバッグを下すと、ゆっくりと雛罌粟さんに覆い被さって抱きしめた。絶え間なく出る荒い吐息がお互いの限界を物語っている。
その吐息に吸い寄せられるように僕は雛罌粟さんの唇に吸い付いた。ただ重ねるだけのソフトなものにした。
僕はそっと唇を離すとそのまま雛罌粟さんの首筋に舌を這わせた。そして首筋に強く吸い付いた。
「あっ、んんっ!」
雛罌粟さんはビクッと身体を跳ねさせた。身体の火照りが高まったように感じられた。
雛罌粟さんはボーッとしていたが、やがてハッとすると自分の首筋を指先で撫でた。
「君、またつけちゃったの?これから帰るのに………恥ずかしいじゃん」
「あ…………すみません、つい……」
つい興奮してしまいつけてしまった。ダメだな、衝動が抑えられない。
「もう……君は……………んっ」
すると雛罌粟さんは僕の首筋に唇を触れさせた。そしてそのまま舌で首筋をなぞってくる。
「……くっ」
その気持ちよさに僕は思わず声が出てしまった。しかし雛罌粟さんはそれでは止まらない。
雛罌粟さんはさっきの僕と同様、僕の首筋に強く吸い付いた。ギュッとした痛みのような気持ちよさのような感覚が、僕の身体を駆け抜ける。
ジンジンとした熱と共に首筋に痕がつけられたのが分かった。
「これでお揃いね」
雛罌粟さんは僕の首筋から唇を離すとフッと笑った。綺麗だなぁ、もう。
僕は雛罌粟さんの手を握るとまた唇を重ねた。舌は入れないでお互い啄むように楽しむ。お互いの唾液の音が辺りにこだましているように聞こえる。
僕は唇を離すと腰に回していた手を下へと滑らせていく。そろそろ限界だ。
雛罌粟さんは滑っていく僕の手にビクッとしながらも、それを止めることは無かった。シていいって事、だよな。
それでも僕はいきなりシたりすることはなく、浴衣の上から愛撫するだけにした。
せっかくベタベタしても大丈夫そうなら、こんな事をするのも悪くないだろう。
僕は雛罌粟さんの腰や太もも、脇腹をひたすら愛撫していく。
そうしていくと雛罌粟さんの吐息が余計に荒くなっていって恍惚とした表情になる。
最初はされるがままだった雛罌粟さんは、どんどん僕に身体を擦り付けてきた。お互いがお互いの熱に浮かれてしまっている。
「竜胆、君………もどかしいよぉ………」
雛罌粟さんもそろそろ限界のようだ。それなら、するか。
僕は雛罌粟さんと視線を交わすと、ゆっくりと浴衣の襟に手をかけた。
外は僕達にふさわしい真っ暗な空だった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。