第49話 女子高生
綺麗だった花火大会も終わり、残りの夏休みもあっという間に過ぎ去っていった。
あれからたまにだけど『Cafe Red Poppy』にも行くようになった。
それから軽くお話しをしたりして帰る。いつもと変わらない感じだけど。
それでもやはり基本的には僕は家に引きこもって趣味を満喫している。
まぁこれが僕のこれまでのライフスタイルなんだもん。そう簡単にはそこまで変えられないってわけだ。
一日中ゲームやアニメと向かい合う日々が続いていた。長期休みはこうでなきゃ。少しの時間でも惜しいのだ。
元々僕のやることは家で趣味を満喫するしかないからね。昼夜逆転どころか昼も夜も起きて六徹なんて時もあった。長期休みの時にはよくあることだ。
そしてそんな生活をしていた夏休み明けの僕の今の状況は………
「ふぅ、だいぶ楽になったかな」
僕はそう言うと寝ているベッドからゆっくりと体を起こした。もう充分に大丈夫と言えるだろう。
僕は大きく伸びをした。ふう、スッキリした。
思ったよりも早くなんとかなったな。でも時間帯的に今日はもうやめておいた方がいいだろう。
どれ、暇だしスマホでゲームでもやっていようかな。僕はそう思ってスマホに手を伸ばそうと………
「あ!竜胆君たら、ちゃんと寝てないとダメでしょ」
僕の部屋の扉が開くなり、そこから女性の声がした。僕のよく聞きなれた声だった。
そこにいたのは雛罌粟さんだ。手にお盆を持って上にはお椀のようなものが乗っている。彼女は今うちに来ている。
今は平日のお昼ちょっとすぎくらい。本来なら雛罌粟さんだって『Cafe Red Poppy』の営業で来られるわけがない。というか何故夏休みが明けて平日なのに、僕が今家にいるのか。その答えは一つだ。
「それにしても、君が体調を崩すとはね。まぁ何となくこうなるんじゃないかって思ってたけど」
雛罌粟さんが呆れたような声を出した。
そう、今日の僕は体調不良により学校をお休みしている。
原因は簡単で、ゲームのやりすぎとか睡眠不足とか。いわゆる過労と同じ感じかな。
僕にとってはどうでもいいけど、熱もあったので学校には風邪だと言っていた。
昨日辺りに体調が悪くなり、そのまま今日の朝になっても治らず今に至るってわけだ。一応体調不良なわけだけど、
そして今雛罌粟さんかウチにいるのもそのためだ。要は看病してくれるとのこと。
僕はいつも学校に行く前に雛罌粟さんからお弁当を受け取っている。
しかし今日は取りに来ないという事で心配してくれたらしい。お店を開ける前に急いで僕の家に来てくれた。
そこで僕が体調を崩した事を知って看病してくれると言ってくれたが、かと言ってお店を休むわけにはいかない。
なので一応お店に戻って、お店の空いている時間帯にウチに来てくれて、今こうやってお粥を作ってくれた。
「はい、食べられる?少しでも食べられるなら食べた方がいいよ」
雛罌粟さんはそう言うと僕のベッドの隣にお盆を置いた。
「ありがとうございます。ここまでしてくれなくても良かったんですよ?」
「何言ってるの。君ただでさえ青白いんだから、こういう時はちゃんと療養しないとでしょ」
青白いって。まぁ周りの人達に比べたらそうかもしれないけどさ。そんなに気になるほどかな?
すると雛罌粟さんは僕の方を向くと顔を近づけてきた。自分のおでこと僕のおでこを軽くくっつける。
至近距離に整った雛罌粟さんの顔が近づいてきてドキッとしてしまった。鼻先が僅かにぶつかり、思わず抱きしめたいと思うのを何とか堪える。
「うーん、熱も少しあるんじゃないの?やっぱりちゃんと休まないと」
熱があるのは大方あなたのせいですよ。とは言わない方がいいよな。空気が気まずくなる。
「でもお店放っておいてよかったんですか?一応営業時間でしょう?」
雛罌粟さんからおでこを離すと僕は聞いてみた。今日ガッツリ平日だからな。
「いいのいいの、この時間はいつも人が来ないから。ちゃんと戸締りはしてきたから大丈夫。それより君は人の心配の前に自分の心配しないとでしょ」
そんな大袈裟な。ただのゲームのやりすぎによる体調不良だ。正直学校に行こうと思えば行けるし。
ただぶっちゃけ全校集会とかが嫌なんだよね。人口密度高いし周りがガヤガヤうるさいし。それを叱る教師の声もうるさいし。
だから体調不良を理由に休んだのだ。実質ズル休みだな。
雛罌粟さんはお椀を手に取ると、一緒に置いてあるスプーンでお粥を掬った。フーフーと自分の息で冷まして僕の口まで持ってくる。
いわゆるあーんである。
「はい、どうぞ」
「なっ!………そこまでしてもらわなくても。じ、自分で食べられますから」
「いいからいいから。はい、あーん」
さっきのおでこの事といい完全に病人扱いだよ。しかも何だか距離近いし。まぁ健康じゃないのは確かなんだけどさ。
う…………ここで断るのも雛罌粟さんに失礼か。しかもこういう時歳上だからか、自然に感じてしまうってのが何だかなぁ。
僕はそのままスプーンにパクッと食いついた。
「あ、美味しい、です」
「そう?よかった。昔家で風邪ひいた時とかにお母さんが作ってくれたの」
僕の素直な感想に雛罌粟さんがにっこり笑った。本当に嬉しそうだなぁ。
そんな風にして遅めのお昼ごはんを食べ終わると、僕は再び横になった。起きれるには起きれるけどね。
「それにしてもゲームのやりすぎで寝不足とか。これに懲りたら少しはゲームの時間考えたら?」
「別にいいんですよ。自分でもこうなる事分かっててやってたんですから。長期休みの恒例行事みたいなものですよ」
「体調不良が恒例行事って………その内本当に大変なことになるよ?」
その感覚はちゃんとあるから問題ない。でも自分の身体よりも趣味を優先しちゃうから仕方ない。
「そういえば今日から学校でしょ?初日に休んで大丈夫なの?」
「授業の遅れとか出席を心配してるなら大丈夫ですよ。毎年夏休み明け初日は授業無いので」
というかちょっとくらい授業に遅れてもすぐに取り戻せる。何なら明日も休んでも問題ない。
というわけで今日は一日ゆっくりしてるかな。
とりあえずこの後はゲームするとして、そうなると全ての予定が繰り上がるから……………ってあれ?
「雛罌粟さん、今日何曜日ですか?」
「今日?月曜日だけど。学校が始まるのって大体月曜日じゃん。それがどうかしたの?」
僕は全身がゾワッとするのを感じた。
しまったぁ‼︎こんな所でのんびりとしてる場合じゃない‼︎
僕は急いでベッドから飛び出すと、お財布とバッグを握って部屋を出て行った。私服に着替えておいてよかった!
「え⁉︎ちょ、竜胆君⁉︎どこ行くの⁉︎」
雛罌粟さんが後ろで何か言ってるが、今の僕の耳には入ってこない。
僕は慌てながらも靴を履くと、家を飛び出し自転車に跨って外へと走って行った。
「ふぅ、何とかこれだけ買えたか。まぁちょうどいいかな」
急いで家を出て行った僕は、目的を終えてホクホクとしながら帰路についている。
自転車のカゴに入っているバッグは出て行った時よりも、僅かだが膨らんでいる。
とりあえずこれだけ買えたら大丈夫だろう。そう思って満足気に息を吐くと。
「ちょっとー!竜胆君!」
後ろから聞きなれた声がした。振り返ってみると家にそこにいたのは、家に置いてきたはずの雛罌粟さんだった。全力でこっちに走ってきている。
「雛罌粟さん?何やってるんですか?」
僕は自転車を止めると雛罌粟さんが追いつくのを待った。
「何やってるんですかじゃないでしょ!いきなり出て行くからビックリして追いかけてきたのよ。何しに出て行ったの?」
あーそういう事。ご苦労な事だ。
「本屋ですよ。今日発売のラノベの新刊があったんです。これ人気だから急がないと売り切れちゃうんで」
僕はバッグを雛罌粟さんに見せて言った。いや〜ギリギリあと一冊だった。
「そ、そういう事ね。まったく君は………趣味のためとはいえ病人なんだよ?」
「分かりましたから、とりあえずまず息整えてください。ここまで全力で走ってきたんですか?」
どうやら僕の家まで歩きで来たから、僕を追いかけるのも走るしかなかったんだと。悪い事したなぁ。
「もうちょっと自分の身体を気遣わないと…………ってあれ?」
息を整えていた雛罌粟さんがふと顔を上げて不思議そうに僕の前を見た。どうかしたのか?
僕も釣られて前を見るとそこにいたのは大人しめの印象を受ける一人の女子高生だった。ん?あれってウチの制服じゃないか?
スマホ見ながら辺りをキョロキョロしている。
「あの子道に迷ってるのかな?声かけてみる?」
「その必要は無いと思いますよ。前にも来たことあるようですし」
「え?何で分かるの?」
雛罌粟さんが不思議そうな顔をして聞いてくる。いや、そんなの見れば分かるでしょ。
「あそこまでキョロキョロしてるのに、スマホを見るより周りの景色を見る回数の方が多いからですよ。たぶん自分の記憶と照らし合わせてるんじゃないですか」
普通始めてきた場所ならスマホの地図を頼りに歩くはずだ。そうでないのなら前に来たことがあるんだろ。
「なるほどね、相変わらず君はよく見てるねぇ」
いや、これくらい普通ですが。
「でもやっぱり迷ってるみたいだし、ちょっと声かけてみようよ」
雛罌粟さんはそう言うと女子高生の方に向かって歩いて行った。困ってる人をほっとけないのは相変わらず、か。
僕も自転車を引っ張りながらついて行く。
「ねぇ君、道に迷ってるみたいだけど大丈夫?」
雛罌粟さんが声をかけると、女子高生はピクッと反応してこっちを振り向いた。
「え、あ、はい。ちょっと道に迷ってしまいまして……………………って、あぁ────
─────ッッッ‼︎」
雛罌粟に応えようとした女子高生は、振り返るなり大声をあげた。僕の方を見て。何だ何だ。
「竜胆さんですよね⁉︎久しぶりです!」
「えっ?えっと……………………誰ですか?」
いきなり名前を呼ぼれて僕は首を傾げた。こんなヤツに名前を教えた記憶は無いぞ?
「変わってないですね。私ですよ、東風です」
「え?」
東風って………………………………………
……………………嘘だろ。
「本当に、お前なのか……」
「はい、お久しぶりです!」
そう言って女子高生、もとい
最後まで読んでいただきありがとうございました。
色々と直したいところがあり投稿し直させてもらいました。