橡 東風、かつて僕と一緒によく行動していた僕と同い年の少女だ。大体小三から小六くらいまでかな。よくウチに来て一緒にゲームをしたり勉強を教えていたりした。
僕はその時には既に親が亡くなっていたので、気兼ねなくウチに呼べたのでよくウチに来ていたわけだ。
それに僕がコイツの家に行くわけにはいかなかったからな。それは僕からも却下したいところだ。
大人しめな子で、ガンガン運動するよりかは部屋の隅で絵を描いているような子だ。というか実際そうだった。
とにかく手先は器用だったな。家庭科の裁縫とかも先生に褒められて喜んでいた。
性格も悪い子じゃないんだけどね、良くも悪くも感情が豊かなのだ。だから昔はよく泣いていたという印象しかないな。
というのも東風はよく周りからイジメられていたのだ。
背が小さめで小心なところが災いしたのだろう。小学生のイジメの恰好の獲物だった。
その他にもちょっとトラブル気質なところがあって。まぁ高確率で僕がそれに巻き込まれたんだけども。
あまり周りと馴染むのが得意な子でない。まぁ原因に家の事もあったから仕方なかったんだけどさ。
それと同時にこんな人付き合いの苦手な僕とずっと一緒にいてくれた変わり者でもある。
出会ってから自分の意思で僕と一緒にいた。よくもまぁいてくれたもんだ。
色々とあってよく一緒にいるようになっていたが、ある日突然転校してしまった。理由は家の都合とだけ学校で説明された。
まぁ大体の学校でされる引っ越しの理由って家の都合だよな。そもそも深く話すわけにもいかないんだろうけどね。
まぁ僕はちゃんとした理由知ってるんだけどね。というかガッツリこの理由に関わってるし。普通に話せる内容ではないからな。
たしかに家の都合だけど、みんながイメージするのとはちょっと違う。今は説明しなくてもいいか。
理由を知ってる僕はそれについて特に驚く事は無かったし、東風がいなくなっても特に何も思わなかった。
ずっといたとは言っても三年くらいの時間だ。いなくなっても特に変わらない。引っ越す時も見送りには行かなかった。
結構遠くに引っ越したと聞いていたので、てっきりもう会う事は無いと思っていた。実際彼女の事は覚えてはいたが、それでも頭の片隅にあるくらいだった。
「それがまさか今になってまた会えるとはなぁ」
僕は自分の家のテーブルを囲んで言った。
今はウチにいるのは僕と雛罌粟さん、そしてさっき偶然出会した東風だ。椅子はなんとか足りている。
「それじゃあ東風ちゃんは竜胆君の幼なじみって事?」
「うーん………どうでしょうね。そういう感覚は無かったですけどね」
僕は雛罌粟さんの言葉に首を傾げる。何か友達とはちょっと違う感じだったからな。だったらなんだと言われると返しに困るんだが。
「そう返すとは思ってましたけど、変わりませんね」
「まぁね」
もうあれから四、五年か。あんまり実感湧かないな。何か小学生の高学年から日が経つのがすごく早く感じるんだよね。僕だけかな。
目の前にいる東風は、昔の雰囲気を残しつつも少し大人びている。穏やかな目などは変わってないみたいだけど。
おさげの髪型も僕よりも小さい背もあまり変わっていない。背に関してちょっと安心したな。越されてたら何か嫌だ。
すると僕の隣に座っている雛罌粟さんが僕の袖を軽く引っ張る。
「ねぇ、もしかしてこの前の花火大会の時に言ってた『連れの女の子』って………」
「あぁ、コイツのことですよ」
よくそんなこと覚えてたなぁ。昔東風と一緒に花火大会行ったことがあったんだよな。
そこでもトラブルに巻き込まれて、僕のやった暴力沙汰ってのがそれだ。本当に勘弁して欲しい。
だから僕と雛罌粟さんが花火を見た所を見つけたのも東風だ。そこがどんな所なのかを知ったのはその後だが。
というか東風とあってからとりあえずウチに行くことになったので、東風に雛罌粟さんを紹介出来てない。
まぁ聞いてこないし、しなくてもいいか。
「というかその制服、ウチの学校のだろ?ウチに転校してきたのか?」
ウチの学校に興味はないが、それでも制服くらいは分かる。東風の着ているのはウチの学校の制服だ。
「やっぱり竜胆さんと同じ学校だったんですね。今日転校して来たんですよ」
なるほど、夏休みにこっちに引っ越してきたのね。
その辺を聞いてみると引っ越してきたのは最近で、ようやく昨日落ち着いてきたんだと。
「って何で制服で街の中彷徨いていたんだよ。家に帰って着替えてこなかったのか?」
夏休み明け初日は午前帰り。家に帰って着替えてくるくらいの時間的余裕はあったはずだが。
「それは………急いで竜胆さんに会いたくて、そのまま来たんです。それなのに途中で道に迷っちゃいまして………」
「あぁ…………そういう事」
変わらないなぁ。昔もよく道に迷って泣いてたな。道分からないなら下手に出歩くなと言いながら、よく目的地まで連れて行っていたっけ。
行動力はある方だと思うんだけど、その行動に実力が伴っていない。だからどうもコイツは危なっかしい。
というかスマホのナビ機能使って、かつて住んでいた街の場所が分からないってのは大丈夫なのか?
こうやって会えたからよかったけど、そうで無かったらただ残念でしたで終わってしまう。
しかしこうやって思い出してみると結構覚えてるものだな。てっきりもうすっかり忘れたと思ってたのに。
「ところで何でこっちに戻ってきたんだ?まさかまた家の事情、ってわけでもないんだろ?」
「いえ、ある意味家の事情ですよ。お母さんの仕事の都合で戻ってきたんです」
ほぉ、それはそれは。もうそこまで回復しているのか。よかったな。
「その様子だとあれからはちゃんと生活はうまくいってるって感じか」
「おかげさまで、ね。そういえば今日見た感じ見かけなかったんですが。学校にいましたか?」
「あぁ、今日ちょっと休んでてな」
というかいたとしてもコイツちゃんと分かるのか?僕も一瞬誰か分からなかったけど。
「あ、もしかしてまたゲームのやりすぎが原因ですか?」
さすが、よく分かってるなぁ。昔からそうだったからな。そしてちゃんと覚えてくれている。
「まぁな」
「相変わらずですね。まぁ見た感じもう大丈夫そうですけど、無理しないでくださいね」
「分かってるって。僕はその辺しっかりしてるの知ってるだろ」
ったく、雛罌粟さんといい東風といい僕が趣味に全力なのは知ってるでしょうが。これくらい何ともない。いつもの事だ。
「ふふ、何かこういう会話も久しぶりです」
「そうかもな」
もっとも東風とは、というだけで内容だけならさっき雛罌粟さんと全く同じ会話をしている。
「っと、何かさっきから置いてけぼりにしてしまってすみません」
そういえば雛罌粟さんをすっかり忘れていた。
「いいよ気にしないで、二人で積もる話もあるでしょ。それにしても小さい頃の竜胆君かぁ。どんなの感じだったの?」
雛罌粟さんが身を乗り出して聞いてきた。何か楽しそうだなぁ。
「何でそんなにワクワクしてるんですか?」
「だって竜胆君の小さい頃なんて想像出来ないんだもん。やっぱり気になるじゃん?」
そうかぁ?そんな聞いて面白い事なんて無いんだけどなぁ。
ただ僕からも東風に色々と聞きたいことがある。それも含めて今話しちゃえばいいか。まぁ雛罌粟さんもいるし、聞ける範囲で、だけどな。
話も長くなりそうだし、何か飲み物でも出すかな。………………というかちょっと待て。
「あの、雛罌粟さん。一つ聞きたいんですけど」
「ん?何?」
「さっきからのんびりしてますけど、お店の方良いんですか?昼ごはんの時に大丈夫だって言ってから結構経ってますけど」
「⁉︎」
雛罌粟さんがバッと部屋に置いてある時計を見る。
大丈夫とか言ってた後に僕が外出して、それから東風とばったり出会した。それからウチに一緒に行ったわけだから、そこそこ時間が経っている。
東風と来る時にてっきり帰るかと思っていたから、そうしないって事は大丈夫かと思っていたが………。
僕が何となく聞いてみると、雛罌粟さんはサーっと顔を青くさせた。あ、ダメだこれ。
「あぁぁぁッ!しまったぁッ!」
まぁだろうな。頭を抱える雛罌粟さんに僕は苦笑した。僕達と一緒に来た時点でこんなだとは思ってたよ。
「僕の自転車、玄関出て右手のところにあるから使っていいですよ」
「ごめん、ありがとう!」
雛罌粟さんはそう言うとダッシュで家を出て、僕の自転車に跨って出て行った。今日コーヒー飲みに行く時に回収するかな。
自転車で走り去っていく雛罌粟さんを見ながら、僕は一息ついた。
あの人真面目なんだけど、ちょっと抜けてるところあるんだよな。そういうところも面白いからいいんだけど。
こうして家の中には僕と東風だけになった。こういうのも久しぶりだな。昔は当たり前の日常だったんだが。
「えっと………とりあえずお茶出すか?」
「あ、お願いします」
何か話のテンポ崩されたけど、とにかくこれで遠慮なく色々と聞けるな。
最後まで読んでいただきありがとうございました。