「はい、それじゃあさよなら」
担任の号令で僕達は解散した。
僕は午後の授業も耳栓をつけて行い、授業はつつがなく終わった。朝に込み上げてきた気持ち悪さもすっかり良くなっでいる。
さてと、これから放課後か。部活のある人もいるだろうけど、僕は部活には入っていない。
というわけでこれからは暇。さてと、さっさと帰るか。今日は何しようかな。
ゲームの進行はもちろん、昨日録画したアニメの編集して見るでしょ。その後の時間は昔のアニメを見返すか。
ちょっと前までは夜に『Cafe Red Poppy』に行くまでは、家に帰らずその辺の公園なんかで暇を潰していた。
でも別に帰ってからでも問題ないということが分かってからは、家に帰るようになった。
やっぱり家にいた方が色々充実してるし、夏冬関係なくいられるからな。
それじゃあこんなうるさい教室からは、さっさとおさらばしようかな。早く帰ってゆっくりしようっと。
すると隣の東風が僕に近づいてきて何か言っている。
ただ生憎僕は耳栓をしているので、東風が何を言っているのか聞こえてこない。
まぁ唇見りゃ分かるんだけどさ。本当に読唇術って使えるから覚えるべきだよ。
えっと………『一緒に帰りませんか』って………。
そういえば昔はよく一緒に帰ってたな。というかどちらかというと東風がついて来たって感じだがな。
まぁコイツなら別にいいか。特に急ぎの用事があるわけじゃないし。
僕が短く頷くと、東風は嬉しそうに笑ってから荷物を背負った。何でそんなに楽しそうなんだよ。
僕と東風は教室を出ると、下駄箱に向かった。わざわざ履き替えるの面倒だから一足制にしてくれないかな。
昇降口を出ると、僕達は駅に向かった。電車が来るまでもう少しあるな。
ここまで来てしまえば今はもう耳栓をつけなくてもいいか。駅での自然な騒がしさは大丈夫だ。
耳栓を外した瞬間に耳に入ってきた雑音にムッとはしたが、まぁこれなら大丈夫だ。
しばらくして電車が来たので、僕達はそれに乗り込む。席が空いていたので、そこに座る事にした。
ガタンゴトンと進んでいく電車の中で僕達は寛いでいた。
「竜胆さん、本当に相変わらずでしたね。なんだか少し安心した、と言っていいんでしょうか」
「まぁ安心出来る要素じゃないのは分かってるよ」
隣で話しかけてくる東風に、僕は苦笑いしながら答える。相変わらずってのは、僕の耳栓の事だろう。
僕自身はどうでもいいと思っているが、世間一般的に見れば僕はおかしいだろう。それくらいの自覚はある。
「直すつもりはないんですか?少なくとも学校にいる間は結構厄介だと思うんですが」
「そうだな。というか直し方が分からない」
慣れろと言うのは簡単だが、あんな騒音に今すぐ慣れるとも慣れようとも思わない。
別に全ての騒がしさが苦手というわけではない。
前に雛罌粟さんと言った遊園地や花火大会とかは全然大丈夫だし、こうやって電車の中でもまぁ問題はない。
要はその場に合わない騒がしさが嫌いなのだ。遊ぶためや楽しむための場所で騒がしいのは当たり前だし、小さい子供がいるところでも当たり前だ。
でも高校は遊ぶ場所ではないし、ましてやいるのは十代の生徒と大人の先生だ。
生活していて話し声や笑い声が出るのは当たり前だとしても、騒音レベルの叫び声はいらないだろ。
その場に適した適度な騒がしさというものがあり、それがある意味その場をその場たらしめているのだ。
これが周りから何も言われないなら確実に僕が悪いと思うけど、教員がそれを注意しているということは、少なくとも学業の場にあの騒がしさは不要というわけだ。
「それにこれは理屈だけの問題じゃない。それはお前だって知ってるだろ」
「それは………そうですけど」
まぁこっちに関しては確実に僕に問題があるから、反論のしようがないしするつもりもない。
「そう言うお前こそ大丈夫なのか?」
「いえ、私に関しては昨日来たばかりですからね。まだなんとも言えませんよ」
それもそうだな。逆に今日でそうなったらそれこそ問題か。
「それに私は、なんとかしたいです。自分の力で新しい所にも慣れていきたいです。それが私なりの進み方なので」
「………そうか」
コイツらしい答え方だと思った。何をするにも真っ直ぐで一生懸命だったんだよなぁ。
見方によれば愚直としか言いようのないヤツだったが、まぁ嫌いじゃない。
だからこその心配はあるけど、それは言わない方がいいか。
「無理はするなよ」
「はい、ありがとうございます。でも大丈夫ですよ」
そう言って東風はニコッと笑った。やっぱりコイツ………。
「私はそれよりも竜胆さんの健康状態が心配ですよ。いつも家に引きこもってたじゃないですか。今もそうなんでしょう?」
「お前に心配される言われはないっての。全部計算通りだ」
「そのゲームのしすぎで倒れるのが計算内っていうのが心配なんですよ」
別にいいだろ。ちゃんとそれなりの対処も出来てるし、何かあってもこの通り問題はない。
「ちょっとは運動してみたらどうですか?登校の歩行以外で」
え〜、自分で自分を好きでもない事で追い込みたくないんだよねぇ。価値を見出せない。
「面倒だよ。というか最近夜散歩してるし」
「夜に散歩ですか?また変わってますね」
「そうなのか?まぁ雛罌粟さんの所から帰る帰り道の話だがな」
『Cafe Red Poppy』から帰る時にたまにだけど歩く時がある。意味もないし何となくだけど、夜景を楽しみたい時とかね。
「あのお店、夜にも行ってるんですか?」
「ん?まぁな。洗ったお弁当箱渡すのと、ついでにコーヒー飲みながら話したりしてんの」
全部で一時間も満たない時間だけど、僕とっては平日に雛罌粟さんとゆっくり話せる数少ない時間だ。
何となく話さない日もあるけど、それはそれでいい。二人でゆっくりいられるというのが好きなのだ。
無理して話したりはせずに、その時話したいと思った事を話す。盛り上がる時もあればそうでない時もある。それら全部含めて大切な時間だ。
「そう、ですか………」
「どうかしたか?」
僕はあからさまに様子の変わった東風を覗き込んだ。今日この表情多いな。
僕は喉が渇いたので水筒を取り出して水を飲んだ。
「あの、もしかしてですけど………竜胆さんは雛罌粟さんと………その、付き合ってるんですか?」
「ブフッ⁉︎」
いきなりの東風の質問に、僕は思わず口に含んでいた水を吹き出しかけた。車内の何人かから注目を浴びる。
「え?ちょ、竜胆さん大丈夫ですか⁉︎」
「お前が変なこと言うからだろうが!」
一応電車内なので音量には気をつけながらも、僕は東風に叫んだ。何を言い出すかと思えば‼︎
「いや、だって今日話を聞いてる限り、もしかしたら付き合ってるのかなぁと思っただけですよ」
「何でそうなるんだよ」
僕今日変なこと言ったか?あんまり記憶に無いんだけど。
「だって家族でもご近所さんでも無い人にお弁当作ってもらったりして、花火大会一緒に行ったりして、夜は一緒に話したりするんですよね?大体の人は付き合ってると思いますよ?」
「そうか?」
まぁたやってることは変わってるとは思うけどさ。そんな風にとられるのか。
たしかに雛罌粟さんのことは好きだと思っているし、一応そういう関係になろうとはしている。
それでもまだ付き合ってるわけじゃないし、そういう線引きはやってきたつもりだ…………それなりに。
「その………花火大会もいわゆるデート、みたいな感じかと………」
「そう、なのか?」
「いえ、あくまで私の予想ですが。少なくとも私はそう思ったというだけですよ」
マジか………第三者から見たらそういう風に見えるのか。僕はただ雛罌粟さんとのお出かけたみたいな認識だったんだけど。
だって遊園地はたまたま雛罌粟さんがチケットを二枚持っていたからで、花火大会もたまたま一緒に行くことになっただけだ。
そりゃそこで色々あったけど、それは全部その場の成り行きであって。決して僕は狙っていたわけじゃない。というか狙ってたらもうちょっと色々と考えるっての。
だから雛罌粟さんは僕の彼女というよりかは…………あれ?何と表現すればいいんだろう?
友達?お姉さん?よく行く喫茶店のマスター?片思いの女性?
どれも外れてはないけど、当たってもないような。でも彼女とは違う………はずだ。
「いや、それは無いっての。大体夜のはお弁当箱預けるついでだし、お弁当も雛罌粟さんが作るのが楽しいっていうから頼んでるだけだし」
初めて雛罌粟さんにお弁当作ってもらった時に、お弁当な入っていた手紙に書いてあったことだ。
あれはあくまで雛罌粟さんの趣味みたいなもので、僕達の関係はどうでもいいはずだ。
「そう、なんですか?まぁお二人の関係はよく知らないので何とも言えませんけど」
うーん、本当に客観的に見てみないと分からないものだな。
まさか………これまでお出かけした時も、雛罌粟さんはそういう目的で誘ったのか?
…………………って、それは考えすぎだよな。
最後まで読んでいただきありがとうございました。