ちょっと面倒な事もあったけど、これで放課後だ。さてと、今日はどうして過ごそうかな。
そんな事を考えながら帰路に着いていた。日の傾く時間も早くなってきて、既に夕方の光が差し込みかけている。
すると隣を歩いている東風が僕の肩を軽く叩いてきた。耳栓をしてるからいきなり声をかけても分からないと思ったんだろう。
「何だ?」
『あの、これから竜胆さんの家に行ってもいいですか?』
は?また急だなぁ。何か目的があるのかな?
僕は僕でやりたい事があるから、本来なら断るところなんだけど。まぁコイツなら大丈夫だろ。いつもの事だし。
目的があるのかと考えたものの、コイツが大した目的も無くウチにいるのなんてよくあった事だ。
「いいよ」
僕は短く答えると東風を連れて家に帰った。家に入ると僕は耳栓を取ってケースにしまう。
自室にバッグを置くとリビングに戻る。東風もリビングにいさせている。
「何か飲む?」
「いえ、水筒がありますので」
僕はコップに麦茶を注ぐと一気に煽った。それから東風の方を見ると、東風は学校で使っているであろうノートを広げていた。
「竜胆さん、今日の数学で分からないところあったんですけど、教えてくれませんか?」
「まぁそんな事だと思ったよ」
僕は小さくため息をついた。昔もよく東風の勉強を見ていたものだ。東風がウチに来る理由の一つがこれってわけ。
僕は東風の向かいに座るとノートを覗き込む。相変わらずノート取るの上手いなぁ。僕人に分かりやすく書くのって苦手なんだよ。
「どこ分かんないんだ?」
「はい、まずはここで………」
って複数あんかよ。これじゃあゲームやるのはちょっと遅らせるかな。
ほいっ、ほいっと。よし、一人撃破。
東風の分からないところをあらかた教えた僕は、スマホの充電をしつつゲームをしていた。今は対人戦中だ。
これなら今日のノルマは達成出来そうだな。また欲しいキャラが手に入る。でも新しいスキンも欲しいんだよね。また課金するか。
外は日が暮れてきて夕日が浮かんでいた。おっと、そろそろ新しい動画があがる時間だな。
東風はというとまだリビングにいる。僕の教えたところを復習したいんだと。真面目なこって。
「そういえば竜胆さん、今日のアンケート何にしましたか?」
「アンケート?………あー文化祭のね」
僕はゲームをしながら納得した。
今日クラスの中で文化祭に何をやりたいのかというアンケートがあったのだ。前から上がっていた案の中から選んだんだよな。
今年の文化祭は例年より遅めだ。校舎の改修で延期になったんだよな。だったらやらなきゃいいのに。
「えっと………何だっけな?忘れた」
「ほんの数時間前の事ですよ」
別に僕にとってはどうでもいい事だしな。それで嫌な仕事を任されるようなら、本番休めばいいし。
それからまた長い沈黙が続く。雛罌粟さん相手だと気まずいと思う事もなくは無いが、東風とだと全く感じない。よくあった事だし。
お互いがお互いでやりたい事がある。だから一緒にはいてもやる事はバラバラなんて当たり前だ。
というかこうやって一緒にいたいからいるだけだ。それ以上のことはあくまでもオマケに過ぎない。
そういう意味では、これは雛罌粟さんとの関係とも似ているのかもしれない。
お互いが新鮮さを求めていない。一緒にいるというだけが大切なのは雛罌粟さんとも同じだ。
「あの………今日は、すみませんでした」
「ん?何が?」
僕はゲームから目を逸らす事なく聞いた。
何か東風に謝られるような事されたっけ?というか登下校と今以外今日は東風と関わってすらいない。
「えっと、帰りの時に………」
「あぁ、あれか。別に構わんよ」
そもそも東風は何も悪くないだろ。まぁもうちょいやりようはあったとは思うけどな。
「でも迷惑かけてしまって…………自分で何とかしようとはしたんですけど………」
「平和的に、って意味ならそれは無理だった。下手な事しても危ないだけだっての」
僕が平和的に切り抜けられたみたいなことを、東風に求めるのは無理だろ。コイツにそこまでの度胸は求めてない。
向こうを物理的に止められれば確実に切り抜けられただろうけど、それはそれで後々面倒事になる。
「でも………」
「無理したって面倒になるだけだよ。危ない事はするな」
まったく、コイツの悪いところだ。何でも自分で何とかしようとする。人を利用しようとしない。その方がお得なのに。
あそこで東風がいくら足掻いても、事が好転したとは思えない。面倒事にならなかっただけ上出来だ。
「そう、ですか………」
東風はそれでも暗い表情のままだ。そんなに気にする事かなぁ?
「昔からよくあった事だし、今さらだ」
トラブル気質のコイツは、昔から色んな人から嫌がらせを受けていた。暴力的じゃなかっただけ今回はマシだ。
「何かあったら言えよ。面倒になってからじゃ遅いんだからな」
「え、それはちょっと………」
「おい」
せっかく人が心配してやってんのにそれはないだろ。我ながらガラに無い事言ったと思ったのに。
「だって昔から竜胆さんが関わると、とんでもない事になるじゃないですか」
「失礼だなぁ。僕はその場に合ったより完璧な対処をしてるだけ」
後々面倒事にならないように全力は尽くしてたつもりなんだけどなぁ。それでもダメか?
「それが問題なんですよ。竜胆さんって冗談が通じないみたいなところありますし」
そうか?僕そんな真面目なつもりはないぞ?
「僕ってそんなに堅いイメージか?」
「そうではなくてですね。…………今日も正直向こうの人達より、竜胆さんの方が心配になりましたよ」
「あの手の人間は
「それが問題だって言ってるんですよ」
え〜細かいなぁ。下手に色々考えるより楽なんだよね。
「それに………私だって、一人で頑張りたいんです」
そう言う東風の声は少し硬かった。でも僕にはそれがとても大きな変化に感じる。
「なぁ、お前何かあったのか?色々変だぞ?」
「………いえ、別に」
「………そうか」
まぁ引っ越した先でコイツなりに思う事があったのかな?変な違和感は感じたけど、詮索するのはやめておくか。
「私、そろそろ帰ります」
「あぁ」
東風は荷物をまとめて出て行こうとしたところで、僕の方を向いてきた。
「竜胆さん、今日もえっと………雛罌粟さん、でしたっけ?あの人のところに行くんですか?」
「ん?そうだけど」
「あの………どこかで私も一緒に行ってもいい、ですかね?」
え?それって夜にって事か?
どうしようかな。正直雛罌粟さんとゆっくり二人きりになれる数少ない時間だし、邪魔されたくはない。
でも東風なら別にいいかな。その辺は察せるヤツだ。それに東風も早めに帰る必要はあるだし、ずっといる事は無いだろ。
「僕だけだとなんとも。今日雛罌粟さんに聞いてみるわ」
「すみません、よろしくお願いします」
東風はそう言うと家を出て行った。送って行こうかな、と思わなくはないけど、言いそびれたな。これも昔の癖だな。
さてと、それじゃあ軽く夕食食べて雛罌粟さんところに行くか。
「………的な事があったんですけど、どうですか?」
ここは『Cafe Red Poppy』。夕食を食べ終わった僕は『Cafe Red Poppy』に来てコーヒーを飲んでいた。
そしてさっき東風に言われたことを雛罌粟さんに相談してみた。雛罌粟さんに聞かないと失礼かもしれないし。
「そうだねぇ………というか東風ちゃんって、そんな遅くまで外にいていいの?親が心配しない?」
「アイツの親、夜遅くまで仕事なんですよ。だから少しなら問題無いそうです」
それでいいのかと思わなくも無いけど、まぁそこは僕がどうこう言う事じゃない。
「うーん、東風ちゃん一人なら別にいいよ」
「ありがとうございます」
思ったよりもあっさりと承諾してもらえた。よかったな。
「………ちょっと大人げない、かな」
「ん?何がです?」
「え?あー何でも無いよ、気にしないで。そういえば、今日お客さんから聞いたよ。竜胆君の学校近々文化祭あるんだって?」
「え?あぁそうですよ」
お客さんからって。そういうのってこういった感じのお店ならではだよな。大手の店とかだと中々無い。
「いいなぁ、懐かしいなぁ」
「そんなにいいものですか?」
そりゃ授業よりかは退屈しないけど、人混みが増えるって意味ではプラマイゼロだ。
「楽しそうだなぁ。ちょっと行ってみようかな」
「お店はどうするんですか?」
「もちろん人のいない時間にだよ。ここからでも車ならすぐでしょ?」
まぁそうか。僕も電車を使って登校してるけど、すぐに着くし。
「ねぇ、もし行けたら学校案内してよ」
「別にいいですけど、そんなに食い気味できますか?」
大人からしたら学校ってそんなにいい所なのかな?僕としてはたあの人混みでしかないんだけど。
「それじゃあ僕はこれで」
「うん、おやすみ」
僕は会計を済ませると『Cafe Red Poppy』を出た。さてと、今から帰ってゲームの続きだ!
すると僕のスマホが鳴った。これは………電話だ。
はぁ、予定変更かぁ。