※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第69話 文化祭

「…………ん」

 なんだかいつもとは違う空気の中で僕は目覚めた。

 おかしいな。これでも基本的には自分のベッドで寝るようにしてるんだけどな。

 体勢的にはいつも通りだし、何かあったっけ? 

 不思議に思った僕は、うっすらと目を開けた。うーん、まだ目がしぱしぱする。

 

 

 目を開けた僕は、最初にまず腕の中にいるヤツが目に入った。

 そこにいたのは東風(こち)だった。僕に抱きついていて、まだ目が覚めてないのか、気持ちよさそうに寝ている。

 なんだよ、コイツがいたから違和感があったんだな。

 目の周りが赤い。そうか、コイツまた泣いてこの状態になったのか。

 まったく、昔と何も変わってないよな。泣いてこうやって抱きつくとすぐ寝ちゃうんだよ。

 となるとここは僕の家かな。

 

 

 僕は東風の頬を軽く引っ張ってやる。相変わらずよく伸びるなぁ。ほれ、みょ〜んっと。

 しかし、コイツがこうしてるって事はまだお昼かな。どれ、もう一眠りしておくかな。

 

 

 すると腕の中の東風がうっすらと目を開けた。お、目覚めたか。って頬引っ張ったんだから当たり前か。

「ん…………あ、りん兄、おはようございます…………」

「おぉ」

 眠気まなこの東風に適当に返すと、東風はギュッと僕の体に回していた腕に力を入れた。

 ったく、寝ぼけた時に甘えてくるの、本当に犬か何かみたいだ。

 そう思った僕は東風の頭を撫でてやる。昔からよくやってた事だ。

「ん〜〜〜〜〜」

 すると東風は甘えるように僕の胸に頬擦りしてきた。こりゃまだ離れそうに無いな。

 まぁ今起きてもすぐにする事なんて無いし、もうちょっとこのまま付き合うかな。

 そう思って僕は再び目を閉じて…………

 

 

 ……………………いやいやいやいやいやいや‼︎

 

 

「はぁ⁉︎」

 僕は東風を抱きしめたままガバッと体を起こした。

 何受け入れようとしてるんだよ! 僕は今高校生、あの頃とは違う! 

 よく見れば僕のいる場所も僕の家じゃない。何処だここ⁉︎

「おい東風! 起きろって!」

 僕は腕の中にいる東風を乱暴にゆさった。眠ってる場合じゃない! 

「ん? …………って、えぇ⁉︎何でりん兄が私の部屋にいるんですか⁉︎」

「んなもん知るか‼︎」

 

 

 僕達が混乱していると、部屋の扉がガチャッと開いた。そこから入ってきたのは一人の女性だった。

「東風、朝からうるさいわよ」

「お、お母さん! これどういう事⁉︎」

 お母さん? あー本当だ。長い間会ってなかったからすっかり忘れてたけど。東風の母親の年魚(あゆ)さんだ。

「そんなの私が知るわけないでしょ。昨日帰ってきた時に男性の靴があってビックリしたのは私よ?」

「え? …………あ、そうだった…………」

 東風が思い出したように頷いた。僕もちゃんと目が覚めてきたら段々と思い出してきた。

 

 

 そうだ。昨日東風と一緒に雛罌粟(ひなげし)さんの所に行って、その後東風が母親に合わせたいとか言い出したんだ。

 それで失礼したんだけど、帰ってなかったから東風の部屋で待ってて、それで東風の問題について話聞いて、そしたら東風が僕に抱きつきながら泣き疲れて眠っちゃったっけ。

 それで…………僕も一緒に寝ちゃったんだ。

 何やってんだよ…………昔からこうしたら寝ちゃうの知ってただろ。

 しかも昨日来たのは夜中なのに今外は明るい。となると僕達は一晩中…………。

 はあ、やっちゃったなぁ。

 

 

「最初は誰かと思って驚いたけど、竜胆君だと分かって安心したわ。竜胆君も久しぶり」

「だったら起こしてよ〜!」

 全く同意見だ。親がそこで安心しちゃマズいだろ。

「東風が竜胆君に気持ちよさそうに抱きついてたから、起こすの悪くなっちゃってね。高校生になってどうなるかと思ったけど、仲が良くて安心したわ」

「え?…………あ…………」

 そこで僕達はようやくずっと抱き合っていた事に気がついた。

 いくら昔から慣れてるとはいえ、今はお互い高校生だ。やっぱり恥ずかしいものはある。

 それに東風もここ数年で成長したようで、体型もこうやって近くで見てみると結構グラマーに…………

 お互いに恥ずかしくなった僕達は、ススっと素早く離れていった。

 

 

「ほら、今日文化祭なんでしょ? 朝ご飯、竜胆君の分も作ったから食べていってよ」

「は、はぁ」

 そう言うと年魚さんは部屋を出て行った。それからしばらく気まずい雰囲気が漂う。

「その…………すみませんでした。迷惑かけちゃって」

「いや別に。そのまま寝た僕も悪かったしな」

「いや、そうじゃなくて…………昨日の話…………」

 あーそっちか。何だまだ気にしてんのかよ。

「言っただろ、僕が勝手に首突っ込むだけだ。気にすんな」

 まぁ向こうの出方次第でやり方は変えるけどな。向こうがこれ以上何もしないなら、忠告だけで済ませてやる。

「それじゃあ下行くか」

 まさか僕の朝ご飯まで用意してくれるとは。この場合だと、つまみ出されても文句言えないのに。

「はい。…………あの………………りん兄」

「ん? 何だ?」

「その…………ありがとうございました」

 そう言って東風が笑った時、僕は昔と変わらない呼び方と笑顔を見れた事に少し喜んでしまった。

 なんだかんだで僕も結構気にしてたって事なんだよな。何かちょっと情けない。

「だったらどっかで返してもらうよ。ほら、行くぞ」

「はい!」

 

 

 朝食をいただいた僕は、とりあえず自分の家に帰った。

 そのまま学校に行こうと思ったが、それは無理だしな。

 昨日は雛罌粟さんの所から直接ここに来たから、服装は私服だしスクールバッグも持ってない。

 それに東風も着替えないとだしな。いつも通り登校して、後で会おうとなった。

 というわけで僕はいつも通りに『Cafe Red Poppy』に向かった。こんな日でもお弁当は必要だ。

「雛罌粟さん、おはようございます」

「竜胆君、おはよう。ちょっと待っててね」

 それからしばらくして、雛罌粟さんがお弁当を持ってカウンターから出てきた。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

 僕はお弁当を受け取ると、スクールバッグの中に入れた。

「文化祭、楽しんできてね」

「まぁそれなりのものでしたら」

 こう言ったらアレだけど、所詮は生徒主導の学校行事だ。クオリティーには限界があるから、どこまで楽しめるのやら。

 

 

「おーい、りん兄!」

 そんな事を話していると後ろから声がしてきた。振り返ると、東風が僕達の方へと走ってきていた。

「お待たせしました」

「別に先に行ってもいいのに」

「せっかくなら一緒に行きましょうよ」

 ったく、調子が戻ったのは嬉しいけど、これはこれで戸惑うなぁ。

「ほらりん兄、行きましょう」

「はいはい。それじゃあ雛罌粟さん、行ってきます」

「うん、いってらっしゃい」

 僕は雛罌粟さんと別れると、東風と一緒に学校に向かった。

 

 

『それではこれより、第五十二回蘖高校文化祭を開幕します!』

 生徒会長の開幕の宣言とともに、開幕式は終了した。

 ここからは僕達はそれぞれの担当に分かれる。

 といっても今日は一日目。他所から人が来るのは明日からだし、そこまで本格的じゃないんだけどさ。どちらかというと内輪ノリみたいで結構緩い。

 ウチのクラスは…………何だっけ、射的がどうのこうの言ってた気がする。僕は入り口の案内なので何をやるかには興味ない。

 漫画とかだと演劇をやるみたいなのがあるけど、少なくともウチの学校じゃそれは無理かな。

 クラスで使えるスペースには限りがあるし、体育館も部活で使うってところがほとんどだ。とてもじゃないけど、そういうのは無理。

 ウチは演劇部があるから、そこではやるかもしれないけど、クラスではないな。

 現実の文化祭なんてこんなもん。そりゃ当たり前だけど、そこまで大きな事はできない。

 

 

 一日目は何事もなく終了。部活のブースもまだ開いてないから、色んな意味で何も無かった。

「そういえばりん兄、今日は途中から耳栓してなかったですね」

「ん? あー、毎回こういうイベントの時はつけなくても大丈夫なんだよ。それでも読書したい時とかはつけるけど」

 同じうるさい学校でも、イベントの時は結構大丈夫だったりする。雰囲気で何となくだし、あんまりうるさいと無理だけど。

 一日目が終了し、僕と東風は今日の片付けに出されていた。面倒だけど強制だから仕方ない。

 もっとも今日は簡単なもので、ちゃんとしたものは文化祭が終わった後にやらされる。

 

 

「よし、これでいいだろ。先生に確認してもらって、終わったら帰るぞ」

 えっと先生どこ行ったかな。って、他の人が探してるからいいや。

「あ、今日はちょっと…………この後人に呼ばれてるので」

「呼ばれてるって…………まさか」

「え? あぁ、あの人達じゃないですよ。文化祭の実行委員からです」

 は? 実行委員? 

「何でそんな人達にお前が呼ばれてるんだ?」

 コイツが実行委員なんて話は聞いてないし、何で呼び出されるんだ? 

「えっと…………明日の閉幕セレモニーの事でちょっと…………」

「何だ、お前ボランティアでもしてるのか?」

「まぁ、そんなところです」

 よくやるねぇ。小学生の時も何か色んなことやってたような気がする。主に人から頼まれて断れずにってパターンだったけど。

「遅くなるかもしれないので、先に帰っててください」

「別に待つつもりはないっての」

 こっちだってゲームとかしたいしな。昨日潰れた深夜の分も取り返しておきたい。

 僕は先生の確認を終えて、帰る許可が降りると素早く帰った。さてと、さっさと帰ってゲームするか。

 

 

 

 そして翌日。二日目は学校の外からも人が来る。

 中にはこれを見て受験先を決める中学生なんかも来るから、今日ばかりは先生達も気合が入ってる。にしては遅いけどな。

 でもまぁ僕達のやる事は昨日と変わらない。それでもみんな教室に集められて、担任から『くれぐれもハメを外しすぎるな』と言われた。

 SHLを終えて、僕達は昨日と同じ持ち場についた。

 

 

 僕は最初の方にシフトを入れてもらって、時間を気にせずに後で回れるようにした。僕は部活も入ってないので、その辺も気にしなくていい。

 適当に看板を持ち上げて、僕は時間が過ぎるのを待つ。はぁ、こういうのは音楽でも聴きながらやりたいもんだ。

 そんなこんなでため息をついていれば、いつの間にか時間は過ぎていて、僕のシフトは終わっていた。

 次の人に変わってもらい、僕は早速校内を回る事にした。こういう人混みは好きじゃないけど、まぁボーッとしてるよかマシだ。

 

 

 すると後ろから肩を軽く叩かれた。誰かは分かってたが一応振り向く。

「東風か。何だ?」

 振り向くと、そこにいたのは予想通り東風だった。

「私も仕事が終わったので、一緒に回りませんか?」

 あーそういえばそんな事を話してたような。すっかり忘れてたわ。

「あぁ、いいぞ」

「はい、それでは行きましょう」

 という事で僕は東風と一緒に校内を回る事にした。

 

 

 

 カシャッ、カシャッ

 …………お、あれもいいな。写真撮っておくか。僕は目の前にスマホを向けた。

「この絵もいいですね…………ってりん兄聞いてないか」

「ん?何だ?」

「何でもないですよ」

 東風が何か言っていたが、僕は目の前のことに集中する。

 僕達は今二人揃っての要望って事で美術部に来ていた。そして僕は気に入ったイラストの写真を撮っているわけだ。

 やっぱり主にアニメが多いな。有名なものから、割とマイナーなものもある。

 おっと、これも撮っておくか。今年も結構いいものが多い。

 何だかんだでこういうので楽しめるから、文化祭を完全に否定出来ないんだよな。

 僕の周りにも僕と同じように絵の写真を撮っている人がいる。まぁ考えることは同じか。

 さてと、こんなもんかな。僕はふと隣にいる東風を見た。東風も楽しそうに絵を見ている。楽しんでるみたいでよかった。

 

 

 それから僕達は美術部の部屋を出ると、三年生のブースへと向かった。

 ここらで軽く何か食べておこうという事になったのだ。

「色々ありますね。どれにしましょうか?」

「あのな、まだお昼じゃないんだし、あんまり食べすぎるなよ」

 とは言っても、そんなに重そうなものはないからいいかな。軽いお菓子みたいなのがほとんどだ。

「あ、綿飴がありますよ!あれにしましょう」

 ん?お、本当だ。

 ただ結構人気なのか人が並んでるんだよなぁ…………って、もう東風が並んでた。

 こういう思い切りはいいんだよな。まぁ僕も欲しいと思ったからいいけど。

 どうやら自分でも作れるし、代わりにクラスの人がやってくれたりもするらしい。

 知り合いのを作ってるのか、何かふざけてるヤツがいるけど怒られないか?

 僕達は自分で作るようにして、まずは東風がやってみる。

「ん………よっ………」

 貰った割り箸を回しながら東風は綿飴を作っている。そんな真面目にやらんでも良くないか?

 相変わらずの集中力だ。元々手が器用だから、余計にこういうのには集中するんだよ。

「…………これで、よし!どうですか?」

「おぉ、いいんじゃないか」

 東風の手元には偏らずに、大きく膨らんでいる綿飴が出来上がっていた。結構上手いんじゃないか?

「それじゃあ僕も………」

 僕は割り箸を貰って作ってみる。これはあれだな。途中で作ったものが外れないようにしないと。後結構圧縮されてしまう。

「んっと、こんなもんかな」

 東風に比べたら見劣りするけど、初めてにしては中々いいんじゃないか?

 やっぱりこういうのは東風の方が得意なんだよな。

 試しに食べてみると、フワフワとしていて甘くて美味しい。

「美味しいですね〜。まさか学校で綿飴が食べられるとは」

「まぁ綿飴なんて、基本的にはお祭りくらいでしか食べないからな」

 何か綿飴を作るおもちゃみたいなのはあるみたいだけど、買う人もそんなにいないだろ。

 

 

 綿飴を食べ終わった僕達は再び学校を回っていた。

 他のクラスも回ってみて、ゲームで遊んでみたり買い食いしたりして時間を過ごしていた。

「こういうのって賑やかでいいですね」

「まぁ学校だけとはいえお祭りだからな」

 こういう騒がしさなら問題ないんだよな。騒がしいとは思うけど、それが受け入れられる。

 何でだろうな。教室と違って閉鎖的じゃないから、とか?教室って狭いしさ。その中で騒がれたらたまらない。

「次どこ行きますか?」

「ウチのクラスに遊びに行ってみるか?」

「りん兄が射的で景品全部貰っていく未来しか見えないので却下です」

 んだよ、ダメか。というかそれで騒がれるのも嫌だから、さすがに本気ではやらないけどな。

「それならもう一回部活のブース回ってみますか?他の部活も見てみましょうよ」

「そうだな、そうするか」

 そう思って僕達は部活のブースに向かおうとした。

 その瞬間、僕は思わず目を凝らした。お…………あれは…………

「ん?りん兄、どうかしましたか?」

 

 

「スリ見つけた」




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
 連日投稿ですが、ついて来て頂けたら幸いです。
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