※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第72話 不安

 私は初めて入る高校の校舎の中を東風ちゃんと一緒に歩いている。

 当たり前といえば当たり前だけど、とんでもなく気まずい。

 そもそも会ったのは二回、まともに話したのは一回だけだ。そんな中で仲良く話すのは難しい。

 別に苦手とかじゃないんだけどね。やっぱりそういう距離感は気にしてしまう。

 本当だったら竜胆君と二人きりで回れると思ってたのに。久しぶりにデート出来ると思ったんだけどなぁ。

 まぁ東風ちゃんが竜胆君と一緒にいるのは予想出来てたから、二人きりは難しいか。

 それでも三人で行動するとは思ってたし、そこで竜胆君を介して東風ちゃんとも仲良くなろうと思っていた。

 ただその竜胆君が今いない。ついさっきどこかに行っちゃったんだよね。

 メールを確認したと思ったら、変な笑い声あげて、何か物騒な事を言ってどこかに行ってしまった。

 経緯どころか意味が分からない。何かあったんだろうけど、ちょっとやそっとのレベルじゃなさそうだなぁ。

 それを知ってそうな東風ちゃんはさっきからずっとソワソワしている。表情も不安そうだ。

 

 

「ねぇ、東風ちゃん」

「な、何ですか?」

 私が声をかけると、東風ちゃんはピクッと反応して応えた。

 竜胆君の話だと人見知りする子らしいけど、私が話して大丈夫かな?この前話した事はあるんだけど。

「その………これ聞いていいかどうか分からないんだけどさ。………竜胆君と何かあったの?」

 まぁあの様子を見た感じ、竜胆君と東風ちゃんの間に何かあったわけじゃなさそう。

 第三者が関係してるんだろうけど、予想が全く出来ない。

「あ、そうか………雛罌粟さんは知らないんだ………」

「ん?何を?」

「え?あー……………まぁちょっと」

 何か変に濁されちゃった。二人だけの秘密でもあるのかな?

「えっと………実は………」

 それから私は東風ちゃんから事の経緯を聞かされた。

 簡単に要約すると、東風ちゃんがいじめられていて、ついさっきも一悶着あったんだそうだ。

「…………って、他には?」

「すみません、りん兄が何やろうとしてるとか、何考えてるかは私も知らないんです」

 そうなんだ。となるとそのイジメ関係で間違い無さそうだけど、本当に何をしに行ったんだろう。

 というかやっぱりこの前から、東風ちゃんの竜胆君への呼び方が変わってる。

 前は『竜胆さん』って呼んでたのに、今は『りん兄』って。お兄さんって事なんだろうけど。

 二人の間に何かあったのかな?

 

 

 普段は人の人間関係が気になることはあんまり無いんだけど、この二人の事はどうしても気になる。

 そりゃあやっぱり竜胆君は………その………す、好きな人なわけだし。その周りに仲のいい女の子がいたら、気になるのは仕方ないと思う。

 ただでさえ竜胆君は周りの仲良くするのは苦手と言ってたし、その竜胆君が一緒にいる子だ。すごい仲良いんだろうな。

 友達というよりかは兄妹みたいだけど、それでも竜胆君の女性事情は気になる。

 もちろんそれを竜胆君に直接聞くつもりは、今のところない。先月それで一悶着あったばかりだ。

 でも私くらいに、いやある意味私より近しい関係に見える東風ちゃんには、色々と感じるものはある。

 まぁ小学生の時からの付き合いだって言うし、別に過度に仲が良くても不思議じゃないんだけど。

 もしかしたら私が一方的に色々感じてるだけかもしれないけど。それでも竜胆君との関係を勘くぐってしまう。

 私は隣を見た。東風ちゃん、結構可愛い見た目してるんだよなぁ。それにやっぱり竜胆君と歳も近いし。

 竜胆君は気にしないって言ってくれたけど、今でも私は竜胆君との年差を気にする事がある。それは東風ちゃんが現れてから、さらに増えた。

 竜胆君と私、竜胆君と東風ちゃん。並んだ時にどっちが恋人同士みたいと言われたら、間違いなく後者だろう。

 それと関係あるかは知らないけど、どこかで竜胆君が私より東風ちゃんの事を気にするようになるかもしれない。そんな不安が胸を過ぎる。

 竜胆君は誠実な子だ。自分からなんて事は無いだろうけど、そうでなくても自然に私と疎遠に………って考えすぎかな?

 私にだってそれなりに欲求はある。私だけを見て欲しい思ったり、彼の温もりが恋しくなったり。まぁちゃんと伝えられてないんだけどね。

 ただでさえ私とは不安定な関係だし、竜胆君がそれを切ってもおかしくかない。

 それを考えてしまうと、どうしても二人の関係は気になる。それに私が見た感じ…………どうなんだろう。

 

 

 東風ちゃんはまだ心配そうな顔をしている。間違いなく竜胆君を心配してるんだろうな。

 兄のように慕ってる人がよく分からなくなったら、そりゃ心配になるって。

 今何やってるんだろうな。すぐに戻ってくるとは言ってたけど。

「竜胆君の事心配?」

「まぁ、そう、ですね」

 私もすごい心配だ。あんな竜胆君初めて見た。

 いつもの竜胆君は、目つきは悪いけど礼儀正しくて、私のことを思い遣ってくれる。きっと東風ちゃんにも同じようにしてるんだう。

 大人びた印象もあるけど、恥ずかしがり屋なところもあったりして、一緒にいて落ち着く子だ。

 

 

 でもさっきの竜胆君は、正直言って怖かった。

 元から目つきは怖いなぁとは思ってたけど、そんなレベルの話じゃない。そんな人はこれまで何人も見てきた。

 うまく表現出来ないけど、表面上から分かるものからじゃなくて、心の底から本能的な恐怖が湧き出てくるような感じだ。

 怒気なんて言葉は生ぬるい。それはある意味殺意すら感じさせるものだった。というか一瞬私が殺されるかと思った。

 それは決して私に向けられたものではない。それでもその威圧で一瞬固まってしまった。

 よく学生なありがちな高圧的なものや理屈っぽい威圧とは違い、その場を凍てつかせるような雰囲気があった。

 あのほんの短い間で、私はそれを痛いほどに感じた。今でも思い出すとブルっと体が震える。

 あんな雰囲気どうやったら身につくんだろう。仕事柄色んな人を見るけど、あんな人見たことない。

 普通に生活していたら絶対に身につくはずのないものなことだけは分かった。

 

 

「ちょっと、怖かったね」

「そう、ですね」

 そう返した東風ちゃんだったが、表情は恐怖というよりかは心配一色だ。

「東風ちゃんは怖くなかったの?」

「え?あー、昔からあぁいうところがありましたので」

「昔からって………」

 昔って小学生の頃だよね?そんな時からあんなおっかない雰囲気を纏ってたの?

 私達は関係が関係なだけに、お互いのことをあんまり話さない。だから私は竜胆君の事を詳しくは知らない。それはそれでいいと思う。

 お互いが支え合う関係で、それを知ってしまえばその関係は成り立たない。だから知る必要がない。

 ただあんなもの見せられたら、これまでとは別の意味で知りたくなってしまう。

「高校生になって成りを潜めたと思ったんですけどね。昔のままでちょっと驚きました」

 すごいなぁ、あれでちょっとなんだ。人によってはすくんでしまうと思うんだけど。

 けど何か前に言ってたなあ。人との揉め事が多かったって。まぁ原因はあの性格なんだろうけど。

 

 

 そういえば…………

「ねぇ、前竜胆君から夏の花火大会で暴力沙汰があったって聞いたことあるんだけど………あれって本当?」

「暴力沙汰……………あぁ、ありましたね、そんな事。結構大きな騒ぎになりました」

 あ、本当にあったんだ。てっきり屋台のおじさんの誇張だと思ってたよ。というかそうであって欲しかった。

「その、私花火大会で高校生の人にカツアゲされちゃいまして。それでりん兄が止めようとしてくれたら、ちょっと問題事に………」

 何だ、竜胆君は東風ちゃんを守ろうとしたんだね。やっぱり優しいんだな。

 それにしてもその事情込みでも出禁になるレベルの暴力って、何やったんだろう。聞きたいような、聞きたくないような。

 というか当時小学生でしょ?それで高校生に勝てるって、どんなやり方なのかな?

 

 

「まさかとは思うけどさ…………今回も暴力沙汰で済まそうってしてたりしないかな?」

 私は頭によぎった嫌な予感を口にした。

 竜胆君はどちらかというと理性的な子だ。そんな不良みたいなことはしないと思いたいけど、さっきの感じだと平和的に済ませるつもりはなさそうだ。

 となるとそういった可能性も充分にあり得るわけで。

「暴力沙汰…………ですか………」

 隣を見てみると、東風ちゃんはさっきよりも難しい顔をしている。

 え?………まさか、本当に暴力沙汰?病院送りみたいな感じ⁉︎

 いくらイジメの加害者相手とはいえ、そこまでやってしまえば竜胆君の方が悪くなってしまう。

 それに文化祭なんて学校の評判を決める大切な行事だ。そんな中で問題を起こしたら、なんて言われるか分からない。

 東風ちゃんも心配なんだろうな。何も悪くないとはいえ、自分が関わってこうなっちゃったわけだし。

 でも、まさかねぇ。私はいつもの竜胆君を思い浮かべる。

 恥ずかしがり屋なところがあって、どんなに関係が進展しても敬語で、ちょっと意地悪なところはあるけど、私のこと気遣ってくれるし。

 考えが読めなくて危ないところも多い子だけど優しいし、正直彼が他人を苦しめるなんて想像出来ない。

 きっと私の考えすぎだよね。東風ちゃんだって竜胆君の優しさはちゃんと知ってるはずで…………

 

 

「あの程度で済むんでしたら、私もここまで心配しないんですけど」

 

 

「⁉︎」

 もう本当に不安しかない私であった。

 

 

 

 

「ふぃ〜。終わった終わった」

 やる事を終えた僕は体育館へと向かっていた。これから閉幕セレモニーなんだよね。

 本当ならサボるのもアリかなって思ってたんだけど、さっき東風からメッセージが来た。

『何してるかは知りませんが、閉幕セレモニーまでには来てくれると嬉しいです』

 との事だった。意味が分からない。まさかアイツ、自分のやってるボランティアの手伝いさせようってんじゃないだろうな。

 というか雛罌粟さん帰っちゃったかなぁ。せっかく来てくれたのに申し訳ない。

 とりあえず体育館に向かう。アイツが何の意味もなしにこんなメッセージ送るとは思えない。

 体育館に入って、自分のクラスの列を探す。こういう式典はクラスで並ぶものだよね。

 一応耳栓してるからうるさくはないんだけど、そこに行くまでに一苦労よ。めんどくさい。

 列に着いたのはいいけど、肝心の東風がいない。あれ?同じクラスだからこの辺にいるはずなんだけど。

 そんなこんなで探している内に閉幕セレモニーが始まってしまった。まぁいいや、来いとしか言われてないし。

 

 

 生徒会からの話とか色々あって、お次は部活や個人によるパフォーマンスの時間だ。地味にこれは楽しい。

 部活は何やるか分かるからアレだけど、個人のヤツは本当に分からないからな。去年オタ芸とかがあって本当にびっくりした。

 部活のパフォーマンスを終えて、次は個人か。さてと、今年はどんな人が来るのやら。

 

 

『お次はDongfengさんです。どうぞ』

 一発目にして本名ではないって、印象強いなぁ。たまにいるらしいけど、学校行事で本名隠すなんて珍しい。

 それは他のみんなも同じなようで、全体が騒めき出す。

 呼ばれて出てきたのは、女子生徒だ。服装は制服だけど、学年色が入ってる校章は外してるから学年は分からない。

 髪は少し長かったが結んでおらず、背は割と低い。

 そんでもって………何だ、あの猫のドミノマスクみたいなの。

 色合い的には制服と合ってるけど、あの下が学生と考えるとそれなりに違和感が。

 って、あれ?もしかして………………。私は出てきた生徒をじっくりと観察した。

 仮面で顔は分からない。制服姿だけど学年も分からない。何の根拠もないけど、何となく僕には感じられる。

 

 

 あれ……………東風じゃないか?




 最後まで読んでいただきありがとうございました。最近r18 系の描写が無いですが、まぁもう少しお待ち下さい。
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