※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第87話 初詣

 年が明けて初日の出も終わり、ただ今時刻八時ほど。

 世間がお正月ムードで盛り上がっている中、僕がやる事といえばもちろんゲーム!…………のつもりだったんだけどなぁ。

 

 

「おーい、りん兄〜!」

 

 

 僕の目の前で東風が手を振っている。僕はその様子を見て軽くため息を吐いた。

 それでも僕は東風の方に向かって歩いていく。厚手のコートにマフラーと手袋をしている。

「りん兄、明けましておめでとうございます!」

「はいはい、おめでとさん。外なんだからあんまし大声出すなよ」

 今僕達がいるのは前に花火大会で屋台が並んでいた神社だ。まぁお察しの通り初詣である。

「ったく、正月早々元気なこった」

「新年なんですから元気にしてましょうよ」

 そんなもんかね?僕としてはぬくぬくと休んでいたいものだ。

 もちろん初詣は僕が提案した事ではなく、東風から誘われた。

 当然断ったんだけど、『渡したいものもあるから』と言われて仕方なく行く事にした。

「それじゃあ行きますか!」

「はいはい」

 意気揚々と人混みの中を歩いていく東風を、呆れながらついて行く。

 それなら渡したいものだけを受け取って帰ればいい、と気がついたのは初詣が終わってからだった。

 

 

 

 カランカランカランッ

 僕達は鐘を鳴らして二礼してパンパンッと手を打つ。それから少しして一礼する。

 ようやくだよぉ………長かったぁ。僕は小さなため息を吐く。

 参拝の列長いんだよなぁ。まぁうるさいとは思わないから良かったんだけどさ。

 僕は別にちゃんとした列とかなら苦手じゃないんだけど、何せ人が多い。

「ふぅ、これでいいだろ」

「そんなに慌てなくてもいいじゃないですか。あ、ほら甘酒飲みませんか?」

「甘酒…………ならいいか」

 どうせ誘われた時から飲みに行くつもりだったし、まぁ付き合ってもいいか。

「ほら、行くぞ」

 僕は東風の手を掴むと、甘酒の出店の方へと引っ張って行く。

「あ………はい」

 すると東風はさっきまでの騒がしさはどこへやら、静かになってついて来た。どうかしたか?

 まぁいいや。静かになった東風を連れて行く。

「おい、東風も飲むか?」

「………へ?あ!貰います!」

 さっきまでボケーっとしていた東風がはっとして答えた。本当に大丈夫か?

「それじゃあ二人分………っておい、東風。手離してくれないと甘酒貰えない」

「え?………あ‼︎は、はい!」

 僕の手を離そうとしなかった東風は焦ったように手を離した。

 最近東風はこんな風にボーッとすることが増えたように感じる。大丈夫かな?

「ほら、熱いぞ」

「ありがとうございます」

 僕は東風の分の甘酒を渡すと、一気にクッと煽った。

「ふわぁ〜!温まりますねぇ」

「あぁ」

 やっぱり温かい食べ物ってのは寒い中でこそ輝くものなんだなぁ。夏とかはもちろん、家の中じゃこうはならない。

 

 

 

 甘酒も飲み終わって、僕達は一息ついていた。

「それじゃあもういいだろ?僕は帰るよ」

「もう、そんなに急がなくてもいいじゃないですか。何でそんなに急ぐんですか?」

「早く帰ってゲームしたいんだよ」

 お正月はお正月でイベントがある。昨日『Cafe Red Poppy』から帰って、ずっとやってたからな。

「だろうなと思ってましたけど、そこまで急ぎますか?まだ八時半ですよ?今日はまだまだありますよ」

「時間関係無しにゲームはたくさん楽しみたいの!というか午後からは遠出するからゲーム出来ないしな」

「? りん兄がお正月に出かけるとは珍しいですね。何か用事でもあるんですか?」

 東風が怪訝そうな顔で聞いてきた。これまでは正月にお出かけなんて無かったからな。

 まぁ東風になら話してもいいか。

 

 

「実はな…………雛罌粟さんの実家に行くことになった」

 

 

「あぁ、雛罌粟の実家ですか。……………え⁉︎実家⁉︎」

 ちょ、うるさっ!耳元で叫ぶなよ。ただでさえ周りが騒がしいんだから。

 でも東風が叫びたくなるのも当然だ。僕だって昨日決まってビックリしてるんだから。

「りん兄、雛罌粟さんの実家へご挨拶に行くって事ですか?」

「まぁそうだけど、何か重苦しく感じるからやめろ」

 まるで結婚のための挨拶みたいじゃないか。そんなんじゃない。

「え?な、何でそんな事になったんですか?」

「あぁ………それはな、実は昨日雛罌粟さんのところに行った時に………」

 僕は昨日の年明けてすぐの事を話した。

 

 

 

 

「もうちょっとだけ時間ある?………ちょっと相談があるんだけど………」

「ん?何ですか?」

 年も明けて家に帰ろうとしたら、雛罌粟さんに呼び止められた。どうかしたのか?

 とりあえず浮かせた腰を再び下ろした。

「竜胆君は明日の午後から、三日くらいまで用事とかってある?」

「用事、ですか?…………特にこれといったものはありませんよ」

 まぁゲームとかは正月イベントがあるけど、イベント報酬はほとんど既に手に入れている。

 それにやるとしても午後から用事って事は、午前にイベントはやればいい。

「そっか…………だったらさ、その間どこかにお泊まりみたいなのもアリ?」

「? そりゃ、出来なかないですけど。………どうかしたんですか?」

 雛罌粟さんはさっきからちょっと浮かない顔だ。

「えっとね………私明日、じゃなくて今日の午後から実家に帰ることにしてるんだけど」

 ほぉ、いわゆる帰省ってヤツだ。この時期なら珍しくはない。

 

 

「それでね………竜胆君も一緒に実家に来て欲しいの」

 

 

「…………は?」

 あまりの予想外すぎる話に、僕は反応が遅れてしまった。

 雛罌粟さんの実家に僕が?意味が分からない。

「あの、何でって聞いていいですか?」

「うん。その………前からお母さんが、竜胆君に会いたいって言ってたの。それでいい機会かなって」

「ん?ちょっと待ってください」

 何かさも当たり前のように話しているが、いくつか引っかかるところがあった。

「えっと、まず第一に………家族に僕の事話したんですか?」

「あ………えっと、まぁ………」

 僕が聞くと、雛罌粟さんは何とも言えない反応を示した。これは意外だったな。

 僕と雛罌粟さんの関係はちょっと微妙だ。だから周りには言わないようにしている。

 そもそも僕は言うような人がいない。強いて言うなら東風だが、アイツにだって適当にボカしてある。

 まさか雛罌粟さんが既に親に話していたとは。その辺は慎重になっていると思ってた。

 

 

 

 …………いや、待てよ。あぁ、なるほど

「夏に帰省して、浴衣貰った時に聞かれましたか?」

「あはは、相変わらず察しが良くて助かるよ。そういう事」

 まぁそれに関しては花火大会の時に、若干疑問だった事でもあったしな。

 単純な話、いきなり訳も言わずに『浴衣ちょうだい』と言われて『はい、そうですか』なんて言う人はいない。

 ましてや家族なら、雛罌粟さんが過去にも花火大会に行っているのは知っているはずだ。

 それなら『何で今年だけ浴衣?』となるはずだ。ストレートに聞かなかったとしても、理由くらい聞いてもおかしくはない。

「それで素直に答えたんですね」

「誤魔化すべきかとは思ったよ?でもそれはちょっと心苦しいし」

 なるほどなぁ、雛罌粟さんらしいな。僕なら速攻で誤魔化すよ。

「そしたらお母さんにどこかでウチに呼んだらって強く言われて。ほら、私………その、色々あったから………」

 なるほどな。雛罌粟さんは昔男女関係で何か問題があったのは知っている。

 そんな雛罌粟さんが花火大会を一緒に行く男性がいると分かったら気になるのは当たり前だ。

「これまで適当にやり過ごしてたんだけど、正月となるのそれも難しいかなって。今朝も聞かれてさ、急だとは思ってるんだけど一緒にどう?」

 たしかにこの帰省ラッシュの中だったら来れるかもとは思うよな。それで僕を連れて行こうって事ね。

 

 

 

「もちろんお母さんも強制はしてないから、無理だったら無理でいいんだけどね」

「でもそれだと雛罌粟さんが面倒事引きずる事になりませんか?ご家族の方々だって、そこが不透明では不安でしょう?」

「それは………まぁ」

 まぁ僕も速攻で断りたいところだけどさ、それで雛罌粟さんに迷惑が被るのはな。

「でも、お母さんも心配というよりかは興味本位な感じがあるからね。別に断っても良さそうだけど」

「うーん、雛罌粟さんはどうしたいですか?」

 僕一人で決めるのもどうかと思ったので雛罌粟さんに聞いてみた。

「そうだねぇ………私は、来るなら来て欲しい、かな。ちゃんと竜胆君のこと紹介したい、とは思ってる」

 紹介って………そんな事したいのか?

「何で紹介したいんですか?正直家族に紹介って、そこまで深い関係にしていいものか怪しいものですよ?」

「それはそうだけどさ、家族に分かってもらいたいんだ…………今、自分が幸せなこと」

 そうか………雛罌粟さんにはそうやって捉えることも出来るのか。

 

 

 

「………ちなみに実家ってここから近いんですか?あんまりかかるなら嫌なんですが」

「そうだな………車で一時間かかるかかからないかくらいだね」

 あ、近いね。となると大体県内なんだろう。

 それなら最悪いづらくなったら一人で勝手に帰れるな。それなら悪くもない気がしてきた。

 この関係の事を言うつもりはないけど、第三者から見て僕達の関係がどんなものか知るにはちょうどいい。それが雛罌粟さんの家族なら尚更。

「もちろんやりたい事なるなら無理にとは言わないよ?まぁ、あんまり重く考えないで友達の家に遊びに行くみたいな感じで………」

「その経験が無いんですよね」

「あ、そうか………」

 同学年の家なんて、この前東風の家に行ったのが本当初めてと言っていいくらいだからな。

「そもそもご家族の方々は僕のことをどの辺まで認識しているんですか?」

「えっと………私の仲のいい男友達」

「また面倒な認識してますね」

 というかそんな状態でよく招こうとしたな。関係浅はかもいいところだろ。

「し、仕方ないでしょ。本当の事言うわけにもいかないし」

 だろうな。付き合ってるかどうかの怪しい肉体関係です、とは言えないって。

 

 

 

 さて、どうしたものか。色々と思うところはあるにせよ、雛罌粟さんの家族からしたら過去のこともあって、割と気にかけるものだろう。

 最悪適当に挨拶して僕は勝手に帰るというやり方もある。僕に得はないけど、損もない。時間が奪われるが、今から帰れば充分取り戻せる範囲だ。

「どうする?無理なら無理で全然いいんだけど」

 どうしようかな…………面倒だけど、行くだけ行くというのもアリなんだしな。

 それに僕と雛罌粟さんの関係をどうするかを決めるためには、ある意味必要なことかもしれない。

 何より雛罌粟さんがちゃんと伝えたい事があるなら、手伝うのもやぶさかではないし。

「分かりました。無理そうだったら適当に帰るんで、それでいいなら」

「本当に⁉︎ありがとう‼︎」

 雛罌粟さんは嬉しそうに身を乗り出してきた。顔が至近距離まで近づいて、思わずドキッとする。

「そ、それじゃあ、明日の午後って事でいいですか?」

「うん、ここに来て!」

 

 

 

「…………てな訳だ」

 甘酒の出店の隣で僕は説明を終えた。色々と僕達の関係についてはボカしたけど。

「なるほど、それにしてもりん兄にしては珍しいですね」

「何がだ?」

「だってそんなに不確定な要素が多い中で行くことにするなんて、りん兄にしては随分軽く決めたな、と」

 あーそういう事か。

「たしかに自分でもそう思うさ。けど、雛罌粟さんが今の自分を伝えたいってならそれはそれで見てみたい」

「そうですか。…………ってあれ?という事はりん兄三ヶ日は雛罌粟さんとずっと一緒という事ですか?」

「ん?あぁ、そうなるか」

 全く意識してなかったや。大丈夫かな?

「負けた………」

「何にだ?」

 なんだかよく分からないけど東風が落ち込んでいる。本当に最近変だな。

 

 

 

「そういえば渡す物があるとか言ってなかったか?何だ、お年玉?」

「同級生にお年玉求めないでくださいよ………はい、これ」

 そう言って東風が渡してきたのは、一つのタッパーだ。

「ウチで作った栗きんとんです。りん兄甘いもの好きでしたよね?」

「おぉ!ありがとう」

 やったね、ゲームしながら食べようっと。

「それじゃあ僕は帰るわ」

「はい、それでは」

 出かけるまでにイベントを進めておきたい。今ならそれなりに時間がある。

 それにしても、雛罌粟さんの実家かぁ………面倒事にならなきゃいいけど。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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