※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第88話 帰省

 あの後家に戻った僕は、東風のくれた栗きんとんを片手にゲームを進めて、お昼になると家を出た。

 荷物は夜中に帰ってきてから準備しておいたが、こんな事をしたのは中学校の修学旅行以来だ。

 いつもアニメグッズを爆買いする時に使うリュックに、着替えとか諸々詰めて準備完了だ。

 人の家に泊まるのなんて生まれて初めてなわけだが、まぁそこまで大きな荷物はいらないだろ。

 日帰りというわけではないので、スマホの充電器やバッテリーは必須だな。その上でスマホの充電を100%にしておく。

 家を出た僕は自転車で『Cafe Red Poppy』に向かった。自転車は向こうで止めさせてくれるらしい。

 いつも通りのルートで向かうと、お店の前で雛罌粟さんが待っていた。

 ハイネックのセーターにロングスカートという服装で、よく似合っていると思う。無駄な装飾品が無いのがいいと思った。

「雛罌粟さん、お待たせしました」

「私もちょうど来たところだよ。それじゃあ行こうか」

「はい、お願いします」

 僕達は雛罌粟さんの車に乗ると出発した。雛罌粟さんの車に乗るの、遊園地に行った時以来だなぁ。

 

 

 

「えっと…………竜胆君に私の家族の事って話したことあったっけ?」

「そうですねぇ…………たしか妹さんがいるというのは聞きましたよ」

 ほとんどうろ覚えの記憶の中から、何とか引っ張り出せた。よく覚えてないんだよ。

「あ…………妹かぁ」

「何ですかその反応」

 見た感じ僕の記憶は正しいようだけど、何かすごい微妙な顔された。え? どうしたの? 

「いやね、その妹と竜胆君の相性がなぁと思って。喧嘩にならないといいけど」

 相性って。そんな事気にするか? 

「別にそんな事しませんって。苦手でも多少なりとも我慢は出来ますから」

 僕だって高校生、それくらいの我慢は出来るつもりだ。

「そう? ちょっと生意気で上から目線かもしれないけど、大丈夫?」

「あー…………時と場合によりますね」

 そういう感じね。たしかに僕とはあんまり相性良くないかもな。

 怒るというよりかは、上から目線なのは落ち着かない。下手に喧嘩売られたら、ちょっと保証は出来ないな。

「向こうが変なことしてこなければ、僕も何もしませんよ」

「出来れば変なことしても受け流してくれると嬉しいな」

「善処します」

 そもそも関わらなければいいだけの話だ。最初から仲良くなるつもりもないし。

「まぁ同い年だし、話はもしかしたら合うかもしれないんだけどね」

「へぇ…………って、妹さん高校生なんですか?」

 てっきり大人か、若くても大学生かと思ってた。まさか高校生とは。割と歳離れてるんだな。

 それから特に会話はなくて、静かな時間が過ぎていった。

 前ならちょっと気まずかったけど、今となってはもう慣れた。コーヒー飲みに行く時話さないなんて事ザラだし。

 

 

 

 

 それから一時間ほど経った頃。通ってきた駅の近くの都会らしさとはかけ離れた、いかにも田舎といった感じの町に入っていた。

「竜胆君、着いたよ」

 しばらくして雛罌粟さんが声をかけてきた。言われて周りを見てみると、目の前に一軒の家があった。

「お母さんにはもう竜胆君が行くことは話してあるから、遠慮しないで」

 よかった、その辺ちょっと心配だったんだよな。やっぱり人と会うのは気を使うから苦手だ。

 雛罌粟さんは家の引き戸をガラッと開けた。僕もその後に続く。

「お母さーん、帰ったよー」

 雛罌粟さんが玄関で軽く声を張って言うと、奥の方から五十代ほどの一人の女性が出てきた。

「あら、罔象。お帰りなさい」

 あぁ、この人が雛罌粟さんのお母さんなんだ。たしかに雛罌粟さんがまんま歳を取ったら、こんな感じになりそう。

「それで…………もしかしてその子が…………」

「うん、私の友達」

「え……あ、連枷 竜胆と、いいます。えっと…………こ、これからお世話になります」

 どう挨拶すればいいのか分からなかったので、吃りながらも何とか声を絞り出した。

「そんなにかしこまらなくてもいいのよ?ここで話すのもアレだし、とにかく上がって」

「は、はぁ…………」

 なんて返すべきか分からない。どうしたらいいんだ? こう言う経験ないから難しい。

 でもそうも言ってられないので、僕は気後れしながらも家に上がり込んだ。

 

 

 

 僕達は流されるようにして食卓のテーブルまで案内された。

「その辺適当に座って」

「あ…………はい」

 僕は言われるがままに着ていたトレンチコートを脱いで、近くの椅子に座った。雛罌粟さんもその隣に座る。

「はい、お茶どうぞ」

「あ、ありがとう……ございます」

 どうしよう、すごい落ち着かない。

 そんな僕の考えを他所に、雛罌粟さんのお母さんが僕達と向かい合うようにして座った。

 あれ? 雛罌粟さんの妹さんやお父さんはどこにいるんだ? 家から雛罌粟さんのお母さんと僕達以外の気配がない。

「それじゃあ改めまして。私は罔象の母の雛罌粟 (おかみ)よ。竜胆君、だっけ? よろしく」

「あ、はい。よろしく……お願いします」

 別に緊張しているわけではないのに、どうしても言葉が詰まる。どうしても会話の内容より周りへの警戒に意識が向いてしまう。

 慣れない環境でいきなり近い距離での会話は、僕を混乱させるには充分だった。

 

 

 

「罔象と仲良くしてくれてるんだって? ありがとうね」

「い、いえ……そんな…………」

 こういう会話ってどう答えるのが正解なんだろうか? コミュニケーション能力が低い僕にはよく分からん。

「あっちで罔象はどう? ちゃんとしてるかしら?」

「え? あ…………そ、それは…………はい」

 あーこりゃダメだ。どこかで絶対躓く。早く終わらせたい。

「あ、あのさお母さん! そういえば(くまり)ってどうしてるの? さっきから見てないけど」

 さっきから挙動不審な僕を見兼ねたのか、雛罌粟さんが助け船を出してくれた。ありがとう。

「ついさっき出かけちゃってねぇ。初詣とか言ってたから、そろそろ帰ってくると思うんだけど」

 あぁ、例の妹さんね。今はお出かけ中なんだ。

 

 

 

「そうだ、先にお父さんに挨拶してきちゃいなさい。竜胆君もお部屋用意してあるから、荷物置いてきちゃえば?」

 あ、なんだお父さんいるのか。でもさっきから全く気配がしないんだよな。勘鈍ったか? 

 というか僕の部屋、もうちゃんと用意されてるんだ。泊める気満々じゃないか。

「そうだね。私が案内するから、竜胆君行こう」

「あ、はい」

「竜胆君の部屋は階段上がって左側の一番目ね」

 僕は雛罌粟さんの後ろをついて行きながら階段を上った。

「竜胆君大丈夫? お母さん人とお話しするの好きだから」

「あぁ、ちょっと落ち着かないだけなので大丈夫ですよ…………今のところは」

 別にストレスとかは溜まっていない。たしかにちょっとおしゃべりだなとは思ったが、周りに警戒してそれどころじゃない。

 まぁ無理だったら勝手に帰るだけだ。それまでは気楽に行きたいもんだなぁ。

「はい、ここが君の部屋だと思うよ。まぁ元は私の勉強部屋だけど。荷物置いたら下に行ってて」

「分かりました」

 僕は扉を開けて中に入った。すると大きな勉強机が目の前にある。なるほど、たしかに勉強部屋だったんだな。

 妹さんと歳が離れてると言っていたし、集中するためにはそういうのが必要だったのかもしれない。

 すると部屋の端に布団が畳まれて置いてある事に気がついた。本当、ちゃんとしてるよ。

 

 

 

 適当に荷物を置くと、僕は部屋を出て下に降りる。とりあえず食卓に戻るか。

 そう思って行こうとした時に、視界の端に映ったリビングに座っている雛罌粟さんの姿が見えた。

 お父さんに挨拶とか言ってたけど、その割には声がしない。…………まさか。

 すると雛罌粟さんが立ち上がってこっちを振り向いた。僕と完全に目が合う。

「あ、竜胆君。荷物は置き終わったの?」

「は、はい。えっと…………勝手に覗いちゃって、すみません」

「あぁ、いいのいいの。この場所からじゃ仕方ないし」

 でもやっぱり悪い事しちゃったな。

 さっきまで雛罌粟さんのいた所には、一人の男性の写真と果物が置いてあった。他にも線香や位碑なんかが置いてある。

 間違いなくあれは…………

 

 

「私のお父さん、もう亡くなってるの」

 

 

 やっぱりそうか。挨拶ってそういう事ね。

「そう、ですか…………えっと…………」

 なんて言うべきなのか分からずに、僕は言葉を失う。

「あぁ気遣わなくていいよ。もうずっと前の話だから」

「は、はい…………」

 ダメだなぁ、ここに来てから調子が狂ったままで、まともな対応が出来ない。

 

 

「それに…………今は目の前に好きな人がいるもん。竜胆君がいてくれるから、今は幸せだよ」

 

 

「あ、え? …………あ、ありがとう、ございます…………」

 いきなり恥ずかしい事言われて、僕は俯いてしまった。そういう事をサラッと言わないで欲しい。

「ちょ、そういう反応やめてよ。恥ずかしいの我慢して言ったのに」

「し、仕方ないじゃないですか」

 お互い顔赤くなってるんだろうな。そう思っていると、雛罌粟さんが僅かに僕達の距離を縮める。その距離感に心臓が高鳴る。

「き、君はどうなの?」

「え? それは…………さ、察してください」

 さすがに言葉に出すのは恥ずかしすぎる。僕にそんな度胸はない。

「私は…………ちゃんと聞きたい」

「うっ…………ぼ、僕は…………」

 なんか今日の雛罌粟さん、押し強くないか?いや、無理だろ。今は難しいって。

 でもこういう時でもないと言えないし、ここはちゃんと…………

「ぼ、僕は…………あなたの事が…………」

 

 

「罔象ー! お茶冷めるよー!」

 

 

 食卓の方から龗さんの声が聞こえてきた。その声に僕達はビクッとする。

 それからしばらくお互いを見つめ合うと、小さくため息を吐く。

「と、とりあえず、お母さんのところ戻ろう。苦手かもしれないけど」

「はっきり言わんでください」

 たしかにおしゃべりな人は苦手だけど、まぁ無理だったら逃げればいいだけの話だ。

 そう思いながら僕は雛罌粟さんとともに食卓へ戻る。顔の熱も徐々に冷めていった。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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