「ふーん、それじゃあ竜胆君はお店にたまに来てくれてたんだ」
「は、はい」
あの後ダイニングに戻った僕達は、
「ウチの店の常連の中だと一番若いんだよ」
といっても実際僕は軽く受け答えしてるだけで、ちゃんと話してくれるのは
さすがに出会ってすぐの人と損得のない会話は出来ない。悪いけどここは雛罌粟さんに任せる。
「そう。私がやってた頃は若い子なんてまったく来なかったから、珍しいわね」
あ、そうか。あの店元は雛罌粟さんの親のものだって、前にどこかで聞いたな。
それにしてもやっぱり落ち着かないな。初めての環境に初めて会う人。慣れるにはどうしても時間がかかる。
悪い人だとは思わないよ?けどそれでも色々警戒しちゃうのよ。そこはもう癖だから。
そうこう話していると、僅かに見える窓の向こうの北の方から誰かが自転車でやって来た。
それからしばらくして、この家の扉がガラッと開いた音がする。
「ただいま〜」
玄関から女子の声が聞こえてきた。
「あ、
龗さんは立ち上がると玄関に向かった。さて、雛罌粟さん曰く、僕とはあんまり相性が良くないらしいけど、どんな人だろう?
「私達も行こうか」
「え?………あ、はい」
僕と雛罌粟さんは龗さんの後に続いて玄関に向かう。
するとそこにいたのは僕と同い年に見える少女だった。本当に妹さん高校生なんだな。
う〜ん、人を見た目で判断するのが悪いのは知ってる。それでも言わせてもらうのなら、たしかに相性がいいとは言えないな。
服装からぜひとも印象を与えていきたいところなんだが、僕の乏しいファッション用語では無理がある。
まぁ一言で言うならザ・今時の女子高生って感じのファッションだった。
割と派手めの服装に、何かよく分からんブレスレットみたいのしてる。そして大きめのバックを持っていた。
背は割と低めかな。東風と同じくらいだ。サイドテールの髪型から割と活発そうな印象を受ける。
「この子が私の妹の雛罌粟
「はぁ」
雛罌粟さんが後ろでコソッと紹介してくれた。
「お帰りなさい、遅かったわね」
「ん、友達と遊んでたから」
返された返事は何ともそっけない。今時の女子高生って基本的にはこんな感じなのかな?
その女子高生、もとい分さんは後からやってきた僕達に気がついた。
「あ、お姉ちゃん。帰ってたんだ」
「うん、三日までここにいるつもり」
「ふーん…………って、後ろにいるの誰?」
雛罌粟さんを流れるように見ると、次に僕のことを訝しんで見てきた。まぁそうなるよな。
「はぁぁぁぁ───────────ッ⁉︎⁉︎お姉ちゃんと一緒に三日までここに泊まる⁉︎」
色々説明するべくダイニングに戻った僕達は、分さんに事情を説明した。
その結果がこの素っ頓狂な声である。
「何それ⁉︎そんなの聞いてないんだけど‼︎」
「仕方ないじゃない。連絡来たので今朝だったし、昼ごはんの時に話そうとしたら、
「だからって相談も無しに人泊めるって、いいわけないじゃん‼︎」
分さんは必死の形相で言ってきた。
どうやら龗さんが分さんに僕が泊まる事を伝えていなかったみたいだ。
原因は雛罌粟さんが僕に行くかどうか聞くのを、ずっと先延ばしにしていたせいらしい。
雛罌粟さんが今朝僕が行くのを伝えたらしいが、龗さんがそれを分さんに伝えていなかったんだと。
「何で正月に赤の他人を家に泊めないといけないのよ‼︎」
「コラ!本人がいる前で失礼でしょ」
分さんの発言を龗さんが嗜める。声の感じから結構勝気な性格なのかなってのは分かった。
「というか、えっと………竜胆、だっけ?アンタウチに来させていいの?そっちでやる事無いの?」
「無いですし、そもそも僕はあなたのお母さんに呼ばれて来たんですが」
どうやらその辺も伝わってなかったみたいだ。
「お母さんが呼んだの⁉︎」
「だって夏休みの時に聞いて気になったんだもん。罔象と仲良くしてくれてるなら、招いてあげたいじゃない」
今僕の目の前でそれなりにうるさい親子喧嘩が繰り広げられている。というわけでこれ以上耐えるのは無理。耳栓使おうっと。
僕はこっそり耳栓を取り出すと、手早くつけた。ふぅ、落ち着いたぁ。
『大体!コイツ何なの⁉︎』
『だから言ったでしょ、罔象のお友達』
一応読唇術で内容は分かっているが、初対面でコイツかよ。まぁいいんだけどさ。
でもこれに関しては分さんの方が正しいんだよな。いきなり来て泊まるなんて言われたら、そりゃびっくりするって。
『さっきから話してたけど、悪い子じゃないみたいだし。三日くらいならいいと思うんだけど』
『そういう問題じゃないの‼︎しかもよりによって男って………』
分さんが僕の事を嫌そうに見てくる。女三人の中に僕だけ男一人。そんなの僕だって居心地いいかって言われたら違う。
『ちゃんと話せなかったのは悪かったわ………でも、せっかく罔象が連れて来たんだし、いいでしょ?』
『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ‼︎………わ、分かったよ!本当に泊めて大丈夫なのね?』
何で僕こんなに警戒されてるの?とは思わない。むしろここで折れるあたり甘い子とも言える。僕なら秒で追い出してるな。
『大丈夫。ちょっと変わった子だけど、悪い子じゃないから』
雛罌粟さん、そこはせめて良い子って言って。また警戒されるから。
『はぁ………というかお姉ちゃんの友達って言ってたけど、アンタいくつ?お姉ちゃんと同い年………には見えないんだけど』
「えっと………今17です」
一瞬自分の年齢がパッと出てこなかった。この歳になってくると、割とどうでも良くなるんだよね。
『17って、アタシとタメじゃん⁉︎』
『あら、高校生だったの?』
あれ?この情報伝わってないの?僕は不思議に思って雛罌粟さんの方を見た。
すると雛罌粟さんは僕の考えを察したように肩をすくめた。
『君が嫌がると思って、来てから言うつもりだったから』
あぁなるほど。たしかによく分からない人に僕の情報が流れてるのは、あんまり気持ちのいい事じゃないからな。
その辺を考えてくれたのはありがたい。
『お姉ちゃん、高校生の男子と友達って事に特に抵抗とか無いの?』
『え?あー………あんまり無い、かな』
そりゃそうだ。実際はもっと変な関係なわけだし、僕はこの関係に抵抗はない。距離感による戸惑いはあるけど。
『えぇ〜、何でそんなヤツと友達になったの?』
『えっと…………まぁ、色々あったのよ』
さすがに本当の事を言うわけにはいかない。別に悪い事をしてるわけじゃないけど、それとこれとは別だ。それに上手く表現出来ないし。
すると分さんが睨みながら僕に近づいてくる。
『ちょっとアンタ、何の目的でお姉ちゃんに近づいたの』
「生憎、それがはっきりと言えたら友達になった理由も明確に説明出来てますよ」
それが難しいからボカしたんだろ。
というか、こう言ったらすごい失礼だけど、雛罌粟さんに友好関係以外に近づいてもメリット無くない?
『は?言っとくけど、もし変な目的で近づいてんなら………』
『ちょっと
さすがに龗さんに怒られた。敵意があるのは素晴らしいけどほどほどにね。
「とにかく、竜胆君は三日まで泊まっていくから。そこだけ了承しといて」
『そんな無茶苦茶な………………はぁ、お姉ちゃんがそう言うならいいけど』
そう言いながらも分さんは僕の事をキッと睨んでくる。警戒するのは分かるけど露骨だなぁ。
『というわけでこの辺で解散しよう。竜胆君ちょっとこっち来て』
手早く話を終わらせると、雛罌粟さんは僕を連れてダイニングを出て行った。
二階に上がって僕の部屋とは真逆の方向に曲がる。そこからすぐの部屋に入っていった。
『入って、ここ私の部屋だから』
そういう事ね。僕は雛罌粟さんの部屋に入っていく。ついでに耳栓も外した。
基本的に使われなくなった部屋だからか、特にこれといった飾りもなくタンスとベッドと机が置いてあるくらいだ。
雛罌粟さんはベッドに座ると小さくため息を吐く。
「分が失礼な事ばっか言ってごめんね」
「いえ。むしろあの状況じゃあれが正常な反応ですよ」
あの場で『そう、よろしく〜』となった方が僕としては驚いていた。それは頭お花畑だ。
「知らない人間を警戒する。すごい立派な事だと思いますよ。まぁ露骨すぎだとは思いましたけど」
「そう言ってくれると助かるよ。
「たしかに僕とはあんまり相性は良くないですね」
あぁいうのはちょっと苦手かな。僕のやりたい事の阻害になる。でも今のところ対処しようとは思わない。
「前は無邪気だったんだけどね。いつの頃からかあんまり心開かなくなっちゃって。友達と遊んでばっかり」
「別にそこまで心配することでは無いでしょう」
この歳くらいなら珍しい事じゃない。そんなもんだって。
「それは分かってるけど………今日みたいに遅くまで出かける事も増えてね。何か悪い方に進んでるような」
「え⁉︎」
「ん?どうかした?」
「あ、いえ………何でもないです」
僕は咄嗟に叫んだ事を誤魔化した。まぁよその家の事だからあんまり言わないけど………そうか。
最後まで読んでいただきありがとうございました。