※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第90話 ありふれた

「さてと、明日からどうする?」

「そうですねぇ………特に考えてませんよ」

 僕は雛罌粟さんの部屋で雛罌粟さんと話していた。

 そういえばここに行くとは決めたものの、そこで何をするのかとかはあんまり考えてなかったな。

「どうせならこの辺り散歩しない?まぁ楽しめるような施設とかは無いけど」

 散歩かぁ…………今日は外寒かったけど、たぶん明日も寒いよな。あんまり出歩きたくない。

 でも来たことのない場所だ。色々と気になるところはあるんだよな。

「明日の気分では、そうしますか」

「気分ねぇ………分かった。そうしよっか」

 そんな会話をしながら、僕達はベッドの上で腰を下ろしてのんびりとしていた。

 来たことのない所でそれなりに警戒心はあるけど、こうやって雛罌粟さんといると自然になれる。

 何かしてなくても、近くにいるだけで落ち着いた気分になる。

 

 

 

 その時雛罌粟さんが僕のことを見ているのに気がついた。

「? 何ですか?」

「ん?そういえばこうやって竜胆君と寛ぐの初めてかもなぁって」

「あぁ、ですね」

 雛罌粟さんとはこんな関係になってからはいつも会っている。それでも一緒にいる時の形はほとんど決まっていた。

 夜中にお店に行って、カウンターか雛罌粟さんの部屋でコーヒーを飲む。僕の一番落ち着いて寛げる時間だ。

 でも今はちょっと違うような感じがする。場所が違うというのもあるけど、それ以上に僕達の雰囲気が原因だろう。

 いつもは近いような遠いような、よく分からない感覚だった。もちろん僕はそんな距離感が好きだったし、僕達にはちょうどいいと思ってる。

 でも今はちょっとした開放感に似たようなものを感じている。

 それがどこか新鮮で、それを自覚するとちょっと困惑する。

 少なくとも僕にはまだ早いように感じた。息苦しくはないけど、ソワソワしてしまう。

 隣にいる彼女は、僕が今隣にいていいような女性なのか?僕はこんな所にいれる存在なのか?そんな事ばっかり考えてしまう。

 いつもは隣にいても、どこか身を寄せ合っているように感じる。でも今は僕が一方的に寄りかかっているような感覚だ。

 すると僕は自分の右手が、柔らかくて暖かいものに包まれたような感覚に気がついた。

 

 

 隣を見ると、雛罌粟さんが僕の手を握っていた。自然と僕達の距離が縮む。

 

 

「え?………雛罌粟さん?」

 僕はいきなりの事で驚いてしまった。雛罌粟さんは僕の方を僅かに振り向いている。顔が少し赤い。

「ダメ、かな?」

「い、いえ………別に、いいです、けど………」

「ありがとう」

 雛罌粟さんはそう言うと、僕の手を握る力を僅かに強めた。心地よい感触と熱がじんわりと伝わってくる。

 その熱は僕の手からゆっくりと顔に集まってきた。やっぱりいつまで経っても慣れないなぁ。

「ど、どうかしたんですか?」

「ん〜何となく、かな。せっかくだし」

「何ですかそれ?」

 せっかく、で人の手握るのかよ。まぁ嬉しいから別にいいけど。

「竜胆君の手、あったかいなぁ」

「雛罌粟さんだって」

「そう?」

 なんて、何の意味があるのか分からない会話をしながら、僕達は二人の時間を過ごした。

 何の生産性もない、ただ座っているだけの時間。無駄だなと思わなくもない。でも、それ以上に落ち着く時間だ。

 今流れている時間だけは、少なくとも平和なんだと感じる。何も起こらない当たり前に存在する時間だ。

 この時間がこれからもずっと積み重ならないかな、と思ってしまった。

 

 

 すると、雛罌粟さんが僕に身を寄せて、ポテっと僕の肩に頭を乗せてきた。

 

 

「ちょ、ひ、雛罌粟さん⁉︎」

 さすがにこれは焦った。いきなり距離が縮められて、雛罌粟さんのいい匂いがフワッと漂ってくる。

 その香りに僕はドキッとした。何してるんだよ⁉︎

「ごめんね。ちょっとだけだから………いい?」

 そう言う雛罌粟さんの表情は、どこか沈んでいるように見えた。

 それを見たら恥ずかしいなんて言えなかった。僕は体の力を抜いて受け入れる。

 

 

 

「あのさ………竜胆君から見て、お母さんと(くまり)ってどう思った?」

「は?………いや、どうと言われましても。まぁありふれた家族、ですかね」

 というか会ってからまだ数時間しか経っていない。そんな短時間でどう思うも何もない。

「ありふれた、か………」

 それっきり雛罌粟さんはしばらく黙ってしまった。僕はそれを黙って見ている。

 どこか微妙な表情をした雛罌粟さんは、歳上とは思えないほど儚く、まるで幼い子供のようだ。

 

 

 今雛罌粟さんは何を感じて、それにどう思っているのか。

 

 

 僕にはそれは分からないし、分かろうとも思わない。僕が知っても何の価値もないからな。

 いや、むしろ分かるべきじゃない。僕は人の気持ちを分かり合うべきじゃない。僕にそんな資格はない。

 

 

 

 それから数分後、雛罌粟さんはゆっくりと口を開いた。

「竜胆君は寄りかからないの?別にいいんだよ?」

「え⁉︎べ、別に、僕はいいですよ」

 さすがにすぐ近くに人がいる状況で、そうやってイチャつくのはちょっとな。

「そう………竜胆君はこういうのするの嫌?」

「嫌、というより………苦手です」

 これまで雛罌粟さん以外の人と付き合った事なんて無いし、まぁ今僕と雛罌粟さんが付き合ってるかどうかも怪しいんだけど。

 とにかく僕にとって雛罌粟さんと会う前に知り合ってたのは東風くらいだ。それも小学生の時に。

 だから女性に対して免疫無いんだよ。どうしていいか分からなくなる。

「これ以上の事………たまにしてるじゃん」

「それは………そうですけど。やっぱり慣れません」

 何というかそれとこれを一緒にしていいものかどうか迷うんだよな。それがある意味僕達の関係の特徴とも言えると思っている。

「そっか………それなら、さ…………」

 すると雛罌粟さんは身を乗り出して、僕の右腕に抱きついてきた。雛罌粟さんの顔が間近に来る。

 

 

「ちょっとずつ、慣れていこう?」

 

 

 ギリギリまで迫ってきた雛罌粟さんの顔は、赤く染まっていてどこか恍惚としている。大人っぽくて綺麗だなぁ。

「ひ、雛罌粟さんだって…顔、赤いですよ」

「ッ⁉︎ そ、それは……….私だって恥ずかしいし………」

「それなら、別に無理しなくても………」

 自分の中からドクドクと心臓の音が聞こえる。寒かったはずの体はもはや熱いほどだ。

「そうだけど………今はちょっと………こうしたい」

 そう言って雛罌粟さんは迫っていた顔をさらに近づけた。僕達の唇が今にも重なりそうになる。

 

 

 

 こんな感じでいいのかもしれない。僕はそう思った。

 雛罌粟さんとの距離が近くなるにつれて、頭がボーッと熱くなる。

 僕達の関係でこういう事をするのに、理由はいらない。正確に言えば理由を共有する必要はない。

 こうやって近づきたい時に近づいて、離れたい時は離れる。それでいいんだ。

 僕も雛罌粟さんが欲しい。一度そう思うと、それはどんどん増していく。

 そう思うとこの状況でのこれは恥ずかしいけど、するのは全然いいと思えて────

 

 

「罔象ー!夕ご飯の準備、ちょっと手伝ってー!」

 

 

「「ッ⁉︎」」

 一階から龗さんの声が聞こえてきた。その声により僕達はビクッと体を跳ねさせて、動きを止めた。

 お互いの顔が目の前にある。僕達はしばらくの間ジッと見つめ合っていた。

「あ…………」

「えっと……………」

 さっきまでの全然いいと思っていた気持ちが冷静になり、一気に吹き飛び恥ずかしくなる。

 よく考えたら今は二人きりというわけじゃないんだ!こういうのは抑えないと!

 雛罌粟さんも同じようで、握っていた手を離して僕から距離を取る。それが少し残念に感じてしまった。

 かぁっと顔が熱くなり、僕は目を逸らした。雛罌粟さんも同じタイミングで目を逸らす。

「罔象ー?寝てるの?」

「あ、起きてるよ。今行く!」

 雛罌粟さんは声を張って返事をすると、ベッドから立ち上がった。

「えっと………ごめん、私行くね」

「い、いえ………あ、夕ご飯の準備、何か手伝いますか?」

「ううん、先にお風呂入ってなよ」

 雛罌粟さんはそう言って部屋を出て行った。それを見届けると、僕は大きく息を吐いた。

「…………何やってるんだ僕は」

 一瞬でも雛罌粟さんにガッツこうとした自分を恥じる。落ち着いてないと、ただでさえ相手は大人なんだ。そういう子供っぽい事は抑えよう。

 僕はベッドから立ち上がると、お風呂に入るべく着替えを取りに行った。

 

 

 

「龗さん、お先にお風呂いただきますね」

「はーい。場所、向かってトイレの右ね」

 龗さんから許可をもらうと、僕は言われた通りトイレの右側を見た。たしかに少し離れたところに一つ部屋があった。ここかな?

 というか人の家のお風呂を使われてもらうのに慣れつつあるなぁ。まぁ雛罌粟さんの影響だけど。

 そんな事もあり僕はいつも通りに何気なく扉を開いた。

 

 

 すると目の前には下の下着以外何も着けていない(くまり)さんがいた。

 

 

 同い年の脱衣場面に出くわすという、あまりにも非現実的な状況に僕は完全に動きを止めてしまった。それは分さんも同じようだ。

 さっきまで結んでいた髪は完全に解かれていて、肩の辺りまで伸びている。

 傷一つない肌は白く、ハリがあるのが見るだけで分かる。

 胸はまだ成長途中のようだったが、それでも全体的に見ればスタイルは抜群だと思う。隠されていない胸にはちょこんと小さく赤い突起が。

 健康的な肢体は惜しげもなく晒されていて、猫科の獣を連想させるようなしなやかさがあった。

 唯一身につけている下着は白くて、軽くリボンのようなものがあしらわれている。

 状況はしっかりと頭に入ってくるのに、体がそれに反応出来ていない。

 それからたっぷり数秒後、分さんは顔を引き攣らせた。

 

 

「ッッッ⁉︎⁉︎きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ‼︎‼︎」

 

 

 とても一般の民家からは発せられないような絶叫が放たれた。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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