翌朝、僕は起きるとちゃっちゃと着替えて部屋を出た。昨日は遅くまで実況者の新年ライブ観てたからな、ちょい眠い。
階段を降りようとしたところで雛罌粟さんと出くわした。うーん、いつも違って違和感しかない。
「あ、竜胆君おはよう」
「おはようございます」
昨日は色々あってお風呂の後すぐにご飯で、食べ終わったら部屋に引きこもってたからな。夜に会っていなかった。
「お母さんが朝ご飯もうすぐできるって。行こう………まぁ、君の事だから気まずいかもしれないけど」
「………は、はい」
よく分かっていらっしゃる。けど朝ご飯は食べたいし、行くか。
僕は雛罌粟さんと一緒に一階に降りた。
「………………」
僕は雛罌粟さん一家とお雑煮を食べていた。お雑煮食べるのすごい久しぶり。自分じゃ作らないからな。
中には里芋や鶏肉、かまぼこに大きなお餅と、具沢山で食べ応えがある。
それにしてもまさか僕が人の家族とご飯を食べることになるとは。
雛罌粟さんの家族と食卓を囲みながら、僕はそんなことを考えていた。
それで分かったが、僕はいわゆる暖家族の団らんというのがちょっと苦手だ。
けど本来は暖かくて良いもののはず。
ただ………
「む────」
理由はもう分かるだろう。昨日のお風呂での事件だ。
間違えて分さんの裸を見てしまった僕は、それはそれはエライ目に遭った。
大絶叫をかました分さんは、とりあえず手当たり次第に近くにあったものを投げてきた。
僕はそれを全部避けながら誠心誠意(避けながら僕なりに)謝ったのだが、元々敵愾心のあった僕を当然そんなことで許してくれるわけがなくて。
睨んでくるだけになっただけマシなんだよ。昨日はもっと酷かった。罵詈雑言の嵐よ。唾でも吐きそうな勢い。こうして僕は分さんに『覗き魔』として認識されてしまった。
もちろん完全に悪いのは僕なので、そこを弁解するつもりはないし、何言われたところでヘコたれるわけないんだけどね。
それ以上に分さんの裸を見てしまったという事実が苦しい。すごい悪い事しちゃったなぁ。
それでも昨日の事を思い出すと、顔が熱くなってしまうというのが尚のこと申し訳ない。
そんなわけでさっきからずっと分さんに睨まれっぱなし。別にそれ自体はどうって事ないんだけど、やった事がやった事なので罪悪感がすごい。
「
分さんの隣でお雑煮を食べている龗さんが言った。
「嫌。あんな事されて許せるわけないでしょ」
もう、本当に悪かったから!勘弁して欲しい。
「大体、一時的とはいえ女子と一緒に暮らしてるんだから、それくらい注意しなさいよ」
「すみませんね、何ぶん一人暮らしなもので」
長い間一人暮らしだったし、そういう配慮は麻痺してたな。
「それ言ったら
「それは………そうだけど………でもせめてノックぐらいしてよ。最低限マナーでしょ」
正論過ぎる。ただそういうの苦手なんよ。
「ごちそうさま。それじゃあ私部屋で友達と電話してるから、入るなら
分さんは僕にそう言って部屋に戻っていった。はぁ、今日はちゃんと気をつけよう。
そんなこんなで朝ご飯を終えて僕は部屋に戻った。何か無駄に疲れたな。
すると部屋の扉がノックされた。
「竜胆君、私だけど入っていい?」
あ、雛罌粟さんだ。
「いいですよ」
扉が開いて雛罌粟さんが入ってくる。どうかしたのかな?
「竜胆君さ、結局今日はどうするの?」
「え?………あぁ、そうですね」
そういえば昨日そんなこと話してたっけ。すっかり忘れてたわ。
「特にこれといってやる事はありませんね」
「それなら昨日言った散歩、行ってみる?外も昨日に比べたら暖かいし」
まぁ言うてもそんなに変わらないけどな。でも一日中ここにいても暇だな。
「そうですね。それじゃあ行きますか」
「うん!準備してくるから待っててね!」
そう言って雛罌粟さんは部屋を出て行った。やけにテンション高いなぁ。
さてと、それなら僕も準備するか。といってもすぐだけど。
僕は手早く準備を終わらせて玄関の前で待っていた。
「竜胆君、お待たせ」
しばらくして雛罌粟さんが降りてきた。
紺色のコートにロングスカート、タイツにヒールを身につけて、マフラーと手袋をしている。手には小さなバッグが握られていた。
おぉ、大人っぽい雰囲気もあって綺麗だなぁ。雛罌粟さんって結構色んなもの似合うのね。
「えっと………昨日お母さんのお下がりで貰ったんだけど………どうかな?」
「え?あ、うん………ちょっと、そう言われると、コメントに困るんですが」
生憎こういう時女性を喜ばせるような気の利いた言葉なんか言えない。というか恥ずかしいわ。
「素直な感想ありがとう。というか………こう言ったら失礼かもしれないけど、君が冬場で外出の時にパーカー以外着てるの初めて見たよ」
「あぁ、そうかもですね」
僕は自分の格好を見下ろして頷いた。
たしかに僕はいつも雛罌粟さんと会う時は、パーカーにスタジャンだからな。
でも今の僕はトレンチコートにジーパン、クラッシュハットに手袋とマフラーという格好だ。
「あれ部屋着なんですけど、いつもギリギリまでゲームしたいから着替えの時間も最小限にしてるんですよ」
いつもパーカーでいて、出かける時にスタジャンを着ればいい。ただそれだと前から来る風に首が晒されるんだよ。
その点これならちょっと時間はかかるけど、ちゃんと防御出来る。こういう時のための服装だ。
「で、散歩とは言ってましたけど、行きたいところとかあるんですか?」
「ん〜、無いかな。強いて言うなら初詣」
「昨日東風と行きましたが………いいですね。他の初詣も見てみたいですし」
何か違いが無いかとかちょっと気になるわ。それに正月過ぎたなら人も少ないだろうし。悪くないな。
「よし、決まりだね。それじゃあ行こうか!」
「はい」
こうして僕達はお散歩に出かけた。
「はい、大判焼き二つね」
「ありがとうございます」
僕は目の前のおじさんから大判焼きを受け取ると、一つを雛罌粟さんに渡した。
それから自分の分の大判焼きを頬張る。おぉ、熱くて甘くて美味しい‼︎ちなみに僕はここで敢えてクリームをチョイスした。
「どう?私の好きなお店なんだけど」
「美味しいです!この冬場にはありがたいですよ」
「だよねぇ。私も昔この時期はよく食べてたんだ」
そんな会話をしながら、僕達は大判焼きを食べている。
僕と雛罌粟さんが出かけてから数分。僕達は南へと進んでいた。
おやつの時間という事で、雛罌粟さんが大好きな大判焼きのお店があると言われてついて行って今に至る。
「うーん、思ったより人いるんだね」
「たしかに、もうちょっと少ないかと思ってました」
「まぁ帰省時期だしね。地元に帰って出かけるってのもよくあることでしょ。まぁ私もその一人だけど」
近くの塀にもたれながら、僕と雛罌粟さんは話していた。
三ヶ日だから田舎町は人通りは少ないかと思っていたが、そうでもなかったな。それなりに人が出歩いている。
「竜胆君人混みに入っても大丈夫?」
「たぶん大丈夫、ですかね。一応耳栓も持ってますし」
僕はポケットの中の耳栓を見せた。念のため持ってきてある。
「そっか、それならそろそろ行こうか」
「はい」
僕は大判焼きのゴミを片付けると、目指していた方へと歩き始めた。その時強く風が吹いた。
「うぅ……」
「寒い?」
「まぁ」
僕は少し震えながら答えた。思った以上に寒いんだけど、どうしよう。
そう思った時
ぎゅっ
雛罌粟さんが僕の手を握ってきた。手袋越しでも感じる雛罌粟さんの熱にドキッとする。
「それならさ、これなら暖かいでしょ?………いい?」
「………は、はい」
僕も軽く手を握り返した。周りに人がいる中でこういうのをやるのはどうかと思わなくもないけど、かと言って離すのももったいない。
僕達は手を繋いだまま街を歩いた。ヤバい、花火大会の時も思ったけどめちゃくちゃ恥ずかしい!
よく見れば人は多いものの、こうやって手を繋いでいる人達というのは結構少ない。目立たないかな?
何か若干周りから見られているような気もするし、大丈夫か?
ふと隣を見てみると、雛罌粟さんとバッチリ目が合った。それが手を握っている事を意識させて、余計に恥ずかしくなる。
すると雛罌粟さんが僕の方を見ながら、何かに気がついたようにハッとする。
「あ!………竜胆君、ちょっといい?」
「え?あ、はい」
言葉の意図を察して、僕は繋いでいた手を離した。
雛罌粟さんは繋いでいた手の手袋を外すと、その手を僕の口元に伸ばしてきた。グイッと雛罌粟さんの顔が目の前まで近づく。
雛罌粟さんの細い指が僕の唇を撫でた。それと同時に何か拭われたような感触を感じる。
僕はその様子をただ呆然と見ていた。
「はい、大判焼きのクリームついてたよ?」
そう言って雛罌粟さんは指についたクリームをペロッと舐めた。その姿はどこか艶やかに見える。
「ん?どうかした?顔赤いよ?」
「え⁉︎あ、だ、大丈夫です!ありがとうございました!」
僕は咄嗟に目を逸らした。我ながら何考えてるんだ!とりあえず一旦落ち着こう。
そう思った矢先に手袋をつけ直した雛罌粟さんが、再び僕の手を握ってきた。心音は高まるばかりだ。
「それじゃあ改めて行こうか」
「は、はい………」
何か昨日から雛罌粟さん、やけに積極的だなぁ。
そう思った時だった。
「あれ?罔象じゃない?」
後ろから雛罌粟さんを呼ぶ声が聞こえて、僕は反射的に振り返った。
そこにいたのは二人の女性。雛罌粟さんと同い年くらいだろうか?一人は明るそうな雰囲気の女性で、もう一人はおっとりとした雰囲気の女性だった。
見た事のない人の登場に、僕は反射的に腰を落として雛罌粟さんから離れる。
「
雛罌粟さんはその二人の女性に驚いていた。あぁ、知り合いね。見た感じ学校の同級生とか?
「奇遇じゃない!実家に帰ってたの?」
「うん、二人もそんな感じ?」
「そうなの。昨日は家で過ごして、今日二人で神社に行こうとしてたのよ」
「そうなんだ。それにしても久しぶりね!成人式以来?」
「それならさ、罔象も今から一緒に初詣行かない?この方向歩いてるってことは目的は初詣でしょ?」
げっ、マジかよ。僕は顔を引き攣らせた。ここで人増えるの?
「え?あー………どうしよう、かな………」
すると雛罌粟さんは困ったようにして僕を見た。あ、もしかして僕に気遣ってくれてる?
「ん?どうかしたの………って、その人誰?もしかして罔象の彼氏⁉︎」
女性のターゲットが雛罌粟さんから僕に変わった。
あ、ヤバい。今猛烈にこの場から逃げ出したいわ。面倒なことになってきた。
その時、雛罌粟さんが友達二人に『ちょっとごめん』と言って、僕の方に近づくと、小声で囁いた。
『どうする竜胆君?』
もちろんすぐ逃げたい。でもせっかくの友達との再会なんだ。雛罌粟さんにはちゃんと楽しんで欲しい。かと言って僕は逃げたい。それなら………
『さっきも言いましたが、僕は昨日初詣に行ってるので、雛罌粟さんがお二人と行ってください』
『でも………』
『大丈夫ですよ。明日の朝もあるんですから、今日はお友達と過ごしてください。龗さんには僕から言っておきますから』
『………うん、分かった。ごめんね、勝手に連れ回しちゃったのに………』
『いいんですよ。僕人と群れるの嫌いなんで、先に帰ってますよ』
『そう。でも気をつけてね』
『別に一人でもちゃんと帰れますよ』
『じゃなくて
『あ………はい』
『ごめんね。悪い子じゃないから、仲良くしてあげて』
そうね、その忠告はありがたく受け取っとくか。
僕は雛罌粟さんと話を切り上げると、その場から離れていった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。r18の描写が無い割には、ちょっと長かったですかね?
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