「ただいま〜」
夕方になって私は家に着くと、そのまま台所に直行した。ウチは玄関から台所まで、廊下で一直線だ。するとそこにはお母さんが寛いでいた。
「あら罔象、おかえり。遅かったわね」
「うん。あ、これ冷蔵庫にしまっておくね」
そう言って私は手に持っていた袋を見せた。
「何それ?」
「缶のお酒。友達が貰ったものらしいんだけど、多すぎるからって。今日にでも飲んじゃうよ」
そう言って私は缶のお酒を冷蔵庫にしまった。お酒飲むなんて久しぶり。
「あ、そういえば竜胆君は?途中で帰っちゃったんだけど、何事も無かった?」
主に
あの後竜胆君と別れた私は、通草と藹と一緒に初詣に行った。
その後に藹の家に行こうという話になり、私達はそこでお昼ごはんを済ませた。
ちゃんと家に連絡はしたよ。何か上機嫌な
「さぁ?私もさっきまで出かけていたのよ」
って事はお昼の間、竜胆君は分と二人きりだったわけだ。本当に大丈夫?
「でも、何も無かった、ってわけじゃなさそうよ」
そう言ってお母さんはリビングの方を指差した。うわぁ、嫌な予感しかない。
私は恐る恐るリビングの方に向かった。喧嘩とかしてないよね?私はそっとリビングに顔を覗かせる。
「……………は?」
私はあまりの予想外過ぎる光景に思わず呆けてしまった。え?どういう状況?私目おかしくなった?
私の目の前ではこたつに入った
二、三ヶ所ツッコみたい事がポンポンと浮かんでくる。わけが分からない。
「あ、雛罌粟さん。おかえりなさい」
「お姉ちゃん、おかえり〜」
私に気がついた二人がこっちに顔を向けてきた。
「え?………あ、うん。えっと………二人は、何してるの?」
「勉強」
私の質問に分が手短に答えた。どうやら見間違いでは無いようだ。
私は急いで引っ込むと台所にいるお母さんに詰め寄った。
「どういう事⁉︎」
「知らないわよ。あと近い」
竜胆君を帰した時点で何か起きてるかもとは思っていた。けどこれは予想外過ぎる!
二人が仲良くしてるのも充分変なんだけど、それ以上に
「私が帰った時にはあの状況だったの。私達がいない間に何かあったのね。
「何かって………」
一体何があったら、昨日までギスギスしていた二人が一緒に勉強するようになるのよ。
あの二人の様子は仕方なくというより、望んでやっているように見える。
「やっぱり同年代だと話が合うのかしらね」
「いや、それは関係無いと思うよ」
竜胆君がそんな理由で人と仲良く出来るとは思えない。きっと何か
お父さんのことがあってから塞ぎ込んじゃって、私にもどこか触れにくいところがあった。そこを遠慮なく突いた、とかそんなところでしょ。
「でもね、さっきから話聞いてる感じ、分が勉強してたのって今日からってわけじゃなさそうなのよ。前から結構やってたみたい」
「そうなの?………って、そういう事か」
何となく流れが見えてきた。
きっと分と初めて会った時から気がついてたんだろうな。家族の気がつけない事に気がつくって、相変わらずの察しの良さだね。
「分も分なりにずっと頑張ってたのね。もっと早く気がついてあげれば良かったわ」
「そうだね」
私も私で色々あった時期で、分のことを気にしてあげられなかった。気にしてあげられる時には何か変わっちゃってたし。
私は再び勉強風景を覗き込んだ。竜胆君が分の勉強を見てあげているみたい。
「あれ?この数式の答え間違ってる?」
「ん?えっと………何だこの解き方?………ってそうか。色々な解き方混ざってる」
「ん?あぁ本当だ」
「難しいなら無理して色んな解き方覚えない方がいいぞ。計算力上げて馬鹿正直にやる方法もアリだ」
分は昨日まであれだけ突っかかっていた竜胆君の助言を、素直に受け入れている。打ち解けてるなぁ。
ただ一つ気になることがあるとすれば………
「それじゃあこれで………っと、どう?」
分は直した問題を竜胆君に見せていた。その時に分の体がずいっと隣にいる竜胆君に寄せられる。竜胆君の腕に分の胸が今にも触れそうだ。
何か二人、距離近くない?主に分が。
勉強を教えるから当たり前といえば当たり前だよ。でもそんなに近づく必要ある?
「おっ、いいんじゃないか。ちょっと休憩するか」
「そうね。あぁー疲れたぁ!」
すると
「ちょっ、何してるんだよ⁉︎」
これにはさすがに竜胆君は驚いていた。そりゃそうだよ、手繋ぐだけでも赤くなる子なんだもん。
「嫌?」
「嫌というか………恥ずかしいんだよ」
そう言う竜胆君は顔を赤くして、
「えぇ〜いいじゃん。というかアタシはアンタに裸見られてるんだけど。それで恥ずかしいって」
「それは悪かったからもう言うな!………もう」
そう言っても竜胆君は分を振り払う事は無かった。まんざらでもない………のかな?
「あ、お姉ちゃんどうかしたの?」
そこで分は私の事に気がついたようで、竜胆君にもたれたままこっちを見てきた。
竜胆君は最初から気がついていたようで苦笑いをしていた。
私は何と言うべきか困ってしまった。どうしよう。
「あ、あんまり竜胆君に迷惑かけないでよ。ベタベタしたら竜胆君が嫌がるでしょ」
「何で?お姉ちゃんだって、昨日竜胆と手繋いでベタベタしてたじゃん」
大きな声で真実を言われて私はドキッとした。
「ッ⁉︎ 何で知ってんのよ⁉︎」
「え?本当にしてたの?」
しまった!カマかけられた!
竜胆君は恥ずかしそうに手で顔を覆っている。よく考えたら本当に知れる範囲にいたら、竜胆君が気がついてるか。
嫌な予感がして後ろを振り向くと、お母さんが呆れたように私を見てくる。
「そんな関係かとは思ってたけど。罔象、別にそういう事するなとは言わないけどほどほどにね」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ‼︎」
私は恥ずかしさに耐えられずにその場に蹲った。竜胆君の顔が耳の先まで真っ赤なのが分かる。
「よしっ!それじゃあ勉強再開しよう?」
「まだやるのか?午後ずっとやってるじゃん。もういいだろ」
え?そんなに勉強してたの?というかそんな長い時間一緒にいたんだ………。
「そう?それじゃあ………」
分はこたつを出ると、竜胆君とこたつの間に割り込んで、彼の足の間に座った。
「このまま………ゆっくりしてよっかな」
さっきよりはちょっと躊躇いがちだったが、分が竜胆君の方を向いた。
「ちょ、
竜胆君はあたふたしながら慌てている。
あ………呼び方呼び捨てになってる。それによく聞いてたら敬語だったのがタメ口になってるし。
「ほら、あったかいから抱き枕にちょうどいいよ?上半身冷えるでしょ?」
「あのなぁ………はぁ、もういいよ」
竜胆君は口では嫌そうに言っても、もう諦めたのか何も言わずにスマホをイジり始めた。
体勢的には竜胆君が分を抱きしめているようにも見える。
分は傍から何か言うことなく、その様子を観ている。恥ずかしそうに顔を赤くしながらも、私の方を見て舌をペロッと出した。
ぐぬぬ………。私はその光景を何とも言えない表情で見ていた。
どうやら分は竜胆君と仲良くなれたらしい。でも………仲良くなりすぎ!何で数時間であんなになるのよ!
たぶん竜胆君にとっては東風ちゃんと同じような感覚なんだろうけど………うぅ。
「はーい、ご飯できたよ〜」
台所から龗さんの声が聞こえてくる。
「竜胆、行こう」
「あぁ」
僕は足の間にいる分に応えると、こたつを抜け出した。
結局あの後
恥ずかしかったけど、おかげで身体はぬくぬくだ。何ならお風呂入る前ちょっと寝てたし。
口調とかは変わらないけど、午前までのトゲトゲした性格はどこへやら。色んな意味で距離が近くなった気がする。
僕に対しても素直になってくれたし、嫌とは言わないけど、恥ずかしい。ちょっとめんどくさくなったな。
でも、勉強面での変化は良かったな。コイツ割と飲み込みはいい。これまで出来なかったのは、単純にやり方の問題だろ。
食卓に着くと、雛罌粟さんと龗さんが夕ご飯の準備をしていた。僕達も手伝って席に座る。
『いただきます』
僕達は手を合わせると食事を始めた。ふぅ、やっぱりこの雰囲気は慣れないな。
「
龗さんが分に尋ねた。こういうのをはっきりと聞けるって、ある意味すごいな。
「うん。竜胆教えるの上手いから割と順調。学校の授業より分かりやすいし」
「あんまりそう言うな。学校の授業は色々縛りが多いんだから」
限られた教えられる時間で、大勢の生徒に教科書に沿った内容を教えないといけない。
さらに意味の分からないお気持ちだけのルールなんかもあり面倒なのだ。それと相性悪かったら終わりよ。
別にそれは全て教師達が決めたことじゃない。本当はもっといい方法知ってる人もいるだろうに。
そんなことを話しながら僕達は食事をしていた。その間、僕はずっと雛罌粟さんの目線を感じていた。
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