すずか様もアリサも取り下げていくごとに魅力的な部分を再発見する気がします。
「はぁーっ、疲れた。こういう外行きの格好するのも楽じゃなのよね……」
「似合ってるのは間違いないよ。アリサには赤を主体にした色が本当に合ってるって俺は思う」
「すずかが青系統が多いから、対比させる意味合いもあるのよね。分かりやすく、静と動をイメージさせるわけ。実際、今の私達はどちらの役割もやってのけるわけだけど」
「確かに、今日のすずかも青と紫が混じる色合いだな」
会食が終わりに近づき、自由に歓談する時間。テラスに二人、大翔とアリサの姿があった。月村家主催のパーティーであるため、すずかの両親や忍も出席しているため、腕利きの警護人や恭也が護衛につき、かつ、すずかにもフェイトが張り付いている状況だった。フェイトの格好はノエル達のようなメイド服ではなく、大翔に合わせるように執事服を着用しているのだが、ちょっとした男装になっていて、他家のお嬢様方に囲まれたりして、現在進行形で対応に苦慮している様子である。
ちなみにノエルやファリンはパーティー全体の取り仕切りに多忙を極めているため、護衛業務からは外れている。
「フェイトはなんで、あの格好にしたんだろうか。バイト代出すから手伝ってくれって言ったら、快く引き受けてくれたものの……メイド服だと動きにくいからか? 目立つって言ったんだけどなぁ」
「一緒の格好がいいのよ、『お兄ちゃん』と」
「一緒の格好? お揃いにしてどうするんだか……それにもう、フェイトも俺をお兄ちゃんとは呼ばないよ、アリサ」
「え? あら……ふーん、そっか。なるほどね、そうなの。フェイトも頑張ってるわけか」
一瞬だけ意外そうな表情をしたアリサだが、すぐに顔付きを引き締まったものに戻す。何に引っかかったのか、と大翔は想いを巡らせるが、勘のいい彼女なりに思うところがあったのかもしれない、と考えを打ち切る。パーティーはまだ終わってはおらず、アリサはほんの一息休憩を入れるために、抜け出してきたに過ぎない。思考は周りへの警戒に多く割り振るべきだ、と大翔は警護の本分に戻っていく。
「しっかし、表情は笑顔を浮かべているものの、ちょっと聴覚の感度を強めれば、陰口だらけ。嫌になって来るわね、いつものことだけど」
短めに、肩にかかるかかからない程度に切り揃えられている、アリサの向日葵を思わせる髪が、ふわりふわりと彼女の首振りに合わせて、揺れていた。身体強化の術式の応用で、こっそり彼女は聴力を高めていたのだ。
「無理、していないか?」
「無理なんてしてないわよ。企業家の娘って、古い名家の人達からは『一代の成り上がりが』なんて陰口を叩かれやすい立場だから、分かった上で行動するだけだもの。あのお嬢様方からすれば、すずかと会場内で共に行動しているのも、不相応に映るんでしょうよ」
アリサの家は実際には既に二代目。アリサが継げば三代目になる。ただ、名家と呼ばれるような人たちは、何百年と続く家系だから、百年程度では歴史があるなどと認めもしないのだろうな、と大翔にも想像は出来た。
「ただ、私の目的のためには、顔は幅広く売っておくに限るし、味方は多いほうがやりやすいから、こういうパーティーとか、大きな集まりには必ず顔を出すようにしているの。バニングスと月村の蜜月は健在なりってね」
「アリサ……」
テラスの縁に寄り掛かりながら、アリサはふぅーっと長い息を一つ吐いた。畏まった場に慣れ、自制を訓練によって身に着けた彼女は高校一年ながらも、堂々たる淑女の振る舞いを見せていた。だが、元来の気質は直情型であるため、自分の感情を長時間連続して抑え続けるという行為は、彼女の体力と精神を普段以上に消耗させていく。
「すずかは一族の兼ね合いもあって、結構古い家だからね。優良企業の娘というよりも、そういう何代も続く家としての、面倒なしがらみが多いわ。だから、大翔への風当たりも強くて嫌な思いをさせるけど、私達の護衛役として、常に顔を出してもらってるわけ。彼は月村家とバニングス両家が後押ししている男性ですよ、ってね」
「敵意の篭った視線には慣れた、というか、分かり易く出してくれる方が対処しやすいよ。隠れて影で動かれると、俺にはお手上げだ」
「その辺りは、私やすずかの仕事よ。裏の駆け引きは、パパもおじ様もサポートしてくれるから、大翔は堂々と振舞ってくれればいい。アンタが敵視を集めてくれるお陰で、これでもアタシへの嫌がらせって、減ってるのよ。私やすずかが動きやすくなっているんだから、感謝してるわ」
「俺相手だと遠慮なく、下賤の者がすずかに近づくな寄るな触れるな話しかけるな、ぐらいは言ってくるのはいいんだけど……すずかが目線で相手を威圧するのを止めるのに必死だよ。顔は静かに微笑んだままなのに、ひっそりと一族の力も使うから、相手のおぼっちゃまやお嬢様が震えあがってしまうし」
「すずかも、普段は完全な猫かぶりというか……好悪の感情を微笑みで覆い隠すのが上手だものね。血のことがあるから、誰にも当たり触りの無い態度を取るんだろうけど、裏を返せば、大翔以外どうでもいいと言うことだから、大翔に敵意を見せる相手には容赦しないのよね」
そんなすずかの秘めた攻撃性に中てられたお嬢様方の中に、マゾっ気が刺激された人達もいて、目聡く感づいたアリサがすずかと連携し、密かな味方を増やしているという事実もあるのだが、幸か不幸か大翔の知ることではなかった。
なお、そういうアリサ達のシンパになったお嬢様方は表立って動くことも無いし、普段は中立に徹しているが、大翔への印象は良い感情に変化している。と言おうか、心酔に近い。主人の主人という存在は偶像の域である、そういうことのようだ。
「すずかは相変わらず、大翔を家のことに巻き込みたくなくて、出来ればこういう場に出したくないみたいだけど、あの子以外は忍さんを筆頭にして、アンタにもっと積極的に表に出てもらうことを望んでる。大事な娘を心身とも護る騎士の役割を求めてね」
「すずかが役割を果たす以上、壁でも騎士でもやってのけるだけだろ。もちろん、それはアリサについても同じことだぞ、言っとくけど」
「ええ、大翔はあたしとすずかのパートナーなんだから、近くで私達を護ってもらわないとね。アンタがいてくれるから、あたしは負けないでいられる」
アリサとすずかは、好悪の感情はさておき、既に社交界で一目置かれる存在になってきていた。幼少期から優れていた美貌もさることながら、人に対してしっかり敬意を払う、人の陰口は口にしないといった……高貴な血筋、あるいは恵まれた立場にある者が行うべき言動をしているから、ということに尽きる。使い古された言葉で言えば『貴族の心得』とでも表現するところだろう。
もちろん、腹の中でも同じことを考えているかは別だが、一貫してそういう態度を取っているため、代々続く血筋ですずかは別格として、アリサにおいても、色眼鏡を外して判断できる者からすれば、評価は悪いものではなかった。
「アリサ?」
テラスの縁から身体を離し、アリサは大翔の背中へと寄りかかり、両手を彼の身体の前に回し、心臓の辺りに当てる。
彼女は、こうして大翔の背中に身を預けるのが、好きだった。すずかは彼の腕の中に抱き締められるのを好んでいるが、この向きだと温もりをしっかり感じつつも、彼を自分から一方的に抱き締めていられるというのが、なんとも気に入っていた。
「……アリサの夢というか、目的って、まだ明かせないものなのか?」
年を追うことに広くなり、たくましくなって行く背中に全て預けてしまいたい。そんな甘い衝動に駆られるのは、一度や二度ではない。この鼓動の安心感に甘えてしまえれば、いっそ。
実際に彼なら、すずかだけでなく、自分も一生護ってくれと願えば、恐らくは叶えてくれる相手であると分かっている。本気で望めば、二人まとめてミッドチルダに連れ去るぐらいはやってのけるだろう。家のしがらみごとぶち壊して、女としての幸せだけを追い求める道を示してくれると。
ただ、それはアリサの矜持が許さない。自分に課せられた責務を果たし、かつ、女としての幸せも勝ち取る。すずかが大翔に付き従い、後ろをしっかり固めるのならば、彼の前に立ち、向かってくる困難を切り開くのが自分のやるべきことと、アリサは随分前に自身でそう決めたのだ。
「具体化にやっと入った所だしね。賛同者を集めたり、素案を練り直したり、まだまだそんなレベルだもの。すずかにはもう話してはいるけれど、具体的な協力をお願いする所まで辿り着いていないから、とてもじゃないけど、アンタに言えるレベルじゃないわ」
だから、彼の背中で羽を休めることはあっても、アリサ・バニングスは諦めない。自分とすずかが堂々と、彼の伴侶と名乗れる未来を構築するまで、休むわけには行かない。
「アリサ、すずか、俺の三人とも大きなメリットがある大きな計画、かぁ」
「大学の受験シーズンに入る前には蹴りをつけるわ。楽しみに待ってなさい」
彼女本来の言葉遣いに戻り、安心できる温もりと匂いに包まれていると、擦り減っていた心の余裕が徐々に戻るのを感じるアリサだったが、ふと物足りなさを覚え始めていた。
(……あー、あたしもすずかのこと、とやかく言えないかも。心が落ち着いてきたと思ったら、『欲しいなぁ』ってどれだけ欲求不満なのよ……)
その『足りない』ものがどういうものかに思い当たり、自分の破廉恥さに呆れを覚えたものの、自覚してしまうと欲求は急激に膨らんでいく。
(人避けの結界張って、裾だけたくしあげたらいける……かな。ってあぁもう! 大翔にシてもらうの前提にしてるじゃない!)
ただ、やり方にたどり着いてしまえば、解放感がストレスの解消にも繋がり、心身の十足も得られ、肌艶も良くなり、好きな異性に満たしてもらう時間は、我慢し難いもので。
アリサの胸部に重ねていた手はするすると、下腹部へと下りていき、ズボンの上から大翔のモノを扱き始めて、唇は我慢が利かず、発情した自分を訴えていく。
挙げ句、自らドレスの裾をめくりあげ、目の前の男の理性を溶かしにかかる自分がいる。
「……ほら、大翔。じっくりと御覧なさいな? アンタが開花させた、大人の身体に日々近づくあたしの身体を……」
(は、恥ずかしいけど、ああ、身体どんどんスイッチ入っちゃうじゃない……)
「ア、アリサ」
大翔の眼の色が変わり、彼の怒張もズボンの中で張り詰めているのが見て取れたアリサは、自然とほくそ笑む。誘惑に戸惑いながらも、彼の身体と心は自分に引き付けられている。わずかに残る冷静な部分が、素早く術式を刻み、人除けの結界を発動させることも成功していた。
「熱っぽい視線で見られるの、悪くないわよ。ドレスの時はTバックだから。ふふ、身体が熱くなってきちゃう」
内心はどうであれ、表面上は挑発するような発言。貫かれれば、主導権はどうせ彼のものになるのだ。
期待している自分の下の唇から、だらしなく涎が垂れて、太ももに伝うのを感じながら、アリサはあえて情婦のごとく振る舞う。自分の身体と心が悦ぶ交わりを与えてくれると信じ抜く相手だから、安心してこうして誘うことだって出来てしまう。
「結界、張れたから……大翔、今はあたしだけを見て」
ふら、ふら、と。灯りに誘われる蝶みたい、とアリサは思う。年頃の男の子が、よくここまで自制するものだと感心もする。
すずかと大翔の関係性が変わったのに遅れて、自分もその関係に割り込んでから、結構な時間が経っているが、大翔からは手を出してこようとはしない。こちらがそれとなく促して、彼から求めるポーズを取ることはあるけれど、彼の欲情で求められたことは無い気がする。これは、彼と先んじて関係性を変えたすずかも同様であって、二人して密かに悩みの種でもある。
ただ、身体を重ねていれば、彼も気持ち良くなっているのは分かるため、義務感だけでも無いと感じられるのが救いだった。彼からも気兼ねなく求めてもらうようにするのも、アリサとすずかの課題の一つだった。
(未だに、あたし達は大翔を一時的な宿木にしていると、どこかで思っているんでしょうね。小学校の頃ならまだしも、高校生になって本気で思っていないヤツにこんな態度取れるわけがないじゃない……。私が身体と心を預けるのはこれから先もアンタだけなんだから。どうにか分からせてやりたいんだけど)
七つの頃に抱いた想いは、年月を経て確固たるものになり、アリサもすずかも日々、彼と歩んでいく将来への布石や準備を行っている。淡い恋心とか、若気の至り、なんて言葉で片付けられて溜まるものかと、二人は彼との未来を現実化しようと一生懸命だ。
「ほら、食べちゃわないの? ひくひくしてるの、分かるでしょう?」
縁に上半身を預け、裾をたくしあげたまま、後ろ向きに臀部を突き出す。羞恥心よりも情欲が、そして彼をどこまでも本気で求めているのだと、態度で見せつけたかったから。
「……淫乱って思われてもいい。あたしは大翔が、欲しい。アンタにしか、こんな恥ずかしいこと出来な……っ!」
ズンッ!
最後まで言い切る前に、アリサの最奥への衝撃が襲いかかっていた。理性が吹き飛びかけたのか、普段の大翔では考えにくい、気遣いが欠けた遠慮無い挿入のやり方だ。
「かはっ、ああ、入ってる、の!」
息を何とか吐き出し、アリサはこれを待っていたと歓喜の声をあげる。彼の熱さをお腹の中で味わい、十分に潤っていた膣内は抵抗なく彼のペニスを子宮口まで導いてしまっていた。荒々しく求めてくれることが、自分に夢中になってくれるようで、アリサはますます高揚していく。
疼きが一気に甘い痺れに変わり、この熱を離すものかと結合部が蠢き、自分で意識するまでも無く、締め付けをどんどん強めていく。
「ささくれ立ったアタシの心ごと溶かし尽くしてしまって! ああ、大翔にこうして、テラスで貫いてもらいたかったの! 嫌な気持ち、全部吹き飛ばして欲しかったの!」
屋外での行為は少ない回数ながらも、アリサも経験済みだった。
発情期のすずかは、性衝動を大翔に特化させたため、良くも悪くも本当に彼しか見えておらず、外出時でも我慢できなくなれば遠慮なしに彼を求めている。大翔が制止しようとしても、一族の力に覚醒し魔力でブーストしたすずかの筋力は大翔を強引にでも押し倒せてしまう。
そんな時期は基本外出を避けるのだが、お互いの話し合いの結果、周期であっても通学だけは続けているため、数時間おきに我慢が利かなくなるタイミングが悪いと、中庭で木々に寄り掛かってとか、屋上でこっそり……などということが起こる。新棟の図書館に自分達専用の隠し部屋を作ったといっても、すずかがそこまでの移動が耐え切れない場合があるのだ。
ゆえに、周期となれば、アリサもフォローのため、校内ではほぼ行動を一緒にする。その先に巻き込まれる、なんてことも当然起こってしまっていた。
「あ、あああっ、ごめ、ひろ、もう、もうきちゃ……ああ、イっちゃうぅううう!」
大翔の激しい抽送は続き、痺れはあっという間に全身に広がり、アリサの世界は真っ白に染まる。浮遊感と解放感の中に、ちゃんと抱き締めてくれているという温もりを感じて。
「あああ、すごいの、ああ、またクる! 波、引かないのぉ、ああああああっ!」
もう一度、最奥を突かれ、身体が中から揺れる感覚にアリサはもう一度、絶頂に導かれていた。息が、上手に出来ず、短く荒い呼吸を繰り返す。
「アリサ、深呼吸。合わせて」
耳元で、愛しい声が脳髄を溶かす。身体も心もその言葉に喜んで従ってしまう自分が、今は嫌じゃなかった。
「すぅ……はぁぁ……」
「うん、その調子……。ゆっくりと息を吸って、吐いて……」
ぼうっとした頭のどこかで、アリサは自分じゃないみたい、と感じた。彼の両腕に自分の身体を全部預けて、疑問も無く彼の言葉に従って安心感を感じている。
(これからは自立した女じゃ、ないとなんて……わらっ、ちゃう……)
「キス、してぇ……」
呼吸が落ち着いたら、口づけをせがんで。愛を交わし合って、甘えるお姫様に変わった自分に優しく答えてくれる彼は、とびっきりのイケメンじゃないけれど、アリサにとっては立派な王子様に思えた。
「とけ、ちゃい、そ……」
肩肘張って、全力で未来をつかみ取ろうと戦っている自分が、まるで遠い過去のようだ。繋がったまま、キスをするために胸板に添えた手が、早くなっている大翔の鼓動を感じていた。
「乱暴にしてごめんな。アリサにあんな誘われ方されたら、色々吹っ飛んでた。痛かったろ?」
「ううん、あたし……悦んでた、わ。大翔が、夢中であたしを欲しがってくれてる、って。強引に突かれて、すごく、よかったの」
「アリサ……」
「なのに、あたしがイっちゃったら、急に動きを止めて、あたしがまたイくのに合わせて、コンっ、って優しく突くんだもの。大翔、我慢しすぎ」
お腹の中で感じる彼は大きく、そして強度を保ったままだ。
「あたしの身体、アンタ専用になっちゃってるんだから。多少、乱暴にされたって、気持ち良くなるように出来てるんだから。ねぇ、生意気なあたしを、従えてみせて」
「……あー。今の年頃の野郎の理性、壊すと、碌なことないんだぞ。回復も早いし、何発でも出来るんだから、泣いても止まらなくなるんだぞ」
「うん、あたしを強引に、躾けてよ。そしたら、あたし、また頑張れるから。周りに何を言われたって、大翔がくれる痛みだけ、感じていればって思える」
「……普段はSの癖に」
「うん、アンタとこうする時だけ、アンタに従属してあげる。支配されてあげる。あたしも悦ぶ。ほら、イイコト尽くしじゃない」
軽く腰を振り、意識的に締め付けを強めれば、また硬さを増すのが分かる。
「アンタの精液、中に抱かれたまま、パーティーに戻るの。ゾクゾクしてこない? 平静な顔をしている下半身はついさっきまで俺のおちんちんを咥えこんでいたんだぞ、って」
「あの、なぁ」
「あたしも、興奮するわよ。嫌味を言われたって、Tバックで無理やり押さえているだけで、こっちは満たされたばかりよ、お腹の中に精液を飲み込んだままなんて想像もできないでしょう、って」
大翔の目線が斜め上を向いて、頬にすっと赤みが差すのを見て、想像したみたいねとアリサは微笑んでみせる。彼の目つきが変わった。組み敷かれる自分を想像して、身体の反応がどうなるのか、ぶるっと身震いして。
「もう、知らん。出すまで、止まらないからな」
「来て。すずかやあたしに搾られるばかりじゃ、面白くないでしょ?」
アリサやすずかに合わせたセックスばかりで、大翔が思うように動いたことなど、何度あっただろう。彼が思うままに動いて欲しいし、翻弄される自分が、楽しみでもあった。
唇を重ねて、魔力を流し込む。アリサの魔力は、炎の特性が強い。彼の欲望に火をつけてやれと、焚きつけていく。
「……!!」
ズドンっ。
さっきよりも激しい一突きが合図。
(ひゃっ、あぐっ、ううっ、ひろ、と、ほんき、だ、ぁ)
荒々しい前後運動に、挿入角度も細かく変化し、下腹部のあらゆる部分をかき回される。さらに片腕でしっかりとアリサの腰を支えた大翔は、空いた手で陰核も同時に責め始めた。
「ひ、ひゃあああ、あ、あん、だ、だめ!」
「ダメ、じゃ、ないだろっ。止まらない、って言ったぞ!」
落ち着きかけていた絶頂への波が再び、一気に高さを増していく。アリサは縁に必死でつかまり、せめて大翔が射精するまでは、と願うが、さかりのついた猫と変わらない自分の身体では、そう耐えられるものではない。
「ああ、すぐ、イっちゃう!」
「何回でもイケよ。俺が出すまで、イキ続けたらいい。腰が砕けても、ちゃんと支えてやる」
抽送を緩めることなく、耳元で囁かれる悪魔の囁き。冷たい声色に背筋にゾクリと快感が走る。
(征服、される、あたし、大翔に。あたしの身体、完全に大翔のモノに、なるんだ)
ままならない思考の中で、アリサはそのことだけを渇望する。そう思った瞬間、また飛んでいた。降りようとしても、決して降ろしてくれない。下腹部は激しく痙攣を繰り返し、アリサの視界はホワイトアウトしたまま、戻らない。
「あぁぁぁぁーっ!」
「中の動き、すごい、ぞ! そんなに、出して欲しいかっ!」
「イクっ、止まらな、またイったぁ! あぁ、ひゃ、あーーーーっ!」
言葉に、ならない。それでも、心は叫ぶ。
(あたしは大翔のモノだ、大翔だけの)
「ぐっ!?」
必死に振り向き、彼の唇に噛みつく。
(離さないっ、あたし、欲しいの、大翔だけ、他の男なんて、嫌っ)
「叫んでやりたいのっ! ああ、またきたぁ、あたしの男はこんなにも、激し、く、あたしを、だけをに求めてくれ、る! バニングスの娘じゃない、アリサ自身を欲しがってくれるんだって! ああーっ!」
一瞬、突き上げが弱まった隙に、アリサは思いの丈を叫ぶ。それでも、イキっ放しの身体は、また簡単に登りつめて、白くぼやける頭は一つの思いしか、考えられない。
「アリサっ!」
「アンタがいいの! アンタしかいらな、あぁぁああ、飛ぶの、また飛ぶのぉ!」
「……俺も来るぞ、受け取れっ!」
「あ、あつっ、あ、あぁあああああああああああ!!!」
噴き上げる熱に、子宮から全てを溶かされるような熱さを感じて、アリサはとうとう、意識を手放したのだった。
******
「パーティー途中で抜け出したと思ったら、失神したアリサちゃんを連れて帰ってくるなんて。それに、香水で誤魔化していても、私には丸わかりだからね?」
「滅相次第もございません」
「すぐに目を覚ましたから良かったものの。あれだけ上機嫌なアリサちゃんは久し振りに見たし、さぞ心も身体も満たしてあげたんだよね?」
膝を突き合わせて、互いに正座の姿勢。寝台の上でじと目のまま、大翔を責め続けるすずかの隣で、アリサは幸せそうに寝入っていた。寝言で彼の名前を呼んでは、ふふっ、と笑みをこぼすのだから、かなり幸せな夢を見ているのだろうと感じるものだから、余計にすずかの怒りは収まらない。
「……ごめん」
「分かってるんだよ、ひろくんは求められたから答えたことぐらい。アリサちゃんがひろくんとのセックスが、いい毒抜きになっていることも。だけど、悔しい気持ちはどうにもならないんですっ」
「はい」
「ちゃんと私を見て返事をして下さい」
俯いたままの彼の両頬を無理やり挟んで持ち上げて、もう一人のお姫様は不満な気持ちを隠そうとしない。
「……はい」
「少しだけ、聞きました。ひろくん主導で、繋がったんだって」
「ああ」
「ものすごく悔しいです。いつも、私やアリサちゃんに気遣う、優しいセックスばっかりだから」
「いや、おそらく、明日はアリサも痛みを訴えるとは思うし、強引なやり方がしょっちゅうというのは、まずいよ」
「量が全然違った、って。いつもより、興奮した証明だね」
「……」
大翔は赤裸々な攻勢に二の句が繋げない。すずかは恥ずかしい発言をしている感覚よりも、怒りや悔しさがずっと大きく上回ったままだ。
「次、時期が来たら、絶対にしてもらうから。あの時期だったら、多少の痛みは全部気持ち良くなっちゃうだろうし」
「え」
「あの時期の私を組み敷くぐらい、強引にシてみて欲しいな」
「……善処、します」
拒否権は無いよ、と笑顔が語っていた。努力はしてみると、しか大翔も答えようがない。
「じゃあ今から、ここのテラスで練習、しよ? 会場の外みたいに広くはないけど」
「アリサは起きないだろうけど、フェイト、起きないか?」
そう、今日の寝台にはもう一人、付添が増えていた。先程まで大翔の寝巻の裾をつかんでいたが、すずかの手配により、大翔が使う枕を身代わりにすることに成功している。
「深層意識にちょっと訴えかけたので、起きないと思います。いい夢を今頃見てるんじゃないかな」
「いつの間に……」
手を引き、すずかはテラスへと大翔を連れ出す。先程までの機嫌の悪さはどこへやら、鼻歌すら口ずさみそうな彼女の姿がそこにはあった。
「ん……」
軽い口づけに返すように、優しい抱擁。すずかの知る、大切な彼の普段通りの姿だ。
「私達、ううん、アリサちゃんの気持ちを完全に代弁出来るわけじゃないから、私の気持ち、になるんだけど……」
「すずか?」
「時には、強引に求めてほしいな。私の身体は、ひろくんだけにカスタマイズしてるんだから、多少の乱暴さじゃ、乱暴にならないよ」
カスタマイズ、とすずかは表現したが、実際に彼女と身体をいつ重ねても、自分の分身が過不足無く、包まれている感覚を覚えていた。年月を重ね、お互いの身体も成長しているのに関わらず、だ。身体の相性がいい、ではなく、すずかが自らの身体を常に変化させているような錯覚すら感じてしまう。
なお、たわわに実った膨らみは中学の頃からもう少し大きさを増していて、これ以上大きくなると可愛い下着が一気に少なくなるから嫌だと、つい最近もすずかがポロリとこぼしていたのを覚えている。大きくしたいとは頑張ったけど、ひろくんの手に余るぐらいのはやり過ぎだったね、と。
「……その強引さにすずかの身体がすぐに順応しようで、怖い」
「多分ね、ふふふ」
「この前も言ったけど、胸もこれ以上は大きくしなくていいんだからな。ファリンもお召し物もいっそ特注にしないと、可愛いのが少なくなってくるって嘆いてた」
「まるで、私が大きさを調整出来るみたいな言い方だね」
「すずかなら出来てもおかしくないだろ」
「……うん、やれちゃうのかも。ひろくんのため、って思ったら、私出来ちゃう気がする。それでね、ちょっと疲れたらこうして、ひろくんに抱き着いて甘えて、元気をもらうの」
すずかの想いは、一貫していた。幼き頃に得た、自分の秘密の共有者が終生の伴侶になることを願う。
「私の傍にずっと、いて欲しい。私の願いは変わらないし、だから、しなくていい我慢は、して欲しくない。そうでなくても、家のことで、ひろくんを縛り付けてしまっているのに」
「受け入れるって、前にも言っただろう」
「受け入れるだけじゃ、嫌だよ。ちゃんと、もっと、求めて。……私は、これまでも、これからも、ひろくんだけのすずかだよ。貴方が望むなら、私に出来ることはなんだってする。それが私の望みだし、幸せに感じるんだから」
「……」
「私は、ひろくんにいろいろ我がままを言うよ。それでも、私が望む限り、ひろくんはずっと傍にいてくれるって信じてる。だから、他の人の前では、温厚で大人しい月村の娘でいる。ひろくんの前でだけ、私に戻れれば、十分満たしてもらえるから」
「俺には、もったいない、可愛くて綺麗な女の子だ、すずかは」
十年近くをかけて、なお、これだけ身体を重ねても、彼は一歩引いた立ち位置を頑なに守っている。すずかの思いは十分に本気だと、簡単に翻すようなものではないと、伝わっている手応えはある。
大翔の最後の壁を崩し、彼自ら求めてくれるようになるまで、すずかはあと一歩だと思う。
「どうしてかな……うーん、いっそぶくぶくに太ってみたらいいのかな」
「はい!? いやいや、すずか、どうしてそんな思考になった」
「だって、ひろくん、やっぱり美人さん苦手でしょ? 親しい女の子が綺麗になるのは平気かな、って考えていたけど、もう一歩踏み込んできてくれないのは、根本的に美人さんに拒否反応を……」
「やめなさい。月村家のお嬢さんが俺のせいで肥満体になるとか、俺、一生後悔するから」
「でも、解決しないよ」
「いや、まずはそこから離れようよ、すずか」
大翔が女性恐怖症になって、すずかと出会うまで二十年程度。前世の紗月は美人さんというよりも、ほんわかした可愛い人だったと聞いているから、アリサやすずかのようなタイプと長く過ごすようになってからは、まだ九年ぐらい。単純計算にすれば、あと十年少々かかる。
(そこまでは待っていられないもん……多分、我慢できない、よね)
すずかは、自分の理性に信用を持ちはしていない。強制的に子作りするとか、籍を入れてしまうとか、そちらが先になってしまうはずだ。大翔の異性への不信をぬぐい切る前に、既成事実が先になり物理的に離れられないようになれば、大翔を幸せにするという誓いは嘘になってしまう。
「それは嫌だもん……私は幸せになれるけど、ひろくんも一緒に幸せじゃないと嫌……」
(……子作りとかどうとか、全部口にしてるのはわざとなのか、完全に思考に没頭しているからなのか、突っ込みべきなのか、指摘するべきなのか、俺は。いや、この葛藤すらすずかの術中なのか?)
すずかの考えがあえて駄々漏れなのが、狙ってなのか断定も出来ず、大翔は沈黙を選ぶ。
自分の根っこにある女性不信がぬぐい切れていないのは事実で、その時の恐怖心で、美人になればなるほど、硬直や拒絶反応を起こしてしまう部分も残ってはいる。
が、それだけではない。自分の容姿が人並みだと自覚する人間が、街でも一、二を争うような美女や美少女に積極的に言い寄ってこられれば、喜ぶよりも尻込みしてしまう。彼の美的感覚は良くも悪くも一般人の域を出ず、覚悟を決めるのとは別に、すずかやアリサを前にすると、俺の女と言い切る気概を持てなかった。
(へたれ、と言われればそれまでなんだけど。年々、色艶を増して、綺麗になっていく二人に……触れられるだけで、浄化されるようですありがとうって感じだもんなぁ……今日は、アリサが俺の箍を完全に取り払ってくれたから、あんなことが出来たけど……)
大翔は、敵視に立ち向かっているほうが精神的に楽かもしれない、と罰当たりなことを思うのだった。
すずか様を描くと、アリサ様のターンが待っていて。
アリサを描くと、すずか様のターンが待っている。
書かないといけない強迫観念に駆られるような。
二人のいい意味での張り合いが、作者の文章のバランスにも及んでしまっています。
次は学校かなー。