とんとんとん。とまな板をたたく。
自動化する便利なあれこれも導入しているがそれはそれ。
いってみれば趣味主婦業なところもあって、こういった家事は苦にならない。
時計をみれば、そろそろ日も落ちかける頃合いだが、夫が帰ってくるまではまだ時間がかかる。
ふと、今の立ち位置を推した長姉の言葉を思い出す。
恋愛が"苦手"である斎賀の一族であっても、見合いという手段は残されています。
と。
そうして得られた今の立ち位置は、実際、悪くはない。と思う。
見合いの席に現れた今の伴侶は、よくよく思い返せば自分の同級生で、先に聞いていた話だと、彼の父親が、祖父の釣り友達だったという。
今の義父曰く、「趣味狂いの一族の例にもれず趣味に明け暮れた息子に、無理に所帯を持ってほしいわけじゃないんだけど」
と、頭に置いたけれど。
「良ければ仲良くやってくれると嬉しい」とは彼の父の言葉だ。
とりあえずプライベートを束縛しないとか、そういった相手に求める条件は一致して。
それなら、わるくないな。という印象はお互いに共通していて。
じゃあと、そのままお付き合いすることが決まって、気が付けば籍をいれるところまではスムーズだった。
同棲から数えれば早数年。
親愛の感情として、彼をちゃんと愛している。
行ってきますと笑って出社する彼が、実は世間を騒がせる覆面プロゲーマーだと知ったのはそのあと。
彼がのめりこんだ趣味というあまたのゲームは、今の家の横に建てたガレージハウスに山のように保管されていて。
旦那がやっていることに全く触れないのも伴侶としてどうだろうと、手を出してみたいということを相談すれば、どうも彼が好んでいるのは流行作と比較すれば随分と劇物だということらしく。
とりあえずこのあたりが入門にはちょうどいいと渡してくれたRPGは、それなりに楽しかったのを覚えている。
そういえば一時期、二番目の姉がのめりこんでいたっけ?
そんなことを考えていると、ただいまという声とともに、彼が家に帰ってきた。
「おかえりなさい。今日はどうでした」
鞄を受け取りながら、今日の成果を聞く。
今日は裏の顔のお仕事だったらしい。
あのプロゲーマー魚臣慧の、プライベートな親友だと聞かされた時は随分と驚いたものだ。
朗らかに笑いながら今日の成果を語る彼の笑顔に、あぁ好きだなぁ。という感情を抱く。
そしてふと。
彼を愛している。親愛の感情はちゃんと胸の奥から湧き出てくるけれど。
そういえば。
恋をしたことは、ついぞなかったなと。
ふと。
そう、思った。