楽郎くんと付き合い出してしばらくして、楽郎くんの妹の瑠美ちゃんとも仲良くなって。
ファッションに詳しいというから、楽郎くんとデートする時どんなのきたらいいか相談してみた。
年齢の近い友人で、彼との交際を知っている人はクラスメイトにもいるけれど、こういう相談をすると解答より先ににぎやかしだったりからかいが来るから、まともに相談できる人がいなかったのだ。
「うーん。でも玲さんもとがいいし普段着で綺麗にまとまってるからなぁ」
「えっと、その、時にはちょっと冒険というか、おしゃれしてみたくて…」
「んー?イメージ崩してみたいとかですか?」
「あんまり派手なのは苦手なんですけど….少しは…」
ということでコーディネーターを任せたところ、ゴスロリ?みたいな服と、パーティードレスの二択ならどちらがいいかという問いに始まり、あれこれ選択肢を絞っていってみると、楽郎くん曰く「ファッションに全てを注ぎ込んでいる」というだけはある。
最初に提示された二択からは想像もつかないほど普段着に違和感はなくとも、確かに流れとしては当初に選んだものを汲んでいるな。というところに落ち着いた。
「選んでくれてありがとう。瑠美ちゃん」
と、お礼を言う。ショッピングサイトでもろもろをカートに突っ込んで、決済。
これでデートまでには間に合うはずだ。
「あと、これは最後に兄貴につけてもらってくださいね」
と、紙袋に入った何かを手渡しされる。
何かと聞けば今回のコーデのキーポイントだと言う。
直前まで見ないでくださいね。と言う彼女の言葉に、まぁ変なものは入れてないだろうと言う信頼を抱きながら、その紙袋を持ち帰った。
◇
「えと….今日も似合ってるよ」
「うきゅっ…..」
玲は死んだ。
待ち合わせはいつもの喫茶店。
もうエッグベネディクトをお互い噛まずに言えるようになったけど、店員のおばあちゃんからはまだ微笑ましい目で見られてて恥ずかしくなる。
遅れてやってきた(といっても5分も経っていない)楽郎君が、そうやってかっこいいセリフを決めながら颯爽と席につく。
「今日はどうしたの?」
「トーストのセットにしました」
「すいません同じのください」
そんなやりとりを交わしながら、今日のデートプランを具体化させていく。
とはいっても、ぶらぶらとウィンドウショッピングをしたり、ゲームセンターに行ってみたりするぐらいだけど。
そういえば何時ぞやに入手したスクラップガンマンのパスはまだ有効で、プレイ料金を割り勘すれば、お互いに半額で遊べるからとしばしば一緒に遊んでいれば、プレイ回数は結構な数になってしまった。
「ごちそうさまでした」
と手軽に会計を済ませて、店を出る。
じゃあ行こうか。と言う楽郎くんを引き止めて、周囲の人通りが少ないことを確認して。
「えと、これ….つけて、もらえません…か?」
瑠美ちゃんから。と言う補足は、小さくなっていった声とともにかき消えて、届いたかどうかはわからない。
紙袋の中身を確認した楽郎くんは、小さくとう。
「これって…チョーカー? えっと…つけるのって、首に、だよね?」
お願いします。と、少し背伸びするように、上向きに胸を張る。
恥ずかしいから、目を瞑って、少しばかりつま先に力が入る。
ちょっとヒールのある靴を履いてきたから、彼との身長差はいつもよりは少なくて。
ふっとうなじをかすめていく彼の手にくすぐったさを感じながら、ゴソゴソと言う音を耳に待つことしばし。
できたよ。と言う声は、耳元で小さく囁かれて、ふるっと、くすぐったさで体が少し震えた。
高揚感の後、周回遅れで少しばかり、ほんのわずかの圧迫感がやってきて。
彼の手の感触が、ずっと首元に残っているような、そんな気持ちいい錯覚を残しながら、今日のデートが、いい一日になればいいな。と、そう、思った。
◇
「それにしても、動きづらくはないんだ?」
カジュアルパンクとでも言うべきか。
いや、彼の妹ほどファッションのあれこれに詳しいわけではない。
少しタイトなワンピースは、腰を絞る太めのベルトのほかに、アクセントとして左右の二の腕にもベルトが巻かれている。
少し背伸びするために履いたハイヒールのショートブーツも、実際にはサイドジッパーで留めているとはいえ、靴紐じゃなくて何本かのバックルがアクセントになっている。。
最初、なれないヒールに歩くのがぎこちなかった自分に、どうしてか重心のコツを教えてくれた彼に、どう形容していいかわからないもやっとした思いを抱いたのも事実には違いないが、それでも確かに動きやすくはなった。
いや、これまで彼がしばしば女性アバターでゲームをプレイしてたことがあるのも知っている。
と言うか、シャンフロでもそうだった。きっとゲームでの経験をフィードバックしていると言うことは知っている。知っているけど。
それはそれとして、どうしてか複雑な気持ちになってしまうのは、仕方のない事ではないだろうか。
閑話休題。
そうしてこれから、私たちはスクラップ・ガンマンを遊びに大型のゲームセンターにやってきた。
「いやー。今日はハイスコア狙っていこうか」
「雑魚掃討は任せてください」
度々プレイしていれば、もはや準備も手馴れたもの。
スコアランキングを狙いにいくほどやり込んでいくわけではないけれど、自分たちの痕跡が残っているのは、それはそれとして嬉しい事だ(なおスコアランキング1位の表示名はRLである)
スゥッとプレイ前に深呼吸。
と同時、喉の開きに合わせて、チョーカーが少しばかりの息苦しさを感じさせる。
今日は大声を出すようなことはなかったけど、もしかしたらプレイするに当たって支障があるだろうか?
そんな考えも頭をよぎるけれど、それ以上に、彼の手触りを首元に感じ続けられている。その多幸感が、きっと自分のパフォーマンスを上げてくれるという根拠のない確信の方が、大きい。
「いこうか」
「はい」
その日、スコアランキングの上にRLの表記が追加された。