で楽玲ワンドロ(ワンライ?)
まだ、眠るには早い夜。
もう、外に出るには遅い時間。
「会えませんか?」
と彼にメッセージを送った。
遅めの夕食を食べているなら、多分もう少しすればゲームを起動する時間帯。
体を動かす感覚が鈍ると嫌だから。と、軽いランニングを日課にしているとは聞いているが、日課とはいえ、毎日というわけでもない。
軽く30分程度の、それ。
自分も体を鍛えているとはいえ、武道場ばかりの修練だと飽きが来ないわけじゃない。
ちょっと趣向を変えてみたいと言って、買い揃えたランニングウェア。
発汗性のいいウェアは確かに軽く汗をかくにはちょうどよくて。
彼と出会えるかもしれないという期待が7割。
いつもと違う方法で体をうごかすようになったら、存外、楽しくなってしまったというのが3割で、今日も日課のランニングに出てくると家の人に伝えて、すっと勝手口から走り出す。
繁華街も遠く、夜になれば街頭の明かりもまだらな、閑静な住宅街に、パタパタパタとシューズが跳ねる音が響く。
今日は月が明るい。
夏もそろそろ後ろ髪が届かなくなって、過ごしやすくなった頃合い。
体を動かして火照った体は、きっと未だ赤面してしまう自分の顔を隠すにはちょうどいい。
「こんばんは」
「下校ぶりですね」
合間にある、公園。
2人のちょっとした逢瀬にはちょうどよかった。
ジャージの楽郎くんはさほど息を荒くしていない。
すっと、月が延ばした影に足が触れる。
「どうしたのさ?急に」
「これと言って理由はないのですけれど」
「またこの後ゲームの中で会うじゃん」
「それはそうなのですけれど」
そんな言葉を交わし合って、2人してベンチに座る。
伸ばせば手が触れ合う距離だけど、付き合いだしたとはいえ未だに自分から触れに行く勇気はなくて、そういった機微には疎いと思っていたけど、付き合いだしてからは随分と気配りの細かい楽郎くんがすっと手を被せてくる。
そういえば、以前に聞けば「ピザに食われるんだよ....」
と、感情の消えた目をしながら虚空を見つめていた。
こういう時は大体彼の趣味の、過去のライブラリーに原因があるということは、ここ最近の付き合いで知った。
30分程度の日課のランニング。
走っているのは、実際のところ20分ぐらいで、残りの10分間は、こうやって彼に会いにきている。
両親にも言っていない、秘密のデートといえば、随分とカップルらしくて、少しだけいけないことをしているようで、ちょっとだけ、ドキドキと心臓が脈を打っている。
上の姉は特に知らせていない。
きっと、うざったい茶化し方をしてくるのが目に見えるから。
何を話すでもなく、息を整えて、時間だけが、ゆったりと過ぎていく。
「それで、受験勉強の具合はどう?」
と言っても、玲さんだし万事順調なのは知ってるけどさ。
と続ける彼に、そんな油断はしてないですよ。と返す。
"偶然被った"志望校も、一緒なら一層頑張らないとな。と好意的に解釈してくれて、その頃の自分のあれこれは、交際しだした今でも、断片的にすらあかせていない。
もし岩巻さんが伝えていたら、それはその時だけれど。
取り止めもなく、ただただ、おしゃべりをして過ごす、少しばかりの時間。
汗が引き切ってしまえば風邪の原因だし、あまりに遅いと家族が心配する。
「じゃあそろそろ」
と、楽郎くんが切り出す。
話している間は、永遠のようで、過ぎてしまえばあっという間の10分間。
「ま、また後で」
と約束を取り付けて、パタパタパタと先に駆け出す。
月だけが照らす帰り道。
そういえば、月明かりに照らされた彼の顔は綺麗だったな。なんて。
いつかの自分なら考えるだけで思考停止していたようなことを考えながら、その足は軽やかだった。