そっくりな鬼は生きています、雨で曇っているので外は歩けるというオリジナル設定です。
「親方様、どういうことです」
悲鳴嶼行冥は問いかけた、はっきりとした答えを聞きたいと深く頭を下げてだ。
自分にそっくりだった鬼が死んだ、鬼達によって殺されたのだ、だが、それだけではない、女がいなくなったのだ、自分が守ると愛すると決めた女が。
一緒にはなれないと言われて、自分は答えが出せず何も言えずにいた、そして、このままではいけないと思い、心を決めかねていたときに知った。
自分にそっくりな鬼と夜を共に肌を重ねたと知っても嫌いにも憎む事もできなかった、それは本来なら己の、自分がすべきことだったからだ、抱きしめて安心させ、涙を拭ってやるのは自分がすべきだった。
逃げているだけでは駄目だと、だが、その矢先に、これだ。
安全な場所にいる、その言葉に悲鳴嶼は首をわずかに振った。
何処だろうと、全ての鬼が死なない限り、そんな場所はない、だが、ここなら鬼殺隊、いや、自分がいる、何があろうと守ってみせる、だが、そんな自分の意思と言葉を産屋敷耀哉は、あっさりと否定した。
「彼女が無惨の娘でも」
いくら当主の言葉でも信じられるわけがない、昼間でも外に出ている太陽の光の下でだ。
「彼女は人です」
悲鳴嶼は初めて声を荒らげた、すると、分かっているとあっさりとした返事が返ってきた。
「彼女は人だ、無惨も知っているだろう、しかし、そんな事は問題ではない、今、無惨とは違う鬼が生まれている」
悲鳴嶼は苛立ちを、不安を感じた、聞きたいのは、そんな事ではない、だが、自分は待つしかない、それなのに目の前の相手は。
「これから鬼殺隊も困難な、苦しい戦いになるだろう」
「親方様」
煙に巻くよう物言いはやめてほしいと思った、すると産屋敷は突然、頭を下げた。
「彼女は君に知られたくないと思っていることがある、それを聞いた私は止める事ができなかった」
相手が産屋敷でなければ強引に、いや力尽くでも問い詰めてしまうところだ。
「理不尽だと思われるかもしれません、だが、親方様から言われても、これだけは納得できないのです、彼女が」
結局のところ何も聞くことができなかった、自分の不甲斐なさをこれほど恥じた事はない、あまりにも無力だと行冥は肩を落とした、鬼と対峙するときとは非常なまでに力を振るう事ができるのに、これは、もう、彼女自身の口から聞かなければ納得できない、その為には。
会いに行こうと行冥は決心した。
布団から半身を起こすと障子に手をかけた、雨が降っている、湿った空気と匂いが体にまとわりつくようだ、酒を飲もうとして空になっていた事を思い出す。
酒を買ってこいと声をかけたが返事がない、息子は出かけているのだろう、仕方ない、こうなったら自分がと外に出た。
雨は、それほど酷くはないから濡れるのも構わず男は店に向かった。
酒をうまいと感じた事はない、飲んで酔えば、ほんの束の間、忘れる事ができるからだ、思い出したくないことを、逃げだと分かっている、誤魔化しているだけだと、正直、情けないと思う、だが、そんな今の自分を叱咤する人間はいないのだ。
徳利に酒を入れてくるのを待つ間、男はわずかに俯いたまま、自分の足下を見ていた。
自分の人生など、ここで終わってしまえばいいのにと考えてしまう、しかし、本心ではない。
店を出てしばらくすると、雨が激しく降り始めた、まるで天気にまで馬鹿にされたような気がして男は周りを見た、雨宿りできそうな場所はないかと思い、一軒の軒先を見つけて、そこに身を寄せた。
このとき、通りを歩いている大柄な男の姿が目にとまった、濡れるのも構わず歩いているが、顔が見えないように頭からすっぽりと黒い布をかぶっている、だが、その気配が。
手が震え、体、全身が、こんなことは初めてだ。
そのとき、男の後ろを追いかける足音、声が聞こえた。
白い、真っ白な髪が男の目に映った、自分は酔っているのか、酒が抜けていないのかと自分に自問した、まさか、あの人は亡くなったのだ。
手にしていた徳利が地面に落ち、酒がこぼれた。
違うとわかっていた、なのに追いかけずにはいられなかった。
屋敷の離れに住むことを許されているが、大尉達から誰からも疎まれているのは分かっている、だが、それでも我慢しているのは女だ。
「帰りましょう、雨がやんだら、少しでも日が出てきたら、夕刻ですが」
わかっている、そんなことは、だが、自分が鬼だから。
「あそこには、ずっとはいられない、だが」
女は無言だ、無理もない、だが、沈黙は長くは続かなかった。
「出ましょう、あの家を」
女の細い声に鬼は何も言えない、あの男と岩柱と離れる事になる、それでもいいのかと言えない事を狡いと思いながら口にできない。
「行きましょう、二人で」
「なら、このまま行こう」
「駄目ですよ、お館、産屋敷様に挨拶をしてから」
「駄目だ、あの男にも知られる」
そうなったら引き止められたら、この女は。
「駄目です、もう、悲鳴嶼さんとは」
諦めにもにた女の言葉、だが、それを嬉しいと喜ぶ自分に人ではない、心の中まで醜くなってしまった、あさましくなってしまったと鬼は思った。
今しかない、連れて行こう、邪魔をする者はいないのだからと思ったとき、足音が聞こえた。
二人に追いついた。
足音に気づいたのか、振り返った女の姿を見た煉獄槇寿郎は、夢を見ているのかと思った、世の中には他人でも血の繋がりが無くてもそっくりな人間がいると聞いた事がある。
だが、そこにいる女性は似ているなどという言葉では、とてもではないが。
夢でさえ見る事も、会うこともできなかった姿が、生き写しどころではなく、そこに在った。
声をかけようとしたとき、自分の視線から隠すように傍らに立っている男が動いた、それははっきりとした紛れもない悪意と殺気だ。
「貴様、鬼だな」
煉獄槇寿郎は男を睨みつけた。