鱗滝は天狗の面をつけている、滅多に面を外す事はない、余りにも長くて時折、自分がどんな顔をしているのか忘れる程だ。
だが、他人に言わせると優しい顔をしているらしい、昔、自分を見た人がそう言ったからだ、口々に。
刀を持って鬼を斬り殺すような怖い人には見えないらしい、そんな言葉を聞くと素顔を晒す事が億劫に、いや、怖くなった。
時折、優しい顔とはどんな顔だろうと思ってしまう、鏡や水に映った自分の顔を見るのが嫌で仮面を外すと思わず目を閉じてそらしてしまう、昔は、そうではなかったのに。
あの人が、いないからだ。
なのに、数日前、元炎柱の館で鱗滝は見てしまった、似ているという言葉で説明できるモノではない、姉妹か、血を分けた姉か妹なら納得いくだろう、だが、そんな事は有り得ない。
遠いところに行った、いや、逝ってしまった、あの人には、もう会えないと思っていたのに。
忘れたと思っていた、記憶の中から消してしまいたいと思っていたのに、あの日から何度も思い出してしまう顔、女を思い出して、鱗滝は面を外した。
視界がはっきりとしない、歪んで見える、ああ泣いているのか、だが、その涙を拭うこともできない、男は再び面をつけた。
振り返った女は大丈夫ですよと笑ったが、野菜の入った籠を少年は少年は貸してくださいと手を伸ばした。
「今夜はさつま汁ですよ、白和えに卵焼きに、苦手なモノはありますか、千寿郎さんは」
女の言葉に少年は、はっきりと叫ぶように声をあげた、小さな頃から好き嫌いをしていてはいけないと兄に言われていたからだ。
「お父上、槇寿郎さんは苦手なものなどあるのでしょうか」
千寿郎は父の嫌いなものはと思い出そうとしたが、以前は酒を飲んでいて殆ど食事らしいものも口にせずにいた、だが今は違う、出された食事は残らずに食べて、最近は鍛錬も始めたのだ。
「父は嫌いなものはないと思います、それに貴方の作る食事はとても美味しいので」
嬉しいですねと女は笑った、甘い物は好きですか、お団子はと聞かれて大好きですと千寿郎は即答した、そのとき、声をかけられて千寿郎の体が震えた。
それは明らかに人の声ではなかったからだ。
音がした、気のせいかと槇寿郎は部屋の中を見回した、そのとき自分の隣に気配を感じた。
鬼、鬼だ、それは男の声だ。
いけ、行け、どこへだ、問いかけようとしたが、自分の体がすっと立ち上がった。
何故、鬼は太陽のを苦手とする筈だ、光を浴びると塵になって死ぬ、鬼殺隊に入った兄から聞かされていたし、実際に殺された鬼の姿を見た事がある。
「女を置いていけ、見逃してやる」
男が口を大きく開けて笑った、感じるのは殺意だ、嘘だ信用できない。
「俺には勝てない、わかるだろう、ほら、足が震えている、逃げろ、刀も持たない、何ができる、ガキのおまえに」
逃げだしたい気持ちはある、だが、自分は、そうするわけにはいかない、勝てなくてもだ、そうだ、ここで殺されたとしてもだ。
「千寿郎さん、逃げてください」
声は震えているような気がした、逃げたいのは、この人だって同じだ、自分だって、だが、そんな事をしたら父に、兄に顔向けができない、鬼殺隊に入るのは無理だと言われていた、だからといって、ここで自分が背を向けるわけにはいかないと自分の正面に立つ鬼を見た、正直、怖くて逃げ出したい、だが、いけな
い。
そうする訳にはいかない、たとえ鬼殺隊に入れなくても、鬼を相手に勝てなくても。
負けるとわかっていても。
体の震えをとめることができない、だが、そのとき耳元で。
(それでこそ、だ)
声が聞こえた、気のせいだろうかと千寿郎は自分は自分の体が手が震えるのを感じた。
「なん、だ、貴様」
鬼の視線が捉えたのは面、それも鬼の面をつけている男の姿だ、少年の隣に立つ長身の男は生者でない事はわかった、だが、なんだ、この気配は、まるで、そう。
鬼、ではないか、
一度、もう一度だけ、姿を、遠くからでいい、構わない、見るだけだと自分に言い聞かせて鱗滝は山道を歩いていた、決心するまでに多少の時間はかかったものの、ただ、姿を見に行くだけだ自分に言い聞かせて決心する、それだけで少しばかり気が楽になった気がした。
煉獄家まで山一つ超える距離を歩きながら、鱗滝は自分に言い聞かせた、ただ姿を見るだけだと、ところが。
(なんだ、この気配、鬼か)
山を降りて、あと少しで着くというとき、空気の中に異質さと重苦しいものを感じ取った。
それは明らかに鬼の気配だ。
DVDが出ていて、なんとなく書きたくなって、久しぶりに鬼滅を書きました。
煉獄父と鱗滝、二人ともいい声なので大好きです。