攻撃をかわした、いや、受け流したのだ、このガキ、鬼の視線は少年の手を見た、何もない、なのに構えるような、そこに見えた気がした、いや、はっきりとわかる、握っているのだ。
千寿郎さん、女に名前を呼ばれて少年は、はっとした。
「だ、大丈夫、です」
振り向くことはしないまま答える、自分が弱いことはわかっている、だが、逃げる訳にはいかないのだ。
鬼は少年に襲いかかった、二度目の攻撃だ、その体を引き裂いてやる、だが、寸前のところで自分から身を引いた。
気配だ、何かが近づいてくる、それも気配は一つではない。
千寿郎の頭の中に声が語りかけてくる、油断するな、敵から目を離すなと。
(構えろ)
父や兄と鍛錬していた時のことを思い出し、千寿郎は両手に力を込めた、不思議なことに感じるのだ、自分の手の中に、それはあると。
しかも鍛錬のために使っている木刀よりも重い、これは長い刀、真剣だと。
急がなければと鬼は思った。
このガキに力を貸している、鬼、人、いや、分からない、まさか、鬼殺隊の人間であるはずがない。
こんなガキに、だが、近づいてくる気配が強く大きくなってきている、こうなったら一気に片をつける。
自分の腕で切り裂く為、飛びかかり、距離を詰めなければと足に、全身に力を込めた。
飛びかかって一気に片をつけてやる、だが。
「ぐああーっ、く、くっ」
悲は鬼のものだ、苦しい声をあげ、肩を押さえていた、地面には切り落とされた右腕が落ちている、それを苦痛と恨みの目で、信じられないという表情で見つめていた。
「な、何故だ」
いつもなら切り落とされた体の部位、手足、いや、首でさえも再生する、それも一瞬にしてだ、だが、腕は切られたままだ。
腕を取り戻そうと鬼は近づいた、その瞬間、いきなり炎が上がった。
「千寿郎ーっっ」
自分を呼ぶ声に少年は、はっとした、父親の声だ、だが、視線を向けることはしなかった、鬼は腕一本を切り落としただけだ、死んだ訳ではない。
油断するな、それは自分の頭の中に響く男の声ではない、自分に言い聞かせた己の声だ。
腕が燃え始めたのだことに鬼はぎっっと視線を向けた。
「こ、このっ、ガキの分際でええ」
剥き出しの憎悪、殺してやると叫びわあげ、鬼は少年に飛びかかった。
(ま、負けないっっ、僕は)
振り払う刃を鬼が避ける素早さに負けそうになる、だが。
自分の体がぐいっと後方に引っ張られた、それと同時に鬼の腕が空を切った、攻撃をかわしたと思った、だが。
目の前で倒れた影に千寿郎は慌てた、いや、驚いたといったほうがいいだろう。
鬼は驚いた、目の前のガキは厄介だ、しかし、それ以上に厄介な人間が現れたと思った、男は少年と同じ髪の色だ、だが、動き、気配がまるで。
(こいつ、柱っっ)
刀こそ持っていない、だが、気配が普通ではない。
(逃げろ)
何かが訴えかけてくる、それは本能かもしれない。
そのとき、もう一つの何かが近づいてくる気配と空気を感じ、駄目だ、このままでは。
負けた訳ではない、ここは今一度、鬼は退くことにした。
元、炎柱だ、以前、会ったことがある、随分と昔のことだが、鱗滝は燃えるような髪の色をした男の姿を見て、そして腕に抱いている女の姿に立ちすくんだ。
近寄ろうとした、だが、それができないのは男が鋭い目つきで自分を見たからだ。
最近、刀鍛冶の里を見て、突発的に書いてしまいました。