難しい…
「だっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」
夜。
春蘭、秋蘭と共に華琳に連れられて華琳オススメの店で夕食を食べていた。
あの後もしばらく華琳にしがみついて泣き続け、ようやく気持ちが落ち着いてから帰路に着き、帰って来た時にはもう日が暮れていた。
既に兵士達の配属処理を終わらせていた秋蘭に出迎えられそのままこの店へ来たのだが、泣き腫らした俺の顔を見て秋蘭が心配し、そのまま俺の話で春蘭が盛り上がってしまっていた。
「そしたら!そしたらこいつが!んっ、んぐふ、ぶほははははははは!!!!」
俺が大泣きした話を肴に酒を呑み、開始早々出来上がってしまった春蘭にずっと笑われ続けている。
「もうそろそろにしてやったらどうだ、姉者?私も流石に北郷が可哀想になってきたぞ」
「でも、ふ、ふふ、だって、子供みたいに、あははははははははは」
秋蘭も助け舟を出してくれたが酒が回り、笑いのスイッチが入ってしまった春蘭は止まらなかった。
思春期の男が女の子にしがみついて大泣きして、それを笑われるのは物凄く。物凄く恥ずかしいが、もうどうしようもないと半ば諦めもついてちびちびと食事を口に運ぶ。
「でも一刀はそれでも私に着いて来ると言ってくれたわ。私はそれで充分よ」
殺されるかもしれないし、殺すかもしれない。
そんな決断をすぐに出せるわけがなかったけど、殺されたくないし殺したくないけど、それでも華琳と歩きたいと思った。
こんな弱い俺の力を貸してほしいと、初めて人から必要とされて、それが嬉しかった。
「でもなぁ北郷。華琳様も仰っただろ。情けないへなちょこで、男のくせに大声上げて泣き喚いていたが、お前はそれでも立ち上がったんだ。私はお前が嫌いだが、戦士として、将として、お前のその勇気は認めてやってるんだ」
アルコールが回って顔は真っ赤で、少し頭もフラフラしているが、真っ直ぐに俺の目を見てそう言ってくれた。
最初はただ嫌われていただけだけど、弱いところを見られて笑われて、こうやって一緒に食事をして、少しだけ春蘭と打ち解けられたと、そんなふうに思った。
その後もしばらく食事は続き、春蘭に無理やりお酒を飲まされ、人生初のアルコールにふらつきながらもなんとか耐え、その場はお開きとなった。
足元が覚束無い俺を見て秋蘭が部屋まで送ろうかと言ってくれたが、1度川で体を洗って酔いを醒ましたいと断り、1人で少し離れた小川に来た。
上半身裸になり、濡らしたタオルで体を洗う。
「あぁぁぁ……ダメだ……頭がぐわんぐわんする……」
大人はこれが良いのだろうか……味は美味しかったけど、その後の吐き気とこの浮遊感が気持ち悪い……
顔を洗い、そのまま地面に寝そべる。
綺麗な星空。現代では街の灯りが眩しすぎてこんなに綺麗に星を見たことがなかった。
が、その綺麗な夜空も酔いのせいでぐるんぐるん回って見えてくる。
しばらくぼーっとしていると、人の歩く音が聞こえてきた。
一応持ってきていた華琳から貰った剣を手に取る。
人を切る覚悟なんか出来てないけど、身を守るくらいはしないといけない。
上手く立ち上がれないけど、剣を握り近づいて来る足音に精神を研ぎ澄ます。
「あら、貴方も来ていたのね」
茂みから出てきたのは華琳だった。
一気に緊張が解れ、そのまま地面に座り込む。
「ダメじゃないか、護衛も付けずに。何かあったらどうするんだよ」
「その辺の野盗になんか負けたりしないわよ。貴方こそ1人で居て襲われたら戦えないくせに」
俺の横に座ろうとする華琳を1度止め、持っていたハンカチを地面に敷く。
「随分と気が利くじゃない。悪かったわね、何も言わずにあんなとこに連れて行ってしまって」
座りながらそう呟く。
あんなとこ。
場所の事ではなく、人を殺す現場。
「成り行きとは言え、私の配下となったのなら、この世界で生きていくのなら、いつかは必ず見る物よ。だから」
「分かってる。気分の良い物じゃないし、それを慣れたいとも思わない。でも、華琳が俺の事を考えて連れて行ってくれたのは分かる。感謝してるよ」
華琳の言葉を遮って答える。
人を殺すのに慣れちゃダメなんだ。
甘い考えなのかもしれないけど、この気持ちだけは手放したくない。
「貴方はこの先、自分の隊を持つかもしれない。役に立たなければ兵士として戦場を走ってもらうかもしれない。頭が使えるなら軍師を任せるかもしれない。どうなるかは貴方次第だけど、この先大きな戦が起これば必ず貴方は人を切らなければならない。その事だけは、頭に入れておいて」
俺の知ってる歴史の通りに動くなら、すぐにでもそれは起きる。
少しづつ膨れ上がっていく民の不満が爆発して、今よりも更に反乱や野盗になる人の数が増え、そこに張角が現れる。
張角という象徴を手に入れた人達が集まって漢を滅ぼそうとする。
詳しい年や月日は分からない。もしかしたら今既に起こっているのかもしれない。
そうなったら、俺は決断出来るだろうか。
死なないために。華琳の為に。
人を殺せるだろうか。
握った拳に力が入る。
俺は華琳を守らなきゃいけない。まだ華琳より弱いけど、守らなきゃいけない。守るために死んではいけない。死なないために殺さなきゃいけない。
分かっているけど。
「でも、嬉しかったわ。無理矢理あんな場所に連れてった私に、まだ着いて行くと言ってくれて」
「華琳は、なんで俺をそんなに期待してくれるんだ?突然現れた不審者の俺に。俺はまだ戦えないし頭が良いわけでもない。金も無けりゃ地位もない。何も無い俺を、どうして……」
「言ったでしょ。私、人を見る目はあるのよ。初めて会った時、殺されるかもしれないって時にあれだけの目を出来たんだもの。磨けば光るかもって思ったのよ。膝は震えるいたけどね」
そう言って華琳が立ち上がると、服を脱ぎ始めた。
「は?…………な!!!だっ!ば!ちょ、かり、何して!!」
見てしまった。
バッチリ見てしまった。
女性の裸を初めて見てしまった。
小さいけどしっかり自己主張してる胸を。程よくくびれた腰を。柔らかそうなお尻を。スラッと伸びる白く綺麗な足を。
ガッツリと、しっかりと見てしまった。
「何って、私も体を流しに来たんですもの。貴方がいたから話をしていただけよ」
華琳は俺の視線なんか気にも止めずに川の中へ入っていく。
急いで荷物を纏めて茂みの向こうへ隠れる。
心臓が壊れる。見た。見ちゃった。女の子の裸。惚れた子の裸。
ドッドッドッと太鼓のように鳴る胸を抑えて息を整える。
「貴方も入れば良いじゃない。気持ちいいわよ」
「ば、バカ!!女の子が男の前で裸になるんじゃない!何かあったらどうするんだ!」
「でも、貴方は私を襲う勇気なんかないでしょ?なら安心じゃない」
「バカ!そういう事じゃないだろ!あぁ、くそ!向こうで待ってるから終わったら呼んでくれ!」
そう言い残して急ぎ足でその場を離れる。
背中から華琳の笑い声が聞こえてくる。
くそ、弄ばれた!
男の子の純情をなんだと思ってるんだ!
「一刀。強くなりなさい。貴方はいずれ……」
空を見上げ、一刀に届かない言葉を呟く。
川の流れる音だけが静かに華琳を包み込む。
翌日、昼。
俺は春蘭にしがみつきながら馬に乗っていた。
いや、乗っているとは言えない。春蘭の腰に腕を廻して振り回されていた。
「おど──────ざ──────ん!!!!!!おが────────ざ──────ん!!!!!」
「はっはっはっはっはっ!!情けないぞ北郷!!男がそう簡単に泣くんじゃない!!はっはっはっはっはっはっ!!」
昨日華琳はゆっくりと進んでくれたが、春蘭はそんな事はしてくれない。
愛馬を鞭打ち、全速力で荒野を走り抜ける。
後ろから着いて来る秋蘭がドンドン小さくなっていくのが見える。あっちに乗せて欲しかった……
「振り落とされるなよ北郷!落ちて死んでも拾ってやらんからな!!」
「ああああああああああああ!!ママぁぁぁあああああぁぁぁあぁぁああ!!!!!」
「はっはっはっはっはっはっはっは!!!」
────────────────────────
「視察?」
「ええ。貴方と会う少し前に洛陽北部尉になったのよ。で、兵も集まったしせめて自分の持つ地域だけでも治安維持する為に各村に兵士の駐屯所を作りたいの。それの下見ね」
朝、華琳に呼び出された俺と春蘭達はその下見に出るようにと告げられた。
北部尉ってのは官位の1つらしく、その区画の治安維持頑張りなさいよってやつらしい。
昨日集まった人達の最初の任務として、部隊をいくつかに分けてそれぞれが方々の村に出向いて村長と話したり立地を調べたりをして来いとの事だった。
「それはまぁ分かったけど、俺はどの部隊に着いて行けば良いんだ?」
「貴方は春蘭と秋蘭に着いて行きなさい。春蘭、一刀を鍛えてやってね」
「お任せください華琳様!コイツの泣き虫根性、私が叩き直してみせましょう!!」
なんか凄い不穏な話が俺を置いて進行している気がする。
村の視察に行くののどこに鍛える要素があるんだ。
俺の不安を他所に春蘭は俺の服を掴んで引き摺りながら意気揚々と歩き出す。
そして、現在に至る。
鍛えるってこういう事だったのか……
振り落とされない、吐かない、死なないを目標にただただ必死に春蘭の腰にしがみつき数時間振り回されていた。
日はテッペンより少し傾いてるくらい。
ようやく春蘭が止まってくれて、少し休憩がてらお昼にしようと提案すると、それをピシャリと止められた。
「それは後だ。ふざけている場合ではなくなった」
春蘭の肩越しに身を乗り出して前方を見ると目的地の村が見えた。
だが、なんだか慌ただしい。
じっと目を凝らす。
年老いた女性が男に荷物を盗られ、その拍子に転んでしまった。
その男は、頭に黄色い布を巻いていた。
「黄巾賊!くそっ!春蘭!早く!!」
「分かっている!掴まれ!!」
春蘭の腰に腕を回してしっかりと掴まる。
そろそろだとは思ってたけど、まさか昨日の今日だとは。
詳しい人数は分からないが、村を襲っているのだ。少なくとも数十人単位で動いてるはず。
確かに春蘭は強いが、何十人にも囲まれるとキツいだろう。しかも今は俺と言う荷物を抱えている。
爆走してたおかげで秋蘭とは大分距離が開いたらしく、後ろを確認してもその影は見当たらない。
つまり俺と春蘭の2人で対処しなくてはならない。
腰に回した腕に力が入る。
覚悟を決めなければ。
そう思っていると春蘭が手網を引き、馬は急ブレーキをかけた。
村まではまだ数十メートル離れている。
早く駆けつけないと被害が増える。
春蘭を急かそうと顔を上げると、俺たちの目の前に男が降ってきた。
空から女の子が。ではなく男が。
この男は腰に黄色い布を巻いており、暴れてる黄巾族の仲間である事が分かる。
だが何故上空から。
何があったのかともう一度村に目を向けると、直径2メートル程の鉄球が次々と黄巾族の男達を殴り倒していた。
「早く!!いなく!!なれぇぇぇぇぇぇ!!!」
聞こえてくるのは女の子の声。
小さな女の子を中心に振り回される鉄球に為す術なく倒される黄巾族。
俺の肩よりも低い女の子があんな物を振り回してるってのか?
「くそぉ!虫みたいに次から次へと!」
その少女の視線の先には後ろにいた連中だろうか、30人くらいの黄巾賊が少女へ向かって走っていく。
それを見た春蘭は鞭を打ち一気に駆け出す。
「北郷!手網を任せた!」
「えっ!そんな急に!」
春蘭は猛スピードで走る馬から飛び、その勢いのまま賊の中心に切り込む。
俺は少し離れた位置に馬を止め、先程の倒れたおばあさんを担ぎ上げて村まで走る。
まずは春蘭が戦いやすいように障害や不安材料を取り除かなければならない。
倒れてる賊を避けつつ物陰に隠れおばあさんを降ろす。
「大丈夫ですか、お怪我は?」
「ありがとう、怪我はしてないよ。でも、皆の食料が……」
辺りを見回すと、どの家も酷く荒らされ、壊されている物まであった。
さっき走って来たのは後ろで荷物を受け取り纏めていた部隊だろう。
あの人数で来たという事は荷物番は居ても数人……俺1人で行けるか……
「分かりました。必ず取り返します。危ないからここから動かないで」
そう言い残して、戦う2人の横を通り抜けて奴らが走ってきた方向へ走る。
少し離れた位置にやはり大量の荷物と、それを見張る男が4人。
意を決して剣を抜き、男たちの前に立つ。
「ここを曹操様の領地と知っての狼藉か。全員助かると思うな」
男達は最初は訝しんだが、相手が俺1人だと分かりそれぞれ武器を取ってニヤニヤと笑いながら近づいて来る。
「オイオイニーチャンよぉ。お前みたいなヒョロガキ1人で何が出来るってんだよ。こっちは4人。死んでも知らねぇぜ?」
チームのまとめ役だろうか。他の男達より少し良い服を着た背の高い男が俺の前までゆっくり歩いて来る。
掌にじわっと汗が滲む。
笑いながら剣を振り下ろす男。
大丈夫、見える。
ガン!!
振り下ろされた剣を弾き返し、両手で剣を持ち直して構える。剣道の基本の構え。
大丈夫。落ち着け。コイツは爺ちゃんより遅い。落ち着けば対処出来る。まずは時間を稼げ。春蘭達がこっちに来てくれれば勝てる。それまで堪えれば俺の勝ちだ。
「チッ!ガキが調子に乗りやがってよぉ……死ねやぁ!!」
俺に弾かれたのが相当頭にきたのだろう。先程よりも攻撃が大振りになり避けやすくなった。
当たれば死ぬ。だけど、当たらなければ死なない。俺なら避けられる。返せる。
相手の動きに合わせて大きく、小さく、前後左右に動きながら攻撃をいなす。
全ての攻撃を流され、苛立ちがどんどん表情に現れてくる。
このまま続けてくれれば相手の方が体力が先に無くなるはず。そう思っていると
「お前らァ!!!袋にしろォ!!!」
その一声で後ろに控えていた3人が一斉に俺に襲いかかる。
くそっ、まずい。流石に3方向同時の対処は!
「しゃがめ!北郷!!」
後ろから突然聞こえた声に、咄嗟に身を低くすると「ぐうぅ!」という呻き声と共に、襲いかかってきた3人の動きが止まる。
3人共武器を落とし腕を抑える。その腕には矢が刺さっていた。
その男達の間を影が駆け抜け、次の瞬間にはあの背の高い男が後ろへ蹴り飛ばされた。
「よく持ち堪えた北郷」
春蘭はそれだけ言うと、倒れた長身の男の両腕を縛って動けなくする。
「大丈夫か北郷。遅くなってすまない」
後ろから秋蘭を乗せた馬が駆け寄ってくる。
秋蘭の手には弓が握られていた。
「さっきの矢って、秋蘭が?」
「ああ、なんとか間に合って良かった」
あの短時間で3本撃てるか……?まさか同時に?あの正確さで?
言いながら馬から降りると、しゃがみこんでる男達を縄で縛りつける。
「そうだ、さっきの女の子は?」
「怪我は無かったから賊を全て片付けてからこちらに来た。だが、少々問題もある」
「問題?」
「まぁ行けば分かるが……どうも我等を良く思ってないようだ」
どういう事だ?
別に恩を着せるつもりなんて微塵も無かったが、加勢して感謝されこそすれ何か悪く思われるような事なんてしてないはずだけど……
とりあえず盗まれた荷物と賊達を引いて村まで戻ると、先程のおばあさんと少々が待っていた。
ただ、その少女の顔は聞いていた通りこちらを睨んでいた。
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
荷物を渡すとおばあさんからは礼を言われたが、少女は何も言わずに武器をグッと握りしめ、体を少し震わせている。
怖いとかって雰囲気ではない。むしろ怒りを堪えてるように見える。
「すまない、村長はいるだろうか?話があるのだが」
「僕達はお前達に用はない。話もない。帰れ」
秋蘭の言葉を遮るように少女から冷たく返される。
完全に取り付く島もない。話が出来なければ帰るわけにもいかない。どうしようかと秋蘭と顔を見合わせていると春蘭が俺達の前に出る。
「村長に話がある。通せ」
「帰れ」
春蘭の言葉は静かだった。だけど、後ろから見ていても分かる。滅茶苦茶怒ってる。
「貴様に聞いているのではない。どけ」
「どいつもこいつも、いつもいつも偉そうに……お前達なんかとする話なんて無い!」
「季衣ちゃんや……この人達は助けてくれて、荷物も取り返してくれたんだよ。お礼を言わないと……」
「コイツらのせいで僕達はいつも苦しんでるんだ!いつも何もしない癖に税ばっかり持ってく!!何もしないから村が襲われる!!こんな奴らなんかにお礼なんか言う必要ない!!」
一切春蘭から目を離さない。
後ろから見てるだけでも背筋が凍りそうな程全身から怒りを放ってる春蘭に対して微塵も恐れを抱いていないかのようだ。
この子の憎しみは俺達に向けた物じゃない。
俺達のなんかよりももっと上。
国や政治、役人。
そう言った物全てを憎んでる
国のトップが私欲に溺れ、自分たちの財布を温める事しかしないでドンドン腐っていった結果が漢王朝の衰退。黄巾の乱。
「今は流琉もいないからここは僕が守らなきゃいけないんだ。お前達にも、盗賊なんかにも、ここは好きにはさせない!」
「そうか。ならば武器を取れ。力ずくで通らせてもらおう」
「ちょ、春蘭!ダメだ!こんな事しても意味がない!」
「黙っていろ北郷。お前は口を挟むな」
言うより早く春蘭が切りかかる。
少女は鉄球に繋がる鎖でそれを受け止め、剣の腹を殴る。
横に弾かれた事でよろめく春蘭の顔を蹴りが追う。
くそ!なんとか止めないと!ここで殺し合いをしてなんの意味がある!
無駄な血は流しちゃダメなんだ。話し合いで解決しないと!
「北郷。大丈夫だ。いざとなれば私が止める。少し見ていよう」
おばあさんを後ろに下がらせて守るように前に立つ。
「でも、これじゃあ!」
「大丈夫だ」
秋蘭はそれだけ言って2人の戦いを見つめる。
俺にはどうしようも無いのだろうか。無駄な戦いはしてほしくないだけなのに……
「どうした。お前の拳も、お前の言葉も。その程度では何一つ相手に届かんぞ」
「うるさい!うるさい!!うるさい!!!自分達ばっかり安全なとこでお酒飲んで!ご飯食べて!何もしない癖に!!」
「聞こえんな。意志を通したいのならもっと力をつけろ」
「高いところから偉そうに言うな!!」
何度も互いの武器がぶつかり合い、避け、殴り、掴む。
一進一退の激闘。
これだけの攻防を繰り広げて息一つ乱さない春蘭の強さ。これが夏侯惇の力。
でも、その夏侯惇相手に1歩も引かず、素早い攻撃を受けながらも鉄球で地面を抉り、春蘭に一撃を与えようとする少女の強さも異常だった。
「お前達のせいで皆苦しむんだ!お前達がいるから!!」
「足らんと言っている!!」
「ぐっ!うぅ!!」
鉄球に繋がる鎖を引っ張るとそのまま少女を地面に叩きつける。
手から離れた武器の持ち手を蹴り、剣を向ける。
完全に勝敗は決した。
「力が無ければ声は届かん。何も守れん。相手を組み伏せ黙らせ、言うことを聞かせるだけの力を持て」
「全部……全部お前達が持ってくんじゃないか!力も、ご飯も、お金も!守らない癖に奪う!さっきの奴らと何も変わらないじゃないか!」
「我が主君はそれを変える為にいるのだ」
秋蘭が少女を起き上がらせてその前にしゃがんで話しかける。
「我らの主君、曹操様はこの地を、この村を、この国を救おうとしている。だから我らはここへ来た」
「曹、操……」
「聞いた事があります。洛陽で禁令を犯した宦官を切ってそれ以来一帯は法を犯す事が無くなったとか……あの曹操様が?」
「各地の村に兵を置くんです。盗賊や不当に税を徴収しようとする役人から村を守るために」
おばあさんと一緒に少女の汚れを払い、傷の手当をする。
どうやら春蘭は本気で切ろうとはいていなかったらしい。小さな擦り傷切り傷は沢山出来てしまっているが、命に関わる傷は無さそうだ。
「我らと共に来ないか?」
「え?」
春蘭からの突然の提案。
確かに、春蘭とあれだけ渡り合ったんだ。
俺達に加わってくれれば大きな力になる。
ん?……あれ?こんな流れの話……ゲームでも見たような……
「ここを守りたいのだろう。私達と共に、この村だけではなく、皆を守らんか?」
「ボクが……皆を……」
「おお!良いじゃないか季衣ちゃん!この村から武将さんが出るなんて大出世だよ!」
「でも……ボクは……」
「兵隊さんが来てくれるんだし、ここは大丈夫だよ。季衣ちゃんもいっぱい食べておっきくなってきな。そしたらまた、ここを守ってちょうだい」
「ボクが行っても良いの?ボクは、皆を守れるの?」
「ああ。お前の力はその為にある」
春蘭のその言葉に少女は拳を握る。
顔を上げ、まっすぐに春蘭を見て。
「ボク、許褚です!真名は季衣。ボクに、皆を守らせてください!」
少女が頭を下げて名乗る。
やっぱりだった。
ゲームの許褚は大男だったから最初は全く分からなかったが、確かに言われてみればあんな鉄球を簡単に振り回す力は許褚って感じがする。
その後、春蘭達も真名を季衣に預け、村長さんのところへ案内される。
賊が襲ってきてから村の皆を1箇所の集めて若い男の人達がそこを守っていたらしい。
村長さんと俺で一通り話しも終わり、1度俺達は洛陽へ戻る事にした。
「では後日、詰所を作りに職人と兵が来ます。皆さんの家はその時に一緒に修復させてもらいますので、少し不便だと思いますけどそれまで辛抱してください」
「とんでもございません。私共の村を守ってもらえるだけでなく壊された家まで直してもらえるなんて、今までではありえませんでした。本当に感謝しております。そして、どうか季衣をよろしくお願い致します」
そう言って深く頭を下げる村長と村の人々。
この子が本当に村の為を想って、皆がこの子の事を想っている事が分かる。
「じゃあ皆、行ってきます!」
大きく手を振りながら歩くその顔は、さっきまでの怒りも曇りもない、晴れやかな笑顔だった。
華琳って、原作ではそういう描写ないけど、めっちゃオギャれると思うんですよ
甘やかされて頭なでなでされたい…
誰かそういうの書いてください