季衣しゅき…
季衣が仲間になってから大分時間が経った。
その間に各地で暴れていた野盗や朝廷に不満を持った民が纏まりを持って動き出し、その中でそれらを纏め上げる張角、張宝、張梁の存在も確認された。
何進が大将軍に任命され、皇甫嵩や盧植、朱儁と言った黄巾の乱を代表する有名どころの名前も出てきた。
そして、それらと同じように董卓の名前も上がるようになる。
だけど、今はまだ各地で小さな小競り合いがあるだけで大きな戦いは無く、華琳も賊討伐をしながら軍備を蓄えている。
そんな中、俺はやはり特に出来る事などあまりなく、以前招集された人達の中から軍師に任命された人の中で手の空いた人に文字の読み書きや政治、軍略などを少しずつ教わったり、春蘭に訓練と称してひたすら追い回されるのを逃げ続けるなどして、ちょっとずつではあるが、ほんの少しではあるが、それなりに軍の中でも動けるようになってきた。
「ねーねーにーちゃん。暇だよー。ご飯食べ行こうよー」
「朝あんだけ食ってまだ食べ足りないのかよ。もう財布空っぽだよ……」
「ボクの仕事は力仕事だからいっぱい食べなきゃなんだもん。それに、どこのお店もみんな美味しいんだから仕方ないよ」
「そりゃ分かるけどさぁ。たまには部屋の中でのんびりするのも悪くないぞ」
たまたま一緒の日に休みだった季衣は俺の部屋に来ていた。
勉強をする俺の横で退屈そうに机に顎を乗せて文句を言う季衣の頭に手を乗せてわしゃわしゃと撫でる。
何故か季衣は俺によく懐いてくれて、暇さえあればこうやって俺の部屋に遊びに来る。
女の子が部屋に頻繁に遊びに来るなんて日本にいた頃は思いもしなかった事で、とんでもなく嬉しいのではあるが、この小さな体のどこにあれだけの量のご飯が入るんだと本気で怖くなるくらいの大食らいっぷりに、俺の少ないお給料が貰って直ぐに無くなるのでそれはそれで悲しくもあり複雑だ。
頭を撫でてるとふにゃっと溶けて「あぇあ~~」と身体中の力が抜けきった声を出して大人しくなるのは可愛い。物凄く。とてつもなく可愛い。俺にも妹はいるが、こんなになつっこくて可愛い生き物では無かった。
「じゃあさ、じゃあさ。今日はボクがお金出すから!だからご飯行こうよぉ」
「金あるのかよ。あるのに俺にタカってたのかよ!」
「そりゃあ貰ってるよ。殆どは村の皆に仕送りしてるけど、おやつ食べ歩きする分くらいは残してるよ」
そりゃそうか。
季衣ももうちゃんと将として働いてるんだから、お給料くらい出てる。
なんなら今は季衣の方が俺より偉いまである。
それなら当然俺よりも給料は良いはずだ。
あれ?俺それに今まで全く気付かずにご飯食べさせてたのか……
まぁ、特に使う物もないしご飯食べてる季衣は本気で可愛いからそれを見てるだけでも奢ってあげてる甲斐があるとは思うが、なんとも釈然としない。
「じゃあ勉強の休憩がてら季衣に初めて奢ってもらっちゃおうかな。どこか行く宛ては決まってるのか?」
「うん。兵士の人が噂してたんだけどね、新しく出来たお店がすっっっごく美味しいんだって!1度食べたらその味を忘れられなくて次の日も並んじゃうくらいらしいよ」
「そんなにか!今から楽しみだなぁ」
お昼にはまだ早いが、並ぶ事も考慮して少し早めに出る事にした。善は急げだ。
手を繋いで楽しそうに歩く季衣を見ていると、最初に会った時が嘘のようである。
あれから季衣は春蘭の部下になり、華琳の護衛まで任されていた。
春蘭も季衣の強さを高く評価していて、自分の部下になってからの面倒見も良く秋蘭とは違ったタイプの姉妹のようにも見える。
言ってしまえば季衣に対してはかなり甘々だ。
季衣も春蘭の事をかなり信頼しているようで、何処に行くにも春蘭の後ろをちょこちょこと着いて回る季衣はもうなんて言うか、最高に可愛い。妹にしたい。連れて帰りたい。
他愛もない話をしながら歩いていると目的の店の前に着いた。
中はまだ昼前だと言うのに大盛況で、店の外には待ちの列も出来ている。
「少し時間掛かりそうだな。椅子も用意されてるし、座って待ってようか」
「うん!」
元気よく返事をして当たり前のように俺の膝の上に座る。
本当あれからよくここまで懐いてくれたものだ。
客の回転も早く、次々に食べ終わったら出ていっては次の人が入っていく。
店員もそれなりに人数がいるようでドンドン注文を捌いて食器を片付ける。
「次お待ちのお客様ー」
店の入口からエプロンを着けた小さな子が俺達を呼ぶ。
その店員さんと俺の膝の上の季衣の目が合うと、2人とも大声を上げて驚いた。
「え!え、え?えぇぇええぇ!!!季衣!?なんでこんなとこに!」
「流琉こそどうして!!」
並んでる人、通行人、店内で食事中のお客さん、他の店員。
周りにいた全てが2人の声に振り向く。
「え、だって!アナタ村に居るはずじゃ!」
「流琉がいない間に色々あったの!」
手を繋いでワイワイキャイキャイと大騒ぎする二人。視線が突き刺さる置いてきぼりな俺。
小さな店員さんは店長さんに怒られ、とりあえずと俺達も店内へ案内される。
「お友達?」
「うん!幼馴染だよ!2年くらい前に料理の修行に行くんだーってあのオジサンと旅しに行ってたの」
あのオジサン。店長さんの事だろう。
その2人が修行の旅の末にここに辿り着いたって事だろう。
「お待たせしました。麻婆豆腐とラーメン特盛と炒飯特盛でーす」
先程の子が注文した料理を運んできた。
特盛というより、これはもう前にネットで見た牛丼屋のキングサイズレベルだ。
見ただけで胸焼けしそうな量だけど、これを残すこと無く美味しそうに平らげるのだから人の体は不思議だ。
店員の子は去り際に季衣に「もうすぐ仕事終わるから待ってて」と告げて厨房へ戻って行った。
まぁ久々の再開なんだ。話したい事も沢山あるだろう。
料理を食べ終えて2人で目の前の小物屋を物色していると店員の子が走り寄って来る。
「季衣、お待たせ。お兄さんもすみません。時間を取らせてしまって」
「いいよいいよ、気にしないで。それよりも2人は積もる話もあるだろうからゆっくりでいいよ」
季衣は天真爛漫と言った感じで常に元気いっぱいだけど、この子は背丈こそ同じくらいだけど大人しく礼儀正しい子だ。
近くの店で桃饅頭とお茶を買って3人で座る。
そしてやはり当然のように季衣は俺の膝の上に。
そんな季衣を見て驚いたような顔をするが、とりあえずお茶を1口啜って話し始める。
修行の旅に出てからあった事。どんな料理を作れるようになった事。山で熊を素手で仕留めた事。季衣も素手で猪を仕留めた事。村が賊に襲われ、今は曹操の元で働いてる事。今の村の状況。
熊と猪はおかしいだろ。
途中お茶のおかわりを貰いながら1時間程話してひと段落。
「流琉も一緒に来ない?」
饅頭を美味しそうに頬張りながら何気なく言う季衣。
そりゃこの子の目も丸くなる。
「旅もとりあえずは終わりなんでしょ?じゃあ一緒に戦おうよ。流琉が居てくれたら誰にも負けないよ」
話を聞く限りこの子は季衣と張り合える実力の持ち主なのだろう。素手で熊倒しちゃうくらいだし。
現状うちの将は春蘭、秋蘭、季衣のスリートップだけど、もしそんな子が入ってくれれば更に強くなる。
勿論他にも強い人は居るし、武将個人がいくら強くても戦に勝てるというわけではないが、入ってくれればこの上なく頼もしいだろう。
「でも急に知らない子が来たら迷惑じゃない?それに、私お店のお仕事もあるし……」
「ボクも一緒にお願いするよ!お店は……どうしよ……」
「あら、私は構わないわよ?」
2人が頭を悩ませて居ると不意に俺の顔の横から聞きなれた声がした。
あまりにも急な事に思わず仰け反ってしまうが、手に持ったお茶だけは零さなかった。
よくやった俺!季衣に火傷させてしまうところだった。
「急にビックリするだろ!不意打ちはやめてくれよ華琳」
「貴方がしっかり注意してれば問題ないでしょ?私の可愛い季衣に火傷なんてさせたら許さないからね」
「死んでもさせないよ。それより、どうしてここに?」
見れば後ろには春蘭と秋蘭も居る。
「最近噂の店に行こうと思ったのだけれどもう店仕舞いだったのよ。仕方なく帰ろうとしたら貴方達が見えたから少し盗み聞きさせてもらったの」
と、なんの悪びれもなく盗み聞きしてたと言われてしまっては怒るに怒れない。
「え?え?あ、えって、あの、えっと……」
突然曹操が現れればそりゃあそんな反応にもなるだろう。
それに後ろにはもうかなりの有名人になった夏侯惇と夏侯淵までいるんだからパニックになるのも分からんでもない。
それにしても、曹操の話をすると曹操が来るって本当だったんだな。
「店には私から話しましょう。人手が足りないのならうちの料理人を手配するし、手の空いた時には貴方も手伝いに行けばいいわ。それでどうかしら?」
突然現れた華琳からの突然のお誘い。
言ってしまえば曹操完全バックアップの店になるのだ。
しかも華琳の家に務めてる料理人さん達の作る料理はとんでもなく美味しい。
美食家で自分でも料理を作る華琳の家に務めるのだから相当なレベルだ。それこそあの店の料理にも引けを取らない。
そんな人達がサポートに入れば店を回すことにのんら問題はないだろう。
店長さんからしてみたら弟子とかにするつもりで一緒に長旅をしていたのだろうから、そんな子が急に引き抜かれたらたまったもんじゃないだろうが、最大限以上の支援があるのなら文句は出ないだろう。
それに、もし華琳があの店を気に入ったらお抱えにしちゃいそうでもある。
どう転んでも店長さんへの負担は掛からないような配慮はするらしい。
「どう?私としても季衣と張り合えるという貴方の力が欲しいのだけれど」
「村の事も、季衣の事も凄く感謝しています。そしてお店にも配慮いただいて、ありがとうございます。もし私でもお役に立てるのでしたら、是非お願いします!」
立ち上がって深く頭を下げてお礼を言う少女。
「そう、嬉しいわ。ところで、貴方の名前と真名を教えてもらえる?」
「はい!典韋と言います。真名は流琉。よろしくお願いします!」
そう言ってもう一度深く頭を下げる。
典韋。
まじか。
まじか。
いや、許褚がこんなに小さくて可愛いんだから何もおかしくはない。
おかしいけど、おかしくない。
ただ、悪来なんて言われてた豪傑がこんな可愛いとは誰が想像出来ようか。
一緒に働けると喜んで饅頭を食べる季衣の頭を撫でながら少女、典韋を見る。
まじかー。
「目がやらしいぞ北郷」
ボソッと秋蘭に耳打ちされる。
そんなつもりで見てたんじゃないわい!
こうして、曹操の2大護衛武将の許褚と典韋が揃った。
軍が強くなっていくと共に、着々と大きな戦いへ時間は進んで行く。
呑気にお茶なんて飲んでいるが、すぐそこまで戦火は迫ってきていた。
夜。
勉強も一段落し、灯りを消して布団に潜る。
ゆっくりと風呂に入る事もあんまり出来ず、やはり疲れが溜まってきているのだろう。
目を瞑ると直ぐに眠りについてしまった。
「一刀、少しいいかしら」
一刀からの報告で聞きたい事があったから部屋まで来たけれど反応がない。
部屋に入ると、すでに眠っているようで返事はなく、小さな寝息だけだった。
ふぅ、とため息をついて寝ている一刀の横へ腰を下ろす。
まったく。私がまだ仕事をしているというのに、呑気なものね。
なんとなく一刀の髪に触れる。
んぅ、と反応するのが面白くて触る場所を色々変えてみる。
鼻、頬、おでこ、耳。
それぞれ違った反応を見せるのがなんだか楽しくてずっと見ていられそう。
手を離すとまた静かに寝息を立てる。
頭を撫でてみる。
呑気で幸せそうな寝顔が和らぐ。
「一刀」
最初は突然私の前に現れた、ただの不審者だった。
その後、自分は未来から来たなんて突拍子もない事を言い出し、私の配下になってからは色々と私に尽くしてくれた。
半ば無理矢理連れ出して、初めて人を殺すところを見せた。
それでも私に着いてきてくれると言ってくれた。
最初は文字も殆ど読めなかったけど、時間を見つけては勉強をしていたようで、今では少しではあるけど私の仕事を手伝えるようになってきた。
武術に関しても祖父から教わっていたようで基礎は出来ていたからそれを実践で戦えるように鍛えている。
兵や民だけでなく、季衣達にも慕われている。
将としてはまだまだだけれど、一刀は今では無くてはならない存在になった。
「一刀」
頬を撫でる。
柔らかいけど硬い。
男としての力強さを感じる。
ねえ、一刀。
貴方は何故、私の前に現れたの?
何故、私に尽くしてくれるの?
何故、貴方は私の心を乱すの?
他の男と話している時とは全然違う。
一刀と話していると心が暖かくなる。
一刀を見ていると顔が熱くなる。
「一刀」
何度も名前を呼ぶ。
貴方の名前を呼ぶのが嬉しい。
貴方に名前を呼ばれるのが嬉しい。
貴方に触れるのが嬉しい。
「ん……」
無意識。
自然に、気づいたら私は、一刀に口付けをしていた。
春蘭達とは何度もしたけれど、そのどれとも違う。
男の子への私の初めての口付け。
「こういう事は、男からするものよ」
2度、3度と口付けが止まらない。
触れるだけど浅い口付けは、次第に長くなっていく。
自分の意思ではなく、体が一刀を求め、止まらない。
どんどん心臓の鼓動が早くなるけど、苦しくない、満たされる感覚。
唇を合わせるだけの幼稚なその行為が、更に私の脳を溶かし、心が深く、深く沈んでいく。
「ん……はぁ……ダメね……」
自分はもっと気持ちを律する事が出来ると思っていたけれど、我慢出来ずに口付けしてしまったし、1度してしまってはもう止められなかった。
流石にこれ以上すると一刀を起こしてしまいそうだし、仕事もまだ残っているからとなんとか踏みとどまって立ち上がり、もう1度だけ一刀の頭を撫でてから部屋を出る。
また……来ようかしら……。
朝。
おはようございます。
こっちの世界に来てからどれ程の時間が経っただろうか。
怖い思いも沢山してきたけど、可愛い女の子に囲まれて、露出の多い服着た人達と話をして、好きな子の裸を見て。
思春期男子が様々な刺激に囲まれて、それでも忙しさと疲れで今まで出来なかった事がある。
オナニーである。
そして今。
わたくしは目覚めてから布団の中の違和感のせいで、起き上がる事が出来ないでいる。
股間のあたり。
疲れ。恐怖。欲望。刺激。我慢。
色々と混ざり合い、長時間発散させることの無かったそれは、それまでの全ての力をここで、爆発したのだ。
それらが全て解き放たれ、久々の感覚に気持ちよさと心地良さを感じる一方、どうやって処理しようか、誰にもバレずに処理出来るだろうかと寝起きの脳みそをフル回転させる。
なんとしてでも、この夢精によってぐっちょぐちょになったパンツとズボンを見つからずに洗わないとならない。
侍女さん達の行動パターンから完璧なプランを練り上げ、勝利を確信して部屋を出ると丁度春蘭と目が合った。
俺の手に持つ物を見て、自体を察し、そして。
大爆笑しやがった。
流琉しゅき…