Purgaturium/英雄 cupiditas 作:トラロック
孤児院から戻った子供達は居間に向かうと誰も居ない事を確認し、それから各自散開して掃除や食事、風呂の様子を見ていく。
寝室に向かった
白い髪の
衣食住を与えられた彼らは方法こそ教えられたが掃除と食事の用意は自由意志に任せられていた。
どうせ食べるなら美味しい方がいい。その意見に全員が頷いたので料理を習って作るようになった。
アタランテは最初、外食だけの生活になるのか、と危惧していた。――場合によればそういう可能性があった、というだけで今の生活に不満は無い。
「たくさんおしっこかけられたのにくさくないね」
通り過ぎるパリスに向かって匂いを嗅ぐニキチッチに不満を表す。
身嗜みはこの家で生活するようになって丁寧に
孤児として路上生活していた時はもっと臭い世界で生きていた。今でも孤児院に帰ると得も言われぬ独特の匂いに眉根を寄せるが――
風呂のある生活がいかに恵まれているかよく理解した。
汚い事ばかりさせられているがうがい手洗いをするようにと同じくらい言われている。扱いは酷いけれど投げっ放しにせず、後片付けにも気配りができるところは尊敬に値する。――でも、何の意味があるのか分からない事をさせられるのは非情に嫌だった。
無理矢理感は否めないが殴られるような事はされなかった。そこが不思議だな、と。
「トイレ係からおしっこ係になったみい」
「……やりたいなら代わってもらってもいいけど」
二人がふざけているとクリュティエが掃除は終わったの、と眉根を寄せつつ聞いてきたのでそれぞれ自分のやるべき事を見つけに移動した。
残ったクリュティエは呆れつつ台所に向かい何を作ろうか思案する。孤児院の帰りにオラリオ名物の『ジャガ丸くん』という揚げ物を使ってみようか、など鼻歌交じりに食材を選別し始めた。
生活習慣において正確な時間を刻んで行動しているわけではない。外の景色だったり、その日の気分で決めたりすることが多い。
元々食が細かったアタランテは朝と晩に少し食べる程度だった。今は一日三回皆で揃って食事する。
果物が好物であること。それ以外では体力が付きそうなものを求められた。だが、子供達にはそれが理解できなかったので近所に意見を聞いて作るようになった。
目隠しした少年も今は普通に存在しているが彼について深く詮索する事を禁じられていた。分かっている事は自分達と同じ孤児である事くらい。
この奇妙な共同生活も二か月を過ぎようとしていた。
いつもであれば昼食の時間だが、家主であるアタランテが起きたのは数時間も後だった。
正確な時刻を決めているわけではないが子供達は彼女が目覚めまで待たなければならない、という命令は受けていないので勝手に飲み食いを始めていた。
時間になったら起こしてくれ、一緒に食べよう、とは言われていないので待っているべきか子供達はしばらく悩んだけれど。
寝起きの彼女は髪の毛が爆発した様な乱れた髪型になっていた。服は着ておらず。まだまだ寝足りないような顔で杖を突きながら食卓に向かってやってきた。
途中で音の大きな放屁が聞こえた。
「ふ~。もう昼か?」
「昼は過ぎてます。私達はもう食べました……」
クリュティエの言葉に顔を顰めるような表情になったがそうか、と言って椅子に座る。
歩くのが辛そうな様子だったが何も言わないのでどうすればいいのか、子供達は心配になった。
こちらから声をかけると普通に返事を返すので身体は大丈夫なのか、どこか痛いところがあるのか尋ねていった。
彼女は眠気に襲われていて腰が猛烈に痛いと述べた。
背筋を伸ばすと嬌声に似た呻き声を発する。一息ついてから腰を揉んでくれ、と言われたので三人でジャンケンして担当を決めた。
力があるのはニキチッチだが今回はパリスが担当する事になった。
少女二人が彼女の食事を用意するまで背後から女性の腰を強く揉み込んだ。その後、色々と細かな注文があったが
筋肉痛が解消されていくにつれて表情が柔らかくなり、肩も揉むことになった。――ついでとばかりに尻尾と獣耳も考え着く限りの方法で
一通り終わる頃に彼女の前に食事が並べられる。
折角用意してもらった料理なので冷める前に食べようとしたところで
驚愕した様な表情になった彼女の様子に子供達が――方向的に少女達が――驚いた。
深くため息をつきつつ少年を起こすように指示が出されると三人はそれぞれ戸惑いつつ寝室に向かった。
着替えもままならず全裸の少年が――こちらも筋肉痛で呻いていた――子供達に担がれて居間に連れてこられた。
動くたびに身をよじって苦しそうにしているのを見るとさすがに良心が痛んだ。
とりあえず椅子に座らせて腰と肩を揉むように指示した。
揉まれてすぐに悲鳴のような呻き声を発したが少しずつ気持ち良くなってきたのか、穏やかそうな表情になっていった。
(あのままでは満足に動けまい。さすがに朝昼晩は無茶だったか。……まだ晩が残っていると思うと気が重くなる)
朝寝する時、勃起していた陰茎は寝ている間に小さくなっていたが、今は
テーブル越しから少年のの様子を見ていたアタランテからは見えなかったが子供達からはよく見えていた。
(疲れていると判断力が鈍るな)
少年の様子を眺めつつ自分で決めた事をすぐに撤回するのは気持ち的にも気持ち悪いと考えた。
子供達の献身によって身体が幾分楽になったところで風呂場に行くぞ、と断言するように言い放つ。その言葉で全員が大事な事を思い出した。
今日は食前に性行為する日だ、と。
テーブルに乗せた料理は後で温め直す為に一旦台所に移して虫が付かないように大きな器を被せた。
「おねえさん。疲れているのにせいこういするの? ぜったいやらないとだめ?」
「私にとっては大事な事だ。汝らは衣食住と引き換えに手伝う事が
はっきりと断言され子供達は意気消沈して項垂れた。
身体を壊してまでする事なのか、と疑問を覚えるが大事な事だと言われてしまうと反論できなくなる。
それと衣食住を与えられているので文句を言うわけにもいかない。
「
「……はい」
「うん」
不遇な身の上でなければ子供達に命令などしないし、したくない。
介護してくれなければもっと惨めで哀れな毎日を送る事になっていただろう。
今も身体を心配してくれる彼らに突き放すような事しか言えない。他の言葉が思いつかなかった。
それほど長く付き合う予定は無いが必要以上に突き放す事もない。
家族というよりは家主と従僕という関係が丁度いいか、と。
心配する子供達をよそに風呂場向かう。その後を追うように目隠しした少年に肩を貸して連れて行く。
掃除を優先して湯を沸かすのを忘れてしまったがアタランテは今からでも構わないと怒らずに言ってくれた。
すっかり冷たくなった防水ベッドに腰かけると――
「きゃっ!」
と、悲鳴を上げて飛び上がった。
不意を突かれた形のアタランテは悲鳴を上げた事に羞恥心が刺激され、見る見るうちに顔が赤くなった。
冷たいトイレの便座に座った時以来の失態だ、と項垂れる。
顔の温度が高くなったせいで、すぐにベッドの冷たさが気にならなくなった。――尻は慣れたが背中はそうでもなかった。
少しずつ慣らしていって悲鳴を上げないように我慢した。
一息ついてから個別に指示を出す。
「パリスは温かくなった湯を軽くかけてくれ。この少年にもな。クリュティエとニキは乳首を吸わなくていい。揉むだけだ」
それぞれ了承し、配置につく。
ここに来るまで少年はずっと勃起していた。そのまま歩く姿を見ていた少女達は何だか格好いい男に見える、と不思議がった。比較対象にされたパリスはまだ五歳なので仕方が無い。
「動きは朝と一緒だ。すぐに限界が来るかもしれないが、余裕持って果てる前に止めろ」
忠告が終わった途端に少年の腰の動きが始まった。
胸を揉みつつ少女達は少年の様子を観察した。
疲れか残っているかもしれないが、それでも息が荒くなるのが早いのは何故なのか、と疑問を覚えた。
数分ほど考えた結論として最初から全力を出しているから、となった。
今の少年は視界が塞がっている。相手の様子が分からない状態だ。――これ以上は子供の想像の範囲外のようでいくら考えても納得のいく答えは得られなかった。
集中している現場とは裏腹に湧いた湯を健気にアタランテと少年の身体にかけていくパリスの行動が場を和ませる。
湯を掛け終わると――激しい運動中の少年は無理そうだったので――アタランテの両肩を揉み始めた。すぐに嬌声が聞こえたが性行為中の声だと割り切って自分の仕事に邁進する。
子供達にとってはアタランテと少年の性行為は他人事だ。共に快楽を共有することは出来ない。――
短時間で汗だくになった少年は半時前に行為を終えた。
動きが納まったところでパリスが彼の肩を揉む。すると口元を苦笑気味に歪ませた。
仰向けになったアタランテは口から涎を垂らしつつ放心しているようだったが数分とかからずに意識を取り戻した。
軽く首の調子を確かめた後、クリュティエに手を引かれて上体を起こす。すっかりベッドはアタランテの体温で温まり、気分も幾分か晴れやかになった。
「アタランテのあねさん。おしっこはいいの?」
(そういう事を自発的に言うようになったのか。……孤児院でもこの調子では困るが)
「前回はパリスだったから今回はどっちだ?」
ニキチッチは白い尻尾を振りつつクリュティエに顔を向けた。
彼女の様子を見て諦めに似た顔をし、軽くため息をつく。それから黙ってアタランテの下に来た。入れ違いでニキチッチは少年の身体を拭く事にした。
一度立ち上がり、太腿だけの左脚をクリュティエの肩に乗せる。――実のところ子供の肩に脚を乗せた風景が彼女にとって幸せを感じる瞬間だった。
彼らが
「相手が大人ならば喜ばれるかもしれないが、子供の汝らにはただただ迷惑だろう。こうやって相手の肩に足を掛けると至近距離で私の性器が拝める。ついでに小便が出るところを特等席で見物できるなら充分に客から金が取れると思わないか? ここは娼館ではないし、汝らは何も知らない子供だが……」
(……言われてみれば……。こんなに近くで女の人のこかんを見るのは今までなかった)
少女にとって他人の性器を触る事は興味深いけれど恥ずかしい事だと理解している。
触れようか、舐めようか迷っていると小便を飲むか、かけてほしいか聞かれた。
正直な気持ちとして他人に小便を掛けられたくない、と言いたかった。実際には尿道から出てくる様子を見るのが正しいと思った。
「出てくるようすがみたいです」
「よし、
そう言ってアタランテは腰を少し屈める。右足だけで体勢を維持するのは大変だった。
まず、お互いの左手を繋ぎ、彼女の右手は腰を掴んでもらった。それからすぐに放尿が始まりうまい具合に顔より下にかかってくれた。
クリュティエは今
もう少し視点が上だったら陰核が邪魔で見辛かったところだ。
少女が感動している間、アタランテの視点からでは彼女と同じ光景を見ることが出来ない。
首を無理に下げるか、無茶な体勢を取るか――
それ以外だと鏡越ししか思いつかない。
アタランテが小便を終える少し前に少年も尿意を覚えた。こちらも出てくる様子を見物する為に
彼の陰茎をニキチッチが掌で少し持ち上げ、いつでもどうぞと声をかけた。
何度か呼吸を整え、尿意に意識を向けてすぐに亀頭の先端から黄色い尿が勢いよく噴き出た。
尿道から出る事は二人共理解していた。
男女共に小便をする時は上から見下ろして確認する事はあっても間近で観察する機会は今までなかった。
パリスからすれば皮が剥けて勃起した亀頭というだけで興味深い事だった。
それぞれ放尿が終わると現場が静寂に包まれた。それから厳かに身体を洗い、水気を取って浴室から出た。
疲れの為か、性行為した後の二人は無言のまま遅い昼食を食べ、子供達に身体を揉まれた。
食べ終わったらすぐに寝室に向かい、二人は眠りについた。
外が暗くなり子供達は晩御飯の用意を始めようと思った時、急いで風呂を沸かして寝ている二人を起こし、身体の凝りを取る為に力を入れて揉み込んだ。
朝と昼に疲れるほど性行為に勤しんだ為か、二人共喋る元気が無く衰弱しているように見える。
このまま毎日同じことを繰り返せば身体を壊してしまう、と子供達は危機感を覚えた。
「死なないまでも寝込んじゃうよ」
心配のあまり泣きそうな顔でクリュティエは訴えた。
ニキチッチとパリスも同じ気持ちらしいことは見ていて分かった。
彼らがそう思うほど自分達――いや、
「……そうか。汝らが心配する程なら好都合だ。それでいいんだ」
彼女の言葉に三人は驚いた。
具合を悪くすることのどこがいいんだ、と言いたい気持ちが湧く。年上であるアタランテには考えが確かにあるのかもしれない。けれども、死にそうな顔をしている人を前にして心配しないでいられるほど無関心ではない。
普段は気丈な性格のニキチッチも薄っすらと涙を浮かべた。
「……毎日こんな暮らしでは身が持たない。とはいえ、何事もやってみなければ分からないものだ。今日を乗り越えたら少し休むとしよう」
「……今日だけにしてほしい」
あまりに心配されたので性行為は怖いもの、と受け取って将来忌避するかもしれない、とアタランテは僅かながら心配になった。
そう見えるような事をしている自分が悪いのだが、と少しだけ反省する。
実際、ここまで衰弱するとは思っていなかった。いや、子供達にはそう見えるだけで本当は疲れが取れていないだけかもしれない、と思ったが彼らには言わないことにした。
そもそもレベル
(疲れやすくなっている事は理解した。そもそも運動らしいことをしばらく控えていたから仕方が無い)
とにかく、自分はともかく少年の方は確実に疲労困憊の筈だ。
さすがにこんな状況を毎日続けるとなると――歳若いとはいえ――三日で死なないとしても廃人一歩手前、またはそのまま死ぬ可能性も。
心の臓が弱ければ性行為中に死ぬ可能性も否定できない。
身体に多大な負担がかかっているのは汗だくになった姿を見ていれば気が付く。
他人の
いずれ完全に関係を断つ事が決まっていても何か残してあげた方がいいかも、と少しばかり同情心が芽生えた。
同情的になろうとも
疲労が残るほど眠りが浅かったのか、黙っていると眠くなる。筋肉痛もすぐに復活するようで身体が休まった気がしない。
子供達が心配するように毎日は無理だな、と早々に結論を出した。
少年も足取りが
アタランテとしては本当の飢餓状態に追い込んだ方が都合が良いと思えた。だが、子供達が心配するのでやめる事にした。
彼らの情操教育の為にここで立ち止まれたのは――結果的にしろ――良かったのかもしれない。
一人で納得している内に少年が腰を掴んできたことが分かった。陰茎の挿入を手伝うのはパリスだった。その彼の仕事を少女達が見守る。
(チンチンを押しこむとちつってところがひらいてスルスルと入っていく)
三人がそれぞれ感心している内に亀頭が完全に入り切った。
少年はしばし動きを止め、何度も深呼吸を繰り返す。おそらくアタランテの言葉を待っている。
晩に
「……野生の獣らしく目の前の
言葉によって相手を興奮させる。ただし、アタランテは話術に優れているわけではない。毎回、思い付きで言っているだけだ。
とにかく相手をその気にさせる。興奮状態にさせれば何だっていい、というのは教えられた事か、拾った会話の一つだったのかは思い出せない。
あるいは自分の本能が適切な言葉を紡いでいるのかもしれない。
後から思い出すと恥ずかしい言葉をよく言えるな、と我がことながら感心した。
(私には細かな指示出しはやはり不得手だ)
「……言葉が浮かばないな。力いっぱい果てろ。手加減していると感じたら貴様のチンポを切り落として朝ご飯の具にするからな」
切り落とす、と聞いた時に膣内で陰茎が跳ねたのが分かった。
せっかく立派なチンポになったのに無くすのは痛い以上に恐怖した筈だ。手加減しないように唸り声が強まってきている。
「ジョキン、と斬られるのとスパッと斬られる方法のどちらが良い? 私のおすすめは食い千切りだ」
「……うぅ……」
怖がらせれば陰茎が縮こまってしまうところだが、興奮状態の少年には逆効果だったらしく、未だに低く唸り続け亀頭が小刻みに動いていた。いつでも始められるぞ、と言わんばかりだ。
一呼吸分の余裕を見てパリスに身体に湯を掛けように指示した。少女達は既にこれから始まる性行為に意識を向けている為か、普段以上に強く
「言っておくが短い時間で終わるなよ。……汝らは眠くなったら自己判断で寝てていいからな」
「は~い」
「わかりました」
「……もし、翌朝……、朝日が昇るまで頑張れたら……私の
言い終えた後、クリュティエに少年の尻を軽く叩くように言いつけた。
少女はがんばってと小さな声で声をかけてから彼の尻を叩いた。するとすぐに咆哮を挙げながら腰を前後に動かし始めた。
少年以外が外に漏れるのでは、と危惧した。しかし、アタランテはすぐに首を振り――声をかける余裕がなくなったので――黙ってされるがままになった。
朝日が昇るまで結構な時間がある。晩御飯前から始めたのだから無茶もいいところ。
我儘な家主からは最後まで付き合えとは言われなかったので、申し訳ないと思いつつ眠くなったら浴室から出ようと決めた。
少年は数十分くらいまで叫んでいたが今は
疲れが残っている身体で力いっぱい性行為する姿は見ている分には荒々しくて見入ってしまいそうになる。現にパリスは同性として尊敬の念を抱いた。
もし、アタランテが激しい動きで性行為したならば少女達の目が輝いていた筈だ。
単調な動きが続いているので時間の経過を計るのが難しい。だが、時を忘れるほどに見入っていたのは間違いないと子供達は思った。
時は残酷である。
気持ちの上では何時間でも続けてやろうと思っても身体は正直に反応する。
少年の荒い息遣いとアタランテの嬌声が満ちる浴室内は二人だけの体温で周りを温めていると言っても過言ではない。
三人の子供達も熱気に当てられ、汗ばんできた。
一時間と半刻が過ぎた時、少年の息遣いがくぐもった。それと同時に体勢が崩れる。
即座に立て直そうと試みるが足腰が震えて立っているだけで精いっぱいなほど。
子供達の嗅覚に嗅いだことのある不快に匂いが漂ってきた。
まだまだ続けなければ、という思いで腰を動かすも力が抜けたように膝が震える。
止まっている時間が長くなったので我に返ったアタランテは少年へ顔を向ける。
「終わるには早い。果てたのは一回だけか?」
そう挑発するように言うと少年は身体を震わせ、首を左右に振る。それから悔しそうに顔を歪ませた。
彼にとっては不本意なのかもしれない。思ったよりも早い段階で終わってしまった事に。
だが、果てたのは一度だけではない。それは射精を受けた本人が理解している。
最初の射精から感覚はバラバラだが今も射精が続いている。その為、動くたびに力が抜ける感覚に襲われて戸惑っていた。
それはまるで中々止まらない放屁に似ていた。
子供達からは分からないが、半刻ほど掛けて少年は果て続けた。
「……うう」
動けなくなった少年は膣に腰を押し付けた状態のまま嗚咽した。
チンポを切られたり食い千切られる事になると思って悲しんでいるのかもしれない。――言葉が酷いが少年を奮起させる方便だ。
慰めの言葉が出てこなかったので、動けだけ頑張ってみろと言っておいた。
泣きながら再開したが最初の荒々しい雰囲気は失せ、年相応の泣き虫と大差が無い。
震える足腰で腰を動かすと果てた感覚が襲ってきて動きにくくなる。
「……うん。そのまま続けろ。最後までな」
「……うん」
その後、少し動いては悲しそうな声を漏らし、震えが収まってもすぐに持続しない。
哀れな彼の様子を見ていると快感などどこかに吹き飛んでしまった。
これ以上は身体に触るかもしれないと思い、一人で動けないようだから少女達に引き剥がしを命じた。
二人に介護される形で引き離され、陰茎が膣から抜けると同時に射精が起きたが少女達は気付かなかった。
その後、少年は床に仰向けで寝かせられた。股間部分は白濁した粘液塗れで
「三人共、私の膣から
「……うわっ。すごいいきおいでながれおちてる」
ニキチッチが鼻を押さえつつ状況を説明し、年長者のクリュティエがまず膣から零れる白い粘液を舐めとった。味はとにかく苦かった、と。
次にニキチッチが舐めると小さく悲鳴をあげながら臭い臭いと連呼した。
二人が苦しみ悶えているのを横目で見ながらパリスも彼女達に倣って舐めた。
味は確かに苦いが転げまわるほどではないと感じた。だからといて美味しいとも思わなかった。
「そうやって交代しながら舐めとってくれ。それが終わったら少年の方も三人仲良く協力して綺麗にするように」
苦い粘液を舐めされられると分かったからか、返事は無かったが三人は諦めの様子で仕事を始めた。
膣から粘液が出なくなるまで半刻ほどかかり、少年の陰茎は咥えるたびに口の中に射精しているらしく、二往復する頃にアタランテに助けを求めた。
無理に追い詰めたり常に力いっぱい動くように命令した為か、身体がおかしくなったのかもしれない。だが、延々と射精することは出来ない筈だ。
男性は一度射精すると次にできるまで時間がかかるものだと聞いている。
(……子供ながらここまで出来るなら……大したものだと誉めるべきか。本当に残念に思えてきた)
「先っぽからとうめいなものが出てきた」
「しばらく放っておくしかないか。三人の内、
そう言うと三人は互いに顔を見合わせ相談を始めた。
言った後で既に先に三人は協力を果たしたし、寝る時間でもあるから自分がやろうかな、とアタランテは思った。
彼らの返答を待たずに床に下ろしてくれ、と頼んだ。
三人が協力して彼女の身体を床に下ろす。それから自力で少年の下に這いずりながら近づいた。
彼なりに力いっぱい頑張った事は認めなければならない。だが、どこか期待していた。
朝方になるまで続けられなかったので
自身の身体に起こった不調に戸惑う彼の陰茎をアタランテが含み、棒部分を左手の指で
数回ごとに射精しているのが舌の感覚で分かった。子供達には未だに不評――匂いと味――だが、
一気に出し切る為に指の動きをはめた。そうすると少年は快楽の感覚に襲われ腰を何度も跳ねさせる。そうして射精の感覚が無くなった頃に軽く息を吐いた。
「……落ち着きました」
「そうか?」
気持ちが落ち着いた後で少年の陰茎を口から出すと力が抜けたように垂れ下がった。
変な感覚が止まり、少年は荒い息遣いのまま安心した。代わりにアタランテの膣からまた白い粘液が零れ出て来たので子供達に吸い出させた。
幼子に精液の味を堪能してもらう光景に得も言われぬ背徳感が襲うが中止させる気は起きなかった。
それは口から摂取しても問題のない苦い薬のようなもの。――飲み過ぎればどんなものでも体調が悪くなるので自身も調子に乗り過ぎないように気を付けなければ、と自戒する。
予想外の事態が起きたものの当初の目的は達成した。
明日からしばらく性行為をやめ、体力をつける為に食事と睡眠をしっかり取ろうと誓う。
身体を洗い、水気を取って浴室から出るころには全員が眠気に襲われた。
今回は少年のチンポを舐めている間に小便を済ませた。他にやる事も無いし、このまま寝室に向かい眠ろう、と。
「今日は皆、ご苦労だった。晩御飯は……食べたい者だけ食べていい。私はもう寝る」
「分かりました。おやすみなさい」
「おやすみ」
と、挨拶したものの寝室まで運んでもらわなければならない事に気付き、非常にきまづい思いを味わう。
寝床で仰向けになった途端に身体が悲鳴を上げて思わず呻いた。平気そうと思ったが思っていた以上に疲れが溜まっていたことに驚く。
魔物を狩る時やダンジョン探索でもここまで分かるほどの疲れを感じただろうか、と過去を振り返ってみたが――思い出せない。というより未知の方法で生まれた疲労による痛みだ。
一日中寝ていただけの自分がここまで疲れるのだから少年はこの何倍も疲労と筋肉痛を感じている筈だ。子供ながらすぐに汗だくになるほどだ。
炎天下で肉体労働でもしなければ出ないような汗のかき方に見えた。つまり性行為はそれだけの運動量を消費する事になる。――寝ているだけで大して動かないアタランテはそこまで汗をかかない。元々の肉体強度が違うからと言われてしまえばそれまでだが。
(それよりもここまでやったんだ。さすがに妊娠したのではないか? 体内の様子が分からないから判断できないのが……)
いくら射精できるようになっても彼はまだ八歳ほどの少年だ。
それと揉んでもらった胸がどれほど大きくなったのか、左手で掴んでみたが――感覚的には変化していない気がした。
張りがあり、掴める程度には盛り上がっている。しかし、谷間がはっきりと出来るような光景にはなっていない。
反省と分析をしていると少女達に抱えられた少年がやってきて布団に寝かされる。彼も肉体的な疲労で苦しみ悶えた。普段は余計な事を言わず、疲れたらすぐに眠るような子も疲労している所を見ると子供も疲れる生き物なのだな、と改めて感心した。
子供は疲れ知らずと言われてきた。
筋肉は黙っていても付かない。幼い内から鍛えていけば精強な戦士にだってなれる可能性がある。
(それでも彼は少年だ。十年くらい経てば……と思わないでもない)
身動きのできない少年を寝かしつけた後、少女達は部屋の明かりを消して静かに退出していった。
疲れているのにアタランテはまだ眠れなかった。ついつい余計な事を考えて目が覚めてしまったらしい。
無心になって気持ちを落ち着けていると少年の寝息が聞こえてきた。
夜目に慣れてきた頃合いを見計らい大きな音を立てないように移動して魔力灯を点けた。
目隠ししたまま寝ている少年に突然の明かりは意味をなさない。
まだ寝ている事を確認しつつタオルを用意し、彼の下に這いずるように移動する。
疲労による為か、まだ身体が重く感じる。
(私だってまだ十八くらいの若さだ。まだまだ衰えるには早い)
いつが誕生日かなど覚えていないが秋ごろになれば自動的に敏が増えると思い込んでいた。
元々野生児の様な暮らしをしていたアタランテに正確な生年月日は存在しない。他の孤児達も見た目などで暫定的に年齢を決められることが多い。
少年の身体にかけられた掛布団を静かに剥がすと服を一切身に着けていない様子が窺えた。
二か月近い共同生活を送ってきて肉体的にもしっかりとした筋肉が付いているように見える。
すっかり小振りに落ち着いた陰茎も綺麗だった。
全てが終われば共に眠り、愛こそ語らないが褒めて
(汝のチンポよ。もう動けないか? 陰嚢は
そう思いつつ彼の陰茎を擦り、未だ無毛の陰嚢を揉む。
彼が小さく唸った後、散々酷使されたはずの陰茎が膨張を始め、何度か跳ねるように動いた。
陰茎を握るとすっぽりと隠れてしまった。これは彼がまだ子供で充分な長さになっていないからだ。
【シン・ファミリア】のアストルフォの陰茎は勃起時には二〇
包皮から解放されて何度も酷使した彼の陰茎は大人に比べれば柔らかいまま。形だけは立派に見える。亀頭より下には太く浮き出た血管によって猛々しさを表している。
陰茎を握ったまま滑らせるように上下に動かした。最初はゆっくり。少しずつ速めて様子を窺う。
寝ている少年が呻きだすが大きな寝返りなどは起きなかった。
(もう少し固く勃起しないと食い千切るぞ~)
そう思いつつ亀頭を甘噛みしながら手を動かし続けた。
噛む力を込めると危機感を覚えたのか、呻きから力む反応に変わった。
手を離しても倒れない状態になった事を確認し、亀頭を優しく舐めた。次に少年の腰に跨り自身の陰核と亀頭を擦り合わせた後、軽く小陰唇をなぞってから膣口に挿入した。
前のめりになって鼻を突き合わせる。
「汝は寝てていいがチンポは動いてもらうぞ。朝まで頑張らねば甘噛みで済まないと思え。果てなくていい分楽な筈だ。……もう少し
耳元で囁くように脅しも含めて話しかける。
脅す時は叩きつけるように腰を通す。すると彼は小さな悲鳴を上げる。
寝た状態で腰を動かすのは大変だと思うのでアタランテが応援しながら腰を動かす。ただ、いつ射精するのか分からないので今までは寝たままでよかった。
腰の上げ下げでも陰茎が萎える気配が無く、段々と興が乗り口元が緩み始めた。
上半身を倒すと身長差から彼の顔が胸の少し上に来る。ほんの二か月で身長が幾分か伸びたのか、と思った。
栄養価の高い食事を摂り、
このままだと十年もしない内に身長を抜かされる可能性もなくはない、と――何の根拠も無いが――思った。
深夜の寝室で熱い吐息をつきながら腰を動かすアタランテは同族の少年の獣耳を擦り、尻尾同士を絡め合った。
愛する男というよりは愛らしい子供の感覚で愛でた。
少年は疲れ切っていたのか、股間をずっと刺激されても起きる気配を見せず、
彼女の優しくない脅迫が悪夢として見ているのか、
「どうした? 怖い夢でも見ているのか? それから腰の動きが
寝ている為か聞き取れない小さな声で悲鳴を上げ、
それを繰り返しながら少年の頭を撫でたり、手を握り合ったりした。
「……調子が出て来たな。それでこそ
少し上体を逸らし、体重をかけて腰の動きを止める。
しっかりと結合部を合わせたまま彼の陰茎を人差し指と中指で挟み、弱い
チンポを切られる光景を夢で見ているのか、嗚咽しながら首を左右に振った。
指の力を強めると年相応の幼子のように泣き出した。
「頑張る気があるなら……、私の腰をしっかり掴め」
かける言葉は常に優しく、脅す時も怒鳴りつけない事を心掛けた。
恐怖に抗う為に少年は眠っているにもかかわらずアタランテの腰を掴んだ。
一つ頷いた後、軽い動作で転がり体勢を入れ替える。
「動きやすくしたぞ。いいか? 汝が果てるのは勝手だ。私の判断で軟弱だと感じたらチンポを斬る」
そう言いながら指で陰茎を挟む。
だが、本当に斬るつもりは無い。――本気を出せば弱体化した見であっても指だけで切れそうと思ったので彼女自身も少し怖くなった。
陰茎から手を離し、彼の片方の手を胸に乗せる。
「早くしなくていい。
少年は軽く唸り、少し前のめりになり彼女の胸を揉みながら腰を動かし始めた。
動きやすい体位なったお陰か、彼の動作は大胆になった。そうしないと酷い目に遭うと思っている為に泣きながらだが。
気持ち良かった場合は少年の尻尾を絡める動作を早くした。それと本当に寝ているのか目隠しを取ると目蓋はしっかりと閉じられていた。――目隠しは完全に湿ってしまった。
長期間暗闇の中で生活させていたので日常生活に戻れるのか心配になった。それは孤児院や子供達に任せようと懸念を振り払う。その間も彼は必死に腰を動かしていた。
動いている最中にもかかわらずタオルで彼の顔を拭いて水気を取った目隠しを装着させた。
言葉責めをやめてから結構な時間が過ぎた頃、窓から見える空が明るくなっきた。
悪夢にうなされて腰を動かしていた少年は随分前に力尽きて膣に陰茎を挿入したまま寝息を立てていた。
頑張って動いた彼を褒めて
沈黙した彼に掛布団を乗せ、背中を抱いた状態でアタランテも眠りについた。
朝食の用意の前に起こした方がいいと思った少女達が寝室に顔を出すとアタランテ達が抱き合ったまま寝息を立てている様子が見えた。
昨日色々と撤回されたがどういう風に寝ているのか確認してみることにした。
まず掛布団を静かに剥がすと籠った汗などの匂いが立ち込める。
(よだれが胸に……)
少年の顔はアタランテの胸の真ん中に収まる形で固定されていた。
うつ伏せで寝ていた為か、口から
接合部は挿入したまま動きは止まっており、粘液らしきものが張り付いていて呼吸する時に身体が動くと糸を引く様子が見えた。
「どうしよう」
「ずっとこのままだと重くて苦しくならない?」
二人とも眠っているので一旦引き剥がし、楽な姿勢で寝かせるべきという意見でまとまった。
すっかり見慣れてしまった男女の営みに泰然と構える二人の少女。
まず力のある白い髪の
寝起きから性行為に突入した少年に二人は驚いたまま困惑していた。
「あっ、いきなりせいこういしたからびっくりした。おにいさん、朝ですよ」
性行為中にもかかわらず彼の背中をさすりながらニキチッチは声をかけた。
クリュティエは乾いたタオルで背年の背中から下を
少女の声を聞いてから腰の動きが少しずつ遅くなり、周りを確認するように辺りを見回す。
目隠ししているとはいえ明るさは隙間からある程度分かる。
「一回はなれましょう。よだれとかおまたのところとかひどいことになっていますから」
「ゆっくり動かしますから。楽にしてください」
「……ああ。……もう朝か」
大きく息を吐いて少女達にされるがままの体勢を取る。
何時寝たのか、今まで何をしていたのか記憶が曖昧だ。外からの情報を殆ど遮断された状態なので仕方が無いのだが――
ニキチッチの手で膣口に挿入された陰茎を丁寧に抜き出すと白濁した粘液がいつも以上にまとわりついた。匂いも臭く腐っているのではないかと危ぶむ程だ。
亀頭まで抜き終わると膣口から大量の粘液が噴き出るように流れてきた。それにもかかわらずアタランテは気持ちよそうに眠ったままだった。
現場が耐えようもないくらい汚れて来たので大急ぎで温めた湯とたくさんの手拭いを持ち寄り二人の股間を綺麗にしていく。
さすがに指示も無いのに口で綺麗にする勇気が湧かなかった。ただし、陰茎の方は軽度の汚れだったので口に含んで舌で舐めとる事にした。
クリュティエは膣口に指を入れて――大雑把にだが――かき出すように粘液を取り除いてから手拭いで性器周りを綺麗に拭いた。
難関を経た後はいつものように二人を身奇麗にしていく。
「今日から休日みたいですし。起きられたら来てください」
「……ありがとう」
物静かな少年にお礼を言われて二人の少女は恥じらいつつ嬉しさを感じた。
少女が退出してからしばらくして目が冴えてきた少年は声を張り上げた。
彼は性行為以外で用件がある時だけ声を出したり、子供達に話しかけてもいいと許可を得ていた。
声がかかった二人は部屋に顔を出し、彼の着替えや洗顔を甲斐甲斐しくこなした後、手を引きつつ食卓の席に座らせた。
「アタランテのあねさんが居ないから目かくしは取っていいよ」
彼女はどういう理由でなのか少年と相対する時は目隠しを強要していた。それ以外は特に制限が無いので目隠しを取る事がある。
様々な言葉を身で聞いているので大抵のことは知っているし、理解している。少年としても如何しい事をしているという自覚があるので目隠ししていた方が気が休まる、ということで今まで文句を言わなかった。
子供なのに大人と性交渉を持ったなど、ここに居る子供以外には言えない。
皆より遅く起きたのですぐに食事が運ばれた。他の三人は既に食べ終えていた。
「いただきます」
扱いが
粗末な食べ物を与えられると孤児として路上生活していた子供達は危惧したがアタランテはその点に関して頓着しなかった。
共に外出する事が殆ど無いし、家の中での出来事について人に言えない事ばかりだったが内緒にする以外は比較的自由だった。いや、自由過ぎた。
子供達だけで集まっているのに会話が弾まない。それは家の中の事が特殊過ぎて誰にも言えない状態が続き、彼らも何を言っていいのか分からなくて無言になっている。
孤児院に行けばそれなりに会話を交わすが、秘密主義が静寂を生む原因となっていた。
(しずかだね~)
子供達が
外出する時は絶対に一人は残らなければならない、という条件は無いが自然と早めに戻って来るようになった。衣食住を与えられて風呂にも入れるので手放すには惜しい物件だからだ。
管理費について彼らに説明した事は無い。これは後回しにしてもいいと判断した。
五歳児の子供には難しい話しだと思ったからだ。一応、向こう一年間は不自由なく暮らせるようになっている。
アタランテが目覚めたのは昼に差し掛かった頃だった。筋肉痛が酷くて起きるのに何度も呻いてしまった。
ここしばらく単調な生活が続いているので時間経過が分からなくなってきていた。
一日経ったのか三日なのか。それとも二週間ほどか、と。
子供達との共同生活を初めて二か月が経過した時、思いのほか過ぎていた事に驚いたくらいだ。
掛布団を取り払うと裸の身体が見えた。
子供が抜いてくれたようで、身奇麗になっている事に苦笑する。それからお腹が鳴った。
(食欲が無くても腹が減ったら合図が来るのか。……それにしても起きるのが遅くなってきたな)
性行為した後は酷く疲れ、すぐに寝て体力を回復させようとしたが全く間に合わず、また疲れて眠る事を繰り返してしまった。
健康に悪いとは思うが心のどこかで焦りがあるのかもしれない。なにせ、今まで経験が無かった。何をするにも試行錯誤が必要だった。
軽く身体を伸ばした後、服を着るのも面倒になった彼女は裸のまま杖を持って起き上がる。
子供達の介護があればもっと楽に出来るけれど、一人で出来ないわけではない。
(いつも以上に身体が重く感じる。寝てばかりの生活はやはり駄目だな)
居間に向かうとパリス一人が部屋の掃除をしていた。
他の三人の姿が無いので外出しているのだと思った。
いきなり裸の女性が現れたのでパリスはタオルを探した。彼は未だに異性の裸体に慣れていない。
よく言えば紳士的だ。悪く言うのならば、とアタランテは思考を巡らせるが思いつかなかった。
「何か食い物はあるか?」
「は、はい。今用意します。……あの、タオルです」
恥ずかしがりながらタオルを差し出すも彼女は受け取らなかった。
面倒くさい、とはっきりと言った。
断言されると二の句が告げない彼はおずおずと引き下がり、作り置きしていた昼食をテーブルに運んだ。
今のところ子供達が作った料理に不満を示したことは無く、食べ残しこそすれ美味しくない事を理由に怒ったことは無い。それでも不満そうな顔をしている時があるので未だに怖いと思う事がある。
「うおえぇ……」
パリスが
大急ぎで彼女に近づき食事を避けて背中を擦る。幸い彼女は咄嗟に料理を避けてくれたので無事だ。
何度も吐く彼女から酸っぱいような独特の匂いが漂ってきた。
腐っていた物を食べた時や具合が悪い時、高熱を発して具合を悪くした時などに吐く事があったので苦しさは何となく理解できた。
「……大丈夫ですか?」
「……う~」
苦しそうに呻くだけで返事は無かった。
元々食事量が少なかった為か、殆ど黄色い液体しか見えない。それがテーブル下に垂れ落ちていくので大慌てで桶とタオルを持ってきて吐瀉物を拭き取っていった。
汚い現場――主に小便――に何度も遭った為か吐瀉物に触る事にあまり抵抗は無く、彼の頭の中には何とかしようという思いでいっぱいになっていた。
トイレに駆け込もうにも杖を持って片足だけの不安定な足取りで向かわなければならない。それゆえに移動もままならない彼女は突発的な事に対して身動きが取れない。
もし、一人だけなら病気になっても今のように吐く事になっても誰も助けてもらえないし、最悪汚物塗れの中で生活する事になっていた、かもしれない。
「……うぇー、うぇー」
苦しいのか、彼女は奇妙な声を発し始めた。それからまた少量の黄色い液体を吐き出す。
胃の中が身体と胃液しか出ないと言われているので、
小さく唸る彼女の背中をさすりながら少女達が早く帰ってこないかと気が急いて仕方が無かった。
最初に一気に吐き出した為か、一時間近く苦しんでいた割に吐瀉物は殆どでなくなった。それを確認したパリスは現場近くに掛布団と枕の用意を整え、アタランテをなんとか寝かせた。さすがに持ち上げることが出来なかったので意識があるうちに声掛けしながら――肩を貸して――自力で歩いてもらった。
仰向けに寝かせ、手足と尻尾を楽な姿勢になるように置く。
(……ああ。こういう時の為におしっこを飲む練習をさせていたのか)
という考えが過ったが、さすがにそれは違うと思った。
自分が楽しいからやっているだけと聞いた覚えがある。――飽きたと思ったらあっさり
水で濡らしたタオルを額に乗せる。それから掛布団を運び込み、彼女の身体に被せた。
また吐くかもしれないので側に桶も用意する。
彼が一息つく頃、彼女は気持ちが楽になってきたのか目蓋を閉じたまま大人しくなった。
テーブルの片づけと掃除を終えた後、寝ている彼女の獣耳の付け根を擦る。
片手であるアタランテの髪を洗うようになって『汝は手つきがいいな』と誉められた事を思い出した。――ついでとばかりに陰毛も洗ってみるか、と聞かれた時は強めに断った。
(
孤児はたくさん居るが種族はバラバラ。
アタランテから酷い指示が多かったので
今でも覚えている。私は女だからな、と笑顔で胸を張って言い切った彼女の姿を。
「……はっ」
物思いに耽っていたら彼女の尻尾を撫でていた。
彼女は大人だからか結構長い。毛並みは短く、所々が縞模様になっていて、本体が眠っていても触ると動く事がある。あと、ニキチッチの白い尻尾と絡める事があるが気分でやっているだけだ、と。
それと胸を揉むと大きくなるかもしれない、と聞いていたがどうして大きくするのかは聞いた事が無かった。触る側はとても恥ずかしいが彼女も触らせている時は恥ずかしい思っているらしい。
大人は何でも平気そうというのは思い込みだったのかも、と。
「……黙っているなら胸でも揉んでくれ」
(……やっぱり)
「起きてたんですか?」
「目を閉じていただけだ。……はぁ、急に吐き気に襲われるとは」
彼女の頭の方に移動し、布団を
乳房を回すように揉みつつ先ほどの疑問を投げかけた。
「大きい方が
せっかく答えてくれたのによく分からなかったが、揉んでいて大きい方が掴みやすいかな、と。
それから会話が途絶えたが無理に喋らず吐き気を起こさないか見守った。
夕方過ぎに外に行っていた少女達が戻り、アタランテの様子をパリスから聞かされた。
一先ず目隠しした少年――家に入る前に装着した――を寝室に連れて行き、冷えた料理を温め直す。
吐き気以外は特に問題なく、頭痛も発熱も無いと自己申告した。
「少し腹に入れなければ今度は
ニキチッチは彼女の上体を起こして
見た感じは平気そうだった。疲れの為の荒い呼吸も無く、額に触れてみると熱は確かに感じなかった。――もちろん、全く温度を感じない、という意味ではない。
昨日から一緒に寝ていた少年の方の体調は特に問題なかった。
「……私の
「いやです」
「やだ」
「無理です」
子供達は揃って否定を口にした。アタランテも冗談として言ったので本気の命令にするつもりはなかった。
仮に指示したとしても匂いでまた吐くそうになる気がしたし、見ても不快にしかならない気がした。
嘔吐する時は本当に気持ち悪くて苦しかった。あれを小便をする感覚で出すのは元冒険者のアタランテでも御免被りたかった。
思い出すと気分が少し悪くなってきた。
(汚い事は早く忘れよう。……また吐きそうになったら大変だ)
念のために桶を引き寄せておく。
もう一口果実水を飲んだ後に料理が運ばれた。
子供の手によって作られるので本格的な物ではないが中々の代物だ。
鍋も包丁も難なく扱うし、皮むきも手慣れてきた。
今回持ってきたのは麦粥に野菜を入れてじっくりと煮込んだものだ。食の細いアタランテの為に栄養価のある料理として覚えて来てくれた。
片手の彼女の為に料理の器を乗せたお盆を二人で持ったまま待機する。
「
「パリス。パンを一つ持ってきて」
「は~い」
指示出しばかりだが健気に働いてくれる子供達に心から感謝した。
当初はここまで付き合う予定ではなかった。思いのほか身体が動かなかったのが誤算と言える。
後は楽しいからといって弄り回し過ぎた事もひっそりと反省している。――面白そうと思わなければ何もしないが気になれば挑戦していくのは変わらない。
今更年上を見つけにいく意欲は無いし、追加する気もない。
別の問題があるとすればアタランテと同年代の者は大体どこかの【ファミリア】の団員になっている可能性が高い。それらを連れて来ると【ファミリア】単位で面倒な事になる。特に神に隠し事は難しいと言われているので。
この日は黙々と食事をするだけで終わり、吐き気の方はすっかり治まった。
早めに眠った方がいいと言われたものの深夜まで目が冴えて眠れなかった。
運動不足かと思い――性行為以外――柔軟体操する事にした。
片手と片足が無いので屈伸運動や腕立て伏せが満足に出来ない。それでも無理に
本人としては数回程度で汗だくになるのは納得がいかなかったが長期の運動不足の弊害だと
寝室で一時間ばかり汗をかいた後、浴室に丁度いい寝具がある事を思い出した。
放置されているので冷たい状態になっている防水ベッドならばさぞ気持ちよく腹筋運動が出来るだろう、と。
寝ている子供達を起こさないように静かに移動を開始した。
居間を通る時、杖を突く音がいやに大きく聞こえた。特に獣人の耳は
転がると目が回りそう、と思いつつ転ばないように時間をかけて移動した。
浴室にたどり着き、明かりを点けて中に入る。家に居る時はほぼ全裸なので着替える手間が掛からない。ただ、どうしても外出しなければならない時、ちゃんと服を着るところが想像できなかった。
全身を隠すローブで済ませそうだ。ほぼ女所帯だから疎かにしてしまうのだろうな、と反省するがすぐに忘れそうだとも思えた。
目隠している状態の少年を除けば皆服はちゃんと着ていた。
(……段々何もできない者になっていくな)
大きく息を吐いてから防水ベッドに駆け寄った。やはり含んだ水気が冷たくなっている。
足を延ばせるように離れていた椅子を寄せ、長方形型に寝転がる。するとすぐに背中に冷たい感触が襲ってきて一瞬びっくりした。
尻尾の位置を確認した後、ゆっくりと上体だけ起こす腹筋運動に入る。
「……おお~」
(想像以上に身体が硬い、というか重く感じる。ただ寝ているだけの生活はやはり駄目だな)
片手しか頭を支えられず、太腿はあるが均等に力が籠められない。そんな状態で身体を起こすのに何倍もの時間がかかった。
三回目以降から随分と早くなるのだが、やはり運動をしておかないと精神的にも良くないと感じた。いずれ迷宮都市オラリオから出る事になったら――かなり手前で倒れる自信がある。
それはそれで実にみっともない。
「……うお」
(十回くらいで背中がもう痛い。……背中というか身体のあちこちが)
冒険者の時は各一〇〇回ずつやっても平気だったのに、と遠い昔のような
過去を取り戻すことは出来ないが継続していけば少しはましになるではないか、と前向きに捉えて運動を再開する。――一〇〇回は多いと思ったので二〇回も出来れば今は良しとした。
最終的に腹筋と腕立て伏せと片足立ちからの膝関節の屈伸を既定の回数こなした。
居間に向かうと朝日が昇る頃なっていた事に気付いた。
いきなり三種類の運動はやり過ぎたかな、と振り返りつつ食卓で
早朝から働く者も居れば散歩に出る者も居る。
この家の周りは入り組んだ路地ではあるが誰も来れないような造りになっていないし、それなりに人の往来がある。
(……洗濯物を干そうとする音。手押し車が移動する音。……後は何だろうな。冒険者の金属製の装備が擦れる音か?)
音に耳を傾けているがアタランテは上半身にタオルを羽織っただけでほぼ裸だった。
汗をかいた後、水洗いした為か幾分か水気が取り切れてなくて自然乾燥に身を委ねている。
片手ならではの不器用さに色々と諦めた。
ここで子供達が居なかったら何をしていたのだろうか、と考えた。
(目的の人物を探すのは確定だ。後は……汚い部屋で時間を忘れて性行為か……。健康を害す未来しか無いな)
昨日は嘔吐で済んで運が良かった。そう思えて仕方が無い。
安定しているといっても猶予はおそらく半年以内。それまでに結果が実を結ぶのか、このまま朽ちて終わりなのか。考えながら金色の毛に覆われた尻尾を振り回す。
忘れていけないのは今の生活は決して幸福などではない。一時的な幻想だ。
順調になってきた生活だが期間限定の支援があるからこそ成立している。未だ自分は仕事に就いていないどころか働けるような技術を持っていない。介護なしではとてもとても――
獲物を狩る手段を失った獣はそこで終わりだ。
義手義足があれば再起は不可能ではない、と言われるかもしれない。
年端のいかない子供と性行為に耽る者が冒険者として返り咲けるというのか。無理だ、とアタランテは断言する。
かつての冒険者アタランテはとうの昔に死んだ。今は黄泉路への準備期間といったところ。
(つまらない事を考えているから具合が悪くなるんだ。……そんなことより夜が明けてしまったし、今から寝た方がいいか)
大して眠くないし、黙っているのも退屈なので左腕を上に伸ばしたり、意味もなく歩き回ったり、床に座って両脚を広げて両腕を前方伸ばしたまま身体を倒していく。
片方の手足が無くても意外とできる事はあるんだな、と感心しつつ台所に向かって水を
鬱屈した思想を持っていても腹は減るし喉も乾く。
屋根のある生活は野生の獣にとって一番の贅沢なのだな、と。
水を飲んでから少し経った頃に子供達が起きてきた。
それぞれに挨拶するが殆ど裸の彼女に二人は呆れ、パリスは顔を赤く染めて俯いた。
時間帯としては早起きではなく丁度いい時間らしい。
不規則な生活を送っていた為に今は子供達の方が健全だった。
それぞれが朝の支度に奔走する頃、アタランテのお腹が鳴った。
(腹が鳴ったが別段、食欲がある訳ではない。……もう少し運動しないと駄目か)
身の回りの世話を依頼し、彼らは今も仕事をしている。
親に捨てられたアタランテには物心つく頃には既に狩猟生活をしていた。生きるために必死に足掻き、気が付けば神の前に引き倒されていた。
【キュベレー・ファミリア】の団長『アルテミス・タウロポロス』との弓術勝負に完膚なきまで敗北した。
野生動物の次に強い存在が居ると認識したのはあの時が初めてだったのかもしれない、と述懐する。
そんな彼女も色恋沙汰に
全く表情に変化が見られない筈なのに恋する乙女だと主神キュベレーが呆れていたのだから、そういうものだと理解していた。
名前が同じ神アルテミスも見て分からないか、と問われたので正直に分からないと言った。
(……今でも分からない。あの冷徹な団長の何処をどう見れば恋する乙女なのだ)
二人のアルテミスの事ではなく身の回りの世話の事を考えていた筈だ、と一人で不機嫌な顔を表す。
そうだ、子供達と同じ年の時、自分が何をしていたのか考えていたのだった、と逸れていた道を正す。
屋根のない暮らしで日々生死を掛けた戦いを続けていた気がする。
彼女は生まれた時から狩人だった。ただそれだけを考えていた。
子供達もいずれ成長し、大人になって旅立っていく。この生活を続ける事にしても結局は同じ結果になる。
だからこそ、彼らと共に歩む未来だけは選んではいけない。
物思いに耽っていると温められたスープが出てきた。
「どうぞ」
「いただこう」
【ステイタス】によって強靭な肉体になっているアタランテは他人には肌寒い室温でも平然と過ごせている。
スープを飲むとすぐに気持ちから温かくなってきた。
子供達には健康に気を付けろとは言ったが規則正しい生活までは強要していない筈だ。
介護が必要だからと今まで過ごしてきた時間に合わせているのかもしれないが――
「おっぱいもみますか?」
「頼む」
「朝食べられます? 食べられるなら何を作ればいいでしょうか?」
ニキチッチの言葉に即答した時、彼女は苦笑した。そのまま胸を揉まれながら朝食の献立を脳内に浮かべる。
急ぎ食べたいものがあるわけではないし、食欲もそれほど湧いていない。それでもお腹は鳴る。
食欲が無くても栄養を付けなければならない。かといって吐くほど無理も出来ない。
「野菜炒めで肉少な目で。……たくさん食べたいところだけど」
「わかりました」
肉が嫌いなわけではない。食欲が湧かないだけだ。
今までも半ば無理に食べてみたが調理が悪いのか、素材自体が悪いのか。食欲不振の原因は今も不明だ。
味を感じなくなる、という事は無い。
(外食が多かったからかもしれないな)
目的に向かって行くには身体が資本だ。食べて働いて寝る。
体力勝負の世界に身を置いていた時は自炊よりも外食で充分満たされていた。
満ち足りていた――今は不足している。
慢性的な飢餓のようにアタランテは飢えていた。自分は飢えている。
不思議と腑に落ちた。
食欲に飢えたら性欲で補えばいい。身体がそれを求めている。
腹が減ってもあまり気にならないのはその為か、などと自分を誤魔化す。
現実に目を向ければ自ずと答えが出てくる。
死に向かう自分がどうして欲を満たす必要があるのか。
学の無いアタランテは感覚でしか理解できない。
おそらくそれが、それこそが獣の本能――
飢えている今、求めるままに行動する。
現在、自分の命を顧みていない行動を取っている。何よりも優先すべき
「どうぞ」
クリュティエがアタランテの目の前に野菜炒めが入った皿と木製のフォークを置いた。
食器の殆どは中古品や近所からの頂ものだ。
洗えば使えるものであれば捨てられたものでも利用する。
「………」
自分に必要とは思わないから食欲が湧かない。けれども自分以外には必要だと理解しているから食べる。
まず野菜を一枚分口に入れてゆっくりと咀嚼する。
味はちゃんと感じるし、不味くもない。だが、異常に虚しさが襲ってくる。
最後に飲み込んだが食べた気がしない。それどころか胸が締め付けられ、折角食べたものが逆流してくる感覚が襲ってくる。
その気持ち悪い感覚を低く唸りながら強引に抑え込む。
(……ああ。これが拒食症という病気なのか)
身体が資本の冒険者も病気が怖い。定期的に診療所で検査を受ける。――義務ではないが言った方がいいと神キュベレーから勧められた。
医療従事者の言葉を何気なく拾っていると気になる病について意識が向く。そのうちの一つに過ぎないが、分かったところでどうしようもない。
本当に拒食症なのかは検査を受けなければならないが、聞こえた症状が似ていると思った。
(精神的に追い込まれ過ぎたか。それとも異常に疲労した弊害か。何にしても身体を酷使したのだから何があっても不思議ではない)
食べると思うから駄目かもしれない。ならば飲み物と思おう。
栄養剤の在庫は無いが飲み物は大丈夫だったはずだ。水を飲んでも果実水を飲んでも無事だったし、と。
料理については時間をかけて片付ける事にする。どうせ吐くなら丁度良い修練だと思って頑張ってみるさ、と前向きに考え始めた。
アタランテが眉根を寄せつつ――苦いものを無理して食べているように――食事を再開したので子供達はとても心配になった。
一つ口にする度に痛みをこらえるような表情で噛み締め、美味いのか不味いのか言わない。
嘔吐感はそれほど強くなかったお陰もあり、料理を綺麗に食べ終えられた。
一息ついても空腹が満たされた気がしない。水を飲むと食事の時が嘘のように何の障害も無くスルスルと胃に落ちていく。
やはり食べる行為が駄目なのか、と残念に思った。
何度か深呼吸して気持ちを落ち着ける。その後、少年を起こしていいですか、と聞かれた。
誰が喋ったのか分からなかったが許可を出した。
目の前に集中し過ぎて耳が判別を拒否するとは、と驚く。
苦しみが和らいだ時、ざっと周りを見るとニキチッチとパリスが泣きそうな顔で心配しているのが見えた。
「どちらでもいい。耳の中が詰まっていないか見てくれないか?」
「わかった」
ニキチッチが耳掃除を担当し、パリスは食べ終わった食器を片付ける。
獣耳にはゴミが入らないようなふさふさとした毛が穴を塞ぐように生えている。まず、自分の耳に指を入れて具合を確かめてからアタランテの耳の様子を窺う。
結構な頻度で風呂に入るし、交代で彼女の頭を洗っているので汚い事は無い――筈だ、と様子を窺いながら少女は思った。
毛をかき分けて両方を確認したがゴミが穴を塞いでいるようには見えなかった。無理をすると耳を傷つけてしまうので次は一度濡らして水気を取ったタオルを突っ込んてみる。
少し荒い耳掃除だったが今のところ問題は無かった。
その後、右耳の奥深くにタオルが突っ込まれ、ゆっくりとねじり込まれていく。
アタランテの感覚で底辺りかなと思ったところ、空気の通りが急に良くなる感覚があった。ちなみに反対側は最初から問題が無かったようで、確認の為に何度か突っ込んでもらったが悪化する兆候はなく、大きな耳垢が出てくる事も無かった。
「……ああ。うん、礼を言う。……音の聞こえが良くなった気がする」
「やった~」
そんな会話の下では二本の尻尾が絡まり合っていた。
ちなみにニキチッチだけ特別扱いしているわけではなく、クリュティエとパリスにも良くできたと思ったら尻や太腿を擦るように尻尾を当てる。
パリスも獣人系だが普段からパンツに仕舞っていて絡めようが無い。
体調が心配だったがニキチッチに野菜炒めの御代わりと牛乳とパンを所望した。
冷たい新鮮な牛乳はお腹を壊しやすいので必ず温めるのが迷宮都市オラリオの住民にとっての常識となっている。新鮮なものが食べられるのは野菜くらいではないか、と思われる。
「ところでパリス」
「はい」
仕事が無く席に座っていた彼は背筋を伸ばした。けれども、アタランテからは視線を僅かに逸らしている。――その事について特に彼女は言及しなかった。
男だからと裸を見るな、というような理不尽な命令は出されていない。じっくり見たとしても眉根を寄せて威嚇する事もない。けれども、彼は未だに彼女が怖かった。
何を考えて居るのか分からない大人は特に苦手とする。
貧民街に住んでいる全ての住民が優しい人達ばかりではない事を彼らは身をもって知っている。
「私の髪の毛に白髪があると思うのだが……。目立っていたりしないか?」
最近は鏡を見ても気にしないようにしていたが十七歳にしてもう老け込んだような要望に最初は絶望した。今は気にしないようにしていた為か、いつの間にか白髪の事を忘れていた。よく見ないと分からないほどしか生えていなかったから。
少し離れた席から彼女の頭を観察する。前髪の深緑のような色合いの髪に白い物は確認できず、残りの金髪の様な黄色系の色合いの髪に白髪のようなものは見当たらない。
ニキチッチの髪は体毛も含めて全て真っ白なので白髪がどうのと言われても見つけようがない。
「ここからでは見当たりませんね」
「そうか」
ついでに陰毛もどうか聞こうかなと思ったところでクリュティエに手を引かれて目隠しした少年が現れた。
朝だから無理に起こす必要は無いけれど皆で朝食を食べるのが子供達にとって暗黙の了解になっているようだ。
それと――少年は服こそ来ていたが下半身は何も
元冒険者にして女狩人『アタランテ・ミリア』を眷族として従えていた【キュベレー・ファミリア】の主神キュベレーは
所属【ファミリア】から脱退し、隠居生活を始めた彼女の事をキュベレーは今も気に掛けていた。だが、様子を見ようとしたことは今までない。――する必要が無い。
神の能力の一つとして有名なものは『嘘を見抜く』というものがある。他にも個々の神々は固有の能力を有し、下界の住民にも知られていない情報がある。
例えば――
『
【ファミリア】を脱退する時、選別して【ステイタス】を維持する事にしたのだからアタランテの背中には未だにキュベレーから
これは普段、他人の目に触れないように隠蔽されているので風呂に入った時、子供達に見られても何の模様も背中に確認することは出来ない。
特殊な『
それを知らない眷族達が神の目を逃れて色々と画策していたようだが、主神は眷族の身体を通して把握しているので全くの無駄だ。
ワインによる洗脳状態にあったアストルフォも同様に。
ある日、キュベレーは極秘に一部の神々に会合を呼びかけ――同意した神々は外をそれぞれの眷族に守らせた状態で顔を突き合わせた。
集まったのはキュベレーを除き、アルテミスとシンだ。
「うちの娘が
開口一番キュベレーはそう言った。
これにアルテミスは眉根を寄せ、シンは口を開けつつ驚いたものの先を促した。
女神キュベレーが娘と呼ぶのは十中八九アタランテの事だと
「お前の眷族なら自分で始末をつければいいだろう」
「……言ってみただけだ。それでシンの眷族も巻き込んでいるようだが……」
そう言われてシンは居住まいを正し、脂汗を流した。
女神二人が相手を射殺すような威圧を振り撒くのでしがない
彼の眷族で思い当たるのはアストルフォだけだ。確かに言われた通り巻き込まれた、らしい。内容を女神の前で口にするのは
(うちのアストルフォは
と、口に出して言う勇気もなく、雰囲気でも無かったので唸るしか無かった。
探索から帰ってくると仲間達と共に歓楽街で楽しい思いをしている事は知っているし、それを咎める気持ちも無い。
冒険者が娼館を利用する事は禁止ではないし、性欲を持て余す男には必要な物だった。それにそんな店を取り仕切るのも神が運営する【ファミリア】だ。
「いきなり物騒な文言だが……。ようは何が起きたのだ? 娘というのはあの
「……一言で言えば、娘が狂った。そうとしか思えない」
「穏やかではないな。……うん」
(あんな身体になって再起を計ったり平穏無事に生活するのは……、伴侶でも見つけなければ難しいだろうに)
処女神であるアルテミスは表向きは男嫌いのような扱いになっている。だが、恋愛は自由だ、と自分の眷族には言ってある。――男が出来たら【ファミリア】から追放とも。
狩猟を司る【アルテミス・ファミリア】の団員は全て女性で構成されており、年齢を重ねれば男を求める事もある。その時は冒険者を引退してもらうか他の【ファミリア】に『
キュベレーは機嫌さえ損ねなければ恋愛自体は許容していた。それでも過度に過ぎれば罰を与える。特に【ファミリア】の風紀を乱すような行動は。
「……で、本当のところはどうなんだ? すでに引退した眷族なのに追いかけて罰するのか?」
「『
「……悪い事をしているのならば妥当な処罰だな」
小さく、しかしと言ってキュベレーは沈痛な面持ちで下を向く。
アタランテの現状がとても不安定である事は分かっている。もし、遠隔地から『
死刑にしたいわけではない。だからこそアルテミスとシンに意見を求めた。このままでいいのか判断できなかったから。莫迦な
当人が居ない中での会合なので神々が顔を突き合わせたところで不毛でしかない。
平行線に終わるかと思われたが今まで大人しく――せざるを得なかった――していたシンはおずおずと手を挙げた。
もう帰っていいか、と。勇気を振りぼって言ってみた。
「何を言っている。共犯者となっているお前の眷族の罰が残っているだろう」
「……冗談を言うな。アストルフォがどんな悪い事をしたって言うんだ」
「ほぼ罪人に支援物資を送っている。犯罪者に加担した共犯者」
(……支援って言っても食材だろう? 内の眷族は嘘が下手だ。……それに行動内容についても俺は大体知っている)
仲間と共にダイダロス通りにある貧民街へ食料支援を
どういうカラクリなのか分からない所が気になるが、アストルフォ自身は嘘で言いくるめてきているわけではないのは理解した。おそらくその不明な部分にアタランテが関わっている。――ブラダマンテは付き添いで付き合っているだけだし、報告も受けている。
「彼にしてみれば友達からの頼みに応えているだけだと思うのだが?」
「食糧支援が駄目だと言われれば疑問を抱くだろう? 特に貧民街はギルドでも手を出しにくい場所だし」
「……本人は慈善活動しているのに神がそれは駄目だから罰を与えてやる? そんな道理が通るものか」
「通せ。信賞必罰は世の
キュベレーとシンは納得いかない意見に睨み合う事になった。
アルテミスも傍観者にならず、解決策を模索していた。しかし、自分が司る役割を考えると全くの無罪は難しいと言わざるを得ない事もまた事実――
罰を与えるにしても急に言われれば戸惑う事は必至。逆にアタランテは既に【ファミリア】から抜けている。今更神が忠告しに行っても無駄ではないか、と。
「そっちは罪人確定でいいが、こっちは理由付けが思いつかないぞ。食糧支援は重罪だと言わせる気か?」
(……それは無理があるな)
「……個人支援から孤児院に移せ。それなら問題ないだろう? 直接これが罰だ、と言わなければ……。文句を言ってきたら神の怒りに触れたとでも言え」
キュベレーは一度怒ると手が付けられない。天界でもそうだった、とシンとアルテミスは思い出す。
ある時、宴会で泥酔した神々があろうことかキュベレーの住む宮殿近くで乱交パーティーを敢行し、ゴミと騒音を撒き散らして彼女の睡眠を妨害した。怒ったキュベレーが男神達の股間を蹴りまくったとかなんとか。女神に対しては動物に変えた、という噂が流れたが真偽のほどは定かではない。
それ以降、キュベレーの近くで男女のカップルが楽し気にすると女神の怒りを買う、なんてことが囁かれるようになった。
「……アストルフォにとっては罰になる、のか? ああ、神からの命令ならそうなるか」
(普通に支援をやめろ、と言っても同じだが。貧民街に支援する口実をすぐに無くすのは得策ではない)
「それよりも本題に入れ。お前の言う罰とは何だ? あの
主神が感じた事なのだから本当の事なのだろう、とはアルテミスも疑わない。
今まで可愛がっていた眷族が急に悪人になる事が想像できなかった。
長く沈黙した後、苦し気にキュベレーが言ったのは扱く簡潔な文言だった。
子供と遊んでいる。男を作った、の二つだけ。
男というのは伴侶、または
(……二人が関連するなら子供の男を伴侶にしたのか。……それはまた思い切った事をする。確かに罪深い事かもしれない)
貧民街に居るところから相手が孤児である可能性が高い。
もし、その子供を殴る蹴るでもしていればギルドに通報すればいい。孤児でも殺せば立派な罪だ。しかも庇う理由が無くなる。
キュベレーが悩んでいる所から重犯罪には手をかけていないと判断した。
神々は下界の住人全てを愛する。戦乱や破滅などを司る神々によっては戦争で命が失われる事を娯楽と称する
下界において必要以上の干渉はしない。それが神々の取り決めた
全ては神々の娯楽の為に。
キュベレーは下界の住人たるアタランテに干渉しようとしている。気持ちこそ理解できるが神のする事ではない。
アルテミスは女神キュベレーがまだ何か隠している気がして仕方が無い。
『
(お前はアタランテを本気で心配しているんだな)
そうでなければ容赦なく――いや、相談する必要など無い。おそらく覚悟を決めかねている。苛烈な女神とは思えない醜態と言ってしまえばそれまでだが。
キュベレーの性格から考えて、自分の下を去った者に情けを掛けるなど考えられないのだが、アタランテは余程気に入った
長く沈痛とした面持ちの後、痛みをこらえるかのようにキュベレーは言った。
「……あいつは死のうとしている。……絶望しかない」
(……うん。凄く重い話しだ。聞かされる身にもなれ、この莫迦女神が)
(え~と。内のアストルフォが原因でそうなったのかな? いや、まさかな……)
いかなる理由で死のうとしているのか。当人から話しも聞かず、神々だけで解決しろ、というのは喧嘩を売っているとしか思えない。
アルテミスは壁に立てかけてあった弓を持ち、
「脳味噌が入って無さそうな頭と無駄に大きな尻と贅肉の塊のような胸……。撃ち抜かれたい場所を選ばせてやるぞ」
彼女の凶行に対し、キュベレーは深いため息を
重い話しになり、それなりに怒られる事は想定していた。だが、ここまで怒りを見せるのは想定外だった。キュベレーの心の内ではかなり動揺してしまった。
シンは関わらないように一歩引いた位置から見守っていた。
「……悪いとは思っている。全知無能な神にしてやれることは終わった後にしかない」
「手遅れになってから言われても困る。……結局お前はどうしたいんだ」
「……どうするのが正解なのか……」
『
今のアタランテは傷つき過ぎて手の施しようが無い。
地上で生きた証すら失ってしまう可能性がある。
アルテミスは武器を下げて大きく息を吐きだす。
「
「………」
「……まあ、うん。……
主神に言えない事もあるだろう、と考えたアルテミスがそう言うとキュベレーは無言で頭を下げた。
ここまで神に心配されるアタランテは果報者だ。
一応、アストルフォの処分が決まったので、全く不要の存在だったわけではない。
そして、話しが終わったかに思えた時――
「!?」
にこやかな笑顔のままアルテミスがキュベレーの頬を超高速で張り飛ばした。
対処する暇もくなく秘密会合に使っている建物の壁を突き破って外に吹き飛んでいった。
哀れな女神の姿を見届けたアルテミスは手を軽く振りながら何事も無かったかのように振る舞い、連れて来た護衛の眷族と共に立ち去った。――帰り際、物損による賠償金を責任者に払っておいた。
残ったシンは小さく悲鳴を上げ、巻き込まれないようにキュベレーが起きる前に逃げるように退散していった。
最後まで残ったキュベレーは失神し、それを無表情で眺めるのは【キュベレー・ファミリア】団長アルテミス・タウロポロスだった。