Purgaturium/英雄 cupiditas 作:トラロック
元冒険者だったアタランテ・ミリアはウグイスと呼ばれ、娼婦としての知識を学ぶことになった。まだ一七歳の初々しい少女が就くには色々と刺激の強い職業である。
荒々しく戦っていた
とても恥ずかしい気持ちを抱きながら。
卑猥な単語が飛び交う世界にどうして自分が居るのか何度も分からなくなり、下手をすると興奮で失神状態に陥るほどの
もし、ここに己の主神が居れば呆れるところだろうか、それとも頑張れと応援するのか。
(……とてもキュベレー様に見せられない。アルテミス様なら大激怒間違いなしだろうな)
食堂で一息ついているアタランテは左手で湯呑に入った極東の『茶』を飲んでいる。
綺麗な薄緑色の飲み物で程よい苦みが精神を落ち着ける。
普段は果実水を飲むことが多いが違う味覚も身体には良い刺激だと思った。もっと渋い味もあると言われたが断った。舌の感覚が狂うほどの物はさすがに御免
(私がここで
だが、そんなことをしようという気持ちがある。今までは知識が足りなかったから勢いに任せたものしか浮かばなかった。
詳細を知る度に心臓が破裂する程の羞恥を知り、覚悟も固まってくる。いざという時に失敗した場合、生きている自信を失ってしまう。ここで学べているのは運がいいのかもしれない。
(……雄を見つけるだけでも大変だというのに……。男女の営みも埒外に大変だとは……)
それよりも『チンポ』という単語がどうしても頭にこびりついて離れない。
簡単な文字列の筈なのに口に出すのがとても恥ずかしく思える。――理由は分かっている。
男性器の呼称だから。
本来は陰茎や亀頭というそうだが通称というものが羞恥を抱かせる。
女性器名称も大っぴらに言うようなものではないけれど、どうしてマンコと呼ぶのだろうか。
名前が無ければ相手に説明できないから、が一番の解答なんだろう。
(……チンポ、チンポ……。ああ、もうチンポばかり浮かぶ。狩人だった頃でも連呼する程言わなかった。当時は確か、あれだ。汚いものか粗末なものだ。それ充分だった)
陰嚢を汚い袋と言っていた頃が酷く懐かしく思える。
正確な名称を知り、顔を赤くしている娼婦アタランテ。より卑猥な言葉を口にするようになりました、キュベレー様と小さく呟いて恥じ入る。
食堂を去り、自室にて自主練習のようにチンポという単語を口に出す。ある程度言った後は口から魂が抜け出そうになるくらい惨めな気持ちに包まれた。
たかが単語一つに何をしているのだろうか、という思いと知り合いに合わせる顔が無い心苦しさで心が潰れそうになった。
チンポと口にするのは恥ずかしさに抗う為だ。今のままでは何を学んでも唸ったり小さく悲鳴を上げてばかりで娼婦としての仕事が出来ない。例え
実際に雄を見つけた場合、悲鳴ばかりで何もできないまま無為に時間が過ぎてしまう。
(……あの酒を使ったところで現場から動けないのであれば意味が無い。チンポだのマンコだので二の足を踏んでいる暇はない)
そう決意を固めても足腰はガクガクと震えてしまう。
短期間にたくさんの卑猥な単語を覚えてきた為に下半身がおかしな反応を見せる。たたでさえ自室に戻ったらお漏らししたように下着が濡れてしまうのに、これ以上の痴態を他人に見せたくない。
――それを同僚の店員に言えばよくあること、と簡単に言われてしまった。
「最初に入る子は大体そうなるから。健全な証拠よ。女として正常で異常な事じゃないわ」
「今まで感じたことのない感覚に戸惑って異常だと思い込んでいると身体の反応がおかしくなる。それを悪い事だと思っているからそうなるのであって、生物としては自然な反応なのよ。あまり思い悩んでいると精神的にも悪影響を及ぼすから気を付けて。ウグイスさんも娼婦の何たるかが分かってきたんじゃないかしら?」
足腰がガクガクとすることが正常というのが信じられない。だが、先輩の言葉だ。真実かどうかは分からなくとも信じていた方が気が楽なのは確かだ。
もし、そういう意見を貰えなかったら――一人で悶々と抱え込み訳の分からない事に精神が病んでいくんだろうな、ということは理解した。
教えてくれる人の存在が今ほどありがたいとは思わなかった。そして、自然とありがとうと礼を言う自分に驚く。
(こんな私の為に……。彼女達は対抗心が無いのか? ここは冒険者の店ではないからその必要が無いのか)
彼女達も【ファミリア】の団員の筈だが戦闘に特化しているわけではなく商業系だから、それにちなんだ行動を取っているだけ。
彼女達の本領はダンジョンではなく客との駆け引き。
「初心なうちはお股が良く濡れる。でも、ちゃんと洗わないと病気の温床になるから気を付けてね。こういう店は清潔さも大事なの」
「は、はい」
「震えを止める方法は簡単よ。男を知っていけばマンコも冷める。……今の内が華なのよ、女の身体っていうのは」
(……マンコも冷める。いい言葉のように聞こえてしまったが……、口に出すのが恥ずかしい事をこの人達は……)
冒険者で言えば第一級のような娼婦達の態度にアタランテの方が恐縮する。
レベル3なのにチンポとマンコを言えない。――言えたら偉いのか、と言われるとそれはそれで困るけれど。
温かく迎えてくれる彼女達にはしばらく頭が上がりそうにない事は理解した。
講習二日目の夜の部ともいうべき時間に入った。
教材は三人目の娼婦。もう慣れたとはまだ言えないが平然と人前で全裸になる彼女は羞恥心が無いのか、それとも同性だから平気なのか。
見る側のアタランテは同性だから平気だと言える。けれども、勉強で裸になるというのは健全なのか疑問だ。――ここが娼館でなければ異常だと言えただろう。
「………」
開始早々から唸る
ここでは裸になる事が当たり前である、と言わんばかりに。
今日最後の講習は女体の部位を実際に触る事になった。
昼頃は膣に指を入れていたので
「教材に男性が居ればチンポを触ったりするのですが……。うちの店に男性店員は居ません。みんな外部の人です。教材として頼むのも気が引けたので残念ながら
来月なら教材として男性が出てくるということか、と疑問に思った。それに対して山吹は交渉に結構な時間と資金がかかる事を追加で説明した。
娼婦達なら頼みやすいし、特別給金で事足りる。
ここでウグイスにもう一〇万ヴァリス出してくれるなら男性の都合をつけると言ってきた。金さえ払えばすぐに来てくれる人材に何人か心当たりがあるという。
「……出来れば
「……いきなりはちょっと……。目の前の女性だけでも気持ち的に限界が近い」
「分かりました。……ああ、それと実演の見学はちゃんと取っといてありますので。追加料金は必要ありません。それでも出してくれるというのであれば店としてはありがたいですよ」
と、商売人の笑顔で言われて呻くウグイス。
講習の次は実演の見学が控えているのだった、と。
その為には各種卑猥な単語や部位に慣れておかないと店側の迷惑になる。だからこそ学んでいる最中だったことを思い出す。
「では、早速……。彼女のおっぱいを優しく揉んでください」
「……はい」
テーブルの上に寝転がる全裸の娼婦の胸はアタランテよりも大きく、左右に零れ落ちそうな形になった。
身体を動かすと胸は大きく揺れる。アタランテの小振りの胸では出来ない動きだ。
他人の乳房だと思うと手に伝わる感触は自分のものと何かが違う気がした。同じおっぱいなのに。
それと欠損している右腕でも触れるように、と山吹は言った。
言われるまま数分ほど教材となっている娼婦のおっぱいを思い思いに揉みしだく。膣と違って変に
(
乳首は先端だからか少し硬めだ。
ここは自分の乳首でも確認したことがあるので想像がついた。
胸を揉んでいるウグイスの側に来た山吹はそのまま、と言いおいて獣人の獣耳と尻尾を触り出した。
軽く呻いてしまったが性器部分ではないので時間と共に気にならなくなった。
「どうですかー。他人のおっぱいを揉みながら自分の獣耳と尻尾に触れられる気持ちは?」
「どう、と言われると表現に困るが……。何ともくすぐったい気持ちだ」
「男女の営みの時は互いの身体に触れますし、こうして揉み合いもします。時には二人から大人数になる事も……」
(……お、おお……尻尾を乱暴に揉まれると変な声が出そうだ。こうして他人に長く触れられるのは初めてだ……)
普段は軽く撫でられたりする。特段、それで気持ちに変化はなく、不意に触れられると不快になる程度だ。
こうして意識してしまうと気恥ずかしい。
自分で尻尾を洗う時と違う感覚を言葉に出来ない。それが何となく悔しかった。
他人にいい様にされて何もできない、ということが。
「獣人の方って耳や尻尾を噛まれると痛いですか?」
「痛いな」
「どれくらい? 例えば椅子にうっかり挟み込むほどとか?」
尻尾を甘く掴んで擦るようにしながら質問してきた。その仕草は背後で見ることが出来ないが心臓の鼓動が強くなったのは確かだ。
今までそういう触られ方をされたことが無かったので。
黙っていると擦る速度が速くなってきた。
「痛みは……普通だと思う。特別過敏に反応する事は……。あまり擦らないでくれ。何だか尻尾が焼けそうだ」
黄金色の体毛に覆われた長い尻尾が不規則に蠢く。
引っ張られように擦られると肛門を刺激されるようなむず痒さを感じる。
普段は身体を安定させる為に左右に揺れる部分で、
戦闘でも露出している尻尾だが不思議と千切れる恐れを感じたことはない。元々そうなる覚悟があったのかもしれないけれど。
自分の手首ほどの太さがあるのであまり心配したことが無かった。
冒険者になってから尻尾を失った獣人を何人も見ているし、千切れた時の話しも聞いたことがある。
「自在に動き回る尻尾に触れるなんて……。役得ですねー」
(それを言えば他人の身体を触る私も同じような気がする)
「次はもう少し恥ずかしいですよ。覚悟はいいですか?」
「……うぅー。お手柔らかに……」
既に引き返せない所に来ている。暴力や残酷なものでなければ耐えられるはずだと自身に言い聞かせる。
だが、次の命令もまたとんでもないもので、思わず悲鳴を上げてしまった。
股を開いた女性の
体勢は前屈み。腰というか尻を突き出した格好を指示された。
「欠損した左足は台に乗せて下さい」
相手が障害を持ってもお構いなしの指示に山吹という女性は容赦が無いな、と改めて戦慄する。
彼女には遠慮がない。――冷血とまでは思わないが厳しい指導に拒否する気持ちが吹き飛ばされる。
弱音を吐きたいのに指示されると『はい』としか言えなくなる。
山吹が用意した小さな台の上には何枚ものタオルが乗っており、欠損部分を痛めない配慮がなされていた。
それに短い脚を乗せ、指示通り両足を真っ直ぐに伸ばして尻を突き出した格好になる。
両手は相手の太ももに乗せ、顔を出来る限り女性器に近づける。
鼻先に伝わる芳香が何とも淫靡な印象を与える。おそらく事前に身体を洗ってきた事が窺えた。
もし、小便をした後なら特有の刺激臭がする筈だ。
「仕事の時は殿方と交互に取る格好です。体格が良い方は押しつぶされる可能性があるのでお互い無難になるのが暗黙の了解となっています」
(互いにこんな格好に……。互いの性器を見るって事か……。い、いや違うな。ああ、
直接見ずとも何となく予想がついた。
娼婦という仕事をまだまだ――言葉通り――嘗めていた事を思い知る元女狩人アタランテ。
後は言わずとも予想できる。けれども、指示があると何となくだが安心する。自分の意志ではない、というのは
(ただ見学だけしたい、という言い訳は通じない。金を払ったから言う事を聞け、と言えない。……これもまた仕事だ。妙な偏見を持たれるよりは実際に体験するのが理解が早いという……)
理屈は理解できるが何とも恥ずかしいところに来てしまった、ともう何度後悔したか分からない。
これ以上の事を計画している分際でもあるので拒絶する事は無いが――出てくるのは弱々しい獣の呻きばかりだ。
娼館は男達を楽しませる場所であると同時に女達も楽しむ。そうでなければ身体をすぐに壊してしまう。それを防ぐには様々な知識がどうしても必要だ。
彼女達は仕事が終われば定期的に身体検査を受けると言っている。安易に妊娠するのは危険だから。それとまかり間違って出産に至ると今後の養育費で思い悩むことになる。
「鶯。現実逃避していないで用意なさい」
「……はーい」
尻尾を軽く引っ張られ、モンスターよりも怖い教師に促される。
左足に違和感があるが柔らかい緩衝材のお陰で痛みは無い。ただ、体重を傾けると肉が潰れる感覚が気になる。
骨が一部抜けた部分は軟体生物の如くフニャフニャしている。それを硬くする方法は無く、適度に切除するのが望ましいのだとか。
「目の前にあるのは何ですかー?」
「マンコです」
「開いているのは何という名称でしたか?」
「……外側は大陰唇。内側の
教師ではないマンコを晒している女性が軽く微笑した。
真面目に取り組んでいるところを笑われると気恥ずかしい。
開き気味の小陰唇の上にある豆みたいな突起が陰核。別の言い方も教えてもらった。それらは意味を知った途端に言うのが恥ずかしくなる。
小さな穴は、と質問が飛んできたので尿道と答えた。膣口は尿道の下にある。
見ている間、女性器生き物のように動いた。といっても大きな変化ではなく、呼吸するように穴が収縮したり大陰唇などが微動するくらいだ。
膣口より下方に視線を向けると肛門に行きつく。
(こんなに近くで観察する事になるとは……。そもそも顔を近づける機会が無い部分だ。特に自分一人では不可能なくらいに)
柔軟な身体であっても女性器に顔をくっつけるのは無理だと思った。
それよりも顔を近づけている格好から次の命令は舌で嘗める事になる。その雰囲気を感じ取った教師役の山吹は不敵な笑みを浮かべつつ思う通りにしてみなさい、とだけ言った。
もし、相手が男性であっても同じ命令を下されていた筈だ。
問題はどういう方法が正解か、ということ。
(思う通りなら……、膣を嘗めて陰核を甘噛みするのか。肉の厚みを舌で感じたりし、最終的には……膣口に舌を入れる……)
下半身の全てを嘗めて綺麗にする、という事であれば顎が疲れてしまうし、あまりに汚い身体だと病気になるかもしれない。
ここは局所的な方法を取るのが最善だと判断する。
目の前の教材は雄ではないが大事なお客様だと思って丁寧に扱わなければ――
今のアタランテはウグイスという一人の娼婦見習いである。
(この店にいる間は娼婦だ。……もう少し料金を弾めばよかったか? いや、それでは自分の為にはならない。実際に体験して色々と学ぶことが出来た。……きっと今後の役に立つ。本番の
自分自身にそう言い聞かせて同性の女性器に舌を這わせる。すると相手が上擦った声を上げた。
芳香剤の香りが漂う女性器を思うがまま嘗め、陰核の弾力を確かめたり、小陰唇の柔らかさを確認したり――
尿道周りにたどり着くと少し塩気を感じた。
ほぼ顔を密着させているので様子が窺えなくなっているが女性器はアタランテの唾液でべっとりと濡れている。
綺麗にするためではなく気持ちよくなってもらう為に。
あらかた嘗めた後で開き気味の膣口に舌を入れる。膣壁と舌が擦れ合い、教材の女性が荒い息遣いをし始めた。その向こうに居る教師役の山吹はいい調子ですよ、と言ってきた。
返事は出来なかったが懸命に舌を動かした。それと同時に鼻と陰核が擦れる。
(……舌が奥まで届かない。結構膣の中は長いのか。外から見たらすぐ子宮が見えたのに……)
貪るように女性器を嘗めるアタランテに感心しながら彼女の尻尾を撫でつけ、時にはまっすぐに伸ばす山吹。
そのまま何も言わずに――大体一〇分ほど――続けさせた。
口がだるくなってきたアタランテは唾液をダラダラと口元から零し、疲れを感じた。
後ろで見ている山吹にも床に
(……上級冒険者の【ステイタス】のお陰か、結構長く続けられているわね。それでも辛さは感じてきている筈……。それにしても可愛い獣人の娼婦だと絵になるわねー。花の蜜を嘗める野生動物、というところかしら? このまま店で雇いたいくらい)
障害者でなければ本気で勧誘している所だ。
それぞれがどんな人生を歩んできたのか、それを細かく聞く気は無いけれど指示に従う姿勢には感心した。余程アタランテには成し遂げたい目的があるのだと――
だが、それはそれ。山吹達にも仕事がある。彼女一人に構っている余裕も財政も無い。
ついでに仕事も少ないから付き合えている。
ここが大手【ファミリア】の系列店であれば即実戦に叩き込んでいる所だ。
(アマゾネス達は最初から雄の扱い方を学んで娼婦の仕事についている。その覚悟の差が命運を分けているかは分からないけれど、性に貪欲なのは確かね)
呑気で見ていたら従業員の息遣いが荒くなった。そろそろ限界が近いことを察知する。
長く膣の中を
助け船が出ない事に涙目になりつつ寝転がったままアタランテの頭を挟み込むように掴んだ。
「鶯はそのまま続けて。合図をしたら顔を少し離すこと」
「……ん」
新たな命令に何とか応え、舌を動かし続けた。
それから数分も経たずに従業員が無言のまま口を大きく開けた頃、はい、そこまでと命令する。
掴まれている頭を無理に下げると尿道から勢いのついた液体が噴出し、顔にかかった。
(うわっ!?)
従業員は腰を痙攣するように放尿の様な状態になり、アタランテは顔や服を濡らす結果になった。
予想外の出来事に驚き、初めて間近で見る現象に驚いた。
「今の状態を『絶頂』とか『潮吹き』っていうの。とても気持ち良くなって我慢できなくなった時に起こる現象よ。貴女も同じことをされたら吹き出ると思うわ」
「放尿ではないのか?」
「性的興奮の果てに起きるから、似て非なるものと思ってね。男性だと『射精』になるけれど、出し終わるとしばらく萎れていくら刺激しても出なくなるから。連続で出そうとするのは危険、と覚えるように」
新たな事実に驚き、言われるまま返事を返した。
確かに性器を擦られると気持ちが良い。その果てが放尿の様な現象というのは初めて知ったし、見た。
今までの人生で挑戦しようという気持ちが湧かなかったので、正直怖いと思ってしまった。
顔にかかった分を嘗めるように命令され、放心状態になっていたアタランテは素直に従った。
舌に感じる味は苦かった。
男性の精液もそれに近いか、もっと苦いと説明を受けた。そして、そうだとしても飲み込むように、とも。
本来は膣の中に出してもらうものだけれど、妊娠を目的としない場合、口の中に出してもらう事がある、と言われてまた驚いた。
娼婦の仕事は何を聞いても驚かされる。本格的に働く自信が湧いてこない。――その気は元々ないけれど、知識として知るには刺激が強かった。
「おしっこは飲んでもウンコは食べません。主神からもやめた方がいいと言われています。……ですが、肛門を嘗める事がありますので、事後はしっかりと口を
(……聞きたくない言葉が……。排泄物を出す肛門を嘗めるのはレベル3でも……断りたい……。私には上級者向けだ……)
顔におしっこをひっかけられるくらい平気なほど衝撃を受けてしまった。
それから今日の分の講習は終わり、と言われて力なく自室に帰るアタランテにシャワーで身体を綺麗にすることを忘れないように、と指示を背中に受けた。
それから半分呆けた状態のままベッドに沈み込み、今日の出来事を思い出しては悶えながら眠りについた。
次に気が付くと朝になっていた。
(……一日が早い。それと講習最終日……、部屋から出たくない……。そんなに怖気づくとは思いもよらなかった)
卑猥な単語に他人の性器。娼婦の仕事は刺激ばかり。
ある意味ではダンジョンを踏破するよりも難関ではないだろうか、と思えるほど。
何も知らない女狩人のままであればどんなに気が楽か。
貞潔を司る女神アルテミスはこういう文化を承知しているのか。神だから知らない筈はないと思うけれど、男女の営みについてどういう思いを持っているのか。
子孫を残すには互いの性を知らなくてはならない。知識としてアタランテも理解している。それを否定するような女神の心中はどのようなものなのか。
(……アルテミス様は不健全な性文化を嫌っているだけで、子孫繁栄まで否定はすまい。……怒りを見せる事はあっても文化を滅ぼそうとは考えていない筈だ)
煮え切らない思いを抱えたまま朝風呂に入ったり、朝食を食べたりする。
昨日の苦みを思い出し、自分が食べているのがとても卑猥なものに思えてきて思わず吐き気を催した。
だが、体力をつける為には食べなければならない。食堂に来ている他の従業員の女性達も歓談しながら食事している。
口に入ってしまえばおしっことウンコになって体外に流れ出るだけ。
(……雄共と日夜身体を重ねる仕事に従事する彼女達を……、私はとても尊敬する。ここしかないからと思ってする仕事ではないな。……本当に頭が下がる思いだ)
そう思っていると目の前のテーブルに出来たての肉料理をドンと置かれた。
思わず持ってきた相手を見ると筋肉質で大柄な女性だった。この食堂に定期的に料理を作りに来る定食屋の女将だと離れたところに居た娼婦の一人が言った。
頭を下げつつ挨拶するとしっかり食いな、と豪快に笑いながら言って厨房に戻っていった。
「元気がない時はたくさん食べる、がモットーらしいですよ。安易に暗い顔をすると食べきれない量が出てきます。気を付けて」
(……もう手遅れだが……)
焼けた肉の香りで思わず涎が出そうになった。
身体が重くなる関係で重量感のある食事を控えていたが――今はその
食べきれない気がしたが折角作ってくれたものだから、と一口ずつ頬張る。
豚肉の味がした。しっかりと火が通っており、味付けは濃厚。食べやすいように薄切りにしたものを何枚も積み重ねる形になっている。
大きな塊状の一枚肉よりはこちらが好みだ。両手が使えないのが残念でならない。
(精がつくものと言えば内臓系だだが……。そればかり食べるわけではないのだな)
肉ばかり食べると脂肪がついて太るか筋肉質になる。
ここの娼婦達はアタランテよりふくよかに分類されるが横長の印象は受けない。
直接見たわけではないが――毎夜の仕事が重労働の為に程よい鍛錬の様な感じなのだろう、と。
鍛錬というか男女の営みだけれど。ついつい現実から目を逸らしがちだ。
食事を終えた後、風呂に入る。とにかく時間があれば身体を洗う。
清潔でいる事が娼婦にとって大切な事だと教わった。
汗臭いまま客の前に行っては不快感を与えるだけ。奇特な客でもない限り。
長期間ダンジョンに潜っていた経験から毎日のように身体を洗う行為を煩わしいなと思っていたアタランテも知らず知らずのうちに匂いが残る事を気にし始めた。一般的には当たり前の事かもしれないけれど。
身体を重ねる時に相手に臭いと言われたくないし、思われたくもない。それはとても大事な事だと理解してきた。
(……食が細いと思っていたが意外と食べられた。単に食わず嫌いだったか)
姿鏡で体調を確認。髪型や変調が無いかも。
欠損した手足は既に収縮によって傷跡は塞がっているが歪な形になってしまったのは
もう一度冒険者として働く気があるかと問われれば、おそらく否と答える。
未だ自分には覚悟が足りない。中途半端のままでは長続きしない。せめて何かを成し遂げてからだ。――例えば女神アルテミスとの約定を成し遂げたり。
「ほんの数日で変わった気になっても困るのだろうな」
呼吸を整えて気合を入れる。
半裸状態の薄着も見慣れて来た。――問題は今日の講習の内容だ。冒険者として、雌としての勘が言っている。
輪をかけて恥ずかしい内容に決まっている。
女を辱める意図があるわけではない。仕事内容に見合わせるとどうしてもそうなるだけだ、と頭では分かっている。
普通の接客業とは違う。裸同士で触れ合う仕事だ。
落ちぶれた人間が
(私はまだマシな方だ。自分の貞潔を守れているのだから)
いずれ自分も誰かと結ばれればいやらしい事の一つも体験せざるを得ない。事前に知識を得ていれば相手を不快にさせることも無駄に時間をかける事もない。
ただ、娼館としての仕事で色々な業務が生理的に受け付けないだけ。仕事だし、客が様々な要望を求めているから仕方がない。
外で接客する娼婦達は客を取り合う為に着飾ったり様々な努力をしている。
(娼婦としての心構えを学びたいわけではない。……それでも将来、やさぐれて厄介になる可能性も……無いわけではないけれど……。今回の目的は……行為を学ぶことだ)
口に出すにも
一言で言えば『性行為』だ。獣人界隈では『交尾』と呼称されている。
他の種族でもそれぞれの呼称になっている事は聞きかじった程度で知っているけれど、それを実際に自分がする事になるとは思ってこなかった。まだ少女と呼ばれるアタランテには――
冒険者から遠ざかった今、無縁でいる事は出来なくなった。その気持ちが強くなって今ここに居る。
既に方法は予想がついている。後は実戦がどういうものか確認するだけ。
昨日の従業員の女性の反応は予想外だったが。
気持ち良くなるとああなるのか、と思い出してくると頬から顔全体が赤くなって尻尾が自然と真っ直ぐに伸びる。
先ほど洗ったばかりなのに下腹部、というか女性器から透明な粘液の様なものが出てきた気がした。
過度に嫌らしいことを考えていると身体が興奮状態になり、膣から何らかの分泌物が出ると学んだ。これは男性でも類似の現象が起きる。
通称『愛液』と呼ばれているものだ。ただ、小便のように過度に流れ落ちる事は無く、精々下着に
かなり濡れる場合は相当な初心であると教わった。それらは男性を経験すればそれほど出てこなくなる、とも。
もう一度身体を洗い、講習に臨む為に気持ちを平静に保つ。これを乗り越えれば少しは楽になるかな、という期待はおそらく無駄に終わると予想した。