アルマスと街を巡りながらおしゃべりをして分かった事がある。情熱的で根はいい奴だという事。それとやっぱりインテグラルキラーズで合った時の記憶は無くそれとインテグラルキラーズになる前の記憶もないという事だ。
そしてあたし達は今デュカキスの屋敷の前に揃っていた。もちろんアルテミスの襲撃を阻止する為に。
さっきまで喧騒に溢れていた街は息を潜めそんな街を夜空に浮かぶ満月が照らしている。
「もうすぐ時間ね。みんな、準備は良い?」
ラグナロクの言葉に頷き屋敷の屋根に取り付けられている時計を見ると後五分ほどで十九時となる。後五分でアルテミスがこの街に来る。戦いが始まる高揚感を抑える為にポケットから煙草を取り出し一本咥え火を灯し煙を吐き出してゆく。
「煙たいわね、向こうで吸いなさいよ」
「昂った心を落ち着かせてんのよ、我慢しなさい」
肺に入れた煙をアルマスに向かい吹きかけると煙たそうに手で煽がれる。それを見ながら笑っているとアスカロンに怒られるのだが。
「来たね、アルテミスだよ!」
ケラウノスが指す方に月夜に浮かぶ一人の女性の姿が。煌々と月の光に照らされながら私達を空から見下ろし地上には召喚された擬彩異族達が列を成しアルテミスの指示を待つ。
「おや、二人増えていますね。ですが今回は必ずデュカキスを確保し擬彩されし不可逆世界に連れて行かせてもらいます」
月明かりを背後に語りかけ右手をあげ擬彩異族へと指示を送ると喚き立てながら擬彩異族が進行を始めた。
「じゃ、みんな頼んだよ♪アスカロンもお願いね♪」
「分かりました。私はこの街の防衛に専念するので動けませんけど武運を祈ってますね♪」
アスカロンが屋敷の前の広場に立ち剣を握り掲げる。
[嫉妬の氷よ私に力を!!いきますっ!
アスカロンの言葉と共に一気に気温が下がり温かかったのが凍えてしまう程に。気が付けば吐く息は白く体を動かしていなければ凍ってしまいそう。
その他にも変化がこの街には起きていた。アスカロンが冷気でこの街を包み込んだ事により空気中の水分が凍り付きダイヤモンドダストを作り出しているのだ。
ダイヤモンドダストとは空気中の水分が凍り付く自然現象。ケラウノスの提案はこの暖かい季節にたっぷりと水分を含んだ空気を凍らせる事によりあたし達とアルテミスの間にダイヤモンドダストのカーテンを作り出しアルテミスの矢を封じる事、そして。
「月のアルテミスかなんだが知らないけど月は私達に味方してくれてるよ♪」
月光を浴びる事によりアルテミスのシルエットがダイヤモンドダストに浮かび上がっているのだ。
「じゃ、撃ち落としてやりますか♪」
キュラキュラとケラウノスが両手にはめたガトリングが回転を始め凄まじい勢いで魔弾が発射されてゆく。宙を舞い避けてゆくのだがシルエットが浮かび続ける限り空にアルテミスの逃げ場は無い。
そして地上に逃げればあたし達の攻撃が届く。アスカロンの能力を見ただけでこの作戦が思い浮かんだケラウノスには脱帽の思いだ。
「じゃああたし達は与えられた任務をこなしましょうか」
「そうね!この剣先に続けぇ!」
咥えていた煙草を指先で弾き宙へ飛ばす。それが落ちるよりも早くあたしとアルマスは擬彩異族の群れへと突撃してゆく。
「ケラウノス」
「分かってるって♪喋れるぐらいに生きていれば良いんでしょ?」
咥えている飴を噛み砕きニシシっと笑う。その横顔を見て不安気な顔をするがケラウノスの頭脳を信じてグッと剣を握りしめる。
防戦を強いられる一方のアルテミスだったが彼女も負けてはいない。前回の様に空中からの襲撃を諦めカレットの街並みへと姿を潜め好機を伺う。入り組んだカレットの街は万が一の敵襲を考えて作られた要塞のような作りをしているのだがそれを利用し王将であるデュカキスを指す為に進行してゆく。
この時アルテミスはこの街をみくびっていた。この街の住民の結託の強さを。
息を潜め静かに獲物へと忍び寄るハンターを見つけた住民が合図を出す。
「ここにアルテミスが居るぞーー!!」
住民の一人が叫び懐中電灯をアルテミスに向かい向ける。闇夜に照らされたアルテミスは慌てて逃げ出そうとするのだが逃げ出した先で再びライトで照らされている。
闇夜に紛れデュカキスを討とうとしたアルテミスだが自らの作戦を利用され窮地に追い込まれてゆく。
「くっ!擬彩異族は何をしているの!?」
何千と呼び出したはずの擬彩異族の声は聞こえず、それもそのはず呼び出した擬彩異族はユリとアルマスに狩られさらにはアルテミスを地上へと逃した事により手が空いたケラウノスも異族狩りに回っていたのだ。アクスレピオスにより体力を回復され続けるケラウノスは無限に魔弾を放つ放射台として擬彩異族達を壊滅へと追い込んでいた。
「そこまでよアルテミス。さっ、大人しく話を聞かせてもらうわ」
焦り地団駄を踏むアルテミスの元へラグナロクが辿り着き切先を向ける。冷静さを欠かさせなければ接近を許す事は無かった。しかし策が全て通じず焦りに身を焦がしたアルテミスはまんまとラグナロクの接近を許してしまっていた。
「あなたが矢を放つよりも速く私は剣を振るうわ。話を聞かせて、あなた達は一体何をしようとしているの」
「そうですね、話してあげましょう。私達インテグラルキラーズが何をしようとしているのかを」
アルテミスの話を聞きラグナロクが目を丸くする。何度も耳を疑い聞き直したのだが帰ってきた答えは同じ。後2週間でこの世界を支える大樹ユグドラシルが内包すらマナが尽きこの世界は終焉を迎える事。そしてインテグラルキラーズは新たなる世界、インテグラル・ノアを造り出しこの世界で清いバイブスを持つ人々をインテグラル・ノアに乗せ新しい世界を託すという事。
「うそ、、っ!この場から逃げようと即興で思い付いた嘘なら感心するわ。でもそんな嘘で私を騙せると思わないで!」
「信じる信じないはそちらにお任せします。ただ、嘘の為にわざわざ身を危険に晒してまでしてこの様な事をすると思いですか?」
そう言われてみればそうだ。わざわざこんな事をする理由が見当たらない。この街を、世界を相手に戦うのはこの世界のため。
「それならどうして私達に相談してくれなかったの!私達は共に世界を守ってきたじゃない!」
「それが全ての過ちでした。何故異族がこの世界に存在するか考えた事はありませんか?」
”異族”人類を捕食する怪物。何故異族が存在するのかなんて一度も考えた事は無かった。
「異族は人類を捕食する事により人口の調整を行なっているのです。そうする事により世界のマナが減少するのを防いでいました。しかし人類は異族と対抗する術としてキル姫を作り出しました。そして異族無き今キル姫を争いの道具として利用しています」
「キル姫を一人作るには莫大なマナを消費します。人間達はそれに気が付かずキル姫を私欲の為に作り続けました。ユグドラシルのマナが尽きようとも知らずに」
アルテミスの言葉に言葉を失い茫然と立ち尽くす。言っている言葉の意味が分からない。世界が終焉を迎える?人類、キル姫のせいで?言葉を何度も言おうとするがなんで言えば分からず喉に言葉が引っかかり出てこない。
「・・・・っ!」
そんな時一匹の擬彩異族が背後より忍び寄りラグナロクに向かい剣を振り下ろす。気配を感じとり擬彩異族の剣を受け止め袈裟斬りにしアルテミスの方を向かうとした。
振り返ると同時に視界に入ったのは一本の矢。街頭に煌めいた矢尻を見て身を翻すのだが利き手である右手に鋭い痛みが走る。
「っう、、」
矢が腕を貫通し刺さる。それを見た瞬間から激痛が右手より走り思わず左手で患部を押さえよろめく。
「新しい世界に私達は不要。命を散らす事により包容されたマナはユグドラシルへと還りインテグラル・ノアが吸い上げます。ラグナロクの死は未来へ繋がります。安心して逝きなさい」
痛みを堪えながら見る先には矢を引き絞るアルテミスの姿。しかし絶体絶命の状況でラグナロクは笑う。
「例えこの身が朽ちようと決して私達は歩みを止めないわ。私の意思を継ぐ者があなた達を必ず止める」
「沈めっ!!」
引き絞られた弦を離すと真っ直ぐに矢がラグナロクに向かう。それでもラグナロクの口角は上がったまま。
輝く矢がラグナロクを貫く寸前に甲高い金属音と共に弾かれた。驚くアルテミスの目線の先には矢を引き絞るアポロンの姿が。
「間に合って良かったよラグナロク、、、。お姉ちゃんもうやめてよ!ボクはお姉ちゃんと争いたく無い!」
「っ、、、!」
形勢の悪さにアルテミスが後ずさる。そして背後から金属音が聞こえ目を向けた。
「やっぱり私の作戦通りだったね♪アポロンをあれだけ罵れば君たちがフォローしてくれる。うんうん♪」
「それは嘘でしょこのバカ。あんたの口が悪いのはいつもの事!」
金属音の正体はケラウノスの持つ魔銃の音だった。三方を塞がれたアルテミスは逃げる為に誰もいない一方へ向かう。
「この私から逃れられると思ってました?もうアルテミスに逃げ場はありませんよっ!」
「くっ、、、!」
アルテミスが地上へ降りた事によりダイヤモンドダスト作戦は解除されアスカロンもアルテミス討伐へと回っていたのだ。そしてケラウノスと合流しこの場で唯一残されていた逃げ道に立ち塞がっていた。
「どうするアルテミス。例え誰かを射ったとしても残りの人が必ず仕留めるよ。それともこの状況で空に逃げるって事はしないよね〜♪」
「それにもうすぐアルマスとユリも来る。両親を殺された恨みを持つユリが今の状況を見たら何をするか火を見るより明らかだよね」
完全に逃げ場を封じられたアルテミス。だが彼女は微かに口元に笑みを浮かべていた。
「その様ですね。ですが上を見て下さい」
上?言われた通りに夜空を見上げると煌めく流星が流れてゆく。そして流れる流星に向かいもう一つの流星がぶつかり閃光を放った。言われた通りに夜空を見上げていた彼女達の視界は閃光により潰されやっと目を開けた時にはアルテミスの姿は無かった。
「マスターが危ない!」
ケラウノスの言葉により一同が屋敷へと駆けてゆく。
「助かりましたフライクーゲル」
「イェス!じゃあ私の失敗はノープロブレムね♪」
「それとこれとは話が別です」
アルテミスが笑った理由はフライクーゲルが近くにいる気配を感じたからだ。そしてあの場に全員が居る以上狙いであるデュカキスを守る者は居ない。アルマスとユリの二人があの場に居なかった事が気にかかるが問題は無いと考え二人は屋敷へと向かいそしてデュカキスを見つけた。
「ようやく見つけました。あなたは新しい世界に選ばれし者です。大人しく剪定を受けて貰いましょう」
冷酷に言葉を発しながら近寄るのだがデュカキスは身動き一つせず。怯えて言葉も出ないのかと結論を出し歩んでゆく。
「諦めがよろしいのですね。その方が手間が省けますが」
「アルテミス!こいつはフェイクだよ!」
フライクーゲルが放つ魔弾がデュカキスを撃ち抜く。そして魔弾が持つ熱により焼けてゆくのは人の形をした模型。
「っ!!どれだけ人を馬鹿にすれば気が済むのですか!!」
何度も煮湯を飲まされ再び飲まされた煮湯にアルテミスの怒りは頂点へと達し燃え残った模型を蹴り飛ばす。それでも腹の虫が収まらない。
「アルテミス、ここは引こう。奴らのペースに飲まれちゃってるよ」
「いえ、私は必ずデュカキスをインテグラル・ノアへと連れて行きます。この作戦は七人で誓ったもの。諦める訳にはいきません」
冷静さを欠かさせたアルテミスに肩をすくめる。普段はクールであるが決して折れない心を持っている事を知っているからだ。
「奴らが来る前に探し出しましょう」
そう言って屋敷の中へと足を踏み入れようとした。
「で?誰を探してんのよ。フライクーゲルと居るところを見るとあんたがアルテミスね」
フライクーゲル以外の声に振り返ると一人の少女が立つ。この姿に見覚えがある。しかし彼女はティルフィングに淘汰されたはず。
もう一度見直して見ると背は低く髪は短い。服装こそ同じだが別人だと判断した。
「ユリですか、、、」
「そうよ、あたしよ。やっと見つけたわ。二人まとめてぶっ殺してやるわ」
真紅の瞳に怒りを宿し冷酷な眼差しを送る。しかし二対一の状況に余裕が浮かぶ。
「あなたはティルフィングが探している人。あなたも剪定対象者です」
「で?御託は良いわ。さっさと始めるわよ」
横に並ぶ二人に向かいユリが駆ける。それを穿つべく魔弾が放たれ月夜に姿を照らし出す。
そして照らし出されたユリに向かいアルテミスが矢を引き絞る。素早く動き翻弄しようとするが落ち着き矢を放てば確実に射抜ける。庭を駆け回るユリに向かい矢を引き絞ってゆく。
「散れっ!」
「そんな事させないわ!」
声と共に背中が焼ける様に痛む。痛みを堪える為に回した手が触れた場所が痛む。伸ばした手を見ると血で赤く染る。背を斬られた。そう判断した。
「流石ねアルマス」
「あんたも良い動きしてるわよ!」
嫌悪な眼差しの先にはユリの隣に元同胞であるアルマスが並ぶ。そして屋敷の外からはラグナロク達の声が聞こえる。
「はぁ、エスケープだよアルテミス」
最悪の状況を脱する為魔弾と魔弾をぶつけ合わせ閃光を起こすとアルテミスの手を取り空へと逃げ去ってゆく。
アルテミス達が逃走した後西の空から太陽が昇りカレットの街を照らしてゆく。長かった夜が明けた。
「ちっ!逃したわね!」
「傷を負わせたわ。まだ近くにいるはずよ!」
「それなら、、!」
追おうとかけだとそうとした時デュカキスがあたしの前へと立ち塞がった。
「二人の連携。見事である」
「ありがとう。そんな事は良いわ、そこを退きなさい」
「ならん。ここで皆を待つのである」
反論を叫ぼうとした時朝日に照らされながらみんなが屋敷へと帰ってきた。
「ユリ、アルマス。良かったぁ、、無事だったんですね、、」
「あたしは無事よ。それよりアルテミスを追うわよ」
「待ってユリちゃん。アルテミスから情報を聞いたわ。まず私の話を聞いて」
ラグナロクに言われ昂る気持ちを抑え煙草を咥えて話を聞く事に。
「・・・は?」
ラグナロクから話を聞いた素直な感想だった。後二週間でユグドラシルが内包するマナが尽きこの世界が消滅すると言われても反応に困る。
「そんなの時間稼ぎの嘘じゃ無いの?人の親殺しといて自分の身は可愛いみたいね」
「うん、私も初めはそう思ったよ。だけどインテグラルキラーズの行動を考えると嘘を吐いているようには思えないの」
そう言われて思い返せばあたしの両親を殺した事も、アルマスと敵対した時も、フライクーゲルがコーラル村を襲った事も全て辻褄が合う。
「私達もインテグラルキラーズを追うわ。けど戦ったとしても決して殺さないで」
「なんでよ」
「まだ彼女達の行動には謎が多いの。だから詳しく話を聞く必要がある。分かってくれたかな?」
あたしの顔を見つめるラグナロクの表情を見てため息と共に煙草に火を灯した。
「分かったわよ」
「うん。アスカロンはちゃんとユリちゃんを見張っててね」
「はいっ!もちろんです!」
(はぁ、、)
なんだかんだで丸め込まれてしまった気がする。アスカロンが見張りでいる限りとどめを刺すことはできないだろうし。
あたしの悩みなど知らないように口から吐き出した煙は空を舞い消えてゆく。
「少し我が屋敷で休むのである。それから旅立つのである」
デュカキスの提案の元屋敷で一休みする事に。今思えば夜通し動いていたから眠たい。
デュカキスが用意してくれた部屋で寝ていたのだが物音で飛び起き警戒を向ける。
(はぁ)
物音の正体はアルマスの寝相が悪くてベッドから床に落ちた音だと気が付きため息を吐いた後未だ眠るアルマスを見て笑った後煙草を吸う為に外へと。
眠る前は低かった太陽はすっかりと高く昇り暖かな陽射しで照らしてくれる。大きく体を伸ばした後煙草を咥えて火を灯しのんびりと煙を吸い込み吐き出し煙の行方を目で追って行く。
しばらくして煙草をもみ消し部屋へと戻ってゆくと皆は目を覚まし準備を行っていた。
借りていたパジャマから買った服に袖を通し左右の手にアームカバーを取り付け白いタイツを履く。
「これでよし。いつでも行けるわよ」
「じゃあ行こっか」
ラグナロクと共に屋敷の前に行くとすでにデュカキス達の姿が。
「行くであるか」
「うん。お世話になったねデュカキス大奏官」
「構わないのである。余等も準備が整い次第援軍に向かうのである」
「私が行くまで無茶なことするんじゃ無いわよ」
「分かってるって」
「今度みんなでパーっとやろうよ。そん時は私も呼んでよね♪」
「あはは、、テュルソスはそればっかりですね、、」
「そっちは頼んだよ」
「絶・任せといて!」
「……………」
「大丈夫だよ。アルテミス達は一人も殺したりしないからね」
ラグナロクの言葉にアポロンが頷いた。
「じゃあユリちゃん達も無理はしたらダメだからね」
「分かってるって」
「ラグナロクさん、アルマス。またお会いしましょう!デュカキスさん達もお世話になりました」
「またねみんな」
「ほら」
「ん」
アルマスが差し出した拳に拳をぶつけて合い私達は別々の旅路へ。
ユグドラシルの麓で会うと約束を残し。