目を覚ました私を待っていたのは6人のお姉さん達だった。ベッドから身体を起こし寝ぼけ眼でみんなを見渡すと私を睨む人が二人、おどおどと私を見る人が一人、楽しそうに見る人が一人、冷酷な眼差しが一つ、興味が無さそうなのが一人、そして優しい笑顔のお母さんが居た。
「おはようございます、寝起きのところ申し訳ないのですが自己紹介をお願いします」
お母さんにそう言われて少し考えると用意されていたかのように言葉が私の口から出てきた。
「方舟に咲き乱れしは純粋な多色花、その一片が示す事の花は穢れなき純潔。ユリ・擬彩よ」
「はい、今の気分はどうですか?」
「そうね、悪くないわ」
幼かったはずの私の体はロンギヌスを追い抜く程に成長しておりいつの間にか身体にぴったりと馴染む服を着ていて、そして私の中に渦巻く何かの力を感じていた。
「実力を見せて貰います、手合わせをお願いしますね」
「分かったわ」
そう答えて起きがりベッドから降りた。私が誰なのか、何なのか全く思い出せないけどたった一つだけはっきりと頭の中にあるのはこの世界を救済しなければならないって使命だけ。きっとここにいるみんなも同じなのだろう。
「ありがと」
無言でマサムネが差し出した二本の剣を受け取り腰に携えて部屋を歩きドアを開けて外に出ると目の前に草原が広がっていた。柔らかな草を踏みながら剣を構え待っているお母さんの元へと歩いてゆく。
「お待たせ、じゃあ見せてあげるね」
「はい、遠慮はいりませんよ」
腰に携えた剣を構えそう言った瞬間に目で捉える事が不可能なスピードで迫ってくるお母さん。だけどそれをしっかりと見切り繰り出された剣撃をしっかりと受け止めた。
キンッと音を立ててぶつかり合う剣と剣と剣。それを刃を斜めにして受け流しその勢いで反転しながら剣撃を放つ。が。それを見越していたのかふんわりと後退し回避された。すぐさま前進し身をかがませながら蹴り上げていた。
「動きは良いですが隙が目立ちます」
蹴り上げた足を掴まれ双剣の隙間から私の首に剣先を突きつけながらそう言われていた。強さを見せ付ける為に全力だったのだがこうも力の差を見せられると心にくるものがある。不満気な私に「まだこの力に目覚めたばかりですし訓練をすればもっと強くなれますよ」と微笑みながらそう言ってくれた。その笑顔に安らぎを覚え不機嫌だった私は笑顔で頷いていた。
「お遊びはその辺にしておけ」
「そうですね」
「ねぇ、遊びってどう言うことよ」
いつの間にか来ていたマサムネにそう言われて私は苛立ちを隠す事なく突っかかっていた、だけど鼻で笑い再びお母さんと話を続けていた。
「ねぇ、聞いてんの?」
両手に剣を握り振りかぶった瞬間に私の両手は誰かに押さえられあっという間に地に倒されていた。すぐさま立ち上がろうとすると私を踏み付け見下ろすパラシュの姿が見えた。
「その足を退けてよ!絶対斬り刻んでやるわ!」
「だから僕は反対だったんだ、今から剪定する、異論は認めないよ」
「やれるもんならやってみなさいよ、私があんたを剪定してやるわ」
斧を振り下ろそうとするパラシュに対して下から剣を突き刺そうとした時には二人の武器はレーヴァテインにより弾き飛ばされていた。二人が同時にレーヴァテインの方を向くと気怠そうに視線を向けていた。
「今から世界を相手にするのに家族同士でなに争ってんのよ」
「僕はこんな奴を仲間と思った事なんて無いよ、はっきり言うけど目障りなだけだ」
「私だって仲間だと思った事なんて一度も無いわよ」
そこまで言って私はこの人達といつからこうしているのかという疑問を抱いた。ずっと前から居たような気もするしつい最近出会ったばかりな気もする。思い出そうとしても記憶が朧げで全く思い出せない。
「争うのはこの世界の救済が終わってからです、それを忘れないで下さい」
「そうだったね、今日から動くのかい?」
「はい、これより選定を開始します、私達八人で理想郷、[擬彩されし不可逆世界]を完成させましょう」
理想郷?インテグラル・ノア?聞いた事も無い言葉にレーヴァテインを睨むのをやめてお母さんに視線を向けた。
「ねぇ、その理想郷ってなんなのよ?」
「そうですね、簡単に説明をします、ここから下を覗いて見て下さい」
下?再び疑問を持ちながらお母さんが指差す穴から顔を覗かせると円形に広がる広大な大地を見下ろす事ができた、それに大地の中心にそびえ立つ大樹の姿も見える。それを見て顔を戻し私が今居る場所を見渡していた。
「それで?」
「今見てもらった世界は消滅の危機に瀕しています、大樹が見えたと思いますが」
「あの木ね、それがどうしたの?」
「あの木はユグドラシルと言い世界に必要なマナを蓄えています、ですがいまユグドラシルの大樹が枯れようとしているのです」
「どういう事?別に枯れても良いじゃない」
「黙って聞いていなさい、質問には後で私が答えます」
アルテミスの言葉にイラッとしたけどその気持ちを抑えてお母さんの話を聞く事に。
「ユグドラシルがマナを失い枯れてしまえばあの世界は消滅してしまいます、そうなる前に人々を剪定し今私達が居る世界へと連れてきます、ここまでで質問、分からない事があるのならお願いします」
そう言ってお母さんが私を見たので話を聞いて浮かんだ疑問を聞いてみる事に。
「マナってなんなのよ?」
「この世界に生きている者達の命の源です、私達キル姫も人間も、動物や植物もマナが無ければ生きる事はできません」
「どうしてマナが無くなるの?」
「人間達がキラーズを使いキル姫を作り出したからです、元は異族という脅威に立ち向かう為の術だったのですが異族無き今人々はキル姫を争いの道具として使い始めたのです」
「それはどうして?」
「己の強さを世に示し領地を奪い合う為だ、強き者が弱き者を挫く、弱肉強食の世界だ」
「そんな奴らほっとけば世界の崩壊に巻き込まれて死ぬんでしょ?なんで剪定してここに連れて来るのよ」
「全ての人々が争っていた訳ではありませんから、中にはキル姫と手を取り合い愛に溢れる世界を作ろうとした人達もいたので、、。」
「私達は人間達にやり直す機会を与えるんだよ、オーケー?」
「私達には世界の崩壊を止める事はできません、なので清き心を持った人々だけの楽園を作るのです」
「そう、これがインテグラル・ノア計画です、今はユグドラシルに錨を降ろし下界と繋がっています、けどこの世界が終焉を迎える時にはその錨をあげ船出をします」
「どっかの聖書にあったノアの方舟ね、その船にはキル姫は乗れるの?」
「乗る事はできません、私達はその船出を見送れば役目を終えこの世界と共に終焉に飲み込まれます」
「つまり死ぬって事ね」
「はい」
「それで、この方舟には何人の人が乗れるの?」
「108人だね、それ以外の人はこの方舟の糧になってもらうよ」
その言葉にふーんと返事をして改めて今居る場所を見渡していた、何もなくただ草原が広がっていて私達が使っている家が一軒だけあるこの場所を、ここが方舟なんて言われても信じられないけどそう言うのならそうなのだろう。
「でもここに人を連れて来てもそのマナが無いのならば結局死んじゃうよね?」
「なので剪定から外れた人達は全て殺します、もちろんキル姫もです」
「そうする事によりそれらか持っていたマナがこのユグドラシルへと還るのです、そしてこの方舟が旅立つ時にユグドラシルに蓄えられたマナを全て方舟に吸い上げさせます」
「そうすればそのマナが尽きるまでは生き長らえる事ができます」
「それって根本の解決になってないわよね?」
「人類だけなら少しのマナがあれば良いんだって、下の世界のキル姫と剪定から外れた人の分のマナがあれば何億年は大丈夫だから」
「ふーん、一応聞くけど今の世界を救う事はできないの?できないからこの計画があるって事は分かっているわ」
「それが答えだ、拙者達も無益に人を殺すつもりは無い、全滅よりもこうするしか無いと判断したのだ」
「もう質問はありませんか?無いのならこれより計画を開始します」
「その剪定対象ってなんなのよ?適当に選べば良いの?」
「事の花に示されていると思います、私なら色褪せぬ純潔を持つ者を」
「私は果てなき慈愛を持つ者を」
「私は絶えぬ安寧を持つ者を」
「拙者は違えぬ忠義を示す者を」
「私は止まぬ情熱を持つ者を」
「私は偽りなき清淑を持つ者を」
「僕は潰えぬ理想を持つ者を」
「私は穢れなき純潔を持つ者を、お母さんと一緒ね」
「そうですね、剪定すべき人は目の前に立てば分かります、行きましょうか、人類救済の旅に」
お母さんの言葉の後に8人がその穴の前に立った。ここから下界に降りるとしたの世界の最果ての地、海に降り立つようで剪定をしながら世界の中心にあるユグドラシルの樹を目指せば良いようだ。
「そういえば忘れ物」
そう言ってレーヴァテインから渡されたのは何かのシンボルが刻まれているオイルライターだった。蓋を開けてホイールを回すと小さな炎が燃え上がった。
「、、、ありがと、これは何に使えば良いの?」
「煙草でも吸えばいいんじゃない?」
そのオイルライターを受け取った時から何となく私の心の奥がザワついていた。なんだろ、大事な何かを忘れているような、。、。
「行きましょう、純潔なる花達よ、暗き世界に調和の彩りを」
そう言ってお母さんが飛び降りて行った、それに続きみんなも飛び降りて行く。そして最後に残った私も飛び降りた。
重力に導かれ真っ直ぐに落下すると思っていた体はふんわりと風に舞いながら大陸を見下ろし海と呼ばれる方へと運ばれて来ていた。お母さんはどこに降りたのだろう?
そんな事を考えながら私は地上へと降り立った。こうやって地に足をつけるとこっちの世界の方が踏み心地が良い気がする。そんな事は良いんだ。私は剪定をしなければならないんだ。
辺りを見渡し小高い丘を見つけその頂上に向かって足を進めていた。そこから見れば街が探せると思ったからだ。私の勘は当たり少し離れた所に小さな村を見つける事ができた。それに遥か彼方にそびえるユグドラシルの樹を見る事もできた。
「…………」
少しだけ考えてから私は歩き出した、ポケットから取り出し右手に持っているライターの蓋を何度も開け閉めしその音を聞きながら。