私は一つの町を滅ぼした、、、この言い方は違うわね、一つの町に救済の手を差し伸べた、穢れなき純潔を持つ者を剪定するっていうね。
私が救済した町の規模はそれ程大きくなく人口は百人居ないぐらいだったかな?その中に穢れなき純潔を持つ者は三人しか居なかった。そんな事は良いんだ、この話は私が初めて行った剪定と後悔を背負った話だ。
前回見つけた町へと私はたどり着いていた、そうは言ってもあの丘から歩いて30分程だったんだけども。町の入り口に立ちそこから街を見渡しても特に目立った物はなく強いて言うのなら大きな風車が見えるぐらいか。
寂れた町を歩きながら私はどうやって剪定を始めようか考えていた。いきなり「今から剪定をするわ」と宣言し剣を振るい町人を襲えば良いのだろうか?それとも一人ずつ気が付かれないように暗殺すれば良いのだろうか?どっちにしても無抵抗の人にいきなり襲いかかるのは心苦しい。
………………ふむ。
気が付けば私は風車の前まで歩いて来ていた、わずかな風を受けてその羽を回す大きな風車を見上げていた。
「お嬢さんはこの町に何か用かね?」
風車の影から顔を出した老人に声をかけられ私は再び困ってしまった。ここは素直に剪定をしに来たと言うべきだろうか?
「この町には観光になるような施設も無ければ風景もない、だけどこの町の人の優しさは都会には無いものがあるぞ」
悩んでいる私の事なんて知らずにその老人は話を続けていた。この人は剪定対象じゃないけど冥土の土産に話ぐらい聞いてあげよう。
「ふむ」
「見たところキル姫のようだな、何処かに奏官も居るのか?」
「私に奏官は居ないわ、そんなもの不要よ」
「そうか、この町出身の奏官が居てな、若いのにこの大陸に名を通らせておった」
「へぇ、そんなに強い奏官だったの?」
「大陸最強と呼ばれていた、お嬢さんはその奏官の名を知らぬのか?」
「知らないわよ、それで?その奏官の名前は何て言うのよ?」
「その名は(ユウ)だ、聞いた事は無いか?」
「ユウ……」
聞いた事が無い。そう言えるのだがそう言えなかった。なんだろう、このもどかしい気持ち。喉には言葉が用意されているのにそれが口から出てこないような。
「それで?そのユウって奏官はどこに居るのよ?」
「それが昨日何者かに襲われて死んでしまったんだ、惜しい人を無くしてしまった」
そう言っておじさんは遠くを見つめていた。そんな事より私は大きなショックを受けていた。全く知らない赤の他人が死んだって話を聞いただけなのに大切な人を無くしたような、そんな気持ちに私はなっていた。
「それで?葬儀はするの?」
「この町ではなくユグドラシルのふもとにある教会で行われるようだ、今朝両親がそう言っておった」
そうなんだ、とだけ言って私は再び風車を見上げていた。きっとそのユウって人もこうしてこの風車を見ていたのだろう。私が感傷に浸っているとその老人がポケットから何かを取り出し顔を俯かせていた。その後カチッって音が聞こえて美味そうに煙を吐き出していた。
「それは?」
「煙草だよ、お嬢さんも一本どうだい?」
そう言いながら箱から一本だけ煙草を振り出し私に向けていた。それを指先でつまみ出し口に咥え持っていたオイルライターで火を付けてみた。
「うえっ!ごほっごほっ!!何よこれ!?」
私は涙目になりながら咳き込んでしまっていた、臭いし苦いし煙たいし目に染みるし、こんな物を好んで吸う人間の気がしれない。でも、悪くは無かった。
「これはどこに売ってるのよ?」
「売店に売っているよ、気に入ったのかな?」
「そんなところよ」
後で煙草を買いに行こうと思いポケットを探ったけど当然財布何て持っているはずもなくため息と共に煙を吸い込み吐き出していた。
「立ち話もなんだ、良かったら家に来ないか?」
そう言いながら老人が煙草を地面に落とし踏みつけていた。それに返事をしながら私も煙草を地面に落とし踏み付けていた。
「ついてきなさい」
そう言って歩く老人の後ろについて歩いて行くと一軒の民家が合った、お世辞にも立派とは言えない家だけど老人は誇らしげに「若い時に自分で建てた家だ」と言っていた。それを聞いて私は考えを改めていた、私が身に付けている服も、携えている剣も私が作った物ではなく誰かが作った物だ。この老人の様に(これは私が作った)と胸を張って言える物なんて無い。
そんな事を考えている間に老人が家のドアを開けていた、すると中から二人の子供が出てきて老人に抱きついていた。
「じぃじおかえりー♪」
「じいちゃんおかえり」
まだ幼い男の子と女の子だ、この老人の孫なのだろうか?そんな疑問はどうでも良い、この兄弟は剪定対象者だ。思わぬ収穫に頬が緩むのを感じていた。
さっさとこの二人を剪定して残りの人を救済し次の町に行こう。そう思い腰に携えた二本の剣の柄に手を伸ばしていた。
「お嬢さんはコーヒーは飲めるかな?」
「こーひー?」
「そうだ、飲んだ事ないのかな?」
「…そうね、頂いてみるわ」
またもや邪魔されてしまった、まぁそのこーひーを飲んでからでも剪定はできるしと思い直し老人に言われるがままに家の中に入って行った。
「待っていなさい」
そう言われてテーブルの下にある椅子を引き出しそこに座り部屋の中を見渡していた、何処を見ても年季が入った家具や内装、あの老人が何歳なのか知らないけど日に焼け黒茶色くなっている物を見るとかなり前の物なのだろう。
そんな中タンスの上に飾ってある写真を見つけた。目を凝らして見てみると若い男女が写っておりその足元には幼い二人が。それを見ているとツンツンとお腹を突かれた。その主に視線を向けると兄弟の妹の方だった。
「ねぇねぇ、お姉ちゃんはキル姫なの?」
「そうよ」
「良いなぁ、すっごく強いんでしょ?」
「そうね、人間よりは強いわよ」
「奏官さんも居るの?」
「奏官は居ないわよ」
「そーなんだ、名前は何て言うの?」
「私はユリよ、あんたの名前は?」
「私はリンって言うんだ、お兄ちゃんはレンって言うの」
そう言って私達をチラチラと見ているレンを指差しそれに視線を向けると突然視線を向けられ驚いたのかプイッと目を逸らしていた。
そんな二人を見るとあの写真に写っていた二人とそっくりだった、ならあの男女はこの兄弟の両親で間違いないだろう。もしかしたらその両親も剪定対象者かも知れない。私達8人で108人を剪定するのだから一人当たり13人だ、ノルマ達成の為にその両親に是非とも会いたかった。
「ねぇ、レンとリンのお父さんとお母さんは居ないの?」
私がそう問うと二人の顔から笑顔が消えて影を落としていた、それに気が付かず(ねぇ、何処に居るの?)と聞いてしまった。
「コーヒーが入ったから煙草でも吸いながら嗜もうじゃないか」
そう老人に言われてその方を見るとテーブルにおやつとジュースを置いていた、それを見て二人が椅子へと座っていた。それを見て「仲良く食べるんだぞ」と言って玄関を開き外へと出て行った、私もそれについて行くことに。
「はい」
「ありがと」
老人と二人で縁側に腰掛け渡されたコーヒーが入ったコップを私はしげしげと見ていた、このコップに満たされている真っ黒な液体はどう見ても美味しそうには見えなかった。
「本当に美味しいの?」
「百聞は一見にしかずだ」
そう言われたけどその言葉の意味って百回聞くより一回見た方がいいって意味よね?まぁ同じか。まずは匂いを嗅ぐ事に。うん、悪くない、次はゆっくりと少しだけ口に入れる事に。
「ん、美味しいわね」
そう言って老人の方を見ると煙草を差し出していた、一本貰い咥え火を付けて煙草共とにコーヒーを一口。うんうん、合う合う。
何となくおっさんくさい気がするけど煙草とコーヒーの組み合わせはバッチリだった。老人にお礼を言うとこっちを向き私の目を見つめていた。
「あの子らの両親は殺されたんだ、それを儂が面倒を見ておる」
「誰によ?」
「この辺りを仕切る盗賊にだよ、この村にはキル姫は居らず教会の支部も無いんだよ」
そうため息を吐きながら言っていた。あの子達に嫌な事を聞いてしまった事を後悔していた。
「教会の支部?」
「あぁ、お嬢さんは何も知らないのか?」
「そうね、何にも知らないみたい、良かったら教えてよ」
そんな私に老人が説明をしてくれた。この大陸の中心、ユグドラシルのふもとに教会の本部、大聖堂がありそれの支部が大陸の至る所に点在していてそこに在籍している奏官達が盗賊や異族から街を守っているようだ。だけど大聖堂から離れれば離れるほど教会の力が弱まり盗賊やギルドの力が強くなるようだ。
「そのギルドって何なのよ?」
「教会の命令を拒んだ奏官達の集まりだよ、強さを競い合う所もあれば盗賊紛いの事をしているギルドもある」
「ふむ」
そんな説明よりも私は兄弟の両親の命を奪った盗賊に怒りを燃やしていた、それと同時にその盗賊と同じ様に人を剪定しようとしている自分に同族嫌悪を抱いたのだが。
「それで?その盗賊達は何処に居るのよ?私が剪…懲らしめてやるわよ」
「それが神出鬼没で全く足取りが掴めないんだ、それに強いキル姫を連れている、やめておきなさい」
「それがどうしたのよ、私だって強いんだからね」
そう言って煙草を咥え双剣を構えて見せていた、咥えた煙草の煙が目に染みて涙目になってしまっていたがまぁ良いだろう。
「剣に自信があるのならあの子達に教えてやってはくれないか?」
「えっ」
さぁ困ったぞ、確かに剣の腕には自信はある、だけどそれと人に教えるのはまた話が別だ。それにあの子達は剪定対象者だし、それよりもうすぐ剪定する人とあんまり仲良くするのも、、、あぁもう!
なんとも言えないモヤモヤした気持ち、だけど断るのも気が引ける、ならばその案を受けるしかないのだ。
「良いわよ、やってあげる」
フィルターを焼き焦がし嫌な臭いをさせる煙草を吐き捨てそう答えていた。私がそう答えるのを分かっていた様に老人は深く頷いていた。
「直ぐに練習用の剣を持ってこよう」
そう言って老人はにこやかに立ち上がり家の裏へと回って行った。一方私はコップに残ったコーヒーを飲み干し考え込んでいた。もちろん私が剣を教える事ができるか?という事だ。私の剣は我流だし人に教えた事も教えられた事もない、言うのであれば直感で剣を振るっているのだ。
・・・・・なんとかなるだろう。
そう思い縁側に座りそこから景色を眺めていると老人が木刀を四本持って戻ってきた。そして私に後でお礼を渡すと言ってくれた。
ふむ。
そんな訳で私は家にいる兄弟を呼びに部屋に入って行きおやつを美味しそうに食べる二人に話しかけていた。
「あんた達に私が剣の稽古をしてあげるわよ、感謝しなさい」
木刀を二本見せながら言うと二人は顔を見合わせた後笑顔で私の方へと走って来ていた。
「やったぜ!」
「わーい♪お姉ちゃんありがと♪」
嬉しそうに木刀を受け取りそれを部屋の中で振り回そうとしていたのを慌てて止めて3人で家の庭へと来ていた。
「それで何を教えてくれるの?剣道形?」
「私乱取りしてみたい!」
???
剣道形?乱取り?何度も言うが私はそんな事全く知らないのだ、マサムネなら分かると思うのだがそのマサムネはここには居ない、むしろマサムネならもうこの町の剪定を終え次の町へ向かっているだろう。だが二人に悩んでいる事を悟られる訳にはいかない、私は軽く咳払いをして木刀を二本構えこう言った。
「どっからでもかかってきなさいよ、私に一発でも当てれたらご褒美をあげるわ」
私のその言葉に二人が目を輝かせ二人で頷き合い木刀を手に取り向かって来た。最初は舐めてかかっていた、二人共歳は10歳ぐらいだし剣なんて扱った事もないだろう。そうたかを括っていた。
「リンいくよ!」
「任せてお兄ちゃん!」
「ふえっ!?」
身長の低さを活かした下段から中段域の剣技に苦戦していた、それに兄弟な事もあって息があっている。それでも私はキル姫として、歳上として負ける訳にはいかない。それにご褒美なんて用意もしてないんだ。
「「たぁぁぁぁぁ!!」
叫びながら同時に斬り込んできた、それを二刀両断する為に挟み込むようなニ閃を繰り出した、が、剣先が当たらないギリギリを読まれ左右に分かれられた。それに呆気を取られるとレンが飛び上がり木刀を振り下ろしリンが中段へ突きを放った。
「このっ!」
二人の剣を何とか捌きレンの着地と同時にレンとリンの頭に木刀を当てる事ができた。
「私の勝ちね」
「負けちゃったね」
「凄いよお姉ちゃん!僕達に勝つなんてさ!」
「ま、まぁ、当然よね、うん、わたし強いし」
何とか勝つ事ができた。正直ギリギリだった。でもまぁ別にまだ本気で相手した訳じゃないし、うん。
「あんた達は何でそんなに強いのよ?」
「僕達はこの村の英雄に剣を教えて貰ったんだ」
「うん♪いっぱい教えてもらったもんね♪」
「えっと、ユウだっけ?」
「お姉ちゃんも知ってるの?ねぇねぇ、会った事ある?」
「私は会った事も聞いた事も無いわよ、この村には来て初めてその名を聞いたわ」
「じゃあ教えてあげるね」
嬉しそうに、楽しそうにそして尊敬する様に二人がそのユウの事を話してくれた、なんでもユウは人間の身でありながらキル姫と同等に戦える程の強さを持っておりそのパートナーのグリードと言うキル姫はキル姫の中でも最強と呼ばれる強さを誇っていた。ようだ。グリードってキル姫のことは知らないけどそのユウって人がもう居ない事を二人は知らないのか、ならこのまま言わない方が良いだろう。
「もう一度ユウさんに会いたいね」
「私もグリードさんにまた剣を教えて貰いたい!」
そんな二人を見ながらこの子達が何故剪定対象者なのか分かった気がした。きっとその二人に純粋に憧れている。その気持ちがあるからなのだろう。
「じゃあ私達に剣を教えてくれたからお歌を歌ってあげるね♪レンも歌うんだよ?」
「えぇ、歌うの?」
「ダメなの?」
「分かったよ、ちゃんと聞いててよね」
「聞いてあげるわ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪
適当な所に座り耳をすませてその歌を聞いていた。どこか切なくて元気がもらえるそのメロディーに私は満足していた。
「ありがと、良い歌ね」
「でしょでしょ?お姉ちゃんも歌って良いよ♪」
「そうね、この物語の最後に歌わせて貰うわ」
そう言って空を見ると日が落ちかけていた、そろそろ剪定して次の町へ行こう。そう思い立ち上がり私に引っ付いついている二人に手をかざしていた。
「これより剪定をおこな」
「おぉ、こんな所に居たのか、夕ご飯が準備できたから食べていきなさい」
老人の声に「はーい」と返事をしながら二人が私の元を離れ駆けていった。やっと剪定しようと思えたのにまた老人に邪魔されてしまった。
「お嬢さんも食べていきなさい」
完全にタイミングを見失った私は老人に言われるがままに返事をして夕ご飯が並べられたテーブルに座っていた。そして四人で仲良くテーブルを囲み老人の作ってくれた夕ご飯に舌鼓を打っていた。
「それでね、お姉ちゃんと戦ったんだよ♪」
「やっぱり強かったよ、一回も当てれなかった」
「そうかそうか、お嬢さんありがとう」
笑顔でさっきの事を話す二人にその話をうんうんと聞く老人。私もその話を聞きながらご飯をかきこみおかずを食べていた。私の目的を忘れてしまうような平和な夕ご飯を食べ終わりご飯を食べさせてもらったお礼に食器を片付けていた。
「じゃあそろそろ…」
このままこのペースに乗せられ続けると情が湧いてしまい剪定できなくなるだろう。もうすでに心苦しいけど私の使命を果たさなければ。嫌だと思う気持ちを殺し心を鬼にして剪定を行おうとしていた。
「この子達に剣を教えて汗もかいただろう、よかったら風呂に入っていきなさい」
「一緒に入ろうよ♪レンもだよ♪」
「はーい、いこ、お姉ちゃん」
「」
私が何かを言う前にレン、リンに手を掴まれお風呂場へと連行されていた。そして一緒に服を脱ぎ気が付けば二人の身体を洗っていた。
「汗かいたからしっかり洗ってあげるわね」
「お姉ちゃん洗うの上手だね♪」
「恥ずかしいから下は自分で洗うよ!」
二人にシャワーをかけシャンプーを手に出しワシャワシャと洗ってゆくと二人は泡だらけになっていた。その泡を使い肩より長い髪のリンの髪型を作り3人で笑い合っていた。もう私は従兄弟の家に遊びに来たお姉さん気分だった。
「じゃあ二人でお姉ちゃんを洗ってあげるね♪」
「変な髪型にしてあげようよ」
「それは構わないけどしっかり洗いなさいよ」
お風呂の椅子に腰掛け手が届くように深く屈むと二人がシャワーをかけて四つの手で私の頭をワシャワシャと洗ってくれた。子供だからと乱暴にするのかと思いきや良い指加減で満足である。
そんな時何か思い出された気がする。遠くなく近い過去に私はこうして誰かに頭を洗ってもらっていた気がする。それが誰だったのか全く思い出せないけど間違いなく私の過去の事だ。
「流すよ?」
「えっ、ん、うん」
思い出せない過去より今を楽しもう。だけど。
「……………はぁ」
身体を洗い終わり肩までお湯に浸かり笑顔の二人を見ながら私は聞こえないようにため息を吐いていた。なんでかって?こんなに私に懐いてくれている二人を、私に良くしてくれた老人を手にかける事をしたくないからだ。お母さんを探し出しみんなで世界の崩壊を止める方法を考えた方が良いんじゃないか?いや、それが最適解だろう。でもそれができないからこうして擬彩されし不可逆世界計画が行われているのだろう。
いろんな事を考えて、悩んで、それでも答えが浮かばなくて私はブクブクと湯船に沈んでいった。
「うわぁぁぁ!お姉ちゃん!?」
「リン!引っ張り上げるよ!」
「うん!」
…………………………………………………
気が付けば私はパジャマを着せられ二人に団扇で煽がれていた。どうやらのぼせてしまったようだ。
「ありがと、助かったわ」
「死んじゃったかと思ったよ、、、」
そう簡単に死なないわよ、と答えて大丈夫な事を見せる為に立ち上がり身体を伸ばしストレッチをしていた。うん。大丈夫だ。そんな事よりも布団がひかれておりこれはもう泊まっていけと言わんばかりだ。何となく振り返ると家主である老人が立っていた。
「ねぇ、もう日も暮れてるから泊まっていっても良いかしら?」
「儂もそう言おうと思っていたところだ、自分の家だと思ってくつろいでくれ」
ふふふ、先手を打ってやったわ。その満足感にニヤニヤしているとレンとリンが私に抱き付いてきた。
「お姉ちゃん一緒に寝よ♪」
「リンばっかり、、。僕とも一緒に寝ようよ!」
「分かったわよ、こうれば二人と一緒に寝れるわ」
そう言って私は布団に寝転がり両手を広げるとその腕を二人が枕にして私に抱き着いてきてくれた。
「えへへ♪おやすみ」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
腕にかかる重みと左右から伝わる温もりを感じながら私はひどく悩んでいた。もう私にこの二人を剪定する事はできない。こんなに安らかで無防備な二人の寝顔を見たら剣を向けるなんてきっと地獄の鬼でもできないだろう。
この二人は私が守ろう、そう決心すると一気に眠気が押し寄せてきた。それに逆らう事もなく瞼を閉じて眠りの世界へと引き込まれていった。
……………………………………………………
「盗賊が出たぞぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
何時か分からないけど何処かから聞こえた叫び声で目を覚ました。部屋を見渡すと私の隣で寝ていたはずの二人が老人に抱き付き震えているのが見えた。
「ねぇ、何が起きてるの?」
「盗賊が出たんだ、今村の若者が戦いに出た」
「盗賊ってさっき言ってたキル姫を連れている奴らね、私も出るわ」
そう言って急いでパジャマを脱ぎ捨て水着の様に身体にぴったりとくっ付く服に着替え腰にベルトを巻き剣を二本携えた。
「ねぇ、煙草頂戴」
「うむ、武運を」
老人から煙草の箱を受け取りそこから一本取り出し口に咥え震えている二人に声をかけた。
「絶対にここから動かないでね、私が何とかしてあげるわ」
震えながら頷いたのを見て老人に「二人を頼んだわよ」とだけ言って家を飛び出し町の中心でその足を止めた。
「酷い事するわね」
数える程しかない民家に火が放たれ煌々と光を放っていた。それに照らされ血溜まりを作り地面に倒れている住民が見える。あの老人の家は少し離れた所にあったから無事だったのだろう。
早く盗賊を剪定しないともっと酷い事になるだろう。そう思い頭を抱え込んでしまった。私がしようとしている事は盗賊よりも酷い、盗賊は物を盗めば終わりかも知れないけど私はこの町の人を全滅させなければいけないんだ。
「ここに良い女が居るぜ!!」
「俺達で楽しんでから奴隷商に売っ払ってやるぜ!」
あーもーどーしよ、人を斬りたくないのが私の本音だ。でもこう思ってしまっているのは仲良くしすぎたから、情が湧いてしまったから。私が剪定しないとこの世界の人は崩壊に巻き込まれ全滅するんだ。それならば少しでも良いから生きている方が良いのだろう。
「コイツ俺達にビビって声も出せねぇぞw」
「早くやっちまおうぜ、もう爆発しそうだ!」
「お前溜めすぎだろw」
絶望の中にある一つの光を再確認して私は煙草に火を灯し気合を入れた。これが私の進むべき道だと、世界が望む事だと、そう信じて。
煙を吐き出しながら前を見ると盗賊が私を取り囲んでいる事に気が付いた。数は10人程か?見る限りキル姫は居ないようだ。
「何?」
「やっちまぇぇ!!」
そう叫び私に武器を向けて襲いかかってきた。こんな雑魚どもに構っている暇なんてない。さっさと終わらせてやろう。
繰り出される剣を弾き一人の首を跳ねると血を吹き上げながらよろよろと歩いて行った。その身体を蹴り飛ばすとそいつらの動きが止まった。
「あぁぁぁ!!ジョナサンッ!?」
「チキショーー!!なんて事しやがる!!」
「すぐに同じ所に送ってやるわよ」
泣き叫ぶ盗賊達に向かい走り斬り込んで行く。的確に首を跳ね、腹部を斬り裂き、防具の上から力任せに切断してやった。
「けっ、そんなんならあの兄弟の方が強かったわよ、ねぇ」
咥えていた煙草を吐き捨てながら一人だけ腰を抜かしている奴に向かって歩いて行った。
「ひぃぃぃぃ、い、命だけは助けてくれ!!」
「…そうね、あんた達のリーダーの所に案内するのなら逃してあげるわよ」
「分かった!約束したからな!」
「早くしなさいよ、私は気が立ってるんだからね」
「こっちです姉貴!」
「誰が姉貴よ」
「いやぁ、よく見たらとてもお美しい」
「……良いから早く案内しなさいよ」
剣に付いた血液を振り飛ばしそいつの後ろをついて行くと盗賊が一人の男を囲む様に集まっていた。その中心に居るのがリーダーなのだろう。
「親分!コイツをやっちまってくだせぇ!」
「あっ」
さっきまで私に媚を売っていた奴がその群れに走って行くと武器を構え態度を急変させていた。別に何とも思わないのだが腹が立つのを感じていた。
「私の部下を倒した様だな、だが、多勢に無勢だ、おい」
そいつがそう言ったのを合図に沢山の武器と殺気が私に向けられていた。なんなのコイツら、私がキル姫だと気が付いていないのか、それともただの馬鹿なのか。だが無抵抗の相手を斬るよりもこっちの方が気が楽だ。ニヤリと笑いながら剣を構え相手を見据えた。
おっ、あのリーダーは剪定対象者だ。思わぬ収穫に頬が緩む。でもどうしてあんな悪党のリーダーが対象者なんだ?
「やれ」
でもこうして選ばれたって事は純粋な何かを持っているのだろう。こう考えると剪定対象者って結構曖昧よね?穢れなき者とか言っていたけどあのリーダーが穢れてない訳ないし、むしろあんな悪人風情を方舟に乗せて良いのだろうか?
そんな事を考えながら剣を振るっていると残るはそのリーダー一人となった。
「あんたを剪定する前に名乗ってあげるわ、私はインテグラルキラーズの一人、ユリよ」
「ほぉ、ならばこちらも名乗ろう。カイン盗賊団団長、カインだ」
「へぇ、じゃあ剪定させてもらうわ」
双剣を構えカインに向かって行くと風が吹き火災の炎が燃え上がりそれに照らされたカインの口角が上がっているのが見えた気がした。
「チッ!!」
カインがしゃがみ込むとその上ギリギリから何かが飛んできた。それを右にひらりと躱し睨むと鎖を持った女が立っていた。
「駆逐者アイムール、これより殲滅を行います」
そう言いながらジャラジャラと鎖を引くと棘の付いた鉄球がアイムールの手元に戻って行った。ゴリゴリと地面に跡を残している、かなり重みがある鉄球なのだろう。コイツは人じゃない、キル姫か。
「上等よ、強い相手と戦いたいと思ってたのよ」
「フハハハ、やれ、アイムール」
「承知いたしました」
カインの言葉を合図に戦闘が始まった。鎖を操り鉄球を振り回すアイムールに対し私の武器はこの2本の剣。武器のリーチ的に接近する事ができないでいた。
「命乞いは聞きません」
短く鎖を持ち素早く手返し良く鉄球を振り回されていた。あの重みを考えると一発貰えば致命傷になりかねない。ここはどう動くべきか。
んっ、そうだ!
「私はこっちよ、当てれるもんなら当ててみなさいよ」
アイムールを見ながら後方へと下がり10メートル程距離をとっていた。そこで剣と剣をぶつけてキンキンと音を立て挑発していた。
火に照らされる顔を見ると何となくムスッとしている気がした。きっと私の挑発が効いているのだろう。後はあの鉄球を投げるのを待つだけだ。
「駆逐します」
「ぬぁっ!?」
残念ながら私の想像通りにいかずアイムールは鉄球を投げるのではなく私との距離を走って詰めていた。やはり鉄球を投げるという事が隙をつくる事だと分かっているのか。
先程より鎖を長く持ち遠心力をつけた鉄球が私に向かい振り回されていた。右から左へ振り回された鉄球の勢いを殺さずに一回転、二回転とスピードと威力を上げながら迫る。もう手の付けようが無く後退するしか無かった。
軌道を見極めながら徐々に背後へと下がっていた。すると背に熱い物を感じて目線を一瞬向けると燃え盛る民家がすぐ背後にあった。背水の陣ならぬ背炎の陣だ。鉄球の餌食になるか炎に焼かれるか、嫌な二択を迫られていた。
だけど私は諦めない。ジリジリと後退しながら頭をフル回転させて反撃の一手を探していた。ん、一つだけ思いついた、これなら…
「アイムールっ!私があんたに引導を渡してあげるわよ!」
私の叫びに返事の代わりと言わんばかりに鉄球を振り込んできた。その軌道をしっかりと見切り鉄球を繋ぐ鎖に剣を押し当ててやった。
「ぬぉりゃぁぁ!!」
鉄球の勢いで吹き飛ばされそうなのを必死に耐えると私の剣により軌道を変えられた鉄球がアイムールに襲い掛かっていた。
「つっ!!あぐぅ!」
肉と骨を砕く音が聞こえた後アイムールの身体が宙を舞いバウンドしながら地を転がりやがて動かなくなった。
「はぁっ、、、アイムールは倒したわ、次はあんたの番よ」
剣先をカインに向け宣戦布告をしていた。キル姫さえ処理してしまえば人間であるカインの剪定なんて楽勝だろう。
燃え盛る炎で剣を煌めかせながら向かって行く。だがまだカインには策がある様だ、口元が上がっているのが見える。
「立て、アイムールよ」
「アイムールはもう立てないわよ、諦めなさい」
そう言った後にじゃらりと鎖の音が聞こえ振り返ると何度もよろめきながら立ち上がるアイムールの姿が見えた。
「駆ちくしゃあいむーる、マスターのししにはんする訳にはいません」
左頭部と肩に鉄球が当たったのだろう、キリリとした顔が潰れ呂律も回ってなくだらりと左腕をぶら下げながらも右手に鎖を握り戦う意思を示していた。
「なんでよ!!何でそんなんになってまで戦う事をやめないのよ!」
「キル姫など戦いの道具に過ぎん、アレが潰れたらまた他のキル姫を探すだけだ」
その言葉に私の中で何かがプツンと切れた。こんな考えの奴らが居るからこの世界は崩壊する事になったんだ。そう。全ては人間の自業自得。
「もくひうをきゃくにふ、きょれよりひゃんめつをおおおこなます」
もう何て言っているのか分からなかった。だけどアイムールの瞳から闘志は消えていない。その姿を見ていると目頭が熱くなり涙が溢れていた。早く楽にさせてあげよう。
弱々しく振り上げた鉄球の間を擦り抜け二本の剣を交差させ挟み込む様にアイムールの首を切断した。ゴロリと首が落ちた後も身体を私に向け戦う意思を見せていたが立ったまま動かなくなった。
「役立たずのゴミが」
許せなかった、あんなにボロボロになってまで戦おうとしていたアイムールを侮辱した事が。
許せなかった、部下やキル姫だけに戦わせ見ているだけのあいつが。怒りの炎に身を燃やし気が付けばカインの元へと斬り込んで行った。
「カインッ!!!」
そう叫び仁王立ちするカインに剣を振り下ろした瞬間に何者かに剣を弾かれ腹部に強い衝撃を受け私は吹き飛んでいた。
「ようやく私の出番の様だな」
「ゴホッっ!誰よあんたは!!」
「貴様に名乗る名など無い、このゲイボルグの姿を見て生きて帰れた者は居ないのだからな」
名乗る名が無いと言いながら名を名乗った事、腹部に走る痛みで困惑しながらも立ち上がった。まだキル姫を従えていたのか。
「コイツが私の切り札だよ、先程は武器の相性もあったかも知れんが君が勝つ事は不可能だ」
不敵に笑うカインの前にゲイボルグが立ち塞がり何かを構えていた。あれは槍なのか?一見斧の様にも見えるが、そんな事はどうでも良い。
「退いて、私はそいつをぶっ殺す」
「私が居る限りマスターに手出しはさせぬ」
「だったらあんたも斬り刻んでやるわよ!」
怒りに任せて私は双剣を振るっていた、一振り、二振り。風を斬りながら。だが怒りにまみれた剣技で勝てる相手では無かった。軌道を読まれ的確に捌かれ反撃を受けていた。
「アイムールを倒したと期待していたのだが拍子抜けだった様だな」
「言わせておけばっ!」
しっかりとゲイボルグを見据えて剣を振るっているのだが剣がゲイボルグを捉える事は無かった。このまま主導権を相手に握られっぱなしじゃ勝てないって事は分かっている。だけど怒りに燃える私の心が私を、剣を突き動かしていた。
「中々の連続斬りだ、次は一打一打を重く打つように意識するのが良いだろう」
そう言われたがむしゃらに剣を振るっていた。それもゲイボルグの作戦だと気付かずに。
「このっ!!」
「魔槍に貫けるもの無し!」
怒りに飲まれ隙だらけの剣を弾かれその隙に両端に付いている矛先に腹部を斬り裂かれ、慌てて傷口を抑え後方へと飛び退いた。
「ほぉ、仕留めたと思ったが良くぞ躱した」
「………………」
腹部から伝わる痛みが、滲む血液が私の頭を冷やしてくれた。少しだけ冷静になった頭で状況を把握しようと対峙するゲイボルグを観察していた。
身長は私より高く両端に矛が付いた槍、それに長い腕によるリーチの長さ。それに場慣れしているのだろう、どんな時でも冷静で余裕を感じる。
「どうした攻めてこないのか」
(ちっ)
これも作戦なのだろう、挑発して相手の動きを単調にしそこを仕留める。…ならばそれに乗ってやろうじゃないの。
「良いわよ、私の本当の力を見せてあげるわ」
「ふっならば見せてもらおうか」
そうは言っても何にも無いんだけどね、だが、私の言葉にゲイボルグが警戒を強めた。ここははったりでビビらせるか。
「これが私の本当の力よ!」
そう言って力を込めると私にまとわり付いていた何かの力が具現化されていた。片目を覆うようになんかトゲみたいなのが出てきたし身体にもトゲトゲしい物がうごめいていた。
「マスター!直ぐにこの場から離れるのだ!」
ゲイボルグが私から目を逸らさずに背後に居るカインへ叫んでいた。そんな事よりも急に変なトゲトゲが出てきた事に私が一番驚いていた。だがそれを悟られる訳にはいかない、強気にいこう。
「私のこの姿を見て生きて帰れた奴は一人も居ないわ、覚悟しなさい」
お尻の方から出ている二本の尻尾のようなトゲトゲをぶんぶんと振り回しながらそう言っていた、このトゲは一体なんだ?
「ならば私も真打をくれてやろう、この戦いどちらかの命果てるまで!」
今まで片手で持っていた槍を両手で構えていた。互いの命をかけた戦いの始まりだ。
「はぁぁぁっ!!」
「おりゃぁぁぁ!!」
お互いが互いを睨み剣と槍をぶつけ合っていた。私の繰り出す剣技を巧みにいなされ、それを力尽くで押し切り決定打を叩き込もうとしていた。のだが。
「どうした、届いていないぞ」
「くそっ!!」
私より遥かに高い身長、長い腕、さらに槍のリーチにより私の剣は全く届いていなかった、槍を押し退けようにも持ち手を変え短、中距離をカバーされ攻め切れないでいた。
苛立つ私の感情を表すようにトゲトゲがブンブンと振り回されていた。このトゲって自分の意思でも動かせるのかな?試しに動かそうと意識してみた。
ブンブン
ダメだったようだ。上に向けようと下に向けようと念じても勝手にブンブンと動いているだけだ。
そんな事よりもゲイボルグだ。リーチの差を覆す方法を考えないとあの槍に貫かれて終わりだろう。ん。一つだけ閃き後方へと飛び退き剣と剣を擦り合わせていた。
「何をしている」
「研ぎ直してんのよ、あんたを叩き切るためにね」
シャッシャッっと擦り合わせるとなんとなく鋭さが戻った気がする。そして私の二本の剣の片方、白い剣を鞘に収め黒い剣だけを構えた。
「何か策があるようだがこの魔槍に貫けぬ物は無し!」
槍を回しながらゲイボルグが私に迫った。それは良いのだがこの黒い剣だけを持った時から何かが昂るのを感じていた。
斬り払い突き上げ身体を回し槍を操るゲイボルグ。その軌道を読み躱し一瞬の隙を虎視眈々と狙っていた。
「あんたの槍でも私は貫けないようね」
「ほざけ!」
そう叫んだ後に大振りな一撃が迫った。私は待っていた、この瞬間をっ!
「どりゃぁぁぁ!!」
振り込まれる軌道を読み踏み込み体重を乗せた一振りを槍の柄に叩き込んだ。
「なんだとっ!?」
柄を叩き切りその勢いのまま一回転し上段を斬り払いすかさず渾身の突きを繰り出した。それは肉を裂き深々とゲイボルグの心臓へ突き刺さっていた。
「私の魔槍が敗れるとは…すまないマスター…」
「伝えといてあげるわ、それとありがと」
剣を引き抜かず骨を断ちながら斬り抜くと支えを失ったゲイボルグが地に伏した。アイムールの事もある念のため首を落としておくか、それに生きていたら苦しいはずだ。
ダンッ
さて、カインは何処だ?辺りを見渡しても姿が見えない。まさか…!
私の予想が当たっているのなら非常に不味い。私はあの老人の家に向かい走り出した。
「つっ!!しっかりしなさいよ!!」
家の前に血を流し倒れている老人を見つけ急いで抱き抱えたが既に事切れていたようだ、返事も無くだらりと手足を投げ出し生気を感じない。まだ残る温もりが腕を伝い切なく伝わってきた。
……悲しむのは後だ、早くレンとリンを探さないと。
老人をゆっくりと下ろし前を向くと家の方から血が垂れているのが見えた、それをたどり私は家の中へと入って行った。
薄暗い部屋の中を進んで行くとガタリと何かの音がした、その方へ目線を向けるとリンの手を掴み身体にナイフを押し当てるカインの姿が。
「ゲイボルグを倒したのか、ふふふ」
「けっ、次はあんたの番よ、その前にその汚い手を離しなさい」
私の声を聞いてリンが顔を上げて私を見た、その顔は泣き腫らしており頬には殴られたような痕も見える。
「まずは武器を捨てろ、さもなくば」
「分かったわよ、レンはどうしたのよ」
「あのガキならそこに転がっている」
カインの指差す方を見ると縛られ床に転がっているレンの姿が。フーフーと呼吸の音が聞こえるからまだ生きてはいるようだ。それを見ながら腰のベルトを外し剣ごと投げた。
「俺のキル姫となるのならこのガキ共は見逃してやろう、アイムールとゲイボルグを討った事を評価しての提案だ」
怒りに震える私にそんな事を話していた。もう怒りすぎて何が何だか分からない私に気が付かず事もあろうかリンの首にナイフを突き立てていた。
「お姉ちゃんっ助けて!!!」
「静かにしろ!!早く決めないとこいつがあのジジイと同じ所に行く事になるぞ」
その痛みで叫んだリンの頭をナイフの柄で殴っていた。その光景に私の怒りはピークを迎え爆発した。
「ねぇ、あんたはキル姫が使う武器を持った事はあるかしら」
「興味すら持った事は無い」
「そう」
その言葉がカインの耳に届くよりも早くカインの顔面に拳を叩き込んでいた。この男はキル姫の身体能力を甘く見ていたようだ、武器という重りを外せば速が上がる事に気が付かなかった事がこいつの敗因ね。
「お姉ちゃん!!!」
「待っててね、今レンも解放してあげるから」
レンを縛っている縄を切るとレンも立ち上がり二人して私に抱きついて来た。その二つの頭を撫でながらこう呟いた。
[これより剪定を行うわ]
そう言うと二人の身体が足からキラキラと光の粒になっていった。それに驚いている二人に背を向けた。
「あんた達、新しい世界でも仲良くするのよ、私との約束だからね、レンはお兄ちゃんなんだからしっかりリンの面倒を見る事。リンは女の子らしく可愛くなるのよ」
二人が何かを言っていたけど聞こえないように耳を塞いでいた。次はこの男だ。
「ねぇ、もし向こうの世界で二人に手を出したら次は殺してやるわ」
そう言ってカインの頭に手を当て念じると光となり消えていった。さて、あの老人の墓を作り次の町へ行こうか。
部屋を出ようとした時にテーブルに目をやると煙草の箱と何かの本が置いてあった。手に取ってみると教会から発行されている本のようだ。貰っておこう。それをカバンに詰め込みベルトを巻き剣を携え家の前に立ち老人が建てた家に手を当て念じると大地ごと家が宙に浮かび空へと上がっていった。この家が有れば少しはあの二人の気も紛れるだろう。
「………」
その後私は穴を掘りそこに老人を埋め手を合わせていた。簡易な墓で申し訳ないが今の私にできる精一杯の埋葬だった。
「じゃあね」
そう呟き町へ戻り生き残っていた町人を選定していた。どれだけ命乞いをしようと泣き叫ぼうとためらわずに。せめてもの救いとして苦しまない様に全て首を落としていた。
もう人を斬る事に躊躇は無くなった。私がしている事はこの世界の為、人類の為。そう言い聞かせながら煙草を咥え煙をなびかせながら草原を歩いて行った。