私は二つ目の町に救済の手を差し伸べた。その町で私が経験したのは同じ釜の飯を食らい酒を飲み交わし笑い合い尊敬し合ったかつての仲間達との血を血で洗う戦い。
もし私に世界の為に同じ事をしろと言われたら躊躇わずにできるのだろうか?この話は世界の救済の為に全てを斬り伏せた彼女の話だ。
あの町を出てからしばらく歩いていると小川が流れているのを見つけた。気温は低いけど身体中にこびりついた血を洗い流したかった。
辺りをキョロキョロと見渡しても人の姿は無い。それならばと服を脱ぎ胸を隠しながら爪先からゆっくりと川に入ってゆく。
「…冷たっ」
流れる水に体温を奪われながらも身体を洗いそれが終わると服もしっかりともみ洗い。それに二本の剣に付着した血液も丁寧に。
私が洗うたびに服や剣から溶け出した血が川の色を赤く染めやがて元通りの透明となり流れて行った。
「こんなものか」
タオル代わりに洗った服で身体を拭きそれが終わったら服を日の当たる木にぶら下げてそれを見ながら煙草に火を付けていた。
これが乾いたら次の町に行こう。そう思った時に何処かから強い気配を感じその方を睨んでいた。
向こうも私の事が分かっているのだろう、まだ姿が見えない相手と睨み合っていた。
「………」
双剣を構えながらジリジリとその気配の方へと歩んでゆくとその気配の主が見えた。長い黒髪に刀を携えた、あれは。
「マサムネだったのね、こんな所で何してるのよ」
「ユリであったか、次の町へ剪定を行いに向かっておる、それより何故全裸なのだ?」
「あっ」
服を乾かしている事をすっかり忘れていた。同性だし良いかと開き直り煙草に火を付け事情を説明する事に。
「この時期だと乾くのも遅かろう、貸してみよ」
そう言われて風になびく服を取りマサムネに渡すとすぐに服を返された。
「風邪を引く前に着ると良い」
「ん、ありがと」
手渡された服は乾いておりそれを着て体温が下がった身体を温めるためにストレッチをしていた。
「良い面構えになったな」
「そう?」
「未熟者だと思っておったが考えを改めねばならんようだ」
マサムネが腕を組み私を見ながらそう言っていた。
「喧嘩売りにきたの?買うわよ」
「褒めたつもりであったが、次の目的地は決まってはおるのか?」
「話を変えないでよ、まだ決まってはいないわ」
「ならば拙者と共に行かぬか?そうは言ってもその里だけだが」
「ふむ」
そんな訳でマサムネと一時行動を共にする事となった。私を頼るなんて強い相手が居る町なのだろうか?
「未熟者の私を頼るなんてよっぽど強い奴が居る町なのね」
「今向かっている町は以前拙者が身を置いていた里なのだ、一人で行けば決心が鈍ると思ってな」
私の嫌味も気にせずそう言われた。マサムネの過去、そういえば私にはそんな記憶も無いような気がする。
「ねぇ、私って過去に何してたっけ?」
「お主はティルフィングと行動を共にしておったから拙者はあまり知らんのだ」
「そうだっけ?」
そう言われて記憶を思い返すもお母さんと何をしていたかがさっぱりだった。そんなに記憶に残らないような生活をしていたんだっけ?
「まぁいいわ、それでそのマサムネがいた町はどんな町なのよ?」
「剣の道を極めし者が住まう里であった、今はどのようになっておるのかは知らぬが」
「へぇ、マサムネが支配してたの?」
「いや、拙者はその里の長に仕えておった」
「ふむ」
どう考えてもこのマサムネが誰かに仕えている姿が想像できないがまぁ良いだろう。しばらく歩いていると前の町より少しだけ大きな町が見えてきた。
「あの里だ」
「へぇ」
町の入り口から町を見渡すと至る所に道場が立ち並んでおり目を凝らして見ると〇〇流や××流など流派が看板に書かれている、その道場が強さを競い合っているのだろう。それに町の真ん中にやぐらみたいなのが立っているのが見える。
「さっさと剪定して次に行くわよ、長居すると情が出てやりづらくなるわ」
「そうだな、、、いざ」
煮え切らない返事のマサムネが刀を携えた。それを見て私も双剣を構えた時に住民に気付かれてしまった。その人は手を振りながら私達の方へと走って来た。
「おぉー!マサムネじゃないか!今までどこ行ってたんだよ?」
勢いで斬れば良かったもののマサムネが刀を下ろしてしまっていた。マサムネが手を出さないならと思い私も剣を下ろし煙草に火を付けることに。
「拙者はマサムネではない、姫違いではなかろうか」
「なーに言ってんだ俺がマサムネを間違えるはずないだろ、おかしらがずっと心配してたんだぜ、顔見せてやんなよ」
「離せヒコマル!」
そう言うとマサムネの手を掴みズルズルと引きずって行った。その光景を見てため息を吐きながらその後を追って歩く事に。
「お頭!マサムネが帰ってきましたぜ!」
「おぉマサムネよ、良くぞ戻って参られた」
「拙者はマサムネではない、ヒコマルにも申したが姫違いだ」
「ならば何故ヒコマルの名を知っておるのだ」
「それは…」
マサムネが連れて行かれた道場の門の影から中を覗いているとそんな会話が聞こえてきた。見たところそのヒコマルとお頭が道場に居るだけか、、、。おっ、あのお頭とやらは剪定対象者だ。
「お頭!宴を開きましょう!」
「そうであるな、女衆に宴の支度をせよと伝えよ」
「はっ!」
そう言ってヒコマルは何処かに走って行った。その時門の影に居る私を不思議そうな顔で見ていたがまぁ良いだろう。
「それであの者はマサムネの友人であるか」
お頭が私の居る門を指差していた。ん、気付かれたか。一応マサムネの邪魔にならない様に気配を殺していたのだけど。
「拙者の友人のユリだ、入れ」
「お邪魔しまーす」
マサムネに呼ばれ返事をしながら道場の中へ。その頭は袴を着て長い黒髪を結っておりマサムネよりも侍に見える。それに腰に携えた刀も見えた。
「良くぞ我が里に参られた、歓迎致す」
そう頭を下げながら言われてしまった。あははと返事を返しマサムネの方を見ると穏やかな笑顔を浮かべていた。もう彼女の決心は鈍ってしまっているのだろうか?
「マサムネよ、お主が何故里を離れたのか訳を申せ」
お頭が優しい顔でそう訪ねていた。だがその瞳は真剣そのものであり何処かに悲しみを宿していた。その言葉にマサムネは目を逸らし唇を噛み締めていた。
「拙者はこの里を抜けた後インテグラルキラーズに入った、あの時の拙者とは別人と考えて頂きたい」
そう前置きを置いた後にマサムネがインテグラルキラーズとして何をしているかを包み隠さず話していた。その話を聞いてお頭は深くため息を吐いていた。
「拙者が剪定するのは違えぬ忠義を示す者。この里の民ならばと思い参上した」
「私は近くで出会っただけよ、私が剪定するのは穢れなき純潔を持つ者ね」
「お主達が何をしようとしているかは理解した、だが我が里の民に手を出させる訳にはいかぬ」
マサムネと私を交互に見ながらそう言い刀の柄に手を置いた。
「何?やるなら私が相手になるわ」
「ユリの勝てる相手ではない、下がれ」
お頭を睨み付けながら腰に携えた二本の柄に手をかけた私をマサムネが制した。そして私の前に立ちお頭と同じ様に刀の柄に手をかけた。
「儂が刀を抜くという事がどういう事か分かっておるな」
「無論だ、あの頃の拙者とは違う事を示してみせよう」
お互いが腰を落とし柄に手をかけ隙を探り合っていた。凄まじい程の殺気が二人から発せられそれを見ている私に緊張感を与えていた。そしてこのお頭、強い。剣を交えた訳じゃないんだけど常人の域を超えている。マサムネの言った通り私じゃ勝てないかもしれない。
「…………」
「…………」
長い睨み合いの後に二人が同時に刀から手を離した。そんな二人を見ると滝の様な汗をかきそれを手で拭っていた。
「お主達がどの様な道を歩むかは分からぬが手を取り合えば解決するかもしれぬ、儂らも手を貸すぞ」
「………その段階はとうに過ぎてしまった。忠義に背いた拙者はこうするしか無いのだ」
「余儀ない事か、、、」
悔しそうな表情を浮かべるお頭、マサムネも苦悶の表情を浮かべていた。そんなシリアスな空気の中私のお腹が盛大に音を立て二人が顔を私に向けた。
「何よ、見ないでよ」
恥ずかしくて目を逸らした私を見てお頭が笑い声を響かせ床に腰を下ろした。
「今宴の準備をしておる、しばし待っておれ」
「ん、ありがと。それでマサムネはどうしてこの町に居たのよ?」
「過去の詮索はよせ」
「うむ、マサムネはな」
「ふむふむ」
聞くとマサムネはこの町の近くで深手を負い動けなくなっていたところをヒコマルが見つけこの町に運ばれて来たようだ。そこで手当を受けお頭の元で剣の修行をしていたらしい。
「マサムネは誰にやられたのよ?」
「方天画哉というキル姫だ」
「方天画哉は地下浪人を束ね兵を持っておるのじゃ、キルオーダーに縛られているキル姫では民を討つ事はできぬ」
地下浪人?キルオーダー?聞き慣れない単語だがまぁ良いだろう。つまりマサムネはこの里に恩があるという事か?それで少しでもこの町の人を擬彩されし不可逆世界に連れて行きたくてここに来たのだろう。
「マサムネ達の考えは合点がいった、だが儂も易々と民を討たせる訳にはいかぬぞ」
「承知の上だ、其方を斬り伏せてでも剪定をさせてもらおう」
どちらも真剣な顔でお互いを見据えていた。そんな二人を見ながら宴のご飯はなんだろう?と楽しみにしていた。
「お頭!支度が整いました!」
そんな私達の元にヒコマルが駆け込んで来た。それにお頭が(後に参る)と伝えていた。
「話は宴の後じゃ、皆マサムネの帰参を心待ちにしておるぞ」
「心遣い感謝致す、だが騒ぎに紛れ拙者達を討つなどと考えは持っておらぬな」
マサムネがお頭を睨みつけると優しい顔で口を開いた。
「金打を致そう、ならば信じてもらえるか」
「………承知した」
そう言って二人が道場の真ん中で正座を組み刀を鞘ごと前に立てると道場内の空気が凛と張り詰め深い沈黙が訪れた。そして少しだけ刀身を抜きキンッと音を立てながら鞘に収めた。その音と同時に[承知!]と声を合わせていた。神聖な儀式のようだが私にはさっぱりだった。
「今のはなんなのよ?」
「武士同士が硬い約束をしたという証だ。この里の者が拙者達に手を出す事はなかろう」
「ふむ」
「マサムネも分かっておるな」
「無論だ、宴が終わるまで手を出す事は無い」
そう言って二人が私を見た。
「マサムネが手を出さないのなら私は何もしないわ、約束するわよ」
「もしどちらかが手を出したなら腹を切ろう」
「武士に二言は無いぞ」
なんだかよく分からないうちにそんな約束が取り交わされてしまっていた。別に私だって人を斬りたい訳じゃ無いしマサムネが恩がある人達なら私が先導を切るのは筋違いだろう。それにお腹空いたし。
「付いて参れ」そう言いながらお頭が立ち上がりその後にマサムネも立ち上がった、そして道場を出て町の入り口から見えたやぐらの近くまで歩いて行くと沢山の人と机にその上に並べられたご飯が見えてきた。
「お待ちしておりました」
「おぉマサムネ!久しぶりだな!」
「なーにしてたんだよ」
近くまで歩くと私達に気が付いた町の人達が集まって来た。皆マサムネが帰って来た事を喜び笑顔で話しかけている。それに答えながらやぐらのふもとまで行くとお頭が声を張り上げた。
「聞け皆の衆!ここに居るのはマサムネだが以前のマサムネでは無い。インテグラルキラーズとして儂らを剪定に来たのじゃ、儂らの敵ぞ」
お頭がそう言った瞬間に町の人から笑顔が消え武器を構えたり懐に手を入れたり戦闘体制をとりお頭の次の言葉を待っていた。
「じゃがこの宴が終わるまでは互いに手を出してらならぬ、マサムネとは金打を致した、皆が手を出せば儂は腹を切る。その逆も然りぞ」
その言葉の後にすぐ町の人に笑顔が戻りマサムネに話しかけていた。凄い。これだけ、多分百人以上居るのにお頭の言葉を皆疑いもせず信じた。それ程までに慕われているのだろう。
「今はマサムネの帰参と又者であるユリとの交流を深めようぞ」
「応っ!」
お頭の言葉により宴が始まった。皆に勧められて私も料理をいただく事に。早速近くのテーブルに並べられていたお肉に目を付けて口に運んでいた。
「んっ!美味しっ!これは一体なんなのよ?」
「これは今朝罠に掛かった猪のジビエ料理だよ、気に入ったかい?」
「すっごく気に入ったわ!まだ食べて良いのかしら?」
「ははは、好きなだけ食べると良いよ」
そう言われてまだ山のように盛られているお肉へと箸を伸ばしその人に質問をしていた。
「ねぇ、なんでこんなに良くしてくれるの?私達は敵よ?」
「俺達はお頭とマサムネには恩があるからな、それにこの宴が終わるまでは二人はお頭の客人だよ」」
そう言ってニッカリと笑った町の人、笑顔が眩しい。
「ん、マサムネはこの町で何してたのよ?」
「あんたはどこまで知ってるんだ?」
「えっと、マサムネがヒコマルって人にこの町に運ばれて来たって事までね」
「そこまで知っていれば話は早い、それからお頭の元で剣の修行をしてたんだ。最初はただの冷飯食いかと思っていたがたいそう働き者でね」
そう言って何処かぎこちなく料理を食べている二人に視線を向け直ぐに私に視線を戻した。
「気付いているかも知れないけどこの里にキル姫は居ないんだ。君も知ってると思うけど異族って化け物が度々現れてはいろんな町を襲ったんだ。この里も例外じゃなくね。この里から教会の支部まで助けを求めてもすぐに来てくれる訳じゃないんだ」
「それでマサムネがみんなを助けていたのね?」
「いや、マサムネが来るまでお頭が異族と戦ってくれたんだ。身体一つで里のみんなを守るためにね」
そう言われて前の町で貰ってきた本を開き異族の項目を読んでみると異族に抗う術はキル姫しかないと書かれていた。
「ねぇ、人間は異族に勝てないみたいよ?」
「普通の人間はね、お頭は剣の道を極めし者。お頭の剣技で斬れない物は無いよ」
そう言われて納得していた。確かにあのお頭は強い。その闘気を感じただけで私では勝てないと思ってしまった程に。
「そこにマサムネが来てお頭と二人で里を守ってくれたんだよ、だからこの里の人はあの二人に足を向けて寝れないんだ」
戦うとなれば別だけどね。そう言いながらその人はお肉を口に運んでいた。この町のお頭は身体を張ってこの人達を守りそれに町の人達は応え忠義を誓っている。違えぬ忠誠に守りたいという純粋な心。お頭の言葉を借りるのなら天晴れだ。
「そんな二人はいつの間にか結ばれてね、祝言を上げる予定だったんだけどなぁ」
そう言って深くため息を吐くと升に入った液体をグッと飲み込んだ。
「それは?」
「酒だよ、酒、君も飲むかい?」
「そうね、頂くわ」
升にお酒を注いでもらいそのお酒を一口飲むと喉がクッと熱くなり頭がクラクラと回り始めた。
「にゃによきょれーー?あははははw」
「あっダメな人だったか…」
私は一口飲んだお酒にやられて町の人達にウザ絡みをした後踊り出し最後にはその辺で寝ていたらしい。なぜ疑問かと言うと後でマサムネにそう言われたからだ。
「起きよユリ」
「うーーんんん、、何よ・・・」
「死合いの刻だ」
マサムネにそう言われてその事を思い出し立ち上がり大きく身体を伸ばしストレッチをして煙草を咥えて火を灯した。
その向こうではお頭を筆頭に皆が武器を構え戦闘態勢をとっていた。ピリピリと緊張感が漂う中私は町の人にある要求をする事に。
「ねぇ、お水ちょうだい喉が渇いたわ」
私のその言葉の後に沈黙、すぐに町の人達が笑い声を上げた。
「何よ、そんなに笑わなくても良いじゃない」
「お主の空気の読めなさを皆笑っておるのだ」
マサムネに呆れた声で言われむぅと顔を逸らした私にお頭が声を上げていた。
「茶を持って参れ」
その言葉の後に笑うのをやめ直ぐに私にお茶が入ったコップを渡してくれた。それを飲み干し満足な声を出していた。
「ありがと、料理もお茶も美味しかったわ」
「礼など要らぬ、後は己の力を示すのみ」
そう言って刀を構えたお頭、その後ろの町の人達も武器を構え直していた。
「ユリ」
「分かってるわ、全力で行かせてもらうわよ!」
双剣を構え力を解放しあのトゲトゲを身に纏った。見ると隣にいるマサムネもトゲトゲを纏っていた。良かった、私だけじゃないみたいだ。
双方睨み合い死合い開始の合図を待っていた。敵の数は百を超えておりそれにやぐらの上には弓を構えた人の姿も見える。気合を入れようと柄をギュッと握り直した時だった。叫び声を上げながらやぐらの上から人が落っこちてきた。
「なっ!?」
「敵襲!敵襲!!1時の方向!ウグゥ!」
またやぐらの人が叫び声を上げ何も言わなくなった。その代わりに血がやぐらから滴り落ちている。それを理解した瞬間にお頭がやぐらを駆け上りその人を抱きかかえ飛び降りこちらへ戻ってきた。
「すまぬがしばし待たれ、虜外者を手打ちにして参る。皆は手当を頼むぞ」
そう言い残しお頭が町の外へと駆け出して行った。それを見て私はマサムネと顔を合わせ頷き合った。
「行くぞユリ」
「もちろんよ!ご飯の恩は返すわよ!」
お頭の後を二人で追いかけて行く。町を駆け抜け竹で組まれた塀を飛び超えると先行して行ったお頭の姿が見えてきた、それに向かって何かを向ける人達の姿と何か変な臭いが。
「あちゃぁ、強いのは頭だけって聞いてたんすけどまさかキル姫従えてるなんて想定外っすね」
「あんたは誰よ!」
「ウチっすか?ウチの名前は雑賀。戦術と鉄砲ならウチにお任せっすよ」
「我が里に何の用じゃ」
「用事ってかウチの雇い主が住むとこを探してんすよ、それでたまたま通り掛かったら良い町があった。それだけっす」
あたかも当然の様に告げる雑賀にお頭とマサムネが怒りを露わにし声を荒げた。
「その様な考え豪語道断!!」
「拙者の刀の錆にしてくれよう!」
抜刀し今にも斬りかかろうとしている二人を見ても雑賀はまだ涼しい顔で言葉を続けていた。
「ウチの役目は終わったんすけど戦うなら相手になるっすよ」
そう言って兵士を自分の前に集め二重の壁を作った。前方の兵がしゃがみ何かを構え背後の兵は何か筒の様な物を持っているのが見える。少し距離があり見づらいけどあれは槍か?
「んじゃ雑賀衆の力を見せてあげるっすね。真っ赤な赤、見せて下さいよ!」
打ち方初めっす!の声の後に前方の兵が引き金を引いた。
「種子島じゃ!伏せよ!」
お頭がそう言って私達の頭を押さえ付け地へと伏せると頭の上を何かが掠めながら飛んでいった。
「もぅ!何よあれは!!」
「南蛮より伝わりし鉄砲ぞ」
「そんな事聞いてないわよ!?」
「安心しろ種子島は連射は効かぬ、その隙を打てば良い」
「その考えは甘いっすよ!第二陣打ち方始めっす!」
その言葉の後に背後にいた兵が前列に銃を渡し銃撃を開始していた。
「ゆくぞ」
「分かってるわよ!」
お頭の前に立ち降り注ぐ弾丸の軌道を見極める。そして。
[せやぁぁっ!!]
二人で飛び交う弾丸を斬り飛ばして行く。このぐらいの速度ならまだ撃ち落とせない事は無い。弾幕が止み剣を構えた私達の横を何かが通り抜けて行った。
キンッって音が聞こえた後には前列の兵が真っ二つとなり崩れ落ちていた。速い、圧倒的な速さに鎧ごと叩き斬る腕力。本当にこのお頭は人なのか疑問を持ってしまう程だ。
「見事な素破抜き、恐れ致す」
そうマサムネが呟く間にも後列の兵を斬り伏せ残るは雑賀一人となっていた。
「噂通り強いっすね、だけどウチは倒せないっすよ」
「吐かせ、このまま叩き斬る」
「いーんすか?こうしてる間にも町の人が無事な保証はないっすよ」
お頭の剣技をのらりくらりと躱しながら雑賀がそう言っていた。その言葉にお頭が刀を止めた。
「さっきも言ったっすけどウチの役目は物見やぐらを封じる事とあんたをここに誘き出す事で終わってんすよ」
「もしや、、、謀りおったな」
「そう、ウチらは謀勢。まぁウチがこう言うって事は既に作戦は成功してるって事ですよね」
してやったり顔の雑賀にお頭が背を向け走り出した、それを雑賀は銃を下げ見送っていた。
「あんたらも戻るなら戻った方が良いっすよ、もう手遅れかもすっけど」
しっしと手を振る雑賀に刀を向けたマサムネ。そんなマサムネを制しお頭と共に町に戻る様に伝えていた。
「あいつは私が剪定するわ、マサムネは町の人を頼んだわよ」
ギロリと雑賀を睨んだ後私にお礼を言いマサムネはお頭の後を追い町へ向かい走り出した。
「あんたはここで私が摘み取ってあげる。覚悟しなさい」
「ウチとやろうって言うんすか?別に構わないすっけど。そういえばあんた見かけないキル姫っすね」
「私はユリ・擬彩よ、別に覚えなくて良いわ」
「あんたは私が摘み取るから。そう言うんすね」
私が言おうとしたセリフを取られた事に舌打ちをしてから双剣を構え駆け出してゆく。見たところ使う武器は銃。それもさっきの兵達が持っていた奴と同じだ。ならば弾を放った後に隙ができるはずだ。それに雑賀を守る兵は全てお頭が斬り伏せた。装填する隙を与えず叩けば勝てる。
そう思い銃口を見ながら狙いを定められぬ様にジグザグに戦場を駆けて雑賀に接近してゆく。
「良い動きっすね、ウチの兵に欲しいぐらいっすよ」
「残念ね、私は誰の下にもつく気は無いわよ!」
そう叫びながら雑賀に辿り着き双剣を振るってゆくのだが雑賀は涼しい顔で私の剣技を躱してゆく。
「あーでも剣の腕はイマイチっすね、ただ剣を振っているだけっていうかなんていうか」
軽やかに飛び跳ねる雑賀を斬ろうと剣を振るうのだが擦りもしなかった。まるで私の剣の軌道を読んでいるかの様に動き回りそれに軽口を叩く余裕まで。それが私のプライドをちくりと刺してゆく。
「そろそろ反撃といきますか」
後方へ飛び跳ね銃を担ぐ様に構え左目を閉じ右目で私に狙いを定めた。
「ウチの銃は一発しか射てないんでね、動かないで下さいよ」
「ちっ」
少し距離を取られ雑賀は射撃体制を取っている。それならば私がすべき事は銃口の向きから射線を予測して回避する事だけだ。それに一発しか射てないのならそれさえ何とかしてしまえば良い。苛立つ気持ちを抑え少しだけ冷静を取り戻しそんな事を考えていた。
「なら私の剣が早いかあんたが引き金を引くのが早いか勝負よ」
「銃は剣よりも強し。っすよ」
その言葉の後に雑賀が引き金を引き弾丸が私に向かって来た。それを回避し即座に接近してゆく。
「終わりよ!雑賀!!」
「はい、おつかれした」
後数センチで斬り裂けるところで私の胸を雑賀が放った弾丸が捉えその勢いで私は吹き飛び何度も地面をバウンドしながらゴロゴロと転がり兵の死体にぶつかりそこで止まった。
立ち上がろうとしても体が痛みで言う事を聞かず指一つ動かせないでいた。
「ふぅ、さーて町の様子でも見にいきますか」
そんな私の横を雑賀が通り抜けてゆく。行かせるわけにはいかない。あの町の人にはご飯の恩がある。それにマサムネの剪定を邪魔させる訳にはいかない。あの町にはマサムネの恩人達が居る。
ゆっくりと深く息を吸い込みそれをゆっくりと吐き出し剣を地面に突き刺す。それを支えに体を起こし私が立ち上がった事に気が付いていない雑賀を睨む。
そうだ。奪おう。あいつの命を。
そう思った瞬間から体の奥底から湧き上がる衝動に流されるままに私は双剣を構え駆け出した。
「はぁあぁ、まだやるんすか?」
「私はあんたの命を奪う」
「うおっと!?」
私の剣をスレスレで回避した雑賀が驚きの声を上げた。それを聞きながら踏み込み追撃のニ閃。
「さっきより動きが良くなってるっすね、でもまだウチを殺す事はできないっすよ」
まだ余裕の表情の雑賀、まだ策を持っている様だ。その策を見破らないと勝つ事はできないだろう。苛立ちながら雑賀を睨むと何かが飛んでいるのが見えた。
「ねぇ、そのみかんみたいなのは何なのよ?」
「知らないっす、ウチとは関係ないっすね」
そう言われたけどそのみかんは雑賀の周りを飛び回っていた。無関係って事はないだろう。それを見ていると虫を追い払う様に手で払っていた。
あのみかんみたいなのの大きさは握り拳ぐらいか?追い払われても雑賀の周りを飛んでいるって事はアレに何か秘密があるのだろう。思い付いた、やってみよう。
「そんな事より何で生きてるんすか?弾は直撃したはずっすよ」
「そうね、ギリギリ防いだのよ」
「やるっすね、ウチも燃えてきたっすよ!」
「それであのみかんは何なのよ?」
「ウチは集団戦が得意なんすけど一対一でも負けないっす!」
そう言いながら繰り出される弾丸を躱していた。ここまで露骨に話題を逸らすって事はやっぱりアレに秘密があるのだろう。
「なら私も本気を出すわ!行くわよ!」
銃を構える雑賀の元へ目にも止まらぬスピードで接近してゆく。
「だから、当たんないっすって」
「知ってるわ!私の狙いはこっちよ!」
その勢いで飛び上がり雑賀の周りを飛ぶみかんを思いっきり蹴飛ばした。
「あっ!!なんてことすんねん!壊れてしもたやないか!」
(えぇ、、、)
先程と違いなになにっす、じゃなくて可愛らしい話し方をする雑賀に困惑してしまった。
「あんたキャラブレすぎよ!」
「これがウチの素なんよ、方言バリバリやからはずかしゅうて」
「あぁもうやりにくいわね!何でも良いわよ!」
「ウチも大事なもん壊されて頭きとんよ!許さへんよ!」
雑賀が銃を構えようとした瞬間には私の双剣は雑賀の首を挟むように止まっていた。
「やっぱりあのみかんに秘密があったのね、遺言があるならあんたの雇い主に伝えてあげるわ」
「……ウチはただの戦闘屋。戦って負けたらそれまでや」
「そう、じゃあね」
両手の剣で首を斬ろうとした時に雑賀が声を荒げた。
「ウチの銃あんたにあげるわ、一発打つ分の弾は詰めてある」
「ん、ありがたくもらっておくわ」
力を込めて剣を交え背を向けるとドサリと倒れる音が。そして私の足元に転がるのは雑賀が持っていた銃。それを拾い煙草に火を灯し町へ向かう事に。
…………………………………………………………
草原を歩き町にたどり着いたのだが物音一つ聞こえてこなかった。マサムネ達が片付けたのだろうか?それでも警戒し家の陰に隠れながら町の中心、やぐらがある所を目指してゆく。
「ちっ」
隠れている事を忘れて思わず舌打ちをしてしまった。それ程に悲惨な光景が広場に広がっていたのだ。この町の人々はほぼ殺され地面に血だらけとなり横たわっていてマサムネとお頭、生き残っている町の人達がぐるりとやぐらを囲う様に縄か何かで縛られていた。それを嘲笑う一人の男とその横に居るのは槍を構えた女。
「ざまあねえなマサムネ、今の気分どうだ?」
「…………」
「人が良い気分で質問してやってるのにダンマリはねぇんじゃないか?おらっ!」
「グゥゥ、、」
動けないマサムネを容赦なく蹴り込んでいた。それをマサムネは唇を噛み締め耐えていた。
「お頭さんよぉこの里を俺に渡す気になったか?」
「我が里は決して渡さぬ、儂の命を奪われようと決して渡さぬぞ!」
「ほぉ、聞いたか方天画哉」
「もちろん聞いたさ、お前達の様なへろへろ侍なんざさっさと殺してやろうぜ」
「もちろんだ、その前にこいつの結った髪を切り取ってやる」
そう言うとお頭の髪を掴み結ってある所を短刀で切り取った。そしてそれを掲げ二人して下品な笑い声を響かせていた。
…………その光景を見てブチギレそうなのを必死に抑え銃口をそいつらに向けていた。だが弾は一発、二人を同時に倒さなければ二人が危ない。それかあの縄を打ち切りみんなを解放する事ができれば。
チラチラとその様子を見ているとヒコマルと目が合った。向こうも私に気がついたようで目線を私に向けている。それに銃を見せ隙間を開けるようにジェスチャーをしていた。
それに頷きヒコマルが隣の人に耳打ちをすると右へと少しずれた、そしてその隣の人が隣に耳打ちし右へとずれてゆく。
その伝言が隣から隣へ伝えられ最後にはヒコマルの隣の人が右にずれて隙間は埋まってしまった。
(何でそうなったのよ、、、)
呆れた顔でヒコマルを見ると(あっいけね)みたいな顔をしていた。
「おい、さっきから何をしているんだ」
「ちょっとうんこがしたくなりましてね、便意を抑えるためにモゾモゾしてるんだよ」
「くせぇっ!ヒコマル!屁をこくんじゃねぇ!」
そう言いながら左右の人がヒコマルから離れようと隣を押していた。
「くせぇ!こっちにまで臭ってきやがった!」
そう言ってヒコマルの反対の人も左右へ動き縄から縄への隙間ができた。
「こんなくせぇ屁の臭いを嗅いだらいい匂いが嗅ぎてぇなぁ」
「この季節だと百合が良いな」
「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花ってか」
そう言って笑う町の人の会話にお頭とマサムネが顔を上げた。あぁもう!何よこの連携の良さ!仲良すぎよ!
そんな嬉しさを噛み締めながら先目当を覗き込みしっかりと縄に標準を定めた。
(雑賀!あんたの力を借りるわよ!)
そう呟いた後に引き金を引くとそこから飛び出した弾丸は見事縄を断ち切り即座にマサムネとお頭が動いた。
「この無礼者共が!手打ちにしてくれる!」
「儂とて許す事はできぬ、その首貰い受ける!」
「そう簡単にやられるかよ!」
そう叫び男が町の人を人質に取ろうと走り出した。だけどそれを許すわけが無い。その男の前へ飛び出し双剣を構えた。
「残念だったわね、それ以上動いたら斬り刻んであげるわ」
「くそっ!雑賀は何をしてやがる!」
「雑賀なら死んだわよ、ほら」
雑賀から貰った銃を見せると目を丸くして私を見ていた、その顔がズレたと思ったら胴体と分かれ地へと落ちていった。
「無粋だが非太刀を取らせてもらった、あの世で我が里に手を出した事を後悔するのじゃ」
これで雑賀の雇い主は死んだ、後はマサムネと方天画哉だ。
「これで俺達を邪魔する者は居なくなったって訳だ。俺の槍が強いかお前の刀が強いか一騎討ちと行こうじゃないか」
「あの時お主に敗れた拙者は死んだ。あの頃の拙者と甘く見るでないぞ!」
方天画哉が槍を構えマサムネが刀を構え戦いが始まった。方天画哉が槍を振るえばマサムネはそれを弾き果敢に攻め立てる。それを槍のリーチを利用し絡めとり反撃に出る方天画哉。
私、お頭、それに町の人もその戦いの結末を固唾を飲み見守っていた。
「どーしたんだよマサムネぇ!そんな剣技じゃぁ俺は斬れねぇぞ!」
踏み込み突き、踏み込み突き挑発しながら突きを繰り出していた。その槍を紙一重で避けながらマサムネが刀を鞘に収め目を閉じた。
「隙ありぃ!!」
方天画哉が振りかぶり槍を振るうと何かが煌めき次の瞬間にはマサムネは方天画哉の背後にいた。
そして振り返ると方天画哉の身体が二つに分かれ滑り落ちた。
「力無き者に未来はない。せめてもの手向けだ」
何かを言おうとしたその首を跳ね戦いは終わりを告げた。
「立てる?マサムネ」
「無論だ。里の民は」
「みんな無事よ、さっき数えたけど生き残ったのは13人ね、マサムネは誰か剪定した?」
「拙者はまだ一人もしておらぬ」
「そう、なら丁度ね、あんた達聞きなさい!この町の人みんな擬彩されし不可逆世界に連れてくわ!そうすればもう私達と争う必要は無いわよ!」
そう叫ぶも誰も返事はしなかった、分かっていたけどね。
「このまま拙者達と戦い無駄な血を流すか大人しく剪定されるか好きな方を選べ」
そうマサムネが叫んだ後その場は静まり返った。その静寂を破ったのはお頭だった。
「マサムネよ、儂と戦い雌雄を決するのじゃ、儂が勝てばこの里から手を引け儂が負ければ好きにすると良い」
その言葉に誰の反論も無くマサムネとお頭が距離を取り向かい合った。そんな二人を沈みかけた太陽が優しく照らしてゆく。
そして太陽が山に隠れた瞬間にお互いが動いた。
二つの刀を抜く音、納める音が聞こえた後に互いが振り返りしばらくするとお頭が地に伏せた。
「儂の負けじゃ、好きに致せ」そう力無く呟いていた。
「主君!何故峰で打った!その訳を申せ!」
「そう言うマサムネも峰であった、訳を申せ」
「拙者はっ!拙者はっっっ!!うぅぅぅ」
「互いに離れ合っても心はあの時のままじゃ。共に過ごした月日を向こうで思い耽るとしよう」
泣きじゃくるマサムネに町の人達が近づいてゆき手を伸ばし握手を求めた。その手を振り払おうとしたが手を掴まれ思い思いの言葉を口にしながら光となり空へと登っていった。
それを見届けて最後に残ったお頭の元へ私は歩いていった。
「ねぇ、あの世界に幼い兄弟が居るわ、良かったらその子達に剣を教えてあげてよ」
「しかと心得た、そして我が里の窮地を救う種子島の一撃、大義であった。主よ、何を飼っておる」
「さぁ?私には分からないわね、これより剪定を行うわ」
私がお頭の手に触れそう呟くとお頭の身体が光となっていった。それを見てから背を向け煙草に火を灯した。
その背後で抱き合う様な音が聞こえたけど私は聞こえないふりをして空を見上げ空に登る光を見ていた。
「先に行くわ、次はユグドラシルで会いましょう」
そのまま私はユグドラシルを目指して歩み出した。町を抜けてしばらく経っても振り返る事をせずに。