私達は町に救いの手を差し伸べた。その町に住む人達はみんな死んだような目をしていて。生きる屍っていうのかな、あぁいうのは。だけど奏でられた情熱がきっと届いたと思う。
この話は剣を置き別の物を構え死んだような町に止まぬ情熱を届けた私達とその町で出会った心の家族の話だ。
あの町を出てから一度も振り返ることの無かった私がふと立ち止まりゆっくりと振り返り夜空を見上げた。すると夜空にあのお頭が居た道場が浮かび上がっていて擬彩されし不可逆世界に向かい飛んでいった。
それを見えなくなるまで見届けてから私は再び歩みを始めた。
それからどれぐらい歩いたのだろう?気が付けば空が白み太陽が顔を出し新しい一日の始まりを告げてくれていた。
そろそろ休もうか。そう思い雑草が生い茂る草原に寝転び煙草を咥えて火を灯していた。
煙を吸い込み吐き出しているうちに眠気に襲われゆっくりと吸いかけの煙草を地面に押し付け胸の上に手を置き眠気に身を任せて目を瞑った。
「こんなとこでなーにしてんのよ」
「むぅ、お昼寝よ」
「今朝だし」
「そんな突っ込みいらないわよ、、、」
私のお昼寝の邪魔をした主は私の隣に座り真紅の瞳で私を優しく見下ろしていた。
「何よ、レーヴァテイン」
「別に、あの町に居たら気配を感じたから」
そう言いながら指差しその方を見ると少し離れた所に町が見えた。
「私は疲れてんの、寝かせなさいよ」
「無理、手伝ってもらうから」
そう言うと私の手を掴み起き上がるように引っ張られていた。最初は抵抗したけど諦めて起き上がり質問をする事に。
「それで一体何を手伝うのよ」
「バンド」
「そんだけじゃ分からないわよ、、、」
寝起きでふらふらしている私の手を掴みそのまま歩いてゆくと先程の町の入り口にたどり着いた。結構大きな町みたいだが活気が無く寂れた雰囲気。そんな町へとレーヴァテインに連れられやってきたのだ。
「それで坂東って何よ?」
「それ英二、もう少しで分かるから」
「ふむ」
沢山の人達とすれ違いながら手を引かれ町を歩いていた。それにしても見る人見る人に元気がないように感じる。
「ねぇ、レーヴァテインはこの町にずっと居たの?」
「昨日来たばっかり、ここよ」
そう言って一軒の古びた家の前で立ち止まった。そして周りをキョロキョロと見渡してから玄関を開き中へと入っていった。それについて私も中へと入ってゆく。
「うわっ」
玄関が閉まると室内は薄暗くよく見てみると直ぐにドアと階段がありレーヴァテインが階段を降りてゆく後ろ姿が見えた。その後について行くと広い部屋に出た。
「レヴァっちおかえりーどうだった?」
レヴァっち?レーヴァテインをあだ名で呼んだその声の主を探そうと目を凝らし探していると部屋に電気が付けられ目をやられた
「眩しっ」
「あはは♪ごめごめ♪あたしはリュディ。そんで隣に居るのがオルフェウスだよ」
「は、初めまして、私オルフェウスって言います、、、」
そう私に自己紹介をしてくれたのはえっと、深緋色の髪に1束だけ黄緑のメッシュが入っているのがリュディで腰までありそうなオレンジの髪の毛がオルフェウスね。
「私はユリ「ユリピーって演奏とかできちゃったりする?」
「リュディ!まだユリピーが話している途中だよ!」
私の自己紹介を遮りそんな事を聞かれていた。そんな事よりもユリピーって何よ。まだリュディだけがそう言うなら分かるのだが大人しそうなオルフェウスにもそう呼ばれていた。あだ名で呼ばれるのは構わないのだけど。
「それでユリピーは演奏できるの?」
「できるのなら何が演奏できるのかな?」
「ちょっとタイム。レーヴァテインこっちに来なさい」
私に詰め寄る二人の前に手のひらを突き出し私達のやりとりを積み上げられた机に腰を預けニヤニヤしながら見ているレーヴァテインの元へ。
「一体どういう事なのよ!説明しなさいよ!」
「一から説明するのめんどくさいんだけど」
「いや、そこはしなさいよ」
しばらく問い詰めていると渋々レーヴァテインが話してくれた。この二人はレーヴァテインの剪定対象者でたまたまこの町にライブをしに来たところをレーヴァテインと出会い意気投合したらしい。
「それでレーヴァテインは演奏できるの?」
「私はこれ」
そう言って机の隙間から何かを取り出し首からかけていた。
「それは?ギター?」
「これはベース。昔誰かに教えてもらった事があってさ」
そう言いながら弦を弾くとビィィィンンンと音が奏でられた。
「ふむ。じゃなくて!私演奏なんてした事ないわよ!」
「えっユリピー楽器できない系?」
「ガチ?」
そう言ってしょんぼりした顔で私を見ていた。なんで私が悪者みたいになっているのよ!
「ならさ!今からできるようになっちゃえば良くなくない?」
「そうだね、そうだよ!ユリピーはドラムを願いね♪」
「………がち?」
二人の勢いに乗せられ気付けば私はなんか太鼓みたいなのが沢山ある楽器の前に座っていた。
「えっと?」
「トーシローだったね、まずはドラムのかく名称を教えるね♪」
そう言ってリュディが説明をしてくれた。座った私から見て手前にあるのがスネアドラムとフロアタム、その奥がハイタム、ロータム。その奥、左右の金色の皿みたいなのがクラッシュシンバル。その左右手前にあるのがハイハットとライドシンバル。ハイハットの下にあるのがハイハットペダル。そして真ん中下部の大きなドラムがバスドラムとキックペダル。らしい。言葉で言われてもそんなすぐに覚えられる訳もなく困ってしまっていた。
「この子に教えんなら言葉より見せた方が早いよ」
「ユリピーって言葉より行動タイプなの?」
「じゃああたし達で演るからユリピーはそこで見ててよね♪」
そうリュディに言われて椅子を退くとそこにリュディが座りそれを見てレーヴァテインとオルフェウスが同じような楽器を構えていた。そしてリュディが二人に視線を送りそれに頷き返すと両手に持った棒を叩き合わせそれを合図に演奏が始まった。
その演奏を私はひたすらに魅入っていた。鮮やかに二本の棒でドラムを叩きシンバルを鳴らしバスを踏み鳴らすリュディ。その音に負けない音を響かせるオルフェウス。そしてその二つの音を引き立てるレーヴァテインのベース。
3人共違う楽器を演奏しているのにその三つが重なり合い一つの音楽となっている。こんな例えしかできないけど凄いの一言だった。
「ふぅ〜どうだったユリピー?」
「もう感動よ!でも難しそうね、、、」
二つの棒と両足のペダルだけであんな演奏が私にできるとは思えず自信が持てないでいた。
「ユリピーならできるから、やってみて」
「………分かったわよ、あとあんたまでユリピーってよばないでよ」
ため息をしながらリュディから棒を渡してもらいドラムの前の椅子に座った。
「一回演ってみてよ、見ててあげるからさ」
「分かったわ」
リュディにそう言われ先程演奏を始めた時のように棒を叩き合わせてから演奏を始めた。元々双剣を振るっていたからか手が思うように動きそれにバスペダルも違和感なく踏み込める。先程リュディがやっていたように棒と両足を使い音を叩き鳴らしてゆく。
「…………?」
「…………?」
私が演奏を終えて棒を置いて前を見るとリュディとオルフェウスがぽけらんっと私を見ていた。
「えっと、ユリピーってドラム始めてだよね?」
「そうよ、今までした事無かったわ、結構楽しいのね」
「凄い、凄いよユリピー!!」
「完璧に私が演ったのを自分の物にしてるし!ガチリスペクトなんだけど♪」
椅子に座る私を凄いと褒めてくれる二人に揉みくちゃにされながらレーヴァテインを見るとニヤニヤと私達を見ており私の目線に気がつくと花柄の襟に口元を隠していた。
「じゃあさ本番さながらでリハ、演っちゃう?」
「分かりました」
「おけ」
そう二人が返事をするとギターとベースにコードを繋いでいた。
「それは?」
「こうすると弾いた音がアンプから流れるの、レヴァっちのもだよ」
そう言って二人がギターとベースを鳴らすと先程より大きな音が聞こえそのサウンドは私の中の何かを震わせてくれた。
【んじゃ、演っちゃいますか!あたしが合図をするからその後おにゃしゃす♪】
いつのまにかマイクを手にしているリュディ。その声がスピーカーから響き渡っていた。
ーーー♪
ーーー♪
ーーーーーーー♪
ーーー♪
ーーー♪
ーーー♪
そこまで歌った後に右手を突き上げその合図を受け演奏を始めていた。
オルフェウスがギターを掻き鳴らしレーヴァテインがベースを響かせる。それに合わせ私も棒を振るい音を叩き出してゆく。
その三つの音に負けないリュディの歌声が部屋に響き渡りその四つが混ざり合い一つの音楽となっていた。それに感動しすぎて泣いてしまい私はドラムを叩く事ができなくなってしまった。
「ユリピー?」
【ちょ、なんで泣いてるの?もしかして嫌だった系?】
首を横にブンブンと振って涙を拭いその理由を伝えていた。
「全然嫌じゃないわよ、むしろ楽しいし。なんだろ、四人が一つになってるっていうかまとまってるっていうのか。それが嬉しくて」
「はぁ、もっと端的に言って」
「言えてるわよ!それとそれは青い奴に言いなさいよ!」
そんな私とレーヴァテインのやりとりを見て今度は二人が涙を流していた。
「えっ、どうしたのよ」
「私達の音楽でこんなに感動してくれる人が居てすっごい嬉しいの♪」
【音楽やってて良かったって心から思えたよ♪レヴァっちの家族って本当にいい奴♪】
そう言いながら二人が私とレーヴァテインを抱きしめてくれた。
【音楽ってのはさ一人でもできるんだ。だけどこうしてみんなの音を重ねて一つにする事は一人じゃできないんだよね。繋がりを感じるっていうか一つになるっていうかさ】
(あったかっ)
そんな3人の温もりを感じているとだんだんと眠くなってきた。それに合わせて私のお腹が音を立てた。
【ぐぅぅぅぅぅ】
その音をリュディが持っていたマイクが拾いスピーカーからお腹の音が響き四人で涙が出る程に笑い合った。
【ユリピーギャグセン高すぎっしょw】
「本当に最高だねw」
「ちょ、マジはずいんですけど」
…………………
……………
…………
………
……
…
「はい、お待たせ、沢山あるからいっぱい食べてね」
「ありがと、いただきます」
この家は元々ライブハウスと呼ばれる家だったらしく防音の為地下にライブハウス、一階は居住スペースとなっているようだ。今私達は一階でオルフェウスが作ってくれたご飯を頂いていた。
「それでそのライブってなんなのよ?」
「ライブはね、沢山の人の前で演るんだよ、多分この町の人全員来るんじゃないかな?」
「へぇ、それはいつやるのよ?」
「今日の夜だよー?」
「え"っ?!」
「言わなかったっけ?」
「初耳よ初耳!大丈夫か不安なんだけど」
「初めててあたしのドラム完コピする才能持ってる人に不安なんて感じないっしょ?」
そう言われても私の不安は消えなかった。大勢の人を斬る事はあったけど大勢の人の前で演奏した事なんてないんだ。大抵の人はその二つ共した事ないと思うけども。
そんな事よりもレーヴァテインがこの二人にどこまで伝えたのかを聞かなくては。それとこの町の事も気にかかる。この町の人達の生気の無さは普通じゃない。
「どうしたのユリピー?」
「あっ、いや、ご馳走様!煙草吸ってくるわね」
「いってらー」
そう伝えて家から出て玄関の前で煙草に火を灯し煙の行方を目で追った。その目線の先には無表情で町を歩く人達の姿が。
なんだろう、この町にだけ色が無いような。例えるならモノクロの町に私達だけに色が付いてる、、、大袈裟ね。
煙草を咥えて私は散歩をする事に。そうは言ってもこの煙草が消えるまでだけど。
煙をなびかせながら少し町を歩くと立派なお屋敷が見えた。その屋敷だけは色が付いている。もっと分かりやすくいうのなら活気があるね。
その屋敷に違和感を感じて見ていると煙草から煙が出てない事に気が付いた。戻ろうか。
火の消えてしまった煙草を指で弾き飛ばし家まで歩きドアを開けようとしたら急にドアが開き私のおでこと鉢合わせていた。
「いったぁ、、、」
「ユリピーごめごめ♪今から会場のチェックとあたし達を呼んでくれた人に挨拶に行くよー」
そう言うリュディの後ろにはオルフェウス、レーヴァテインの姿が。みんなで行くならと私もついて行く事に。
「この町の人達って本当に元気が無いわよね」
「だからあたし達を呼んだっんしょ?音楽でテンションガチあげればみんな笑顔になるってさ」
「そんなに有名なの?あんた達って?」
「そりゃーもちろん大陸中に名を轟かせてるっていうか?」
「呼ばれたの今回が初めてだよ」
「ちょそれ言っちゃう?でも音楽にかける情熱は誰にも負けないよ!」
手を振りながら喋るリュディにそれにしっかりと突っ込みを入れて行くオルフェウス。本当に仲が良いのね。
「二人は友達なの?」
「友達ってゆうか、元々わたし一人で音楽やっててさ、あたしの音楽にオルフェウスが感動してくれて。それからずっと一緒にやってんだ♪もう仲間や友達っていうか家族だよね♪」
「あの時のリュディは無茶苦茶だったんだよ?メンバーが居ないなら一人で演れば良いって。一人でギターとベース担いで同時に弾いて歌ったり」
「それってできるの?」
「当然無理だったよwだけどさ、やらないと分かんないじゃん?やらずに諦めるのは性に合わないっていうか」
「それで私が入った後もドラムが居ない!って言ってドラム叩きながらベースやってたんだよ?」
「それは聞くまでもなく無理って分かるわね。それとレーヴァテインからどこまで聞いているのよ?」
「ん?あー全部。剪定対象者をあそこに連れて行って対象外は全て殺す。しょ?」
そう言って反転するユグドラシルを指差していた。
「あたし達は音楽やれるなら場所はどこでも構わないよ、それにこの世界が滅んじゃったら音楽できなくなるしさ」
「この世界が無くなっちゃうのはちょっと嫌だけどね」
そう言って笑うリュディとオルフェウスに苦笑していた。話の飲み込みが早いのはこちらとしても楽だけど少し楽観的すぎるのではないか?
「あっ、もちろん反論と抵抗はしたよ?レヴァっちの事だって思いっきり殴ったし」
「あんなに怒ってるリュディは初めて見たかな」
「どうして納得してくれたのよ?」
「頼んだんだよあたしが。ならこのライブがこの世界で最後になるから手伝ってくれってさ♪手伝ってくれるなら剪定を受け入れる。手伝わないなら今から舌噛んで死んでやるってね♪」
さらっととんでも無いことを言いながら笑っていた。そう言われてレーヴァテインが凄く困った顔をしているのを想像すると笑顔になれる。
「そう言われたらやるしかないでしょ、それでセッションしてたらユリの気配を感じた訳」
「私がドラムできなかったらどうしてたのよ?」
「あたしがドラム叩いてユリピーにボーカルやってもらうつもりだったよ♪」
「地獄のようなボイトレを叩き込むけどね」そう言いながら笑っていた。私も剪定者に手を出すつもりはないしもし私がレーヴァテインよりも先に二人に会っていたら同じように手助けをしていただろう。
「あのお屋敷だよ」
「あれね」
そんな話をしながら歩いているとお屋敷にたどり着くことができた。先程私が見つけた色が付いている建物だった。
「おじゃまー」
そう言いながら先陣を切るリュディの後に続き門を開けて中へと入って行く。すると髭を生やしたおじさんが出迎えてくれた。
「やぁやぁ、練習はしっかりできたかな?」
「もちっしょ!良い場所貸してくれてあざっす♪」
「それと会場の話なんですけど」
「まぁまぁ立ち話もなんだ。ついてきなさい」
そのおじさんに連れられ屋敷の応接間で話をしていた。ソファーに座りおじさんと向かい合い座るリュディとオルフェウス。その間の机には湯気を立てるお茶が置いてある。それを飲みながら打ち合わせを私とレーヴァテインはソファーの後ろに立ち聞いていた。
「会場は屋敷の前の広場で準備は既に済んでいるよ」
そう優しく言うおじさんに違和感を感じていた。それは私だけでなくレーヴァテインも同じようでチラチラとおじさんを睨んでいた。
(ねぇ、あんたも感じてる?)
(この人奏官だね、近くにキル姫も居るはず)
(ならこの違和感は?)
(この人の持つバイブス。結構強いからそれが違和感となって現れてると思う)
(ふむ)
そう話しているとおじさんが立ち上がった。どうやら会場へ案内してくれるようだ。二人も立ち上がりその場所に移動する事に。
屋敷を抜けて広場に行こうとした時に誰かに見られているような感覚を覚えその方を睨んだ。
「ユリピー?どうしたの?」
「あっ、いや、演奏中の表情を考えてたのよ」
「そこまで考えるとはガチじゃん♪」
「ありがとねユリピー♪」
二人にそう言われてそれらしい事を言っておいた。私を見ている主の姿は見えなかったけど確かに感じた、あの気配は人のものではないだろう。
「ちょっとトイレ行ってくるね、先行ってて!」
「私も」
一人でその主を探そうとしたらレーヴァテインも付いてきた。物臭な彼女が付いてくるのは想定外だった。
「この廊下を真っ直ぐ行った突き当たりのドアを開ければ会場だよ」
そのおじさんの言葉に返事をしながらトイレへ。
「誰か私達を見ているわね」
「あの人のキル姫だと思う、今のところ敵意は無いみたいだから良いんじゃない?」
「でもすぐに戦う事になるわ、誰かだけでも見ておきたいじゃないの」
「ユリが見たところで何にも分かんないじゃない」
「うっ、そうなんだけどさ」
ご存知の通り私がキル姫を見たところで何も分からないのだ。でもこの歳になるまでこの世界で生きているのなら知っててもおかしく無いのに。
「ねぇ、何で私がキル姫の事知らないって分かるのよ?」
そう問うとため息を吐き私を指差し「私がユリのお守りをどんだけしたと思ってるのよ」と言われた。
そう言われて記憶を紐解いてみると何となく銀髪の女の人の姿が思い出された気がする。長い銀髪に真紅の瞳の女の人の姿が。
「ティルが忙しい時は私が見てたのよ、行くよ」
そう言ってトイレから出て行った。その後を追って行く。まだ消えない違和感を残したまま。
「おぉーーー!」
長い廊下を抜けた先にある広場を見て私は歓声をあげていた。私達を四人には大きすぎる程のステージに立ち並ぶスピーカー達。それを取り囲むように無数の観客席が。その光景を見るだけでテンションがアガる。隣でそれを見ているレーヴァテインも口元の緩みが隠せていない。私達でこれだからあの二人はどうなっているのだろう?きっとリュディがステージに駆け上がりそれをオルフェウスが止めようとしているだろう。そんな想像をしながら二人を探していると居た。二人仲良くステージを見ていた。
「もっとはしゃいでると思ってたのに、どうしたのよ?」
私がそう問いかけてもステージを見たままだった。感動しすぎて声も出せないのかな?
二人の前に立ち声をかけ私は言葉を失った。二人共ステージを見ているのだけどその目は焦点が合っておらずまるで抜け殻のようになっていた。
「ねぇ!どうしたのよ!?」
「私の家族に何したのよ………っ!」
私が二人を心配する中レーヴァテインがおじさんに問いかけていた。だけどおじさんは笑いながらこう言っていた。
「二人がこうなってしまったならコンサートはできそうに無いね。違約金を支払ってもらうよ」と。
「ざけんじゃないわよ!!!」
私は怒りを露にしそのおじさんの首を掴もうと駆け寄り手を伸ばしたが。その手は誰かにはたき落とされていた。
「私のマスターが犯人と決まった訳でないのに手を出すとは相当知能が低いようだな」
キッっと前を睨んだ時には私の首元に短剣が突き付けられその目線の先には鋭く眼光を光らせる女の姿が。
「くっ、、あんたは誰よ」
「わたくしはパラケルスス。偉大なる大錬金術の懐で常に眠りし短剣」
「そんな事は良いから。早くその剣を退けて」
「お前はレーヴァテインか。姿が変わっているから分からなかったな、それにこの娘見かけないキル姫だな、、」
「聞こえなかったの…?その剣を退けて」
私に短剣を突きつけるパラケルススにレーヴァテインが大剣を突きつけていた。
「剣を下げて貰おうか、君の剣より私の剣の方が早いのだぞ」
首にチクリと痛みが走りスーっと何かが垂れていった。そんな事よりも怒りの方が大きくその短剣を握る手を掴み握りしめて押し返してゆく。
「さっさとあの二人を元に戻しなさいよ。このまま手を握り潰される前にね」
「知能は無いくせに度胸はあるようだな、だが知らぬものを戻せと言われても無理な話だ」
ミシミシと骨が音を立てているのにパラケルススは涼しい顔だった。
「なら望み通りに潰してやるわよ!」
トゲトゲを解放し握り潰そうとした時におじさんが何かを持ち言葉を発した。
「私のキル姫を傷付けるのならこれがどうなっても良いんだね?」
その方に目線を向けるとギターとベースを両手に持ち高く上げていた。
「こんなおもちゃ叩きつければ直ぐに壊れるだろうに」
そう言われれば手をはなすしかない。舌打ちをしながら手を離しパラケルススを睨んでいた。
「今日の夕方、18時までにコンサートができないのであるならこのおもちゃは貰って行くよ」
ニヤニヤと笑いながらそう言うおじさんに腑が煮えくりかえる程の怒りを感じていた。それはレーヴァテインも同じでいつでも斬り殺せる体制でいた。そんな時。
「おじさん私達の楽器運んでくれてあざっす♪」
「あとはドラムだけだね」
何事もなかったように二人がおじさんに話しかけていた。その様子を鳩が豆鉄砲を喰らったかのような顔でおじさんとパラケルススが見ていた。
「んー?どーしたの?」
「君達、身体に違和感とかは感じないのか」
「違和感?そんなんレッドブル飲んでりゃ感じないっしょ♪」
「私はモンスターの方が好きだよ」
「なんだその飲み物は!?」
「元気が出るっていうかー?翼が生えてくるっていうかー?」
「そんな馬鹿な事があってたまるか!その飲み物を出せ!」
「やー良いよ♪」
そう言うとカバンから缶を取り出しパラケルススに渡していた。その缶を血眼に観察しているパラケルスス。
「こんなカフェインと糖分だらけの飲み物に私の作った薬が負けたと言うのか!?」
「今、何て言ったかしら?」
「今、何て言った?」
私とレーヴァテインの声にしまったと口を押さえたパラケルススを見逃すはずもなく剣を構えた。
「まぁまぁ、喧嘩はよしなって」
「そうだよ、レヴァっちもユリピーも落ち着きなって」
「何であんた達はそんなに悠長な事が言えるのよ!?変な薬飲まされてライブができなくなるところだったのよ!!」
「薬?」
そう言って二人が顔を見合わせていた。
「別にどんな薬飲まされたって私達の情熱は消えないよ。つーか消せるもんなら消してみろってさw」
「それに私達は無事だったんだからそんなに怒らなくても良いよ?そんな事よりももう時間がないから音合わせなきゃ!」
薬を飲まされた事をそんな事で済まされてしまい困惑する私とレーヴァテインとパラケルススとおじさん。そんな事構わず「早く行こ♪」と手を引かれていた。
「おじさん!18時までには完璧にしとくからよろしく!」
笑顔でそう言うリュディに引きつった笑顔を返していた。そんな訳で私達はステージの上でリハーサルを行う事に。
【ユリピー!もー少しリズムとって!オルフェウスは先行しすぎ!レヴァっちはみんなに合わせて!】
歌いながら楽器の音を聞き的確なアドバイスを飛ばしていた。そんなリュディにオルフェウスが「今音程外したよね?」と鋭い指摘を返していた。
私達のリハーサルは時間ギリギリまで続きなんとかみんなが納得できる形に収まり控え室で最後の打ち合わせをする事に。
「このライブが終わったらすぐ剪定するから」
「もっと他に言う事あるでしょ!」
「良いんだよユリピー♪レヴァっちやユリピーがどんな目的かって知ってるしさ」
「こんな形だけど二人に会えて一緒に音楽できて本当に嬉しかったし楽しかったよ♪」
「気が早いけど乾杯するっしょ♪」
「いいねいいね♪」
そう言って四つの缶をカバンから取り出していた。
「お酒なら私は飲めないわよ、飲んだら演奏どころじゃなくなるしやめとくわ」
「お酒なんて飲まないよ♪私達まだ未成年だしさ?」
「そーなの?」
「うん、あたしが18でオルフェウスが17ね」
「ほら、もう時間ないよ」
「あっ、本当だ。じゃあ心の家族に。二人の旅の無事とライブの成功を祝して、、、かんぱーーーい♪」
「「「かんぱーいーー♪」」」
プルタブを起し缶をぶつけ合いそれを一気に飲み干した。そして。
リュディが拳を私達に突き出しそれにオルフェウスが拳を合わせ私、レーヴァテインもそれに拳をぶつけた。
「よっしやぁぁ!!テン上げマシマシで行くよーー!」
私達は控え室を出て光り輝くステージの元へ。真ん中奥に配置されたドラムに私が、その右側にはギターを構えたオルフェウスが。その左にベースのレーヴァテイン。そして私の真前にはスタンドに立てられたマイクを握りしめるリュディが。
そんな私達を見ている観客は大勢いるのだがその全てが死んだ顔をして私達を見ていた。
【みんなーーー!今夜はテン上げでいくよー!一曲だけだけどさ私達の情熱きっとみんなに届くからしっかり最後までアゲて行くよ!!】
そう言った後に息を吸い込む事がスピーカーから聞こえその歌声を響かせてゆく。
【強くーなれる理由を知った。僕を連れて進め】
そこまで歌い右手を突き上げた。それに合わせそれぞれが楽器を奏で重ねてゆく。
【泥だらけの走馬灯に酔う こわばる心震える手は掴みたいものがある。それだけさ】
【夜の匂いに】
{(I’ll spend all thirty nights)
【空睨んでも】
(Staring into the sky)
【変わっていけるのは自分自身だけ、それだけさ】
【強くなれる理由を知った 僕を連れて進め】
【どうしたって!】
【消せない夢も 止まれない今も誰かのために強くなれるなら】
【ありがとう悲しみよーーっっ!!】
【世界に打ちのめされて負ける意味を知った紅蓮の華よ咲き誇れ!】
【運命を照らして】
リュディの歌声に重なり合う音に涙を堪えながら必死にドラムを叩いてゆく。そんな時ふと見た観客席に居る人達の顔に少しだけ光が戻っていた気がした。
【イナビカリの雑音が耳を刺す 戸惑う心優しいだけじゃ守れないものがある?わかってるけど】
【水面下で絡まる善悪 透けて見える偽善に天罰】
【Tell me why, Tell me why, Tell me why, Tell me… I don’t need you!】
【逸材の花より 挑み続け咲いた一輪が美しい】
【乱暴に敷き詰められた トゲだらけの道も本気の僕だけに現れるから乗り越えてみせるよ】
【簡単に片付けられた守れなかった夢も紅蓮の心臓に根を生やしこの血に宿ってぇーー!!】
【ここでメンバー紹介ー!ギター!オルフェウスーー♪】
リュディの呼びかけにオルフェウスがギターを掻き鳴らしそれに応えていた。
【ベースー!レーヴァテインーー♪】
リュディの呼びかけにベースを弾きながら高く掲げてゆく。
【ドラムー!ユリピーーー♪】
私も負けていられない。手足を動かし音を叩き出してゆく。
【そしてボーカルはあたし、リュディだよーー♪ほら!後ろの方も声出してノッてけーー!】
【どうしたって!消せない夢も止まれない今も誰かのために強くなれるならありがとう 悲しみよーー!!】
【世界に打ちのめされて負ける意味を知った紅蓮の華よ咲き誇れ!】
【運命を照らして】
【運命を照らして】
最後に私が叩いたシンバルの音がスピーカーから聞こえていた。この音が止めば私達は剪定を開始する。そして二人ともさよならだ。嫌だ。そんな感情が心を蝕み始めた時にシンバルは振動をやめその音を止めた。
溢れそうな涙を隠す為に空を仰ぐ私に聞こえたのはリュディの歌声にも負けない程の歓声だった。一人一人の声が重なり合い一つの声となり私達に聞こえていた。
【みんなーーーーセンキューー!!】
それに応える様に大声を張り上げるリュディ。その横にはオルフェウスが。
【レヴァっち、ユリピー。ほんっとあざした!これだけの人をアゲれるライブができたんだ。もう後悔なんてないよ♪】
「私も、二人共本当にありがとうございました!」
もうダメだった。上を見ているのに私の涙は溢れ止まらなかった。止まれ、止まれと念じてもその涙は止む事を知らず溢れてゆく。
「はい。約束は守ったから」
顔を逸らしながらレーヴァテインがリュディにベースを渡そうとしていたのだがリュディはそれを受け取らなかった。
【レヴァっち、こういう時は顔を見ながら返すんじゃないかな?】
「……………はい」
その横顔には一筋の涙の跡が。それを拭い二人の頭に手を伸ばしていた。
「またみんなで音楽やろうよ!」
【いいね♪約束だよー?】
「その約束乗ったわ!レーヴァテインもよ!」
「仕方ないなぁ、一曲だけだからね」
【じゃあさよならじゃなくてこう言うべきだね。またね!二人共!最高にアガるセッションだったよ!】
その言葉の後に二人はキラキラと光となり空へと昇っていった。それが見えなくなるまで眺め涙を拭いて煙草に火を灯した。
「じゃあ始めましょうか」
「そうね、約束だし。これより剪定を始めるわ」
久しぶりに双剣を握りその横でレーヴァテインも大剣を構えていた。そして止まぬ歓声はやがて悲鳴へと変わり最後には物音一つ聞こえなくなっていた。
「私行くね。レーヴァテインは?」
「疲れたから寝る。先行ってて」
「分かったわ。次はユグドラシルで会いましょ」
その返事を聞く事なく私はその町を後にした。リュディが歌っていた歌を口ずさみながら。