※この作品はR-18です。

インテグラル・ノア サイドストーリーユリ物語   作:やす、

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黒ユリと果てなき慈愛

愛。それは誰に与えるものであり誰に与えられるものだと思う。そして愛は全てに平等である。

 

 

私達が行う剪定もこの世界を救いたいという愛なのかも知れない。

 

 

この話は全てを救いたいと願う母と一線を超えてしまった槍と剣の話だ。

 

 

 

 

あの町を出てから私はユグドラシルを目指して歩いていた。それにしても。

 

 

(お腹空いた、、、)

 

 

たび重なる戦鬪に心をすり減らす剪定に疲労はピークに達していた。どこかでご飯を食べてゆっくりお風呂に入り柔らかなベッドで眠りたい。そんな事を思っていた。

 

 

(そんな場所あるわけないか。それにお金も無いし)

 

 

そんな事を思いため息を吐きながら早春の寒夜を歩いていた。そんな時明かりが灯る建物を見つけた。良く目を凝らしてみるとちょっとしたお城の様な外観でその頂上には十字架が付けられていた。何かの宗教の建物なのだろうか?

 

 

疑い深く考えていると風に乗り美味しそうな匂いが私の鼻に届いた。辺りを見渡しても他に建物は無くあの教会からなのは間違いないだろう。

 

 

グゥゥっと音を立てる腹の虫にそこに行けとけしかけられ私の足はその建物へと向かっていた。

 

 

(…………!)

 

 

気が付けば教会の玄関へ手を伸ばそうとしていた。そのギリギリで理性がその動作を止め考える時間をくれていた。

 

 

どう考えても私は不審者だしもしご飯を食べさせてくれたとしても私は剪定を行わなければならない。恩を仇で返す事はしたくは無い。でもご飯を食べたい。

 

 

お腹の虫と理性が喧嘩を始めその様子を他人事のように私は見ていた。するとその教会の玄関が開いた。

 

 

「どなたですか?」

 

「ええっと、私は、、、」

 

 

急な事で混乱し返す言葉に詰まり上手く話せないでいた私にその老女は優しく微笑み口を開いた。

 

 

「中へお入りなさい。外は寒いですよ」

 

「でも私不審者だしそれにお金も無いし」

 

「本当の不審者は自分で不審者だなんて言いません。訳ありなのでしょう。さぁ、いらっしゃい」

 

 

修道服を着た老女に手を掴まれ中へと入るように促されためらいながらも建物の中へと足を踏み入れた。

 

 

その室内は暖かく外の寒さを忘れてしまう程でテーブルには沢山の料理が並べられておりそれを囲う小さな子供達の姿が。そして見慣れたキル姫と見慣れない女の人がお盆に料理を乗せテーブルへと運んでいた。

 

 

「あっ、ユリ、、、」

 

「ロンギヌス?ここで何してるのよ?」

 

「どうしたロンギヌス?知り合いであったのか?」

 

 

私の顔を見て驚くロンギヌスと穏やかな顔の女性。ん、この気配はこの女はキル姫か。雰囲気は穏やかだがかなりの力を感じる。どうする?トゲトゲを解放し先手を打つか?

 

 

「お腹空いているでしょ?沢山食べて良いのよ?」

 

 

悩みに悩む私の事なんて知りもしないで老女に手を引かれテーブルの淵の席へと座らされていた。

 

 

「どうぞ、食べて下さい」

 

 

コトリと音を立てながら料理が盛り付けられたお皿を目の前に置いてくれた。じゅるりとよだれが垂れそうなのを必死に堪え質問をする事に。

 

 

「なんでこんな私にご飯を食べさせてくれるのよ?意味が分からないわよ」

 

 

老女の方を向いて言いたかったのだが私の視線は目の前に置かれた料理から離れぬままだった。そんな私に小さな笑い声が聞こえた。

 

 

「困っている者を助けるのに理由などいらぬ。さぁ、我が家のご飯だと思って食べると良い」

 

「でも!」

 

「良い、良い。我がご飯を食べながら話を聞いてやろう。ロンギヌス、すまぬが子供達の世話を頼んだぞ」

 

「はい。ユリ、ゆっくりしていって下さいね」

 

 

お皿を運び終えたロンギヌスと老女が子供達の方へと行きご飯を食べさせ始めていた。それを横目に私もご飯を食べる事に。

 

 

「いただきます」

 

 

そう言って箸を手に取り湯気を立てるスープの入ったお椀を持ちそれを一口。

 

 

「おいしぃ」

 

 

温かなスープを飲みその具を噛み飲み込むとお腹の中からも身体が温められてゆく。そのあとケチャップで文字を書かれたハンバーグを切り分け口に運びご飯と共に頂く。

 

 

その優しくて美味しい料理を気が付けば夢中になって食べていて質問の事なんてすっかり忘れてしまっていた。

 

 

そしてそんな私を優しく見守ってくれている人に向かい笑顔で「おかわり!」と言っていた。

 

 

「余程お腹を空かしていたのだな。すぐに持ってくるぞ」

 

 

うんうんと頷いた後食器を持ちどこかへと歩いていった。まだお腹は空いているけど余裕が出てきた私は辺りに視線を向けていた。

 

 

壁には子供達が書いたであろう絵が貼られておりその絵はあのキル姫と老女を描いた物がほとんどだ。それと部屋の片隅には大きなピアノが。ここは保育園なのだろうか?

 

 

さらに視線を変えていくと子供達に囲まれた四人の男女の写真を見つけた。その写真には老女とさっきの女の人と私のお母さんと男の人が一人写っていた。

 

 

「さぁ、お腹が一杯になるまでたーんっと食べるのだぞ」

 

「うん、ありがと。ねぇ、なんであの写真に私のお母さんが写っているの?」

 

「おぉ、ユリがあの二人の子供であったか。言われてみれば確かに二人の面影を感じるぞ」

 

「やっぱりあれが私のお父さん…?なんでその写真がここにあるのよ?」

 

「この教会は二人が寄付をしてくれたお金で建てられたのじゃ、ここに居る子らのために」

 

「どういう事なのよ?」

 

「昔から我と我のマスター、シスターで孤児達の面倒を見ておったのじゃ。だが我が教会に盗賊が押し入り非道の限りを尽くしたのじゃ。その盗賊は物を盗むだけじゃ飽き足らず火を放ち……」

 

 

だんだんと話す顔が辛そうになってゆくのが見え私は口を挟んだ。

 

 

「ごめん、嫌な事を聞いてしまったわね。無理に話さなくて良いわよ」

 

「良いのじゃ。焼けた教会に我とマスターと生き残った子供達で途方にくれていた時二人が通りすがったのだ。彼等はこの悲惨な様を見て躊躇いもなく新しく教会を建てる寄付をしてくれたのじゃ」

 

「・・・」

 

 

その話を聞いて私は胸が熱くなっていた。建物を建てるのにいくらお金が必要か分からないけど安い金額ではないだろう。それをたまたま通りすがり話を聞いただけでその金額の寄付をした。そんな心優しい両親の元に産まれたのが私。

 

 

「…………」

 

 

それに比べて私はどうだ?世界の為と言って人々を剪定し剣を振りかざし。血に、憎しみにまみれた私は。情けなかった。心の底から両親に謝りたいと思えるほどに。気が付けば頬を伝い雫が落ちていた。

 

 

「良い、良い。ユリは良い子じゃ。気の済むまで我の胸で泣くと良い」

 

 

泣きじゃくりながらその人の胸に顔を埋めしっかりとしがみ付き声を押し殺しながら泣き叫んでいた。私が落ち着くまでその人は私の頭を撫でてくれていた。

 

 

「ありがと、もう大丈夫よ」

 

「うむ。ほらチーン」

 

「チーーーン。って流石に恥ずかしいから自分でやるわよ!」

 

 

その手に握られたティッシュを貰い鼻をかみ涙を拭いていた。

 

 

「ねぇ、あんた名前はなんて言うの?」

 

「我の名はプタハ」

 

「ん、私の名前はユリよ。冷めるまでに頂くわね」

 

 

心のモヤが取れぬまま残りの晩御飯をいただきそれを食べ終わり手を合わせ挨拶をしていた。

 

 

「ご馳走様。お礼に食器は私が全部洗ってあげるね」

 

「ならん、ユリは大人しくしておるのだ」

 

「別にそれぐらい良いわよ。それとシスターだっけ?ご馳走様」

 

 

そう言うと私の方を向きにっこりと笑った後すぐに子供達にご飯を食べさせていた。どうせ洗うならまとめて洗おうと思い外に煙草を吸いに出る事に。

 

 

(…………)

 

 

さっきから心が痛い。私がしてきた事の罪の重さに胸が張り裂けそうだ。でもここでやめてしまえばそれこそただの殺し屋になってしまうだろう。それにお母さんはその優しさから剪定という決断を下したはずだ。ここで悩み立ち止まる訳にはいかない。

 

 

ため息と共に煙を吐き出し夜空を仰いだ。そのあとゆっくりと部屋へと戻ってゆく。

 

 

扉を開け前を見ると戻ってきた私に気が付いたシスターが私に駆け寄り跪き私の手を握りしめた。

 

 

「あなたがあの二人の子だったのですね。ユリちゃんの両親にはしてもしきれぬ程の感謝をしております」

 

「私にお礼を言われても困るわよ。したのは私じゃなくて私の両親なんだから」

 

「それと、二人の葬式に出られたなかった愚かな私をお許し下さい」

 

 

そう言って頭を深々と下げられた。えっ?二人の葬式?

 

 

「ねぇ、私のお父さんが死んだのは昔の話だしお母さんはまだ生きているわよ」

 

 

そう言うと目を丸くして私を見ていた。

 

 

「ユリ、お風呂の準備ができています。ゆっくりと疲れを癒やして下さい」

 

「まだ食器を洗ってないわよ。それに話の途中よ」

 

「良いから来て下さい」

 

 

ロンギヌスに手を引かれ脱衣場に連れて来られていた。

 

 

「ごめんなさいユリ。シスターは高齢で普段はしっかりしているのですけど夜になると痴呆気味になってしまうのです」

 

「そうなんだ、、、それで?あの二人には剪定の話はしてあるの?」

 

「はい、シスターは私の剪定対象者です。あの子供達も何人かは、、、とりあえず今はゆっくりとお風呂に入って下さい。パジャマは後で持ってきます」

 

 

そう言って脱衣場に押し込まれバタンとドアを閉められていた。色々と疑問が尽きないけどひとまずお風呂に入ろう。

 

 

ゆっくりとベルトを外し服を脱ぎその上に二本の剣とベルトを置き浴室へ。シャワーで洗い流し頭を、身体を洗ってから湯船へと。

 

 

(あぁ、あったかっ)

 

 

広い湯船ではないけど足を伸ばし両手を上に伸ばしてリラックスする事ができた。今までの疲れが湯船に溶けてゆくのを感じながら。

 

 

何も考えずに湯船に浸かっているとドアの向こうに人影が見えた。

 

 

「パジャマ、置いておきますね」

 

「ありがと」

 

 

次の順番もあるだろうし最後に肩まで浸かり20数えてから出る事に。そして置いてくれていたタオルで身体を拭きパジャマに着替えリビングへと向かった。

 

 

「ありがとね。のんびりできたわ」

 

「そうか、そうか。寝床を準備してある。部屋へと案内しよう」

 

「その前に何か手伝うわよ。ここまでされておいて何もしないのは性に合わないわ」

 

「なら明日の朝朝食作りを手伝ってもらいますね。その時までゆっくり休んでくださいね」

 

 

プタハに話しかけていたのにロンギヌスが話に割って入り私の手を掴み二階へと続く階段へと引っ張ってゆく。

 

 

「ちょっと、さっきからあんた一体なんなのよ?」

 

「私は、、ユリの体調を心配しているだけです」

 

「私は大丈夫よ。それにまだ聞きたい事があるのよ」

 

「それは明日にして下さい!!」

 

 

急に声を荒げられ困惑すると顔をハッとさせ目を逸らした。

 

 

「ごめんなさい、明日には私からもお話をするので今晩は大人しくしていて下さい」

 

 

そう言って部屋の扉を開いた。少しだけロンギヌスを睨みながらその部屋へと入ってゆく。

 

 

「朝に起こしにきますからね」

 

 

そう言って扉を閉めカチャっと鍵をかける音が。一体なんなんだ?私を二人から遠ざけたい理由があるのか?

 

 

 

はぁ、っとため息をつき部屋を見渡すと机に本棚とベッドだけの質素な部屋だった。まだ眠くはなかったので武器を下ろし本棚を物色する事に。

 

 

幻想進化論。喪失原典。学園生徒手帳。愛ランド探訪記。白の原典。さまざまな本が置かれておりその中でも私の目を惹いたのは[黒奏の禁書]だった。

 

 

その本を手に取りベッドに腰掛けながらページをめくってゆく。

 

 

(…………)

 

 

本の内容は昔このラグナ大陸に居た七人の粛清部隊の話だった。対キル姫制圧特殊部隊、通称ブラックキラーズ。ラース、エンヴィー、ラスト、グラトニー、スロウス、プライド、グリードの七名の部隊。

 

 

んっ!?その中のグリードって名前に聞き覚えがある!えっと、どこで聞いた?

 

 

そうだ、レンとリンと剣の稽古をした後に聞いたんだ。確か、そう、ユウのパートナーのキル姫の名前だ!なら私のお母さんはグリードなのか?でも私のお母さんの名前はティルフィングだし、やっぱり違うのだろう。いや、そんな事はどうでもいい。私のお父さんは人間でお母さんはキル姫?そんな事ありえるのか?

 

 

ため息を吐きパラパラとページをめくり飛ばし読みをしていると一枚の栞が挟まれているページが。

 

 

ブラックキラーズとは前記した通り七人のキル姫だ。七つの大罪を宿した彼女の名は大罪名で呼ばれている。その元の名前は……

 

 

その続きが気になり次のページを捲ると話が変わっていた。ちょっと!なんで肝心な所が描かれてないのよ!著者を出しなさい!!こうなったら最初から読んでやるわ!

 

 

そう決めてベッドに潜り込み布団を被り頭と手だけを出して本を読んでいた。そしてその途中で眠りに落ちていた。

 

 

 

 

 

……………………………………………………………

 

 

 

音を立てないように鍵を開けゆっくりとドアを開き室内の音を聞くと安らかな寝息が聞こえていた。それに安心し着替えを机の上に置き部屋を後にした。

 

 

手すりを掴みながら階段を降りてゆくと私に気が付いた二人が私を見ていた。

 

 

「ユリちゃんはどうでしたか?」

 

「はい、ぐっすりと眠っていました」

 

「そうであるか、子供達もみな眠りについておるぞ」

 

 

……………………

 

 

「ロンギヌスさんにお話があります。聞いてもらえますか?」

 

「あの、先に私の話を聞いて下さい。きっとシスターさんの話したい事と私の言いたい事は同じだと思いますから」

 

 

……………………

 

 

「私は、私達はインテグラルキラーズとして活動をしています。それだけ言っても分からないと思いますので簡単に説明します。今この世界は崩壊の危機に瀕してます。大樹ユグドラシルが内包するマナが尽きてしまい世界を支える事ができなくなってしまうからです」

 

 

「それで私達は擬彩されし不可逆世界という方舟を作り出しました。その方舟には選ばれた人だけが乗る事ができ方舟はこの世界が崩壊した後も生きながらえる事ができるのです」

 

 

「ただ、私達に選ばれなかった者達はその、、、」

 

 

言葉が詰まり次の言葉が出てこず俯いてしまっていた。言わなければならないのに。

 

 

「落ち着いてゆっくりと話して下さい。私達はちゃんと聞いていますよ」

 

 

そうシスターに言われ顔を上げると優しく微笑む二人の顔が。その優しい顔を見てさらに言葉が詰まる。

 

 

「選ばれなかった人達はマナに還す。そうおっしゃるのですよね?」

 

「はい、そうです、、、」

 

「薄々気が付いていました。あなた達はキラーズの他に何か禍々しい何かを秘めています、最初は思い違いかと思いましたけどユリちゃんから同じ気配を感じたので確信しました」

 

「私達、インテグラルキラーズは異族の力を取り込んでいます。剪定を行う為に必要な力です。それに私達は淘汰を終えています」

 

 

・・・・・・・

 

 

「まさか・・・」

 

「はい、、ユリの両親を手にかけたのは私達です。ティルフィングの淘汰を完全なものとするために」

 

「あぁ、、、なんて事を、、、」

 

 

両手で顔を覆ったシスターをプタハが抱きしめ普段の優しい顔からは想像ができない程の恨みを込めた視線を私へと向けた。

 

 

「何故そうする必要があったのだ。人々が、キル姫が、皆が手を取り合えば解決策が浮かぶとは思わなかったのか」

 

「それは、、、人々の混乱を防ぐ為です。世界が滅ぶという話をすれば何をするのか検討もつきません」

 

「それはロンギヌス達が思っているだけかも知れぬ、人はみな優しさを持っておる。何故可能性に賭けなかったのか」

 

 

 

…………………………………

 

 

 

「もう世界の崩壊を誰にも止める事はできません。シスターさん、あなたは私の剪定対象者です。その慈愛を新しい世界でも分けてあげて下さい」

 

 

 

………………………………

 

 

「キル姫は、キル姫は新しい世界に行く事はできるのですか」

 

「それは無理です。私達も船出を見送ればこの世界と共に朽ちる運命なのです」

 

 

………………………………

 

 

 

「そんな道理が通らぬ行為など我は許さんぞ!」

 

「おやめなさい!!」

 

 

声を荒げ杖を手に持ちそれをロンギヌスに向かい振おうとしたのをシスターが制し荒ぶるプタハを宥め席へと座らせた。

 

 

「・・・ロンギヌス、何故マナは尽きてしまうのですか?」

 

「人々がキル姫を作り出しすぎたからです。キル姫を一人作り出すのには膨大なマナとキラーズを要します。最初は異族討伐の為で少数したが異族が討伐された今は争いの道具としてキル姫を作り出し始めました」

 

「おかしいですよね、世界を平和にする為にキル姫を生み出したのに結果として世界が終わってしまうんです」

 

「私だって剪定なんてしたくありません、私だけじゃありません、みんなも心の奥底では思っています。でもっ!このままだと世界が滅んでしまう、誰一人として生きる人が居ない世界になってしまうのです!」

 

 

 

………………………………

 

 

「分かりました。愚かなのは私達人間だったのですね。人間の都合でキル姫を生み出し争いの道具として、、、これは天より下った罰なのですね、、、」

 

「ですが救われるべき人もいます。私達が示す言の葉に選ばれた人は新たな世界でその可能性を示すでしょう。選ばれなかった人達は次の世界への肥しとなってもらいます」

 

 

………………………………………

 

 

「私は全ての人々を、キル姫を救いたい。ロンギヌスが言う事が正しいのは分かっています。ですが私は手を差し伸べたい、どんな人だとしても」

 

「今からでも遅くはないはずだ、今一度人がキル姫が手と手を取り合えばきっと上手くいくはずじゃ」

 

「もう遅いのです!!もうユグドラシルには僅かなマナしか無いのですよ!?今だから言います、後四日後にはこの世界は消滅してしまいます。もう何もかもが遅いんです、、、」

 

 

 

そう言い顔を覆ったロンギヌスにかける言葉が見当たらず空を仰ぐ。静寂の部屋に聞こえるのはロンギヌスが泣きじゃくる声だけだった。

 

 

「お願いしますシスターさん。新しい世界でもその慈愛を皆に分けてあげて下さい」

 

 

そう言い立ち上がり二人に向かい深々と頭を下げた。

 

 

 

……………………………………………………………

 

 

 

 

その頃私は夢を見ていた。幼い私を連れて両親に常夏のリゾート地、ラグーナ島に連れてってもらう夢を。

 

 

「うーーーーーみーーーー!!」

 

「ほら、海に入る前にちゃんと体操しないとダメだよ」

 

「やーー!海に入るの!」

 

 

初めて海を目にしてはしゃぎ回る私はお父さんの手をすり抜け海へと駆けてゆく。

 

 

「ユリ、ちゃんとお父さんの言う事を聞かないとダメですよ?」

 

 

そんな私を抱き上げたのはお母さんだった。言う事を聞かない私に優しく語りかけてくれていた。

 

 

「むぅぅ、、はぁーい」

 

 

不貞腐れながらも準備体操をして私は海へと続く砂浜を駆けてゆく。

 

 

「あはは♪砂熱い♪」

 

 

遮られる事なく照りつける太陽の下を走ると汗が滴り落ちる。それを拭ってもあまりの熱さにすぐに汗が滴ってゆく。

 

 

「暑い、、、海、、、」

 

 

身体を冷やす為海へ向かうのだがどれだけ走っても海に辿り着かない。

 

 

「なんで?どうしてなの?」

 

 

振り返ってもそこに両親の姿は無く砂浜に居るのは私一人だけだった。

 

 

「お母さん?お父さん?どこ?あついよ、、、」

 

 

そこで私は目を覚ましガバッと布団を跳ね除け身体を起こした。

 

 

「変な夢だったわね、、、」

 

 

パジャマが汗で湿り気分が悪い。着替えようと思いベッドを降りても寒さを感じなかった。それを不思議に思いながら机の上に置かれていたいつも着ている服に着替えていた。

 

 

時計を見るとまだ深夜だ。もう一度眠る前に乾いた喉を潤す為水を飲みに行こうとドアを開けようとしたが鍵がかかっている事を思い出し諦めてベッドに戻ろうとするとドアの隙間から煙が漏れている事に気が付いた。

 

 

「なにこれ煙!?火事なの!?」

 

 

ドアを蹴り開けると廊下に煙が充満しているのが見えた。まだ炎は見えないが火事が起きているに間違いないだろう。

 

 

「もぉう!一体なんなのよ!!」

 

 

愚痴をこぼしながら勢いを付け窓を破り外へと飛び出した。

 

 

 

…………………………………………………

 

 

頭を下げるロンギヌスにかける言葉が見つからず部屋には沈黙が散らばっていた。だが沈黙している間にも世界は崩壊へ向けてその時間を刻み続けている。

 

 

なんて言葉を掛ければ良い?顔をあげて下さい?剪定をやめて下さい?何を言っても世界は崩壊へと向かう。何も言わなくても世界は崩壊へと向かう。

 

 

長い長い沈黙の後にガラスが割れるような音が聞こえそちらへと気が向いた。

 

 

「何かがぶつかったのでしょうか?少し外を見て来ますね」

 

 

そう言って外へ出たロンギヌスを見送った後に二人は顔を合わせていた。話す事もかける言葉も思いつかずただただ沈黙。

 

 

そんな静寂を破るようにロンギヌスが勢い良く扉を開けて入って来た。

 

 

「大変です!教会が何者かに攻められています!」

 

「なんですって!?早く子供たちを助けなければ」

 

「私が彼らを引き止めます!その隙に早く!」

 

 

槍を構え部屋を飛び出したロンギヌスに向かいシスターが声をかけた。

 

 

「彼らを殺さないで下さい、きっとここに攻め入ったのは訳があるはずです」

 

「どうしてそんな事を言うのですか!?考えが甘過ぎます!」

 

「きっと話せば分かってくれるはずです」

 

「……できる限りやってみます」

 

 

二人の方を見ずに再び外へと飛び出してゆく。それを見届けた二人は2階で眠る子供達の元へ。

 

 

 

「放て放て!皆殺しにしてから金品を奪うぞ!!」

 

「おぉーーーー!!!」

 

 

 

ロンギヌスが目にしたのは火矢を教会に向けて放つ男達の集団であった。それを目にし怒りが込み上げてくる。

 

 

(こんな奴らが居るから世界は崩壊してしまうんだ、こんな奴らのせいで罪の無い人達まで巻き込まれて、、、!)

 

 

やり場のない怒りを手に持つ槍へ込めその集団へと向かってゆく。

 

 

「もうやめて下さい。今すぐに退いてもらえれば見逃してあげます」

 

「あぁ?お前はロンギヌスか、名前だけの聖槍が俺らに指図すんじゃねーよ!」

 

「なんとでも言って下さい。私は忠告はしましたからね」

 

 

槍を構え攻撃態勢へ移る。後10秒待って動きがないようなら剪定を開始しようと思いながら。

 

 

「どうしますおやびん?」

 

「構わねぇさ、お前らやっちまいな!」

 

「忠告はしましたからね」

 

 

武器を持ち迫る盗賊達に短く祈りを捧げその槍を振るい突き刺し切り崩してゆく。

 

 

「昔の私の様に優しいだけだと思っていたらそれは間違いです。これより剪定を開始します」

 

 

例え武器を持っていたとしても所詮はただの人間。ロンギヌスの相手ではなかった。悲鳴を聞きながら槍を振るうと同じく槍が繰り出され止められてしまった。

 

 

「ふん、やっとアタイの出番のよぉだね!おいマスター!!早く命令を寄越せよ!アタイに全部ぶっ壊せってなぁ!」

 

「トリシューラにロンギヌスは任せこっちは教会内部に攻め込むぞ!」

 

「おぉーーー!!」

 

 

残りの盗賊が教会へと入ってゆく。それを見過ごすわけにはいかない。すぐさま駆け出そうとしたその時に槍が向けられた。

 

 

「どこ行こおってんだい、あんたはこのアタイの相手をするんだよ!」

 

「くっ、、!」

 

(どうか、どうか無事でいて下さい…)

 

 

祈りを心の中で捧げながら怨敵を穿つべく槍を構え直した。

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

「うっわ、見事に燃えてるわね、、、」

 

 

二階から飛び出した私は無事に着地し身体中に付いたガラス片を払いながら教会を見ていた。二階部分は既に火に巻かれ一部は炭となっていた。

 

 

そんな事よりもシスターやプダハ、ロンギヌスは無事なのだろうか?それに子供達の安否も気にかかる。

 

 

燃え盛る教会を見ながら煙草に火を灯し気合を入れると近くに小さな火が複数灯っているのが見えた。

 

 

(ん?)

 

 

それを見ているとその火は教会へと向かい飛んでいった。これは火事なんかじゃない、誰かに火を付けられた。そう判断した瞬間にその場所へと駆けて行く。

 

 

「ねぇ、あんた達、なんて事してくれるのよ」

 

「あぁ?誰だお前」

 

 

静かに怒りを込めた言葉を口にすると弓を構えながら私の方を見ていた。この気配、キル姫か。そのほかの奴らはただの人か。

 

 

「あんた達が誰だか知らないけど私に恩がある場所に攻撃した事を後悔させてやるわ」

 

「はっ、オイラ達の邪魔をするなら容赦なく打ち抜くぞ!覚悟するんだな」

 

「邪魔?そうね、ならその魂、散らしてあげるわよ!」

 

「打てーぇ!」と号令の後に火の付いた矢が私に向かい放たれて行く。だが、この闇夜で明かりの付いた矢など的にしかならない。私に向かい飛んでくる矢を斬り伏せてゆく。

 

 

「それで終わり?ならこれより剪定を行うわ」

 

 

二本の剣を構え直し斬り込んでゆく。

 

 

 

 

……………………………………………………………

 

 

 

「あぁ、なんて事なの…」

 

 

階段を駆け上り二階にたどり着くと既に火の手が回りドス黒い煙を炎が吐き出していた。

 

 

「マスター、、、」

 

「いえ、私は諦めません。もし万が一私に何かがあったらすぐに回復魔法をお願いしますね」

 

 

意を決して子供達が眠る部屋へと続く炎に飲まれかけた廊下を進んでゆく。

 

 

身を屈め足速に火の下を通り抜け身を焦がしながら子供達のいる部屋へたどり着きその扉を開けた。

 

 

幸いにも部屋に煙は入っておらず何事もなかったかのように寝息を立てる子供達を目にし安堵の息を吐くとすぐに子供を背負い、抱き一度に持てる限りの子供を抱き部屋から運び出して行く。

 

 

「プダハ。この子達を地下室へ」

 

「分かった。マスターもすぐに戻るのだ」

 

「はい、分かっています」

 

 

子をプダハに預け再び火の中へと進んでゆく。

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

「所詮は紛い物の聖槍だったようだね、そんなもんアタイの相手じゃないよ」

 

「うぅ、、、」

 

 

繰り出される槍に押され続けていた。私より戦い慣れそして容赦が無い。圧倒的な戦闘技術に押さ傷口を抑え膝を付いてしまっていた。

 

 

「まぁいいさ、あんたを潰したらあのでっかい建物をぶっ潰せるんだぜ!?あの潰しがいのありそうな建物をよ!」

 

 

槍を構えながら高笑いをするトリシューラを睨んでいた。こうなったら擬彩の力を解放するしかない。

 

 

「じゃ、そろそろフィニッシュとさせてもらうぜぇ!!」

 

[擬彩、解放!]

 

 

繰り出された矛先を睨みながら身体の中に眠る力を解放し迫るトリシューラを吹き飛ばし立ち上がった。

 

 

「おわっっと!?なんだいその力は!」

 

「この力は散っていった同胞達の力です。あまり私は使いたくなかったのですが仕方ありません。覚悟してください」

 

 

顔を覆う擬彩からその右目で鋭く睨むとトリシューラが短く悲鳴を上げたがすぐに槍を構え直し吠えた。

 

 

「そうこなくっちゃあ面白くないね、だったらその同胞ごとぶっ潰してやらぁ!!」

 

 

槍と槍が叩き合わされる音が闇夜に響き渡ってゆく。

 

 

 

……………………………………………………………

 

 

 

「お前ら、打て打て!!隙を逃すんじゃないよ!」

 

「はい!ピナーカ様!」

 

 

叫び声と火矢が私に向かい飛び交ってくる。さっきも言った通りにこんな的を落とす事は容易かった。

 

 

「私には遊びに付き合ってる時間はないのよ、さっさと終わらせてやるわ!」

 

 

火矢を斬り落としながら接近して行くと左手に鋭い痛みが走り握る剣を落としてしまった。

 

 

「えっ?何?」

 

 

視線を左手に向けると深々と矢が刺さっているのが見えた。その瞬間に鋭い痛みは鈍痛へと変わり悲鳴を上げた。

 

 

「っああっ!!」

 

「ピナーカ様!当たったようです!」

 

「よぉーし!さっさと潰してオイラ達も向こうに加勢に行くよ!」

 

 

その言葉を聞いて闇夜に向かい駆け出し地に伏せ傷口を確認する事に。

 

 

「こんな矢!!」

 

 

刺さる矢を力任せに引き抜き再び悲鳴を上げた。手を動かそうにも痛みで動かす事が出来ずその腕をぶらりと垂れ下げた。

 

 

「そっちに逃げたぞ!逃すんじゃないよ!」

 

「ちっ」

 

 

火矢がこちらに向けられるのを見て舌打ちをしながら手元を見ると白く輝く剣が私の手元にあった。黒い方は何処かに落としたのか。

 

 

再び舌打ちをして闇夜に輝く火矢を睨み右手に剣を握り立ち上がった

 

 

 

 

……………………………………………………

 

 

 

「あなたで最後ですね、さぁ、私にしっかり掴まって下さい」

 

 

部屋に残された最後の子をしっかりと抱き部屋を飛び出した。何度も火に炙られ髪と服は焦げ顔の皮膚が突っ張り息をする度にひどく痛む。それでもしっかりと子を抱きしめ懸命に廊下を駆ける。

 

 

 

「プダハ、この子が最後です」

 

「はい、マスター、早く私の魔法で火傷を治すのだ」

 

「いえ、私より先に子供達を!」

 

「その子で最後である、さぁ早く」

 

 

最後の子に向かい杖を振るいシスターに杖を振おうとした時だった。

 

 

「そんな所に秘密の地下室があるとはな、おい、さっさとそこから金を出すんだな」

 

 

武器を構えニタニタと笑う男達がシスター達に視線を向けていた。その顔に見覚えがあった。

 

 

「あなたは…」

 

「ふふふ、そうだ、俺は三年前にここに押し入った盗賊だ。あん時はただの孤児院とがっかりしたがすぐに建物を直すとなれば話は変わる。そこに金を隠してるんだろ」

 

 

サーベルを手に当てながらジリジリと近寄りそれに後退りをして行くと壁にぶつかった。

 

 

「マスター、我に命じるのだ!この者たちを討てと!」

 

「ダメです、どんな人でも話し合えば分かり合えるはずなのです」

 

「強情なババアだ。おい!」

 

「へい!」

 

 

その合図で手下シスターの抱く子を奪い取った。

 

 

「早く金の在処を言いな。さもなくばこのガキが死ぬ事になるぞ」

 

 

泣き叫ぶ子の足を持ちぶら下げるとその身体に向かいサーベルを突きつけた。

 

 

 

…………………………………………………………

 

 

 

擬彩の力を解放しトリシューラに挑んだのだがその力は互角だった。それ程までに強くバイブスと結び付いているのだろう。

 

 

「良いねぇ!そうじゃないと喧嘩は面白くないよ!」

 

 

何度も繰り出しあった槍によりお互い満身創痍。だがお互いに負けられない理由がある。その瞳に闘志を宿し槍を振るいゆく。

 

 

「早く、早く倒れて下さい!私はかの方の元へ行かなければならないのです!」

 

「はんっ!だったらアタイを倒してみな、ぶっ壊してみな!アタイはあんたをぶっ潰したくてウズウズしてるんだよぉ!!」

 

 

繰り出された槍が頬を掠め血が滲む。その痛みに怯まずに大きく振りかぶり槍を突き出した。

 

 

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

火矢が私の居た場所に降り注いでいた。もう少し移動が遅ければと考えるとゾッとする。

 

 

迂闊に近寄ればまた火矢に矢を紛れ込ませ打たれるだろう。何か策を考えなければ勝ち目は無い。のしかかる緊張感に身体が煙草を欲するのをグッと堪えた。

 

 

ん、思い付いたわ。策を思い付き手に持ったオイルライターを見ながらニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

………………………………………………………

 

 

 

 

 

「お願いです、本当にお金はありません、その子を離して下さい、、、」

 

「ダメだ、早く金の在処を言え」

 

「この教会は心優しき人の寄付で建て直したのです。本当にお金は無いのです」

 

「分かった。本当に無いのだな」

 

「はい、本当です」

 

「なら子供を出せ、これぐらいのガキでも奴隷商に売りつければそれなりの値になるだろうよ」

 

 

震え上がるシスターの前に遂に怒りが頂点に達したプダハが立ち上がった。

 

 

「もう我は我慢ならぬ。マスターが何と言おうとこの者は我が無に返そうぞ」

 

「おぉ、怖い怖い。だが、その杖を振るう前にこのガキが死ぬぞ、分かってんのか!?」

 

 

そう言われれば杖を下げるしか無い。出来る事といえば血走らせた目でそいつを睨む事。それだけだった。

 

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

私が突き出した槍はトリシューラの腹部を貫いていた。それでも動きを止めず突き出された槍に肩を貫かれていた。

 

 

「このトリシューラはただじゃあ死なないね、あんたも道連れにしてや、、、る、、、、」

 

 

その言葉の後にごぶりと血を吐きだらしなく身体をロンギヌスに預けながら地に伏した。

 

 

「くうっっ、早く、早くシスターさんの元に、、、」

 

 

傷口を抑える事もせず教会へ向かい走り出した。

 

 

 

 

……………………………………………………………

 

 

 

闇夜に紛れ草原を駆けまだ火矢が飛んできていない方を陣取った。そして草の根元に火を付けたライターを置きその場を離れて行く。

 

 

「おらおらおらおらーー!アイツはあそこに居るぞ!」

 

 

その火を見つけ騒ぎ立てる奴らにこっそりと近づいて行く。

 

 

「放てーー!」

 

 

矢を放った瞬間に駆け出し目にも止まらぬ一振りを繰り出した。

 

 

「見事な素っ破抜き。なんてね」

 

 

以前お頭がやって見せた剣技を真似してみた所上手く行ったようだ。残るはあのキル姫だけだ。

 

 

「おい、みんなどうしたんだよ!?」

 

「あんたも直ぐに散らしてあげるわよ」

 

 

狼狽えるそいつの頭部を斬り落としその身が倒れるのを見てから教会へと急いでゆく。

 

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

 

痛む腕を引きずって走っているとロンギヌスを見つけた。その歩く様は痛々しくみえた。

 

 

「あんたも戦ってたのね。その様子だと何とかって感じね」

 

「ユリも戦ったのですね、、シスターさんとプダハが教会に居ます!」

 

「分かってるわよ。急ぎましょ」

 

 

急いで二人で教会に向かいその扉を開けると目に飛び込んできたのは血を流し倒れるシスターの姿だった。

 

 

「シスターさん!しっかり!」

 

 

急いで抱き起こしても返事はなく揺らせば虚しく身体が揺れるだけだった。

 

 

「キル姫がまだ居たのか、おい!トリシューラ!ピナーカ!早くコイツらを始末しろ!!」

 

 

子供をぶら下げ剣を持った男がそう叫んでいた。だがその行為は火に油を注いだだけだった。

 

 

「それがあんたの遺言で良いわね」

 

 

その言葉が伝わるよりも早く剣を振るいそいつの首を落とし落ちた子を抱きとめた。

 

 

「怖かったわね、もう大丈夫よ」

 

 

抱き締めた子は私の剪定対象者だ。その事に安心していると一階にも火の手が回り始めている事に気付いた。

 

 

「ここに居たら巻き込まれます!早く脱出を!」

 

「この地下室に我が子らが、、、」

 

「分かったから先に逃げてなさいよ!!ロンギヌス!」

 

「分かっています、プダハさんはシスターさんを連れて逃げて下さい!」

 

「私が連れ出すからロンギヌスは受け取って!」

 

 

そう叫び地下室に潜り込むと怯え固まっている子供達を掴み上へと放り投げてゆく。

 

 

「もっと優しく投げて下さい!」

 

「文句言ってんじゃないわよ!」

 

 

三人を放り投げ残りの四人を抱えて地上へ飛び上がりそのまま外へと駆けて行き振り返るとメラメラと燃える教会がゆっくりと崩れ落ちてゆくのが見えた。

 

 

「みんな無事?プダハ、人数は合ってる?」

 

 

震える手で子供達を数え合っていたのかゆっくりと頷いていた。

 

 

子供の数は八人。そのうちの四人は私の剪定対象者だった。ロンギヌスに聞くと残りの四人はロンギヌスの対象者だったようで。その事に安堵のため息を吐いた。

 

 

「プダハさん、シスターさんはどうでしたか、、、?」

 

 

躊躇いながらそう問うとプダハがゆっくりと首を横に振った。

 

 

「シスターさんは立派な人でした。きっとあの盗賊達にも愛を説いたのでしょう。本当に惜しい人を亡くしました」

 

「私がここに来たのもシスターさんの愛を感じたからです。新参者の私にも優しく我が子の様に接してくれて、、、」

 

 

そう言って泣き崩れていた。そしてまだ私達はプダハを剪定しなければならない。シスターと同じ様にロンギヌスに、私に優しくしてくれた彼女を。

 

 

長く重たい沈黙の後にプダハがゆっくりと語り始めた。

 

 

「我のマスターは本当に優しい人であった。我が怒る程の人でも諦めず愛を説き優しく笑みを浮かべておった。ロンギヌス、我のマスターは剪定対象者であったな」

 

「はい、ですがシスターさんはもう、、、」

 

「我の力、創造主プダハの力を使い我の命と引き換えにマスターを蘇らせる。マスターにこの子らと新しい世界を託すために」

 

 

涙を拭き立ち上がったプダハがシスターの前に立ちその手に持つ杖を振り上げた。

 

 

「創造主プダハよ、我が命と引き換えに我がマスターを目覚めさせよ!後は頼んだぞ、我が愛しき子らを」

 

 

杖にプダハが吸い込まれ強い光を放ち目を瞑ってしまった。光が止み目を開けるとその場には何も無かった。

 

 

「………あれ、ここは、、、?」

 

 

そしてシスターが身体を起こしていた。プダハはその身を犠牲にマスターを蘇らせたのだ。

 

 

「盗賊達は?プダハは何処へ行ったのですが?それに子供達は、、、」

 

「シスターさん、、、子供達は無事です。プダハさんはシスターさんを蘇らせるために、、、」

 

「そう、ですか、、、」

 

「これより剪定を行います。シスターさん、新しい世界でこの子供達の事をお願いします」

 

 

ロンギヌスがシスターに手をかざすと頭からキラキラと光となり空へと昇って行った。それを見届けてから子供達を。

 

 

沢山のキラキラが空へと昇りそれが見えなくなるまで二人で見送っているとその魂を導く様に太陽が山を登り朝日が辺りを照らしてくれた。

 

 

「私行くね。次はユグドラシルで会いましょう」

 

「分かりました。私はお祈りをしてから向かいますね」

 

 

跪き深く頭を垂れるロンギヌスを見ながらその場を後にした。

 

 

 

「えっと、確かこの辺だったはずなんだけど、、あっ、合った!」

 

 

朝日に照らされる黒い剣とオイルライターを拾い次の街を目指す事に。

 

 

「あっ、ロンギヌスから話を聞くのを忘れてたわね。まっ、いっか」

 

 

ユグドラシルまで後三日も有ればたどり着くだろう。草原を歩く私を優しく風が吹き抜けてゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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