あれから私は歩き続け日が傾く頃には次の町の近くへとたどり着いていた。
その町の後ろには悠々とそびえ立つユグドラシルを見る事ができていた。もうこんな所まで進んできていたんだ。
立ち止まりその景色を見た後に後ろを振り返り私が進んで来た道を振り返り見ていた。長かったようで短いような私の旅もこの町で終わる。なんて感傷に浸りながら腰を下ろし煙草に火を灯していた。
「ヘェェェイ♪ヘァピィしてるぅ?」
感傷に浸っているとやたらとハイテンションな声が聞こえて辺りを見渡すとフライクーゲルの姿が見え私に近づいて来ていた。
「何よ、、、」
「スタンダーップ♪アーユーオケィ?」
「立てって事?」
「イヤァ♪」
私に向かい伸ばす手を掴み立ち上がりはぁっとため息を吐いた。
「それで?あの町に剪定に行くの?」
「ノンノン♪もう日も暮れるし何処かに泊まりに行くよ♪ユリもカモン♪」
「ん、」
確かにもうすぐ日も暮れるし夜間に行うより日が出ている時の方が確実に剪定をおこなえるだろう。それにちょっと疲れたし。
「分かったわ。それで何処に泊まりに行くのよ?」
「着いてきて♪」
そう言って私の手を引きながら町へと入ってゆき辺りをキョロキョロと見渡すと一軒の家に向かい進み始めた。
「ここに泊まろっか♪オケィ?」
「良いけど知り合いの家なの?」
「全く知らない人だよ?だけど問題ナッシーング♪」
そう言って笑顔でその家へと入って行った。問題しか無さそうなのだが大丈夫なのだろうか?不安になりながら玄関から中を覗き見ていた。
「はぁぁい♪ただいまー♪」
「誰だお前は!帰ってくれ!」
当然のように家主がフライクーゲルを追い出そうと捲し立てていた。そりゃそうなる。当たり前の結末に騒ぎを起こされる前に剪定しようと拳を構えていた。
「んーーピーンチ!」
そう言いながらフライクーゲルが家主の頭を掴むと今まで怒っていた家主から表情が消えた。
「はて?儂は、、、」
「ただいまおじいちゃん♪友達も連れてきたよ♪」
「おぉ、そうだったか。今夕食を作るからな」
「ユリもおいでよ♪」
「う、うん、、。」
フライクーゲルが何をしたのか分からないけど家主は私達の事を歓迎してくれるようだ。
「ねぇ、今あんた何したのよ?」
「何ってピンチだよ、摘芯って言った方が分かりやすいかな?」
「ピンチ?で、それで何をしたのよ?」
「だから、このおじさんの記憶を[ピンチ]したんだよ♪だから私達の事を受け入れてくれた」
「ふむ?」
聞き慣れない言葉に疑問を持ちながらリビングに置かれている椅子へと腰掛け部屋を見渡していた。キッチンにリビングに仏間があり小さな本棚があるぐらいか。
「それでユリは後何人剪定するの?」
「後五人ね。クーゲルは?」
「私はまだ一人もしてないよ♪」
「それで間に合うの?もうすぐユグドラシルよ」
「オフコース!問題ないよ♪私がピンチすればみーんな安寧♪」
とにかくハイテンションなフライクーゲルに頭を悩ませながら話を聞いているとおじさんが作り終わったをテーブルへと運んできてくれた。
「沢山あるから好きなだけ食べとくれ」
「いやぁ!せんきゅー♪」
「いただきまーす」
…………………
食べながらも何かを話すかと思いきや大人しくご飯を食べているフライクーゲル。それにしてもこのおじさんが作るご飯は美味である。
「料理上手なのね。美味しいわ」
「いつからか自分で作り出してな、はて、なんでだっけな?」
「ふむ」
どうやらピンチされると記憶を失う様だ。確かにそうすれば安寧になるかもしれない。
「ねぇ、この人はクーゲルの剪定対象者になったの?」
「イェス!この人は嫌な事も良い事も全部ピンチされて安寧となったんだよ♪オーケェ?」
「ふぅーん?」
確かにおじさんは穏やかな顔をしているが果たしてそれは案蔕と呼べるのだろうか?でもピンチすれば確実に剪定できると思うと何とも言えない気持ちになる。
ご飯を食べ終わり食後の煙草を吸う為に外に出てそんな事を考えていた。記憶、確かに良い事ばかりじゃないけど色んな出来事があるからこその人生だと思う。その記憶を勝手にピンチするのはどうなのだろうか?
なんて事を思いながら煙草を揉み消して家へと戻ってゆくと机が片付けられていたのだが小さなお皿だけが一つだけ置いてあった。
「このお皿片付け忘れてるわよ?」
「おぉー?はて?儂は何故この皿を忘れていたんだ?それより風呂が沸いておる。先に入りなさい」
「ん、ありがと。クーゲルは?」
「後で入るからゆっくりしてきなよ♪」
おじさんに案内されてお風呂場へと連れてきてもらった。パジャマとタオルを用意してもらい服を脱ぎそのまま浴室へと入って行った。
「…………」
浴室には赤と青のボディータオルがかけられており他にも女性用のコスメがチラチラと。どれを見てみると使われていないのか汚れが目立つ。
それならばと勝手にそれを使い心地良い匂いの泡に全身包まれていた。
「♪」
それをシャワーで洗い流しゆっくりと湯船に浸かりうぅーんっと身体を大きく伸ばしリラックスしてゆく。
(もう少ししたら出よ)
肩までお湯に浸かり頭の中で20数えようとした時に浴室のドアに人影が見えそれを見ていると服を脱ぐ様な動作をしていた。
(あのおじさんか?まっ世話になったし背中ぐらい流してあげよ)
そんな事を思いながら見ているとその主はドアを開け浴室へと入っていた。
「湯加減はどう?」
「良い感じよ。それよりどうしたのよ?」
「イヤァ♪おじさんと喋っててもつまんなくてさ」
長い鮮やかな桃髪を頭の上でお団子にして身体を洗い始めていた。そんなフライクーゲルに質問する事に。
「どうして剪定してこなかったのよ?クーゲルのピンチを使えばすぐに剪定できたでしょ?」
「そうだね。だけどあえて私はしてこなかったんだよ」
「なんか理由があるの?」
「んー私がピンチしたいのは嫌な思い出や辛い事があった人なんだ。私が訪ねた町にはそんな人は居なかったんだよ」
「じゃあなんでこの家主はピンチしたのよ?」
「君は気付かなかったのかい?このおじさんは前に奥さんを亡くしているんだ」
「ん、」
そう言われて思い出してみればそんな気もした気がする。
「今でもこうして奥さんの面影を忘れられずに辛い気持ちで毎日を送っているのさ。だから私はおじさんをピンチした」
「新しい世界に行く人はヘァピィじゃないとね」
「ねぇ、確かにそうかも知れないけどそのハッピーも辛い事も含めての人だと思うわよ?」
「ふふっ、どうだろうね」
身体中に付いた泡を洗い流し湯船へと入ってきた。
「ちょっと、狭いんだけど」
「構わないさ。ユリ、君は今ヘァピィかい?」
「私は、、、」
急な質問に口を濁した。確かに今私はハッピーでは無い。剪定を行い人を殺めキル姫を殺め。悪人だとしても生き死にを他人が左右するものでは無いのは分かっている。
「そうね、私はハッピーかも知れないわ」
「それはどうしてだい?」
「辛い事も嫌な事も沢山あったわ。だけどその中でも楽しい事、嬉しい事も沢山あった。こうして色んな経験をして人は、キル姫は成長して自分に合う幸せを見つけるのだと思ったわ」
そう答えるとフライクーゲルが目を丸くしその後ニヤリと笑った。
「君は人というものがどういうものか分かっているようだね。君の言う通り人は色々な事を経験して生きてゆくのさ。だけどどうしても訪れてしまう辛い事に染まってしまう」
「私はそれをピンチする力を持っている。不要な記憶をピンチして安寧を保つ術を」
ふーんっと思いながらその話を聞いていた。もしクレアのあの記憶をピンチする事ができたなら笑顔を作る事ができたかも知れない。辛い記憶を忘れ新しい世界に行く事ができただろう。
絶望に染まったクレアの顔を思い出しため息を吐いていた。
「私はそんな不幸な人を少しでもヘァピィにして新しい世界へ連れて行きたいんだ♪アーユーオケー?」
「お、おーけー」
「イェス!リピーッアフターミー。ヘァピィ♪」
「へあぴい?」
「ノンノン♪ヘァピィ♪」
「へ、ヘァピイ!」
「ノンノン!ヘァピィ♪」
「ヘァピィ♪」
なんだかよく分からない事に付き合わされ私はのぼせるまでお風呂に入っていた。
「あぁ、、、」
やっと解放された私は風呂上がりに水を飲み干し火照った身体を冷ますため外に煙草を吸いに出てきていた。火照った身体を夜風が優しく冷ましてゆく。
「うぅっ、寒っ」
すっかり湯冷めしてしまった身体で部屋へと戻って行くとテーブルに置かれた小皿を眺めるおじさんの姿が。
「あれ?クーゲルは?」
「あの子ならもう寝たよ。きっと喋り疲れたのだろう」
「ずっと喋ってたもんね」
そのおじさんの反対側にある椅子に座りそのおじさんを眺めていた。
「その皿片付けないの?」
「片付けたいのだが、、、」
歯切れの悪い返事。
「お風呂入ってきなよ」
「おぉ、そうだな」
首を傾げながらお風呂場へ向かうおじさんを見て私はその小皿を手に持ち仏間へと向かった。
「…………」
そしてそれを小さな仏壇へとお供えしていた。別に縁があった人なんかじゃないけどただ何となく。
「…………」
綺麗にされている仏壇の前に綺麗な花が添えてあった。まだ痛んでいないから今日にでも添えたのだろう。
・・・・亡くなった後もその愛情を色褪せる事なく注ぐ。この記憶はピンチして良かったのだろうか?
なんとも言えない気持ちになりながら仏壇を後にして本棚へと目をやると以前私が読んでいた黒奏の真書の新刊が置いてあった。
それに飛びつき机へと運びそれを読んでみる事に。おっ、イラストまでついてるじゃん。なになに?
[前書で記したようにブラックキラーズの七人はコードネームで呼ばれている。それぞれの大罪名である]
[ラース=マサムネ]
[ラスト=アルテミス]
[グラトニー=パラシュ]
[プライド=フライクーゲル]
[エンヴィ=ロンギヌス]
[スロウス=レーヴァテイン]
「グリード=ティルフィング]
・・・・・その文を読み私の頭には雷が落ちたような衝撃を受けていた。私のお母さんはグリードでありティルフィングだったのだ。その証拠に書いてあるイラストと以前教会で見た写真が同じだ。
そうなれば私は人間であるユウとキル姫であるグリードとの間にできた子だ。それならばキラーズとバイブスを持っていても不思議じゃない。
ふむ。
もしかしたらフォルカスと戦った時に何かが噛み合う感覚は私自身のキラーズにバイブスが繋がった感覚なのか?
様々な疑問を持ちながら本を読み進めてゆくと大罪名の和訳が。
[ラース=憤怒]
[ラスト=色欲]
[グラトニー=暴食]
[プライド=高慢]
[エンヴィ=嫉妬]
[スロウス=怠慢]
[グリード=強欲]
私のお母さんは強欲の業のようだ。もしそれが私に流れているとしたら?
パンフレットと読むとキル姫が使える武器は一つだけと書いてある。だけど私は弓を使いこなし初体験でリュディと同じぐらいのレベルでドラムを叩けた。それに体術もケイに褒められるほど。それにお頭の剣技も真似できた。それは強欲の業が知らず知らずのうちにコピーしたから?
仮説だが間違いないと思う。言うのであれば私は半人半姫であり強欲の血が流れている。
いろんな事を考え落ち着きを無くしながらページをめくると私が使う剣と同じ剣のイラストが。
【黒奏剣・骸斬】
私の持つ黒い剣とそのイラストは見比べても寸分狂わず私の持つ剣と同じだ。どうして私がこの剣を持っている?私のお父さんは?様々な疑問が頭の中を巡りその答えを探すのだが答えが見つからない。
・・・・
どうしてこんなにも記憶がすっぽりと抜けているんだろうか?そんな事があり得るのか?いや、あり得る。フライクーゲルのピンチを使えば。
でも私の記憶をピンチする理由が見当たらないしただ私の記憶力が無いだけなのだろう。
悩みに悩み最後にはその本をパタンと閉じため息を吐いていた。頭をフル回転させたためか少し頭が痛む。それを和らげるためにストレッチを行っていた。
「おぉ、まだ起きていたのか」
「ん、そう?」
「もうすぐ日付が変わるぞ?」
おじさんにそう言われて壁に掛けられている時計を見ると12時を迎えようとしていた。
「そうね、そろそろ寝るわ。その手に持っているものは?」
「あぁ、これはチューリップの花だよ」
そう言って見せてくれた花の名前はチューリップと言うようだ。紫色の可愛いチューリップ。
「へぇ、それはどうするの?」
「どこかに飾ろうと思っていたのだが、、、」
「ここじゃない?」
困った顔をするおじさんの手を掴み仏壇の方へと引っ張ってきた。
「おぉ!ここだここだ。ありがとうお嬢さん」
「別に、ご飯と泊めてもらったお礼よ。それよりどうして紫色のチューリップなの?」
「紫色のチューリップの花言葉は[不滅の愛]なんだよ。どうしてなのかは分からぬが儂はこの季節になるとここにこの色のチューリップをお供えしていた」
優しく穏やかな顔で仏壇を見た後に花瓶へとチューリップを添え手を合わせていた。
「紫色って事は他の色のチューリップもあるのね?」
「あぁ、良かったら本があるから読んでみなさい」
おじさんに花の図鑑をもらいその本を再び机に座りながら読んでいた。色々な花の名前にさまざまな花言葉。
ふむ。ペディチュアという花は摘芯をするのか。そういえば私達も花の名を冠している。フライクーゲルはこのペディチュアだからピンチという能力を持っているのかな?
私の花は百合。他の花もそうだけど色ごとに花言葉が変わるのが興味深いわね。
ついつい夢中になりふと顔を上げると二時を指す時計が見えお布団へ入る事に。
先程案内された寝室へ向かいそっと扉を開け思っていたより寝相の良いフライクーゲルの横へと潜り込み温められているお布団の温もりですぐに眠気がやってきてくれた。おやすみなさい。
………………………………………………………
記憶をピンチされた人は幸せになれるのだろうか?どんな記憶だとしてもその人には大切な物なのかもしれない。嫌な思い出も辛い思い出も楽しい思い出も嬉しい思い出も長い人生を振り返った時きっとその記憶は輝くのだと私は思う。
この話は記憶を摘芯する事ができるフライクーゲルとただ人を斬ることしかできない私が体験した話だ。
「ウェイクアップ!ウェイクアップ♪」
「ん、、何よ、、、」
身体を揺さぶられ眠た眼を開けると笑顔のフライクーゲルの顔が。
「おじさんが朝ごはんを作ってくれたよ♪」
「ん、分かったわ」
昨日寝るのが遅かったせいで感じる眠気と暖かな布団に動く気になれないでいるとフライクーゲルの手により布団がめくられてしまった。
「さっむっっ!!」
「早く起きないとせっかくのご飯が冷めちゃうよ。ハリーーアップ♪」
「分かった、分かったわよ」
恨めしげに布団を片付けおじさんの待っているリビングへと向かう。
「おはよう。朝食はパンで良かったかな?」
「おはよ、うん。ありがとね」
早速テーブルへと座りコーヒーと共にパンを頂いていた。
「それで今日は何するのよ?」
「今日はこの町の人達を剪定するよ♪アーユーオケー?」
「分かったわ。いつからする?」
「これを食べ終わったら始めようか♪」
フライクーゲルが指差すお皿には後二つのパンが。このパンを食べ終わったら剪定を開始するようだ。
「ん、ご馳走様。煙草吸ってくるね」
お皿には乗せてあったパンを頬張り煙草を吸いに外へ。冷たい空気が私の眠気を完全に飛ばしてくれた。
ふぅっと吐いた煙は空へと登って行きそれを見上げると煙に紛れキラキラと光る物が空へと昇ってゆくのが見えた。
「・・・・・そっか」
あの光は剪定した人の光だ。フライクーゲルがあのおじさんを剪定したのか。
・・・別に何とも思わないのに何となく寂しくなってしまった。
煙草を揉み消し土足のまま廃屋へと入って行き仏壇へと私は歩いてゆきその前に正座してチーーンっと鳴らした後手を合わせていた。
「何をしてるんだい?」
「あの人の代わり。さっ、剪定しに行くわよ」
「イヤァ♪」
立ち上がり名残惜しく一瞬だけ振り返った後に私とフライクーゲルは町へと向かい歩き出した。
「で、どうするの?擬彩異族でも出す?」
「んーーそうだね、そうしよっか♪」
そんな話をしながら私達は町の中心部へと来ていた。その周りにはいつもと変わらない日常を送る町の人達の姿がある。私達が擬彩異族を放てばこの町の様子は一転して地獄と化すだろう。
「行くよ、レッ、ショーターイム♪」
「ん、」
「gjtjndgptwmgpw!!」
フライクーゲルに一歩遅れて町の中心に擬彩異族を出現させるとその特徴的な鳴き声に人々の視線が集まって行く。
「レーッツーゴー!!」
その一言で町は地獄と化した。あらゆる所から泣き叫ぶ声、悲鳴、命乞いが聞こえてくる。
「じゃ、剪定してくるね♪」
その地獄へとフライクーゲルが平然と歩いて行き(んーー♪)と悩みながら対象者にする人を選んでいた。
「見つけた♪ヘーィカモーン♪」
そう言って動き出したフライクーゲルを私は見ていた。フライクーゲルが選んでゆく人は大事な人を殺された人だった。友達、恋人、家族、子供を目の前で殺され嘆き悲しむ人達をピンチし、そして剪定してゆく。そんな様子をボーーっと見ていた。
ずっと疑問が頭から消えなかった。私は誰の子供なのか、お母さんはティルフィングなのか、って。知りたい、この疑問の答えを。
そんな私の耳に擬彩異族の悲鳴が聞こえその方を見るとけたたましい咆哮の後に擬彩異族の身体を何かで引き裂きながらその声の主が姿を現した。
「ウガァァァァァああああっ!!!シユウが来たからにはもう大丈夫だぞっ!!」
「シユウ!あんまり先行するな!バルムンクと連携しろって言ってんだろ」
「何この異族!新種!?」
「ハナ!私の背後にいて下さいって!」
ん、キル姫二人に奏官二人か?難なく擬彩異族を退けてゆくのを見るとなかなかの手慣れなのだろう。
「粗方あのバケモン共は片付けたみたいだな。二手に分かれて生存者を探すか?」
「そうですね、二手に分かれて生存者の確認と保護をしましょう。もし見つけたら町の広場に集めましょうか」
「ハナ!あそこに生存者です!」
バルムンクと呼ばれたキル姫が私を指差すとそれに三人が気がつくとき私の方へと歩いて来ていた。
「あの、大丈夫ですか?」
「…………」
この奏官二人は私の剪定対象者だ。この事をフライクーゲルに伝えなければ。
「喋れないのも無理はない。この斬撃を目の当たりにしたんだ。もう大丈夫だぜお嬢さん」
男の奏官が私に近寄るのをシユウと呼ばれたキル姫が制した。
「ショウ!こいつただの人間じゃないぞ!ちかよるな!」
「あん?」
その男の前に立ち身を屈め威嚇するシユウを見て私は剣を抜き構えた。
「そうね。私はインテグラルキラーズの一人、ユリよ」
「なんだよそのインテグラルキラーズって!」
「知る必要は無いわ。あんた達の魂は私が散らしてあげるから」
最初からフルパワーでいこうとトゲトゲを解放しカチリッと自身との共鳴を施し四人を見据えていた。
「二人は下がって!ここは私達が!」
「うがぁぁっ!!ゆくぞ!バルムンク!!」
そして戦いが始まった。
「ウガァァァァゥッ!!!」
低い姿勢で大地を駆け私目掛けて猪突猛進するシユウの動きを読みながら移動し策を練り上げてゆくのだが。
「逃がしませんよっ!!」
その隙をバルムンクの大剣が刈り取ってゆく。一見シユウが好き勝手に動き回っている様に見えるが役割が分けられており非常に厄介な相手だ。
「もぉ!鬱陶しいわね!!」
策を練る隙を与えられず私は苦戦を強いられていた。まずはシユウをどうにかしなければいけないのだがその先の策が思いつかず、かといって考える隙がないのだ。
「ヘェーイ♪ヘァピィしてる?」
そんな時フラリと帰ってきたフライクーゲルが楽しそうに私達を見ていた。
「そんなんは良いから私を手伝いなさいよ!」
「オーケー♪不要な魂は私が散らしちゃうよ♪メイクセーン♪」
「下がれシユウ!」
「バルムンクも下がって!」
フライクーゲルの登場に奏官二人の指示が飛ぶ。それに合わせて二人が奏官の元へと帰ってゆく。
「あの奏官二人は私の対象者よ」
「オッケー♪じゃあさっさとあの二人を剪定しちゃおっか♪」
手に握る銃を二人に向かい向けると奏官二人の顔色が変わった。
「お前は、、、ハナちゃん、あいつに見覚えはあるか?」
「はい、あのフライクーゲルは、、、間違いないです。ユウ奏官を殺したフライクーゲル・・・待って!あのキル姫ユリって名乗ってたわ!」
「いや、流石に違うだろ、あいつの娘はまだ三歳だったはず」
「何ごちゃごちゃ言ってんのよ。さっさと終わらせてあげる」
「援護は私にエーントラス♪」
銃へと魔力を注ぎ込みキル姫二人目掛けその弾丸を打ち放ってゆく。
「うがぁっ!!」
「えいっ!!」
その魔弾を容易く弾きながら二人が私達を目掛け駆けてくる。
「ちょっと!意味ないじゃないの!!」
「ノンノン!これからだよ♪」
再び魔力を込め魔弾を放つのだが同じように弾かれていた。それに苛立ち二人へ迎え打とうとした私をフライクーゲルが制した。
「次私が魔弾を放ったらゴーだよ!!」
そう言われその場に踏みとどまると同じように魔弾を放った。
「同じ手は食わないぞっ!!」
シユウがその魔弾を斧で弾き返そうとした瞬間だった。
「バーーーーン♪」
斧が魔弾に触れた瞬間にその魔弾が爆ぜシユウを吹き飛ばしていた。
「シユウっ!!」
その光景に思わずバルムンクが振り返った。その瞬間を逃さない。
「第一擬彩剣技、、、一彩閃!」
大地を踏み締め一気にバルムンクへと剣を突き刺した。
「あ、あぁぁ、、、」
「ん、じゃあね」
剣を引き抜きながらの上段斬りがその首を落とした。その横をフライクーゲルが駆ける。
「グッバーーイ♪」
零距離から身動きの取れないシユウへ向けて魔弾を放つとその姿は跡形も無く消えていた。
「そう言う訳よ、あんた達は剪定対象者だから大人しく剪定されなさい」
パートナーを亡くし崩れ落ちている二人へ向かい歩いてゆく。
「新しい世界にこの辛い記憶を持ってゆくのはヘァピィじゃないよ。私にピンチさせてくれないかな?」
「良いけどそれで私の剪定対象者から外れないの?」
「大丈夫、記憶を無くしてもその人の根本にあるものは消す事はできないからさ」
フライクーゲルが二人をピンチすると何事も無かったかのように二人が立ち上がった。
「あれ、、、俺こんな所で何してるんだ?」
「私も、、、ここはいったい?」
「でも大事な何かを忘れている気がする」
「私も何かを忘れている気がするわ」
顔を見合わせる二人の頭に手を置くとその身体は光となり空へと昇って行った。
「あの二人何かを思い出しそうだったけど大丈夫なの?」
「あくまでもピンチだからね。記憶の枝を切った。だけど大事な幹は切れないのさ」
「つまり薄らとは記憶が残るって事ね?」
「まっ、そんな感じかな」
「ふーん、私行くね。クーゲルは?」
「そうだね、少し日に当たってから行くよ」
「分かったわ。次はユグドラシルで会いましょ」
「イヤァ♪」
元気に返事をするフライクーゲルに別れを告げて私は再び歩き出した。あと少し、あと少しでこの旅も、この世界も終わる。
心のどこかに何かが引っかかったまま私はユグドラシルへと足を進めてゆく。