あれからお祭りを楽しみいつの間にかあたし達はヴァングの家に帰って来ていた。記憶が多少曖昧なのは祭りの熱に浮かされて飲みすぎたせいだと思う。
まだ寝ているアスカロンを起こさない様に布団を抜け出して少しだけ痛みを感じる頭でふらふらと外に出て太陽が登りかけている世界を見ながら煙草に火を灯していた。
(本当に癖ね)
お仕事は休みなのにいつも起きる時間に起きてしまう自分を笑っていた。よく考えれば早起きは元からなのを思い出し再び笑ってしまったのだが。
その後ぼんやりと煙草を吸っていると微かに声が聞こえその声に耳を澄ませるとヴァングの家の裏からだという事に気が付き煙草を片手に裏へと回ってゆく。
(千九百五十!千九百五十一!)
そこには上半身裸で竹刀を振うマサオの姿が。引き締まった体を汗が流れ汗が太陽を浴び反射している。その姿を見て姿を消した。
「二千三十五!二千三十六!」
再びマサオの元に戻ってきたあたしの手には自販機で買ってきたスポドリが。それを持ち素振りをするマサオの背後から気配を消しながら近づいて行き背中にペットボトルを押し当てていた。
「くっ!魔物か!?」
一瞬にして反転しそれと同時に繰り出された横一線を身を屈ませ回避しにやけた顔をマサオへ向けるとムッとしながらあたしを見下ろしていた。
「なんだお前か」
「ちょっとした悪戯よ。はいあげるわ」
「ったく、、ありがとな」
蓋を回し開けると一気にスポドリを飲み干し大きく息を吐いていた。
「朝から頑張るわね。大学入るんじゃ無かったの?」
「いざという時の備えだよ。この世界が平和になったとしても俺はキラーメイルだ。戦う時腕が鈍っていたら話にならんだろ」
「それもそうね」
喋りながら缶コーヒーを開け一口。そして煙草に火を灯す。
「そういうお前はどうなんだ?仕事ばっかりで剣なんて握ってないだろ」
「ん、、」
そう言われて思い返せば剣よりもセットハンマーや電気道具を握っている時間の方が多い事に気が付いた。むしろ仕事しかしていない。
「そうね、、まだ竹刀はある?あるなら手合わせしてよ」
「ほらよ。手加減は無しだ」
壁にかけてあった竹刀を二本借りてマサオと対峙してゆく。一本の竹刀を両手で握るマサオに対しあたしは両手に一本ずつ竹刀を握る。骸斬、七元に比べるとかなり軽いが問題は無い。ギロリと前を向きマサオへと向かってゆく。
以下省略
「楽しかったわよ。ありがとね」
「流石ティルフィングのキラーズを引き継いでいるだけの事はあるな」
結果を言うと五分五分の引き分け。それも負けそうになり大罪の力を解放しての接戦だった。やっぱり腕が鈍っている。
「よし、そろそろ朝飯でも作るよ」
「手伝ってあげるわよ」
「お前料理できたのか?」
「失礼ね、これでも家事全般できるわよ」
そんな訳で家へと戻りマサオと朝食作り。サンドイッチを作る様であたしが食パンから耳を切りとり三角に切りわけている間に具をマサオが作ってくれていた。そしてマーガリンを塗り具を挟めば朝食の完成である。
「あたしの料理の腕はどう?すごいでしょ」
「あぁ、、、みんなを起こしにいくか」
スルーされてしまったがみんなをリビングへと集めていざ実食である。
あくびをしながら階段を降りてくるヴァングの横をシユウが通り抜けその後をカミトが歩く。その後ろには眠たそうに歩くアスカロン。
「ちょっと、つっかえてるんだから早く降りなさい!」
そして朝から不機嫌なグリモワールだ。
「うがっ、これだけだとシユウの腹は満たされないぞ!」
テーブルに置かれたサンドイッチに不満を喚くシユウに大皿に盛られたサラダを出すと笑顔を浮かべた後大きく口を開け美味しそうに頬張っていた。
「おはよう。ユリ達来てたんだね」
「昨日会わなかったわね、そういえば。仕事はどう?」
「毎日大変だけど凄く楽しいよ」
キラキラとした眼差しのカミト。仕事が楽しいのは良いことだ。
「ご飯食べたら中心街に行くわよ」
「分かりましたっ!」
その後朝食を食べ出勤するカミトとお供のシユウを見送り食器の後片付けを。少しだけのんびりとしてからあたし達も家を出る事に。
「ありがとねヴァング、マサオ」
「次来る時は連絡してから来いよ」
「祭りの写真はお前んちに送っとくからよ」
「はいっ、ありがとうございました♪」
ヴァングの家を出てから停めていたバイクのスタンドを起こし街の外まで押してゆく。
「どうして乗らないのですか?」
「うるさいじゃないの。せっかくの休暇なのに誰かに文句言われたらイラッとするじゃない」
「丸くなりましたね♪」
「そうね、、昔のあたしならお構いなしだったわ」
今でもツンツンしているとは思うのだが昔より丸くなったと思う。これが歳をとるという事なのだろうか?
そんなことを思いながらエンジンをかけバイクへと跨る、そしてアスカロンが跨りあたしの背を掴んでから走り出すのだ。目指す場所は地上世界の中心街だ。
その後2時間ほど走りあたし達は中心街へとたどり着いていた。街の入り口付近にあった有料の駐車場にバイクを停めて街へと入ってゆく。
「この街にはクリスさんに会いに来たのですよね?」
「そうなんだけど、どのビルだったかしら?」
この中心街には四つのビルが立ち並びそれを囲うように住宅や商業施設が建ち並んでいる。各方向、東西南北に地区が分けられており各地区を四人が取り仕切っている。そのうちの一人がアフロディーテのマスターであるツカサね。あたし達が入ってきたのは東の入り口なのだけど見渡す限り建物が並び視界は利かずいきなりの迷子である。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
迷子のまま街を歩き回り慣れない人混みに街に二人の疲労はピークだった。そんな時一軒の喫茶店を見つけてそこで小休止をする事に。
「いらっしゃいませ。お客が二名だね、あっちの席に座りなよ」
店に入るとピンクの頭に青いメッシュを入れた店員が出迎えてくれた。どうでも良い事なのだが地上世界の男性陣のキャラ、いや、髪型濃すぎない?そんな事を思いながらも席に座りメニューに手を伸ばそうとしていた。
「あれ?メニューは?」
「あれじゃないですか?」
アスカロンが指差すのは店員の上の壁に書かれたメニューだった。どうやらこの店はレジ前でメニューを頼む形式のようで。
「先頼んでてよ。あたしトイレ」
「分かりました♪」
同時に席を立ちあたしはトイレへ。アスカロンはレジの前に行き何かを頼んでいた。それを聞きながらトイレへと行きしばらくして出てくるとテーブルの上に飲み物とお菓子を置いたアスカロンの姿が。
「先に食べてなさいよ」
そう言ってレジの前に立ちメニューを見上げていた。外は暑かったからアイスコーヒーにしよう。そう決めて店員にメニューを伝える事に。
「アイスコーヒー一つちょうだい」
「その注文の仕方は美しくないね。却下さ」
肩をすくめやれやれと手を振る仕草にイラッとしたけどそれを抑えて再び注文を頼む事に。
「アイスコーヒー一つ下さい」
「まだ美しくないね。しっし」
ムカつく顔で手を振られてあたしの怒りは臨界点を軽々と超えた。
(何よあんたはさっきから!ふざけんじゃないわよ!まぁ良いわ。ぶん殴ってやるから表に出なさい!)バキッ!ドコッォ!
「分かったわ。どうしたら美しく注文できるのかしら」
脳内で店員をボコボコにしながらイライラを堪え訪ねると指を立てそれに目線を向けるとメニュー表を指差していた。なになに?コーヒーのサイズに各名称が付けられているのか。
「アイスコーヒーのG一つ」
「G?なんの事だい?Gって、頭の悪い客はお呼びじゃないよ」
「アイスコーヒーのG一つ。さっさと出しなさい」
「僕に向かってそんな態度をとるとは、良いだろう表に出なよ」
「上等よ上等!ボコボコにしてやるわよ!」
エプロンを脱ぎ捨てレジから出てきた店員と共に表へと出て行ったユリを見送った後今秋の新作の焼き芋ブリュレ・フラペチーノを一口。そして一緒に買ったモンブランを食べながら窓から外を見ると殴り合う二人の姿が見えた。
「えへ♪美味しいです♪」
すぐさま店内に視線を戻しお洒落な店内を楽しみながら美味しい飲み物とお菓子に癒されてゆく。
………………………………………………………………
「何よあの店員!あぁもう!!」
「昨日私に落ち着けって言いませんでしたか?」
「そうだけどさ」
街を歩きながらたまに垂れてくる鼻血をすする。顔面に一発貰ってしまったがあたしも顔面に一発入れれたのでよしとしていた。それでも不満は残る。
「誰かが喧嘩の仲裁をしてくれたのですか?」
「なんか変な奴が入ってきてさ、「殴り合うのなら僕を殴れ」ってそれで二人でそいつをボコボコにしたら満足しちゃってさ」
「あはははっ、、、」
「変な奴だったわよ。立てないぐらいに殴られたのに幸せなそうな顔してんのよ。やっぱり地上世界には変な奴しか居ないわ」
(ユリも十分変ですっ)っと言いたげなアスカロンを見ながら街を歩くと記憶にあるビルを見つけた。
「きっとここね。えっと、西のビル、間違いないわ」
以前あたしが燃やし全損させたビルへとたどり着いていた。そのおかげであたしは借金を背負い労働に明け暮れる事になったのだが。今は再建され元の姿に戻っている。
二人してエントランスへと入ってゆき表札を眺め25階にあるマーベル博士のインターホンを押した。
「はい、マーベルですが」
「ユリとアスカロンよ。クリスは居る?」
「しばしお待ちを。(クリスちゃん、クリスちゃん)
(うっせーな!一回呼べば聞こえる!)
(お友達が来てるよ)
(それを早く言えよクソ親父)
「荒れてますね」
「そうね、反抗期ってやつかしら?」
しばらくするとドアが開きその奥に進みエレベーターへと乗り込み25階へと。
「いらっしゃい二人共」
「久しぶりね。元気だった?」
「こんにちわクリスさん♪」
エレベーターを出るとクリスの姿が。その後案内の元クリスの自宅へと。
「良く来たなユリにアスカロン」
「…………」
玄関を開けると姿を見せたマーベル博士をクリスが無言で壁へと押しつけていた。呆然としていると部屋に入るようにジェスチャーをされ困惑しながらもクリスの部屋へと入ってゆく。
(私に構わないでっていつも言ってるじゃん!)
(娘がどんな友達を家に招いたのか気になるじゃないか)
ドア越しに聞こえる会話になんとも言えない気持ちになりながらソファーに腰掛けていた。
(ユリにも反抗期ってあったんですかね?)
(さぁ?あたしはその時期一人だったし)
この言葉に顔をハッとさせすぐに申し訳なさそうな顔になっていた。そんなアスカロンに気にしてないと告げておく。
「お待たせ。ごめんね」
「気にしてないわよ。それより最近どう?」
「んー普通かな?二人はどう?」
たわいもない会話をしながら気がつけば夕食の時間となり3人で夕ご飯を食べに行く事に。
「お母さん、夕飯食べてくるね」
「遅くならないうちに帰ってくるのよ」
そんな家族の会話を聞きながら暗くなってしまった夜の街を歩いてゆく。
「ご飯ってどこに食べに行くのよ?」
「良いお店があるんだよ。着いてきてよ」
案内されるがまま街を歩いてゆくと一軒のお店のドアを開け入れと促してくれた。
「いらっしゃい。久しぶりだねクリス、今日は友達を連れてきたんだね」
「うん。ユリとアスカロンだよ」
お辞儀をしながら店内を進みカウンター席へと腰掛け店内を見渡すと小洒落た大人の雰囲気が漂う良いお店だ。それに店員もダンディーなイケおじ。
「まぁ飲みな。最初の一杯は俺の奢りだよ」
カウンターの上にガラスのグラスを置かれていた。中の液体は黄金色で砕かれた氷が詰められている。それを二つ置かれていた。
「私には?」
「ふふふ、未成年にお酒は出せないさ」
不満げなクリスの前に置かれたのはいちごミルク。その後グラスを合わせて乾杯。
「注文があるなら言ってくれ」
どっかりと椅子に座りジョッキに乱暴に酒を注ぐとそれを一気に飲み干していた。
「何頼む?」
「私もう一杯このお酒が飲みたいです♪」
「気に入ってくれたのは嬉しいがその酒は足りないぐらいが丁度良いんだよ。代わりにこれを飲みな」
棚からグラスを取り出し冷蔵庫から氷の塊を取り出すとピックで砕きグラスに入る大きさに砕き詰め込むと酒瓶からお酒を注ぎアスカロンの前へ。
「ありがとうございますっ♪」
渡されたお酒を一口飲み満足そうな笑顔を浮かべていた。
「つまみがいるな。お任せて良いかい」
返事を出す前に冷蔵庫から食材を取り出しまな板の上に置きトントンと食材を切り分けてゆく。
「良い雰囲気のお店ね。なんか好きだわ」
店内を見渡すと灰皿を見つけ椅子を飛び降りそこに行き煙草に火を灯す。
「3人共心に何かを抱えているね。まずクリスはどうだ?」
切り分けた食材をフライパンで炒めながら店員が問いかける。その問いに言葉を詰まらせながらいちごミルクを一口。
「別に。悩みなんて無いよ」
「そうかい。こないだクリスの親父さんが来て俺に悩みを吐いていったぜ。娘の反抗期が辛いってな」
「俺は結婚もしてなければ子供も居ない。だが愛する娘にぞんざいに扱われる辛さは分かる。そろそろ心を開いてやったらどうだ」
お皿へと料理を盛り付けカウンターの上に置いた後ジョッキを煽る。料理を出されてもクリスは俯いたままだった。
「良い親父だと思うぜ俺は。っと、次だ。ユリ」
「何よ」
「お前も両親との距離感が分からないな。無理もないか。幼くして両親を失い時を駆け戦いに明け暮れれば」
「そうね。一緒に過ごした時間よりも一人で生きていた方が長いし。今更って感じね」
「たまには顔を見せてやりな。きっと喜ぶさ」
「次は・・・」そう言いながらアスカロンの方を向き深く帽子を被り直した。
「お前さんは過去に未練があるようだ。当てようか」
ジョッキを煽り口を拭うとニマリと笑う。
「ケイオスリオンの皇帝だな。名はフェイルノートだったか。そいつに未練があるとみえる」
「・・・無いと言えば嘘になりますね。でも過去には戻る事はできません」
「近々その機会が訪れるよ」
意味深な事を言いジョッキを傾ける。あたしもアスカロンの過去は知らないし無理に聞く気もない。
「おっと。余計な話をしたようだね。お詫びとしてもう一杯奢るよ」
酒瓶からトクトクとあたし達のグラスへお酒を注いでくれていた。
「ガンバンティン。私にも」
「未成年にお酒は出せないさ。それも反抗期真っ只中のお子ちゃまにはね」
「私はお子ちゃまじゃないよ」
「そうだな。帰ってから親父さんに礼を言うと約束するのなら一杯奢ろうか」
「約束するよ」
「バレる嘘は吐いたらいけないぜ」
グラスにかち割った氷をぶち込み酒瓶を傾ける。そしてマドラーでひと回しした後カウンターへと置いた。
「美味しい」
「その酒はあんたの親父が好きな酒さ」
その言葉にハッとした後グラスを傾けてゆく。
「しみったれた話はここまでだ。俺が面白い話をしてやろうか」
カウンター越しに店員の話を聞きながらグラスを傾け無くなれば注いでもらい時計の針が天辺を回る頃には完全にあたし達は出来上がっていた。