朝いつも通りの時間に目を覚まして体を起こし少しだけ微睡んだ後ベッドを抜け出し一階にあるキッチンへ。
眠た眠たしながらコーヒーを淹れそれを片手に玄関前にある階段に座り煙草に火を灯す。
時刻は午前六時。これを吸い終わったらもう一寝入りしようと思いながらぼんやりと煙の行方を目線で追いかけてゆく。
今日はラグーナ島へ行きアスカロンと二人っきりのバカンス、それにあたしの両親に会う事。前も言ったけどあたしは三歳までしか一緒に過ごしていないからあまり両親という感覚は無い。それでも二人の血を引いているのだけど。
なんて事を考えていると火種がフィルターを焦がし火が消えてしまっていた。それを灰皿へと放り込みあくびをしながら寝室へと戻ってゆくのだ。
それからしばらくしてアスカロンの呼ぶ声で目を覚ましたのだがお布団の誘惑に勝てずモゾモゾと。
しばらくしてドアが開く音と共にアスカロンが。
「おはようございます♪起きてますよね?」
「・・・寝てるわよ」
「じゃあ起こしてあげますね♪」
ばっさりと布団をめくられ手を伸ばし布団を奪い潜り込みぬくぬく。
「あっ、早くお布団から出ないとこの部屋の温度を絶対零度まで下げちゃいますよ?」
そう言い終わると布団の温もりが消え去りがちがちと凍える程の寒さへと。諦めてお布団から這い出してゆく。
「おはよ。良い眠気覚ましだったわ」
「おはようございます♪朝ごはんできてますよ」
「ん、ありがと」
すっかりと冷えてしまった体を擦りながらアスカロンに着いて一階へと。机の上に並ぶ朝食を目にした後席へと座り手を合わせてゆく。
「朝ごはんを食べたらラグーナ島に行きましょうよ」
「そうね。向こうで何しよっか?」
ラグーナ島での予定を立てながらサンドイッチを一口。ラグーナ島といえば海だ。泳いだりホバージェットをするのも良いし砂浜にパラソルを立ててのんびりもしたい。そんな事を考えながらぱくぱくもぐもぐ。
「それで二人をなんで呼ぶか決めたんです?」
「ん。何も考えてなかったわね、、」
「お父さんお母さんって呼んだらきっと喜んでくれますよ♪」
「そうねぇ、、でも恥ずかしいわよ」
「それなら親父、お袋とかどうです?パパママも良いですね♪」
「親父とお袋はなしね。そんな年?でもないし。パパママは無理だわ」
「そうですか?」
「想像してみなさいよ。あたしがパパママって呼ぶところを」
「あー、でもギャップって言葉があるじゃないですか」
「なしなしの無しよ。キャラ違いよ」
そんなこんなで朝食を食べ終わり片付けをしてから荷物をまとめてラグーナ島へとゆく事に。教会でチケットを買い転送装置に乗り込みいざ。
「この景色も久しぶりね」
転送先で水着へと着替えラグーナ島本島へと続く海中トンネルを歩いてゆく。その長さは結構長く全面ガラス張りとなっており海中を泳ぐ魚の姿が見れたり海面を通り差し込む日差しがトンネル内を照らしたりと優雅でお洒落な空間だ。
「以前よりお魚減ってません?前はもっといた様な気がします」
「そう?」
アスカロンと二人で壁にへばり付き海中を見ているのだが前と同じで魚は沢山いるしあたしはこの景色に満足なのだけど。
「あ、あれを見て下さいっ!!」
「どうしたの?」
慌てた声が聞こえアスカロンが見ている方へと目を向けると何か大きな生き物の姿が見えた。
「何よ!あの生き物!?」
その生き物はあたし達に気が付いたのか海中をジェットのように移動しトンネルの前へと。近づき見えたその姿は軟体生物のようで長い触手のようなものを使いトンネルへとへばり付いた。
「「ひぃぃぃ!!」」
見上げれば吸盤のようなものがびっしりと生えた触手に巨大なクチバシの様な口を動かしトンネルに穴を開けようとしている。海中にあるトンネルに穴を開けられたらたまったもんじゃない。
「に、逃げるわよ!!えっ!?」
[ユリーーっ!早く!!]
あたしより一足先に逃げていたアスカロンを追いかけ海中トンネルを脱出し太陽輝く砂浜へと飛び出してゆく。
「何よあの生き物!?」
「私もわかりませんっ!」
全力で疾走し乱れた息を整えながら海を見るもここまでは追ってこないようで。しばらくして二人して砂浜へと座り込んでいた。
「それよりあたしを置いて逃げたわ「二人に話を聞けば何か分かるかもしれませんねっ」
「あたしを置いて「一旦ホテルに行きませんか?荷物もありますし」
「あたry「そうと決まればいきましょうっ」
「むぅ」
完全に誤魔化して逃げるアスカロンを恨みながら後に続き宿泊地であるホテル南風へと行き受付にいるティルフィングへと詰め寄ってゆく。
「いらっしゃいませ。二人共常夏のリゾート地ラグーナ島へようこそ♪」
「そんな事より何よあの生き物!!」
「あの生き物とはどの生き物の事ですか?」
「えっと、なんかウネウネしてる奴!」
「それならクラーケンの事ですね。この時期になると海流に乗ってこの島へとやってくるのです」
「「???」」
「人やキル姫を襲う事があるのでこの時期はビーチの島はシーズンオフなのです。こないだそちらに行った時もクラーケンが出没し始めた頃なんです」
「ユリが奏官証明書をとりに行った話ですね♪」
「ジャングルの島やプールの島はクラーケンの影響を受けないので通常営業なんですけどね」
そう言われてみればビーチで人を見ていないしホテルにも人気は無い。
「じゃあ海で遊べないって事?」
「そうですね。クラーケンを駆除できれば遊べるようになりますけど」
「ならあたしが駆除してくるわ!」
「あっ」
思い立ったら直ぐ行動。あたしのモットー従いホテルを飛び出しビーチへと駆けてゆく。
「もぉぉっ。駆除ってできるのですか?」
「一匹なら討伐は可能ですがクラーケンは群れでこの島へと来るので無理だと思います。それで二人はどうしてこの島に?」
「それは、えっと!それよりユリを助けに行かなくちゃ!」
ホテルを飛び出し海を見るとホバージェットに乗り沖へと向かうユリの姿が。
「私も追いかけなきゃっ!」
ホバージェットの貸し出しをしている店へと行き一台借りると脇に抱えながら砂浜を駆けてゆく。
…………………………………………………………
海水を巻き上げながら私は海上を突き進んでいた。目指すはあの軟体生物だ。あれだけの巨体だからすぐ見つかると思っていたのだが中々姿が見えずひたすらに進んでゆく。
そんな時海上が盛り上がりあの軟体生物が姿を現した。
「でやがったわね!あたしがぶっ飛ばしてやるわよ!」
ホバーの前方に体重をかけフルスピードでそいつへと突っ込んでゆくのだがホバーごと触手に捕らえられていた。
「んひぃぃぃぃ!!!」
全身に柔らかく芯のある触手で巻かれてピタピタと吸盤が身体に張り付く。とんでもなく嫌な感触に悲鳴をあげているとあたしを捕らえている触手をブンブンと振り回されていた。そしてブンッと投げられると他の軟体生物にパスされキャッチボールの様にもてあそばれ。
「覚えてなさいよーーーーーーーっ!!!」
さんざんあたしをボールのように扱い最後には砂浜へと投げ捨てられてしまっていた。
「むすっ」
「人の話を聞かないからそうなるんだよ」
「そうですよユリ」
「冷たいアイスティーでも飲んで下さいね」
あいつに投げ捨てられたあたしは砂浜に着弾し身体が殆ど埋まってしまいもがいてた時3人に救出されていた。あんな変な生き物に完敗したのがとんでもなくムカつく。
「ちょっと!あんた達はあの生き物をどうにかしようって思わないわけ?!」
「そしたら仕事が忙しくなるじゃん」
「同じくです」
「あはははは、、、」
「それに沖まで行かなければ攻撃される事は滅多に無いし季節的なものだから放置で良いんだよ」
ヒューーーーーーーン
そう言って煙草に火を付けようとした時に何かが沖から飛来しユウへと直撃していた。
「・・・・僕どうなってる?」
「全身真っ黒です」
沖から飛来してきた物はイカスミ弾のようで。一瞬にして真っ黒にされていたユウを見ると笑顔になれる。
「で?まだあんたはあの生き物を倒そうって思わないわけ?」
「ちょっとカチンときたかな」
沖に目を向けるとバシャバシャと水面を叩いた後ハイタッチをしている生き物が見えた。
「煽ってますねっ、、」
「アオリイカですね」
「ちょっと一匹見せしめに捌いてやろっかな」
「やっとやる気になったわね。この怒りをぶつけに行きましょうよ」
「そうだね。今まで被害に遭わなかったから放置してたけど。ティル、アスカロンもいける?」
「もちろんです。いつでもいけますよ」
「このアスカロンにお任せ下さいっ!」
「じゃあ出る前に作戦をねろっか」
「・・・・・」
みんなあたしの時と反応が違うけどまぁ良いでしょ。そんな訳で対クラーケン会議が行われる事に。
「クラーケンはイカだから海上で戦うのは部が悪い。だから陸に引き上げる必要性があるよ」
「それで?あれを海から陸に引きずり出す方法があるって言うの」
「うん。まだ試した事はないけどやってみる価値はあるよ。ちょっとまってて」
そう言って沙浜からホテルへと向かい走っていった。
「ティルフィングはその秘策の事を何か知ってるの?」
「あまり、、少しだけ心当たりはありますけど」
「へぇ、一体どんな作戦なのでしょうか?」
ぼんやりと待っているとしばらくしてユウが戻ってきた。何か棒みたいな物を持って。
「お待たせ。イカと言えばエギングだよ」
「ごめん、話しが見えないわ」
「海に居るのなら釣って陸に上げれば良いんだよ。はい」
一人一本ずつ棒が渡され使い方の説明をされていた。説明を受けながら困惑しているといつの間にか沖へと張り出す堤防へと来ていた。
「とりあえず教えたとおりにやってみてよ。きっと釣れるからさ」
「ふむ」
言われたとおりになんかよく分からない物を使い糸の先に付いている魚の形をした物を沖へと投げていた。その後糸が緩むまで放置してから棒をしゃくりながら巻いて寄せてゆく。
「「・・・・・・」」
四人で黙々と同じ事を繰り返していたのだが釣れる気は全くせず、むしろ誰も釣れたと言わずにただただ時間だけが過ぎてゆく。
「ねぇ、釣れる気が全くしないんだけど」
「そんなもんだよ」
「ってか楽しいのこれ」
「んー、僕は楽しいよ。家族で釣りをするのは夢だったし」
その一言であたしは文句を言う気を失い再び黙々と同じ事を繰り返してゆく。そんな時アスカロンが叫んだ。
「何かに引っ張られてますっ!!」
アスカロンの方を見ると棒が弧を描き糸がピンっと張り詰めカリカリと何かの音がしている。
「しっかり竿を持って高く上げて!イカジェットに気をつけるんだよ!」
「はいっ!!」
言われたとおりに竿を高く上げていると糸が緩みその瞬間に糸を巻き取ってゆく。それを繰り返してゆくと糸の先の生き物が見えてきた。
「「「おぉーーーっ!」」」
煌めく海面の下に見えるクラーケン。触手に引っ掛かっている何かを取ろうともがいているのが見える。
「もう少しだよ!落ち着いてね」
何か別の棒の先にフックが付いた物を持ちながら叫ぶ。あと少しでフックが届きそうな瞬間にクラーケンがイカスミを吐き一気に加速してゆく。
カリカリカリカリカリカリカリカリッ
「凄い力っ!でも負けませんからっ!!」
竿を立てながら叫ぶのだがあまりの力に一歩足を出しそれでも耐えられずにもう一歩足を出す。気が付けば防波堤の淵まで進んでいた。
「私の身体を引っ張って下さいっ!」
その叫びにあたしがアスカロンの腰に手を回し踏ん張る。あたしの腰をティルフィングが掴み踏ん張る。
「みんなの力を感じますっ!もう負ける気はしません!」
体勢を立て直し竿を上げくるくると糸を巻き取ってゆくと観念したのか力無く糸に引っ張られるクラーケンが姿を見せ頭にフックがかけられた。
「よし!アスカロンお手柄だよ」
「いえ、これはみんなの力があったからこそです♪」
「さーて、このイカをどうしてやりましょうか」
防波堤から下を覗くと怯えた目でこちらを見てくるクラーケンの姿が。実際に怯えているのかは分からないけど。
「これだけ大きいと食べ応えがありそうだね」
「イカのお刺身にビールも良いですね。煮物にしたり一夜干しにもしたいです」
「私の冷気で凍らせれば鮮度そのままで運べますよ♪」
「その前にボコボコにしてやるわ。覚悟しなさい」
フックに引きずられながら砂浜へと運ばれてみんなでせーので引き上げていた。改めて見るとかなり巨大なイカである。
「とりあえず締めよっか、この目と目の間に剣を刺せば活締めができるよ」
何処からか取り出した剣をクラーケンの眉間へと向けると慌てて触手を合わせ頭を必死に下げ始めていた。
「どうする?なんか命乞いしてるけど」
「こうされるとやりずらいですね」
大粒の涙を流しながらの命乞いに困惑する四人。
「さっさと締めましょうよ。生かしておくと厄介だわ」
「でもなんだかかわいそうになってきちゃいました」
「んーじゃあ他の仲間に海で遊ぶ人を襲わないって言ってくれるなら逃してあげるよ」
仕方なしに剣を納めるとクラーケンの瞳がギロリと動いた。
ボッと音がしたと思ったらティルフィングがイカスミに塗れ真っ黒になっていた。それに気を取られた隙に笑いながら海へと逃げてゆく姿が。その奥には仲間と思われるクラーケンの姿も。
「・・・ちょっと本気を出しますね」
イカスミに塗れたティルフィングからとんでもない闘気を感じて一歩引くとゆっくりと海へと向かい歩んでゆく。その歩みと共に海の水が避けてゆく。その姿はモーセの様だ。
ものすごい地響きと共に海が割れ地が続くとそこにはもがくクラーケンの姿が。
「どうやってその命を奪われたいですか?その足を一本ずつ引き千切りましょうか、それともその身が無くなるまで引き摺り回しましょうか。見せしめに相応しい殺し方をしてあげます」
黒くなってしまった髪を後ろへと回しながらクラーケンの前に立つ。悲鳴の様な叫びが聞こえた後酷く鈍い音が聞こえやがて何かを引きずる音だけが聞こえていた。
「よりによって一番怒らせちゃダメな人を怒らせたね」
「・・・そうね」
「そうですね・・・」
その言葉に二人して深く頷いていた。
その後クラーケンはユウの手により綺麗に解体されあたし達の食卓へと並んでいた。
「沢山あるからいっぱい食べてね」
「「「いただきまーす」」」
イカの刺身に焼きイカに煮付けにイカ飯に。思いつく限りのイカ料理が並びそれを一つ一つ食べてゆくのだがどれも美味しい。
「うん、これだけ美味しかったら島の名物になるよ」
新たなる名品に商売のチャンスである。
「そういえば他のみんなは?」
「長期休暇だから何処かに行ったりしてるよ。また営業が戻れば帰ってくるけど」
「それで二人はどうしてラグーナ島へ来たのですか?」
ティルフィングの言葉に目を逸らしたのだがアスカロンに肩をつつかれちょっと恥ずかしい気持ちで下を向く。
「えっと、えっとね」
恥ずかしさと照れ臭さを隠しながら[お父さんお母さん]と呼ぶと二人が目を丸くした後二人して抱きしめてくれた。ぎゅっと二人に抱きしめられるとなんだか悪くない。いや、心地良い。
………………………………………………………
そんな3人を見た後私は一人夜の砂浜へと足を運び流木に腰掛け夜空と海を眺めていた。あの空間に私がいるのはちょっと、って思って。
私には両親はおらずあぁいう光景を見ると羨ましいって思ってしまう。
「ここに居たのね」
「あっ、ユリ」
「ほら、アスカロンも飲みなよ」
差し出された缶ビールを受け取りプルタブを起こそうとしていた。
「アスカロンも私達にとって家族そのものです。例え血の繋がりが無くてもそれ以上の繋がりが私達を繋いでいますよ」
優しく微笑むティルフィングさんの言葉に少しだけ沸いた嫉妬心が溶けるのを感じていた。
「そうよ。あたしのお姉さんみたいなもんだし」
「お姉さん、、、」
「手の焼ける妹でごめんね」
「それどういう意味よ。あたしが迷惑ばっかりかけてるみたいじゃない」
「そうだと思いますよ?」
「あっ!言ったな!」
砂浜を吹き抜ける風を感じながら心に温かなものを感じる良い夜だった。