あの女と会ってからあたし達は休む事もなくユグドラシルのふもとを目指し歩いていた。そして2日ほどかけて目的地であるふもとへと辿り着いていた。
「へぇ、大樹って言う通り本当に大きいのね」
あたしが見上げても天辺が見えない程高く幹はあたしが100人手を伸ばしても届かない程に太かった。降り注ぐ日光を青々と茂る葉が遮り木漏れ日の中を歩いてゆく。
「で?勢いで来たけどふもとに何があるっていうの?」
「ユグドラシル教会の本部があるんですよ♪そこならこの世界に異変が起きているのなら気付いているって思って」
「もっと具体的な理由があって目指していたと思ってたわ。歩き損だったらあたし怒るわよ」
困ったように笑うアスカロンと共にふもとにある教会へと歩いてゆきアスカロンにドアをノックさせ背後で誰かが出てくるのを待っていた。しばらくすると銀髪の女性が顔を出しあたし達に挨拶をしてくれた。
「こんにちわ。ユグドラシル教会に何か御用か」
そこまで言って急に血相を変えアスカロンの背後に居たあたしの元へと駆け寄りあたしの顔を見つめていた。
「ユリ、ユリちゃんだよね、、、?」
「そうだけど、なんであんたまであたしの名前を知っているのよ」
「良かった、生きてたんだね」
急に手を広げ逃げようとしたのだが一足遅くしっかりと抱き締められていた。
「離しなさいよ!一体何だって言うのよ!?」
ジタバタと足掻くのだがキツく抱きしめられており逃げるのを諦めてなすがままとなっていた。
「ごめん、取り乱しちゃったね。中に入って」
教会内へと案内され入口の近くに置かれている大きなテーブルへと座り質問をしてゆく。
「あんたは誰なの?どうしてあたしの名前を知っているの?」
「私はラグナロク。ユリちゃんの事はずっと昔から知っているよ」
「詳しく聞かせて貰うわ」
「その前にまだユリちゃんに会わせたい人が居るから呼んでくるね」
話が読み込めないままラグナロクは席を立ち何処かへと歩いて行った。残されたあたし達は用意してくれていたポットからお茶をコップへと注ぎ乾いた喉を潤していた。
「あたしってそんなに有名なの?」
「私に聞かれても、、」
しばらく待っていると先程のラグナロクとその左右に金髪の女と黒髪の女の人を連れてテーブルへと戻って来ていた。
「本当にユリなのですね。あの時と違いしっかりとキラーズとバイブスを発現させています」
「それってどの時よ。そんな事は良いからあたしに付いて知っている事を教えなさいよ」
そう問うと金髪の女が口を濁らせ代わりにラグナロクがあたしの前に出て言葉を続けてくれた。
「ユリちゃんが産まれたのは今から200年も前の事なの。ユリちゃんの両親はお父さんがユウという奏官でお母さんはティルフィングというキル姫なの。ユリちゃんは人間とキル姫の間に産まれた子なの」
「うん、それで?私のお父さんとお母さんはどこに居るのよ」
「ん、良く聞いてね。ユリちゃんの両親は殺されたわ」
その言葉に何となくショックを受けていた。探していた訳でも会いたかった訳でも無いし。でも心がチクリと痛んだ。
「誰に殺されたのよ」
「それはまだ分かっていないの。当時最強と呼ばれていた奏官とキル姫の殺人事件は国を挙げて犯人探しが行われたのだけど。でも一つだけ分かった事はあるの」
「それは何?」
「現場にティルフィングの死体が無かったから淘汰を目的とした犯行だって」
「淘汰って何なのよ」
「同じ武器の名を持つキル姫がオリジナルになる為に戦う事。オリジナルになる事ができれば神器を扱う事ができるからそれが目的だと思う」
「???」
次から次へと知らない単語が並べられ理解に苦しみ煙草を吸いに外へと出る事に。教会の入口の階段に座り煙草に火を付けて煙を吐き出しながら考えをまとめるのだが出た結論はあたしの両親は既に故人だという事だけだった。まぁ別に顔も覚えていない人だからそれが何だって感じなのだが。
考え事をしていると煙草から煙が出ていない事に気が付き吸い殻を指で弾き飛ばし中へと戻ってゆく。
「ユリちゃん。もし行く当てが無いのならここに居て良いよ」
中に入るなりそう言われ前を向くと金髪、黒髪の横に座っているアスカロンがうんうんとあたしを見ながら頷いていた。あたしも特に予定も無ければ行きたいところも無いのでその提案を受けしばらくの間教会へとお邪魔をする事に。
「ありがとね。それで二人の事は何て呼べば良いのかしら」
「申し遅れました。私、ミネルヴァと申します。肩に止まっているのは相棒の梟のニケです。どうかよろしくお願いしますね」
「スイハです。よろしくお願いします」
「ん、あたしはユリよ。って名前知ってるんだったわね。ねぇラグナ、もっとあたしの過去を教えてよ」
「うん、良いよ」
そう言ってあたしの両親の事を話してくれた。2回ほどこの大陸の危機を救った事とあたしが人間とキル姫との間に産まれた初めての子供だという事。あたしが産まれた事はこの大陸でキル姫と生涯を共にすると決めた人達の希望となっていた事。思っていたよりも壮大で少し感心してしまった。
「じゃあ私は何なの?半姫半人って事?」
「そうだね。ユリちゃんからはバイブスとキラーズを感じるよ」
「それって何かメリットはあるの?」
「どうだろ?もしかしたら自分で自分と繋がる事ができるかもね?」
そう言ってラグナロクは夕ご飯の支度をしにキッチンへと入って行った。ご飯を待つ間に再び煙草を吸いに外へと。
火をつけて煙を吐き出した時ドアが開きアスカロンが出て来ていた。
「アスカロンも煙草?」
「私は吸いませんよ。ユリ、私も思い出しました。ユウさんは私が昔憧れていた人です。操られたティルフィングさんを取り戻す為に修行をして、絶対に無理な事なのにあの人はそれをやり遂げたのです。嫉妬じゃなくて心から尊敬していた人、、、」
私を見ていた視線を外し目元を指で擦りまたあたしを見てくれた。
「もしかしたらユウさんがユリと私を引き合わせてくれたのかもしれません。娘を頼むって」
「まっ、余計なお世話よ。あたしは一人で生きてきたしこれからも一人で生きていけたわよ」
「今はそう言われるかも知れませんけどいつかきっとユリにとってかけがえのない人と慣れるように頑張りますね♪」
悪態を吐くあたしに向かい笑顔を向けてくれた。偽り何て感じない真っ直ぐな笑顔を。
(何よ、なんかあたしが悪者みたいじゃない)
ため息の様なものを吐きながら二人で部屋へと戻ってゆく。
部屋に戻ったあとラグナが作ってくれた夕ご飯に舌鼓を打っていた。
「ラグナロクさん、すごく美味しいです♪」
「おかわりもあるから沢山食べてね」
五人で食卓を囲い楽しい時間を過ごしていた。疑いながらご飯を食べたのだが美味しくて気が付けばテーブルに並べられていた料理のほとんどをあたしが食べていた。
「ご馳走様。美味しかったわ」
「うん、そう言ってもらえると作った甲斐があるよ。食後はお茶が良い?コーヒーが良い?」
「じゃあコーヒーをもらうわ」
しばらく待ち運ばれてきたコーヒーを一口。うん、美味しい。
「じゃなくて!何よこの平和な夕ご飯シーンは!違うわよ!ラグナ、あたし達はこの世界に異変が起きていないか聞きにここに来たのよ!」
思わず声を荒げてしまったがラグナはあたしの頭を撫でながら何も変化は無いと教えてくれた。
「どうしてそんな事が分かるのよ?あたし達がここに来る前に変な事を言うティルフィングを見たのよ」
「そのティルフィングはなんて言ってたの?」
「剪定するって言ってたわ」
剪定?そう呟きながらラグナが何かを考えていたけど帰ってきた答えは気にする事無いよ。だった。
「それにもしこの世界に何かが有れば仲間が教えてくれるからさ」
話を聞くとラグナ達はエンシェントキラーズと呼ばれる8人組でこの世界の規律を守っている。らしい。
「だから安心して?」
「別にあたしの思い違いなら良いけど。煙草吸ってくる」
外へ行き煙草に火をつけていた。その時あたしが持っているライターを見てみるとラグナの胸に付いているマークと同じだという事に気が付いた。それにミネルヴァはニケの眼帯にスイハは所持している弓にマークを付けている。エンシェントに関係が深いマークなのは間違い無いだろう。
抱いた疑問はすぐに解決する。あたしのモットーに従い煙草を弾き部屋の中へと。
「ねぇ、このライターに付いてるマークってラグナ達に付いてるマークと一緒よね?」
「そうだよ、私達エンシェントキラーズのシンボルマーク。これは別の次元の私がユウにあげたものね。その剣もそうだよ。その剣は零奏剣・神閃・七元。私達エンシェントキラーズしか持つ事ができない剣」
「なら何であたしが持っているんだろ?」
「そこまでは分からないけど、、そのライターにはね、意味があるんだよ。希望の火を灯せる様にって」
へぇ、っと呟きながらライターを見ていた。残念ながら希望ではなく煙草に火を灯す事にしか使って無い事に負い目を感じてしまった。
「じゃあこの剣は何なの?」
「その剣は黒奏剣・骸斬・粛清だよ。ブラックキラーズしか持つ事ができない剣。ユリちゃんのお母さんが使っていた物ね」
あたしの両親は何者なのだろうか?まぁ良いんだけどさ。
「お部屋を案内してあげるから付いてきて」
そう言われてアスカロンと二人で部屋へと案内して貰っていた。二人には十分な広さで机にベッド、本棚が置いてある部屋だ。その後お風呂場を案内して貰い後は自由に過ごす事となった。早速お風呂へ入りここまで歩いて来た疲れを癒す為にベッドへと寝転がるのだ。
「あぁーやっぱりベッドは良いわね」
「そうですねっ、それとなんですけど」
「なに?」
「もー少しだけ横に移動してもらっても良いですか?」
そう言われて気が付いた。このベッドはシングル。つまり一人用なのだ。あたしが真ん中で寝転がれば当然アスカロンの寝る場所は無い。
「ん、、」
普段通りに床で寝れば良いのだがお腹一杯食べ良い感じに眠たいあたしは壁際へと動きアスカロンの入るスペースを作っていた。それを見て笑顔でベッドへと入り込み寝転がっていた。
「マクラもーらいっ♪」
「あっ!あたしのマクラよ!」
一つしかないマクラを独占され奪う為に引っ張るのだがしっかりと押さえられ抜く事ができずにいた。
「はいっ」
「むぅ」
アスカロンが伸ばしてくれた腕を枕に目を閉じるとあたしを抱きしめてくれた。服越しで伝わる体温は悪くなくていつの間にか眠りへと落ちてゆく。