「本当だ、強くなりましたねユリ♪」LV90
「なんかイラッとしたんだけど」
「えっ、どうしてですか!?」
あれからあたしは毎日鍛錬と称した新聞配達を行なっていた。朝と夕に街中を駆け巡り配達をしているだけなのだが。
「…………もーむり、、、っ」
あたしが新聞配達をしている街はこのユグドラシル大陸でも一番大きな街なのだ。少なく見積もっても400軒は家を回っているのだ。夕刊はまだ良いのだが朝刊を配り終えた後は剣の鍛錬があたしを待っていた。
「お疲れ様でしたっ、それでは私から相手をしますね」
アスカロン、ラグナ、ミネルヴァ、スイハに稽古を付けてもらいクタクタになった後少しお昼寝をしてから夕刊を配りに行く。そんな生活を一ヶ月ほど続けていたある日の事だった。
「お疲れ様、ほら給料だよ。来月も頼んだよ」
「ん、ありがと」
新聞屋の亭主に封筒を貰い店を出て直ぐに中身を確認していた。
「ふへっ」
思わず変な声が出てしまう程のお金が封筒から見えニヤけを堪えてきれずに教会へと街を歩いてゆく。
そんな帰り道にいつもの配達ルートにあるケーキ屋の事を思い出し店へと足を運ぶ事に。甘い物が食べたいって訳じゃない、この一ヶ月お世話になったからそのお礼として。
「いらっしゃいユリちゃん」
「ねぇ、5人で食べれるぐらいのケーキが欲しいんだけど」
「それなら良いのがあるよ。少し待っててね」
そう言われて店内にある椅子に腰掛けしばらく待つ事に。余談だがあたしの存在は有名らしく、いや、あたしの両親は有名らしくその間の子であるあたしも有名のようで教会に携わる人なら一度は名前を聞いた事があるみたいだ。
ティルフィングのキラーズを持ちバイブスを持つ半姫半人の女の子。名はユリ。
まぁ当の本人であるあたしはそれがどうしたという感じなのだけど。
「お待たせ、揺らさないように持っていきなよ」
「うん、ありがとね」
大きな箱を渡してもらいお金を支払い教会へと向かい歩いてゆく。
「♪」
思っていたより上機嫌な帰り道。そんな時感じた事がある気配を感じて空を見上げた。
「…………」
この街を覆うほどのユグドラシルの葉を睨んでいると遥か上空の木々が揺れた。風のせいかと思い歩み出そうとした時もう一度ガサリと揺れる音が。
「・・・!」
その瞬間にバックステップをとり下がるとあたしが居た場所に剣が振り下ろされ地面を抉っていた。
「何よあんたは」
「私はインテグラルキラーズの一人アルマスよ。剪定を行う為にこの天上世界に来たんだから」
剣に付いた土を払いながらその女が答えた。蒼く短いパーマがかかった髪の隙間からあたしを覗く鋭い紅瞳に何処かあの時会ったティルフィングを思い出させるような姿の女。
「へぇ、で、あたしとやろうっていうの?」
「やり合うつもりは無いわ、ただあんたは剪定されれば良いのよ」
その言葉の後に接近され剣を振るわれていた。もちろん簡単にやられるつもりは無い。むしろこの一ヶ月の成果をコイツで試そうとニヤニヤしながら腰に携えた剣へと手を伸ばした。
「あっ!!」
伸ばした手は空を切り慌てて腰へと目線を向けると剣が無い。それもそうだ、新聞配達を行うのに邪魔な剣は教会に置いてきていたのだから。
「ちょ、タンマ!素手相手に剣はずるいわよ!」
「あんたはピンチかも知れないけど私には絶・好機よ。その穢れた魂を散らせてあげる」
丸腰のあたしを剪定する剣が左右から迫る。それをなんとか剣筋を見切り回避しながら反撃の一手を頭をフル回転させて導き出そうとしていた。
「ちょこまかと鬱陶しいわね、諦めて剪定されなさい」
「あたしは諦めが悪いのよ。それにあんたみたいな青髪天パに剪定なんてされたく無いわよ」
「なんですって!?もう一度言ってみなさい!」
「何度でも言ってやるわよ!この青髪天パ!」
ギロリとあたしを睨んだ後ふくれっ面で剣を振り回す。だけど怒りで振るう剣なんてただ剣を振るっているだけだ。
「当たらないわよ青天」
「もう許さないわ!絶・剪定するんだから!」
挑発に挑発を重ねて相手の動きを単調にする。ミネルヴァに教えてもらった事が役に立った。単調となった剣技を回避しながらこの場を打開する策を考えてゆく。ん、これなら。
策を二つ程思い付き早速行動へと移してゆく。
あたしが着ているパーカーを脱ぎ左腕へと巻き付け青天を睨んだ。
「勝負よ青天!あたしが勝ったらその命散らせてあげるわ」
「私のセリフを真似するなんて絶・不愉快なんだから!」
力を込めた渾身の一閃をパーカーを巻き付けた左手でしっかりと掴み手首を返すと動きに追従できず手を離した。その隙に剣を後ろへと放り投げる。
「くらいなさい!!」
驚き慌てた瞬間に右手に持っていたケーキの箱をアルマスの顔面へと押し当てた。
「何よこれ!?甘っ!?」
「あたしの初任給で買ったケーキよ!って、なんであたしがあんたに食べさせなきゃいけないのよ!!」
「知らないわよ!そっちが勝手にしたんじゃない!」
「ムカつくわね、そうだ。このままぶん殴ってやるわよ」
「望むところよ。かかってきなさい」
顔中ケーキまみれのアルマスと殴り合う為に拳を構えた。アルマスも私と殴り合うべく拳を固めたその時。
「やめなさい二人共」
あたし達の間に割って入って来たのはラグナロクだった。それでも闘争心に火が付いているあたし達は止まらない。
「嫌よ、まだあたしはこの青天をぶん殴って無いわ」
「それはこっちのセリフよ。コイツを剪定したら次はあんたの番なんだ、、、くうっ」
そこまで言って急にアルマスが苦しみ始め膝を付いたと思ったらその場に倒れ込んでいった。
「何倒れてんのよ!さっさと立ってあたしと戦いなさいよ!」
倒れたアルマスの元へ詰め寄ろうとした時にラグナロクの身体が揺れ地面へと倒れ込んだ。
「ラグナ!?しっかりして!」
「ごめんね、詳しい事は話すから私達を教会に運んでくれないかな」
「私達って、まさかコイツも?」
「うん、お願い」
普段と違う弱々しい目で訴え掛けられため息を吐きラグナロクを背負いアルマスの手を引っ張り引き摺りながら教会へと帰ってゆく。
「で?一体どういう事なのよ」
苦しそうに息を吐く二人をベッドに寝かせこの状況を理解する為に看病をしているミネルヴァへと問いを投げていた。
「この感じ、、もしかしたらラグナロクが持つバイブスとこのアルマスというキル姫のキラーズが共鳴しているのだと思います」
「共鳴?あたしがアスカロンと共鳴した時はこんな事にならなかったわよ」
「本来ならそうなのですがアルマスが持つキラーズに何かが混ざっていたのかもしれません」
心配そうに二人に目線を向けていた。
「それで、このアルマスの顔に付いているものはなんですか?」
「知らないわ」
未だにケーキまみれの顔を不思議そうに指差すミネルヴァに煙草を吸って来ると伝えて部屋を出ようとした時あたしが開けるはずだったドアが勝手に開いた。
「大変ですっ!早くテレビを見てくださいっ!!」
慌てて事を伝えるのはアスカロンだった。事の重大さを見抜きミネルヴァが部屋のテレビを付けチャンネルを回してゆく。
【
その言葉の後にテレビは砂嵐を映しザーーーっと耳障りな音を奏でていた。
「あっ、終わっちゃいました、、」
「今のは一体、、?ファーストキラーズが映っていましたが、、」
「今インテグラル・ノアって言ってたわね。このアルマスはインテグラルキラーズと名乗っていたわ、何か関係があるんじゃないの?」
「アスカロンは見ていたのですよね?何が放送されていたか教えてもらえますか?」
「はいっ、こういう事が、、。」
アスカロンが放送の内容を説明してくれていた。聞くとインテグラルキラーズがこの世界の人達を剪定し反転した世界へと連れて行くとの事で。
「分かりました。あの、ユリとアスカロンで先に偵察へ行ってもらえないでしょうか?私達はラグナロクの容体が落ち着き次第追いかけるので」
その言葉にアスカロンと顔を見合わせ頷き合った。
「分かったわ。行くわよアスカロン」
「はいっ!きっと成果を上げてきますからね♪」
「お願いしますね、それとユリが持っているライターを見せれば私達の関係者だと分かるので優位に事を進められると思います」
その言葉に頷き腰に二本の剣を携え教会を出て振り返る事なくあたし達は歩き始めた。