静まり返る夜の荒野。聞こえるのは虫の音と動物の寝言ぐらいだ、私は目を瞑りながら辺りの気配を察していた。
ゴソっと何かが動いた、起き上がり身構えるとウィルが寝返りを打っただけだった、マントをかけ直してあげて煙草に火をつける事に。
夜空を舞う煙を見ていると遠くの方に何かが光っているのが見えた。
松明か
それも一つではない、沢山の松明がこっちに近づいてくる、夕飯の焚き火の煙を見てここを嗅ぎつけたか。
ウィル、起きなさい
なんだよ…
お客様よ
は?
昨日は良くもやってくれたな、借りを返しに来たぜ
そう、なら私も容赦しないわ、ウィル、私の後ろを離れないで
何が起きてるんだよ…
ぐるりと私達を囲む盗賊達、30人程度か。
死にたい奴から前に出なさい!斬り刻んでやるわよ!
双剣を構えそう叫ぶ。
やっちまえっ!!
誰かが叫び戦いが始まった。
舐めんじゃ無いわよ!
迫り来る盗賊達を斬り伏せてゆく、松明に血飛沫が照らされ久々の肉を断つ感触に心が躍ってゆく。
ひぃぃぃぃ!!
おい!逃げるな!戦え!!
逃げるのなら追わないわよ、私も無駄に殺生はしたく無いわ
このっ!!
恐れを成した者が撤退を始めた、残るは一人だけとなった。
その根性は認めてあげるわ、あんたも早く逃げなさいよ
あの腰抜け共が!俺が斬り殺してやる!
そう
男の一閃を躱し双剣を首筋に突き付ける
ねぇ、生きるか死ぬか選んで
…………………
答えられないなら生きなさい、あと早く私の前から消えなさいよ
男を蹴飛ばし煙草に火をつける
くそ!覚えていやがれ!
すぐに忘れてやるわよ
走り去る男を見送り残された松明の火を消してゆく、まだ使えそうだ、一つ貰っておこう。
キル姫
何よ
この人達死んでるの?
倒れる男を達を指さすウィル
さぁ?深くは斬っていないから生きてるとは思うわよ
助けないの?
そんな気にはなれないわね、あんたは自分の命を狙った人を助けれるの?
でも可哀想だよ!
そう言うのをお人好しって言うのよ、手伝いなさい
うん、どうするの?
よもぎの葉を貼るわ、止血効果があるのよ
鞄からよもぎの葉を取り出す、少し萎びているが大丈夫だろう、ウィルと二人で切り口に葉を貼ってゆく。
応急処置しかできないから後は体力次第ね
そうなんだ
寝るわよ、まだ日も登ってないわ
こんな事があった後に寝れないよ
なら目を瞑っておきなさい、ほら
岩にもたれかかっているウィルにマントをかけてあげる
ありがと
別に、あんたもあれぐらい倒せるようになりなさいよ
僕には無理だって
なら教えてもらいなさいよ
誰にだよ
あんたの家に先生がいるわよ
何言ってんだ、うちに強い人なんて居るわけないだろ
きっと帰る頃には分かるようになっているわよ
再び煙草に火をつけて夜が明けるのを待つ、しばらくすると空が白ばんできた、時期に太陽が顔を出すだろう、立ち上がり身体を伸ばす。
ウィル、あんたも見なさいよ
何をだよ
朝焼けよ、今日という日の始まりね
………………綺麗だね、、、
だんだんと登ってゆく太陽を二人で眺める、この凛とした空気が私は好きだ。
さぁ行くわよ
どこにだよ
言ったでしょ、あの城よ
私が指差す方にはそびえ立つ古城があった。
あの城に何しに行くんだよ
ウィルは異族って知ってるかしら?
知ってる、人を食う化け物だろ、まさか…
そうよ、あの城に乗り込んで異族を叩くのよ
嫌だよ!あんな奴らに殺されたくないよ!
安心して、私の力を少し貸してあげるから
そう言ってウィルの右手を握りキラーズを意識する。
何この感じ、なんか力が湧いてきた気がするよ!
私のキラーズを使ってウィルを強化してあげたわ、これなら異族と戦えるわよ、それが終わったら返して貰うからね
うん!
二人で剣を構えながら城に入ってゆくと古ぼけた空気が私達を出迎えてくれた。
カビ臭い…
そうね
古い建物だからか所々から日が差し込んでおり歩くのに苦労はしなかった。
開けるわよ
うん…
扉を開けて最深部を目指して行く、辺りを警戒するも今のところ気配は感じられない。
キル姫はこわくないの?
別に、これぐらい慣れっこよ、あんたも辺りを警戒しなさいよ
うん
ふと背後に何かを感じた、七元を鏡代わりに後ろを見ると一匹の異族が居た。ウィルはまだ気が付いていないようだ、ウィルに静かに近寄っていく異族、そして
きしゃゃゃゃゃゃ!!
うわぁぁ!!
ウィルに向けて剣を振り下ろした、それを受け止め異族を蹴飛ばした。
ウィル、一人で倒しなさい、見ててあげるわ
無理だよこんな奴……
最初から諦めるんじゃないわよ!蛇を狩る時の事を思い出しなさい!
ぎぃぃぃっ!!
何かを言いながら立ち上がる異族とウィルが対峙する、それを見ながら煙草に火をつける。
ひぃぃぃぃ、、、
そうよ、良い感じね
もう怖いよ!!!
なんとか異族と打ち合う事ができている、少し押されているが初めてにしては上出来だろう。
きしゃぉぁぁ!!
うわっ!
異族に剣が弾き飛ばされてしまった、驚くウィルに異族が迫る。
良く頑張ったわね、褒めてあげるわよ
瞬時に異族を蹴飛ばし斬り伏せる、辺りを警戒するもこいつ一匹しか居ないようだ。
先に進むわよ、立ちなさい
待って
何よ
腰が抜けて立てないよ
だらしないわね、ほら
手を引っ張り無理やり立たせる。
この城を探検したら帰るわよ、もう少し頑張りなさい
う、うん!
しばらく進んでゆくと広い部屋に出た、ここが最深部なのだろう、嫌な気配が漂っている。
ウィル、しっかり気配を感じるのよ
何か居るのは分かるけど…
それだけ分かれば上等よ
煙草に火をつけて松明に火を灯し部屋に投げると異形の者の姿が照らし出された。
なんだよあれ!
知らないわよ!
紅く目を光らせた何かが蠢いている。よく見ると両手を二本ずつ生やし牛の様な顔をしている、それに高値で売れそうな腕輪、その反対には巨大な剣を構えている。
ヴォォォォォォォォォォォ!!!
咆哮の後にこっちに向かって来た。
来るわよ!しっかり戦うのよ!
無理だよぉぉぉ!!
二人で剣を構えソレと対峙する、強そうな相手に心が踊る。
私はこっちよ!
ヴォォォ!!
振り回される剣を躱しながらそいつを斬りつけてゆく、残念ながら見掛け倒しだったようね。
ほら!ウィルも頑張りなさいよ!
避けるので精一杯だよ!!
甘えた事言ってんじゃないわよ!せやぁっっ!!
ヴォォォォォォォォォ!!!
ソレの剣を握っている手を切断し剣を遠くへ蹴飛ばす。
ウィル、こいつはもう剣は振れないわ!
そう言った時だった、ソレの手に握られ身動きが取れなくなってしまった、ついでに少し情けない姿を見せてやろう。
ウィル!助けて!このままだと殺されるわ!
手の中で手足をバタつかせ必死に逃げようとする。
そんな…キル姫が…
助けてっあぁぁぁぁぁぁっ!!
握り潰されている様な振りをする、きっとアルマスが見ていたら大笑いするだろう。
今助けるよ!!うぉぉぉぉぉぉお!!!
ウィルがソレに向かって行く、突き出される腕を避けながら突き進んでゆく、そして
やぁぁぁぁぁぁあ!!!
ソレの首を斬り落としゴロって音の後にソレの胴体が崩れ落ちた。
助かったわ、ありがと
ウィルに抱きついてやる、サービスってやつね。
これを僕が倒したの?
そうよ、やればできるじゃない
信じられないよ…
コロコロと何かが転がって来た、見るとソレがしてた腕輪の様だ。
ほら、戦利品よ持って帰りましょ
うん!部屋に飾るよ!
さぁ帰るわよ
うん!
嬉しそうに腕輪を持っているウィル、楽しそうで何よりだわ。
私達は城を抜けて帰路に着く事に、荒野を進みウィルの家を目指して歩いて行く。
キル姫!僕がご飯を取ってくるよ!
頼んだわよ
キル姫、兎はどうやって捌くの?
こうしてこうやるのよ
意外と草って美味しいんだね
たまに毒がある奴があるから気をつけなさいよ
行きよりも逞しくなったウィル、良い経験になったのだろう、2日程かけて家まで帰ってきた。
ただいま!
元気よく門を開けて家に入ってゆくとウィルの母親が待っていた。ウィルを見るとすごい剣幕で怒りだしていた。
ウィル!どこに行っていたの!そんなに汚れて!
冒険に行って来たんだ!すごく楽しかったんだよ!
冒険?そんな事より勉強をしなさい!他の子に遅れたらどうするつもりなの!?
母さん、僕、冒険家になりたいんだ!もっと世界の事を知りたいんだ!
馬鹿な事言ってんじゃ無いよ!ウィルはお父さんの会社を継いでいれば良いのよ!
嫌だよ!僕は僕のやりたい事をやるんだ!決められたレールなんて歩きたく無いよ!
なんて子なの…キル姫ね、キル姫が居るから悪いんだわ!あのキル姫は何処に居るのよ!!
子を心配するのでは無く勉強をしてなかった事に怒るその言葉を聞いてイライラしていると私に火花が飛んできた。
あんたのせいでウィルが滅茶苦茶な事を言い出したわ!どう責任をとってくれるのよ!
良いわよ、責任を取ってウィルのキル姫をやめるわ
それだけじゃ済まさないわよ!あの小汚い店も潰してやるわ!
そう、なら私は店を守る為に戦うわよ、私の店を潰すのならあんたも潰される覚悟があるわよね?
………………………
もちろんその覚悟があるからそう言った、違うのかしら?
あ、あああああっ………………
次同じ事を言ってみなさい私の双剣の錆にしてやるわ、それと子供の将来を親が決めるのはどうかと思うわよ
蹴飛ばしたいのを抑え背を向けた。もうここには居られない。
ウィル、私は家に帰るわ
そうなんだ…僕のキル姫になってくれないの?
ウィルとは共鳴しないし何より私より弱い奏官なんてごめんだわ
じゃあお店に遊びに行っても良い?
構わないわよ、私の相棒にも会わせてあげる
早く出て行きなさい!!!
母親の声が響く。
じゃあねウィル、カッコ良かったわよ
背を向けて歩いて行くと門の影にリチャードが居た。
こちらを
ありがと
手渡された紙袋、中を覗くとコーヒー豆が入っていた。
後でウィルの話を聞いてあげてね、きっと良い思い出になったはずだわ
かしこまりました
それとウィルに剣技を教えてあげてね
はい
それとこれをウィルに渡して
店の場所が書かれた地図を渡す。
必ずお渡しします
頼んだわよ
草原を駆け抜けてアスカロンの待つ我が家へ、夕方には家にたどり着く事ができた。
ただいま
お帰りなさい、心配したんですよ?
遅くなっちゃたわね、お土産よ
なんですか?これは?
コーヒーよ
それより早くお風呂に入ってくださいよ、服も汚れちゃってます
そうね、お店はどうだった?
いつも通りでしたよ?
ん、ありがと、お風呂に入るわね
はいっ、後で何をしてたか聞かせて下さいね?
分かったわよ
服を脱ぎ捨てお風呂へ、シャワーを浴びて身体を洗ってゆく、シャンプーも貰っておけば良かった。
のんびりと湯船に浸かり身体を拭いてアスカロンの元へ。
アスカロンもお風呂に入りなさいよ、片付けはやっておくわ
ならお願いしますね?
玄関に閉店の札を掛けてレジのお金を金庫にしまい掃き掃除と備品の整理、これぐらいか。
アスカロンはまだお風呂から出てきていないので煙草に火をつけてのんびりと待つ事に。
えへへ
リチャードにもらったコーヒー豆が入った瓶を見るだけで口元が緩む、明日の朝に飲もう。
本格的なコーヒーを貰ったのですね
そうなの?
はいっ豆を挽く機械ってありました?
そんなの知らないわよ、私はこれをお湯に入れれば飲めると思っていたわ
それでも飲めるかも知れませんが美味しいとは思えませんよ?
むぅぅぅぅ……
私が思い描いていた朝の至福のコーヒータイムは音もなく崩れ去った、明日雑貨屋のおじさんに聞いてみる事にしよう。
ご飯できてますよ?冷めちゃいましたけど
ありがと、いただくわ
アスカロンと二人で食卓を囲みアスカロンが作ってくれたご飯をいただく。
ん、美味しいわね
マサオさんに教えてもらいましたからね
私も聞いておけば良かったわ
今度教えてあげますよ
頼んだわよ
ご飯を食べ終え食器を片付けて二人で寝室へ。
それで何をしてたんですか?
えっとね
色々な事を喋ろうと思っていたけど腕枕とアスカロンの体温の心地よさに負けていつの間にか眠りについていた。