崩れ去った日常
いつものように朝起きて仕事場でコーヒーを淹れて煙草に火をつける。いつもと変わらないいつもの朝だ。もうすぐアスカロンが起きてくるから今のうちにコーヒーミルで豆を挽いておこう、咥え煙草で豆をガリガリしているとアスカロンが起きてきた。
「おはようございます♪」
「おはよ、コーヒー淹れるね」
「なら朝ご飯を作って来ますね」
しばらくするとサンドイッチを持ったアスカロンがやって来た、それに合わせてコーヒーを二杯淹れてサンドイッチと共に頂く。
「今日は何をします?」
「そうね、店番しながら店の周りの掃除でもしようかしら?」
「了解ですっ」
朝食を食べ終わり食後の煙草を揉み消してあたし達は動き出した、パジャマからいつもの服に着替えて家の窓を全部開けて換気をしてドアに開店の札をかける。アスカロンに店番をしてもらってあたしは家の周りのゴミを拾っていた。季節は冬を超えて春に向かっている、落ち葉や風に乗って飛んできたゴミを袋にまとめてゆく、こんなものか。
ひと段落つきあたしが家に戻ろうとした時だった、一人の男が向こうから走ってくるのが見えた。何やら慌てている様だ。それを見ているとあたしに気が付いた様でこっちに向かって走って来た。そして
「追われている、助けてくれ!」
そうあたしに向かって言った
「それは構わないけどもちろん報酬はあるんでしょうね?」
「金ならいくらでも払う!早くあいつらを!!」
その男が指差す方には以前地上世界で見た骸骨の様な姿で胸に赤い球の様な物を光らせている魔物が居た。それも一人ではない、何十と群を成してその男を狙っている様だ。臨時収入のためだ、サクッと終わらせよう。
「任せて、報酬はしっかり貰うからね!」
双剣を構えその魔物の群れに斬り込んで行く、数は多いが大したことは無い、一人ずつ的確に倒してゆく、見かけは骸骨だが血が流れている様だ、鮮血が舞い地面を汚していた。
「せやっ!」
ーーーーーーーー
最後の一人の首を斬り落とし剣を振り血を飛ばして鞘に収めその男に話を聞く事に。
「あんた何者なの?あの魔物は地上世界の魔物よ」
「それは言えない、だけど俺の事を守って欲しい」
「あたしだってそんな素性の知れない人なんて守りたくないわ、頼むなら教会に行きなさいよ」
「素性は明かせない、だからここに頼んでいるんだ。ここは何でも屋なんだろ?」
逃げ回りながら店の看板に気がつきここにきたのだろう。少しだけ看板をつけた事を後悔した。
「はぁ、、、なら言える範囲で良いから言いなさいよ」
「俺はマーベル、以上だ」
「それだけ?」
「あぁ、それ以上は言えない」
ため息をついて煙草に火をつけようとした時だった、一人の女性が空から舞い降りて来た。
「あっ、ラグナ、久しぶりね」
「その男を捕らえて!」
「ちっ!」
舌打ちが聞こえたと思ったら駆け出したマーベル。それに飛びつき確保する。
「ラグナ!捕まえたわ!」
「離せ!俺にはやる事があるんだ!」
「ありがと、マーベル博士。貴方を教会に引き渡します」
「やめろ!離せ!」
あっという間にラグナにロープで縛られるマーベル、もう大丈夫そうだ。
「ねぇ、いったいどういう事なの?」
「この博士が冥界の扉を開いたのよ、それで蘇った死者がこの世界を侵略しているの」
「ならこの博士にその扉を閉じてもらえば良いじゃない」
「そう簡単にはいかないのよ。博士を教会に引き渡したらユリの所に行くね」
そう言ってラグナはマーベル博士を教会に連れて行った、それを見届けてから店に戻る事に。
「なにかあったのですか?」
「もうすぐラグナが来て説明をしてくれるわよ」
「ラグナロクさんですか?」
「うん、いつでも家を出れる様にしておきましょう」
戸締りをして店の前で待っているとラグナ達が来てくれた。
「ユリちゃん〜アスカロンちゃん〜ハグだよ〜♪」
むぎゅぎゅぎゅ
久しぶりのこの感触。千年王国のフライシュッツと変わらぬ大きさの物に二人が包まれていた。
「フライシュッツ、話が進みません」
久しぶりだからおねーちゃん嬉しくて♪
「はぁっ、、、狭いけど入ってよ、立ち話もなんだし」
「そうね、お邪魔するわ」
エンシェントのみんなと仕事場へ、椅子は二つしか無いからみんな適当な所に座っている。
「それで一体何が起きているのよ?」
「さっきも少し話したけどあのマーベル博士が冥界の扉を開いたのよ」
「その冥界の扉って何なのよ?」
「それはね…「詳しい事は私が説明します」
ラグナを遮りミネルヴァが話し始めた。
「ユグドラシルの根元に冥界、つまり死者の国があるのですけどあの博士が何らかの力を使い冥界とこの世界を繋げたのです。先程ユリが倒した魔物はその冥界の扉から出てきた者達です」
「あれね、でもあんな弱い魔物が出てくるだけなら放っておいても良いんじゃ無い?」
「あの魔物だけなら良いのですが、、、7人の悪魔をユリは知っていますか?」
「7人の悪魔?知らないわ、アスカロンは?」
「私も知りませんね?」
「遥か昔、神魔契約により地上世界を支配していたその七人の悪魔も復活しようとしているのです」
「あーっと、キラーメイルが倒したって奴らね、少しだけ聞いた事があるわ、でもそんな奴ら瞬殺じゃないの?」
「警戒し過ぎるって事は無いわ、それにまだ応援を呼んであるわ」
ラグナがそう言った後にドアがノックされ入ってきた8人。
「ユリ、アスカロン、みんな久しぶり」
「お久しぶりです♪」
ユウ、それに1stキラーズの7人だ。過剰戦力な気がするのだが?
「適当な所に座ってよ、って言ってもそんなにないけど」
「ありがと、ラグナロク、剣をくれないかな?」
「はい、持ってきてるわよ、七元で良かったわよね?」
「ありがと、十分だよ」
「あれ?アルマスは?」
「そろそろ来るんじゃないかしら?声はかけてあるんだけど」
しばらくするとドアが乱暴に開かれ息を切らしながら入って来た青髪の少女。
「ごめん、遅れたわ」
「アルマス久しぶり」
「久しぶりね」
みんなの間を通り抜けアルマスとハイタッチ。
「これで戦力は揃ったわね、これより作戦会議を始めるわ」
ラグナがそう言った時何かがぶつかるような音が聞こえあたしの家が揺れた。
「っ!!みんな!逃げて!!」
誰かの声が響きみんな一斉に家から飛び出してゆく。
「あ、あたし達の家が………」
家から脱出して振り返るとあたし達の家の二階部分が見事に消し飛んでいた。その光景を見て頭が真っ白になり膝から崩れ落ちた私を守る様にみんなが囲ってくれた。
「一体どこからですか!?」
「気配は感じなかったのに…」
ミネルヴァとアルテミスが破壊された家に登りその形跡を分析しているのだがもうそんな事がどうでも良くなるぐらいにあたしは怒りに燃えていた。
「許さない…悪魔でも何でも絶対に斬り刻んでぶっ殺してやるわ、、、!」
「グハハハハハハハ!!貧弱な建物だ、準備運動にもなりゃしねぇ」
下品な笑い声と共に姿を見せた紫色の人。いや、人外なのだろう、耳の上から生えた羊の様なツノ、4メーターはありそうな身長、着ているシャツが弾けそうな筋肉、品のない金のネックレスをしている男。その体格に似合う巨大な斧を構えている、、、そんな事はどうだって良い。
「あんたがあたしの家を壊したのね!?ふざけんじゃないわよ!」
「あぁん?威勢の良いメスガキだな」
怒りに身を任せて一気に接近して双剣を振るう、が、体格の割に動きが速く全て避けられ余裕そうな表情で私を見下していた。
「ムカつく顔しやがって!!」
「ユリ!下がって!」
誰かの声が聞こえた瞬間だった、巨大な斧による一閃があたしに迫る。避けられないと判断して二本の剣を交差させ防御姿勢をとり両足で大地を踏み締める。
「俺様の一撃、受け止め切れるかっ!」
「きゃっ!」
「ユリっ!」
斧か剣に当たった瞬間にあまりの威力に身体が浮き上がり後方へと吹き飛ばされてゆく。それを受け止めてくれたアスカロン。
「次は二人まとめて叩き潰すーっ!!」
私達に追撃を加えるためにそいつが迫る。
「させるか!させません!!」
間一髪の瞬間に斧の一撃を何とか防ぐユウとティルフィング。だけどジワジワと力負けして押し戻されてゆく。
「フライシュッツ!」
「うん!任せて〜!」
鍔迫り合う魔物を左右からロンギヌス、フライシュッツが狙う。
「そんな槍当らぬぞ」
それを飛び上がり回避する魔物。
「空中なら上手く動けないよ!」
飛び上がり斧を振り下ろすパラシュ、それを空中で体制を変えて弾き飛ばした。
「ちゃくちはさせない!!」
巨大な槌で一撃を放つグラーシーザ、それも軽々と弾き返していた。
「アルテミス!」
「はい、行きますよ!」
二人の弓使いが家の屋根から矢を束で放つが全て弾かれている。
「ふんっ、この程度の力のキル姫しか居らぬなら侵略も簡単だな」
そう言ってそいつは姿を消した。怒りに燃える私を残して。
「っつ!!許せないわ!!今すぐに追うわよ!」
「ダメですって!みんなで作戦を考えましょうよ!」
「あたし達の家を壊したのよ!?今すぐにでも斬り刻んでやるわよ!!私一人でもやってやるわよ!」
「ダメです!!」
「離しなさいよ!!」
羽交い締めにするアスカロンを解こうと暴れる私にティルフィングがゆっくりと近づいてきそしてパンッと頬を打った。じんわりと広がる血の味に我に返ってゆく。
「頭を冷やしなさい。ユリはあの魔物に一太刀でも入れれましたか?」
「そ、それは…」
「それにあの魔物はかなりの力を秘めています。一人で向かうのは死にに行く様なものです」
「うん、、」
「分かれば良いのです」そう言って私の頭を撫でてくれたティルフィング。
「ほら」
「んっ」
ユウに差し出された煙草に火をつける。やっと昂っていた気持ちが落ち着いてきた。
「作戦を立てましょう。ミネルヴァ、あの魔物について調べられる?」
「はい、教会に行けば資料があると思いますけど、、」、
「あの魔物に見覚えがあります」
そう言うのはティルフィングだった。
「先ほどの魔物はマモン。7つの大罪の一つ、強欲を背負いし魔物ですす」
「7つの大罪って事はまだ他に居るのね?」
「はい、嫉妬のレヴィアタン、暴食のベルゼブブ、色欲のアスモデウス、怠惰のベルフェゴール、憤怒のサタン、怠慢のルシファーです。過去に地上世界を襲っていた魔物達です」
「もう復活をしていたのね」
「あの魔物達は私を淘汰したティルフィングが倒したはずなのに…」
「ねぇ、死者は冥界に送られてからどうなるのよ?」
「その魂は冥界を彷徨いそしてユグドラシルの元へと還ってゆきます。しかしその頃にユグドラシルのマナが大量に消費されていたので上手く魂が還らなかったかもしれませんね」
「うん、よく分からなかったわ」
「それに以前よりもかなり力を増しています。まだ本気を出していませんでしたがマモンもそうでしょう」
「なら、あのクラスの魔物が後6人いるって事?」
「そうなりますね」
「相手は6人ですがこっちは19人居ます!それに地上世界からみんなの力を借りれば負けるはずなどありません!」
「それがね、あの博士の仕業だと思うんだけどユグドラシルが封鎖されているのよ」
「あの博士も地上世界の人なのかしら?」
「きっとそうね、天上世界にそれ程の科学力があるはずがないわ」
「そのはかせはどこにいるのだ?」
「教会に居るわ」
「なら博士に真意を問おう、それならば話も早かろう」
「そうね、教会に行きましょう」
みんなで教会に行くとこに。歩きながら私は複雑な心境だった。家を破壊された怒り、強敵と戦える喜び、いつもの日常が崩れ去った悲しみ。だけど、またこの日常を取り戻すんだ。
「ユリ?着きましたよ?」
「えっ?あぁっ、入るわよ」
つい考えすぎてしまっていた。すでにみんなは教会に入っておりあたしとアスカロンだけが教会の入り口にいた。
「アスカロン」
「はいっ?」
「私を止めてくれてありがと」
「ユリはすぐ無茶な事しますからね♪」
そう言って頭を撫でてくれた。やっぱりアスカロンに撫でられるのが1番落ち着く。二人で教会に入ってゆくと何やら慌ただしかった。
「なんの騒ぎなの?」
「ラグナロク様に連れてきてもらったあの男が舌を噛み自死しました、、、我々も手を尽くしたのですが…」
「そう…」
これであの男の目的は分からなくなった、死人に口なし、ただ問題だけが残った。
「ねぇ、こないだあたし達が捕まえたあの博士は?」
「まだ牢屋に入れてありますが」
「もしかしたら何か知ってるかも知れないわ。ラグナ、ついてきて。」
「分かったわ」
ラグナと二人で牢屋に、以前と変わらず牢屋に捉えられているメクリス博士がいた。
「私に何か?」
「マーベルって博士を知らない?」
「マーベルか、懐かしい名前だ」
「知っているのね。詳しく教えなさい」
「昔の研究仲間だよ」
「そのマーベル博士は何の研究をしていたの?」
「冥界がどうとか言っていた覚えがあるが…」
「そう、何か思い出したらまた教えてね」
そう言うと中指を立てる博士、それに中指を立て返す。
「ごめんラグナ、何も分からなかったわ」
「仕方ないわ、みんなと作戦会議をしましょう、早く奴らを倒さないと不味いわ」
「そうね」
また新しい戦いが始まった、まだ知らぬ強敵に少しだけ心を躍らせながらラグナの後ろをついてゆく。
今更キャラプロフィール
ユリ
身長、153 体重、45
誕生日、3月9日、星座魚座
出身地、サフラン
好きなもの:煙草とコーヒー
趣味:何でも屋の仕事
今作のヒロイン、オリジナルキャラクター。前作のユウとティルフィングの一人娘で何でも屋をアスカロンと営んでいる。以前は半姫半人だったが神々との戦いで自身のバイブスとキラーズを使い願いを叶えた為現在はキル姫。一人称はあたし。双剣使いで遺品である黒奏剣骸斬と零奏剣七元を携えている。好奇心旺盛で仲間と思った者には優しい。かなりの負けず嫌い。過去に孤児として生活をしていたが大陸で盗賊紛いのことをしていた所をアスカロンと出会う。