あれから少し部屋の中を漁っていた、ベッドの布団をめくり机の引き出しを開けたり。何か手がかりになりそうな物を探していた。
これは?
机の引き出しを開けたら出てきた一冊のノート。表紙は少し古ぼけてしまっているけど中は問題無く読む事ができた。少し目を通して見よう。
○月○日
私は研究を完成させる事が出来た、ユグドラシルの根本にある冥界に大量のマナを送り込む事により死者の魂の活性化、及び肉体の復活。長年の私の目標であった死者を蘇らせる事が出来そうだ。
□月□日
ダメだ、この方法では2人を蘇らせる事は出来ない、冥界を彷徨う魂全てが蘇るだろう。何か方法は無いのだろうか?
▽月▽日
明日冥界に潜入し彼女達の魂を探し出そう、困難な作業になりそうだがもう一度あの頃を取り戻せるのなら構やしない、念の為いつでも計画を起動できるようにしておかねば。
ふむ、この小屋には研究員が居たのか。もしかして天上世界で会ったアイツ、えっとマーベルだっけ?そいつのかも知れない。
日記を読む限りマーベルは彼女達を蘇らせる為に入り込んだのだろう、だが、その計画は失敗。冥界が地上世界を包み込んだ。それから逃げる為にマーベルは天上世界へ、それを捕らえられ教会で自殺。笑えないわね。彼女達って誰だ?
その日記を鞄に仕舞い込み小屋を出る事に、もうここには用はないだろう。煙草に火をつけそれを咥えながら歩き始めた。蝋燭を使った奴の事が気にかかるけどもう忘れよう。
しばらく歩いていると何かの気配を感じた、何かが居る。腰に携えた双剣を構え振り返ると1人の人が居た。俯いたままただ立っているだけの男の人だ。何やら様子がおかしい。
ねぇ、アンタはここで何をしているの?
私がそう問いかけるとゆっくりと頭をあげようとした。
ただ頭をあげようとしただけなのにその男の頭が首から離れ地面に落ちた。
ちっ
誰かの攻撃かも知れない、そう思い手頃な岩に身を潜め辺りを見渡しても他に身を隠せそうな所も無いし誰の姿も見えなかった。
もう一度その男を見ると頭が無いのにその身体は立ったままだった。そのまましゃがみ落ちた頭を拾い上げ首にグチャグチャと音を立てながら捩じ込むとまた立ち上がった。その姿に身体中に鳥肌が立った。
逃げようと思い振り向くと同じように俯いた人が。きっとこいつも同じ様な人なのだろう。それに気を取られていると肩を叩かれた。ゆっくり振り返るとまた違う人が私の肩に手を置いていた。温もりを感じない冷たい手。
ひっ、と短い悲鳴が口から漏れた。恐怖に震える身体を無理矢理動かしその手を振り払い私はユグドラシルへ向けて駆け出した。
…………………………………………………………
その頃ラグナロク達はサフランを抜けクレナイを通り越し冥花繁殖帯を駆け抜けてワスレナのその先、「海」に来ていた。その崖から眼下に広がる広大な海をみんなで見下ろしていた。
ラグーナ島と違うドス黒い雲に覆われた海。見ていると本能が拒絶するのを感じる。
飛び降りる前に集合場所を決めておきましょう、皆が同じ場所に降りれるとは限らないわ
地上世界で一番目立つ所にしませんか?
ならユグドラシルね、あれだけの大きさならどこにいても見る事ができるはずよ
アルマスもたまにはナイスなアイディアが出せるんだね
フライグーゲルがアルマスを茶化すと緊張していたみんなの顔に少しだけ笑顔が戻った。
どういう意味よ、フライグーゲル
ジッとアルマスが睨むと口笛を吹き顔を逸らした。
この騒動が終わったらみんなをラグーナ島に招待するよ
そうですね、そこで疲れを癒やして下さい
それだと僕らがもてなさないといけないじゃないか
他の従業員にお願いしますよ♪
あまり楽はできそうにありませんね
アルテミスがため息をついた、それにロンギヌスが同感ですと呟いた。
そろそろ行こうか、お先に
そう言ってユウが飛び降りた、それを追う様にティルフィング、アルマス、アスカロンと続く。
レッツダーイブ♪
おねーちゃんもダーイブ♪
クレスもいっくよー♪
楽しそうに飛び降りる3人、それをグラーシーザ、マサムネ、スイハが追う。そんなみんなを見ながらエルキュールが足を震わせていた。
エルキュール、怖いのですか?
そ、そんな事はありません!でも手を繋いで下さい
私の手で良ければ
ありがとうございます
エルキュール、ロンギヌス、ネスが手を繋ぎ飛び降りて行った。
私達も行きましょう
そうだね
先行くね
レーヴァテインが飛び降りその後をアルテミス、パラシュが追いかけた。
みんなが飛び降りるのを見届けてからラグナロクとミネルヴァが一瞬振り返りそして飛び降りた。
……………………………………………………
あれから私は荒野を走り続けていた、あの化け物を見てからどこを見渡しても同じような化け物を見るようになっていた。それをなるべく見ないようにただ走っていた。
しばらく走ると小さな街が見えてきた。あの街に行ってみよう。走るのをやめて歩く事に、息を整えてから手頃な倒木に腰を掛け煙草に火をつけた。
煙を見ながらあの化け物の事を考えていた、私の願いでインテグラルキラーズ、コマンドキラーズに殺された人は生き返っているからあれはそれ以前の死者なのであろう。危害を加えるつもりは無いのだろうがあの見た目は生理的に受け付けなかった。首が取れるって反則よ。
煙草を踏みつけ立ち上がり街へと入って行く、期待はしていなかったけどこの街にも生者の気配は無い。そのかわり前に武器を構えたさっきの化け物達がお出迎えをしてくれた。そっちがやる気なら私のもそれに答えるだけだ、双剣を抜き出し構えた。それを合図にしたのか私に向かって来た。
ただ無言で武器を振り回す化け物を1人斬り伏せた時だった。何かが私の頭の中に流れ込んできた。
裸で鎖に繋がれた男。何度も大声で無罪を叫ぶが聞き入れられずその男は群衆に石を投げられていた。それでも無罪を訴え拷問の末崖から突き落とされその生涯を閉じた。
ウォエッッ!!!
気分が悪くなるってもんじゃ無い、言葉では言い表せない程の絶望、怒り、恨みの記憶が私を支配した。なんとか飛び退き込み上げる物を吐き出した。
胃の中の物を全て吐き出し唾を吐き捨て前を見ると化け物達が私の目の前に立って居た。きっと攻撃すればまた同じ事になるのだろう。これ以上あんな映像を見せられたら気が狂ってしまいそうだ。それならば。
化け物の群の間を走り抜け一気に屋根の上へと駆け上がった、ここなら登ってくる事は出来ないだろう。奴らを見下ろしながら煙草に火をつけた。
煙を吐き出しながら化け物達の様子を見ていた、光の無い瞳で私を恨めしそうに見上げている。そんな事よりもあいつらの対処法を考えないと、接近して攻撃すればあの幻覚を見せられるのだろう、それなら遠距離から攻撃すれば良いのか?試しに屋根を壊しその破片を投げてみる事に。
私の投げた破片は化け物の頭にめり込んだ。うん、これなら嫌な記憶は私に流れ込んでこない様だ。今度ミネルヴァかアルテミスに弓矢を教えてもらおう。
そんな事を考えていたら化け物達の姿が見えなくなっていた、諦めたのだろうか?屋根から身を乗り出し下を見ていると私が居る建物に火をつける化け物達の姿があった。このまま焼き殺すつもりなのだろう。
屋根から屋根へ飛び移りながらこの街を出る事に。武器もそうだけど物を使う知恵は残っている様だ。もしかしたらあの蝋燭もあいつらが使ったのかも知れない。
………………………………………………………………
ってててて、みんな無事?
なんとか
同じく
ラグナロクが身体を起こし声をかけるといくつかの返事が合った。みんな地上世界に降りれた様だ。
点呼をとるわ、エルキュール
はい!
ミネルヴァ
はい
ダモクレス
はい♪
フライシュッツ
はーい♪
グラーシーザ
うむ
スイハ
はい
ネス
はい
アルマス
んっ
こっちはみんな居るわね、ティルフィング、そっちは?
はい、ユウ
あーい
アスカロン
はいっ
マサムネ
あぁ
フライグーゲル
イェース
アルテミス
はい
パラシュ
居るよ
ロンギヌス
はい
レーヴァ
ん
こっちもみんな居ます
良かった、みんな無事に降りれたのね
問題はここからだね、僕達は何処に居るんだ?
そう言われてみんなで辺りを見渡すけど見渡す限りの荒野にいるみたいだ。
あれってユグドラシルじゃ無いですか?
ロンギヌスが指差す方に点高くそびえる大樹が少し見えた。間違い無いだろう。
きっとユリもユグドラシルを目指しているはずよ、私達も急ぎましょう
そうだね
ラグナロク達もユグドラシルを目指して進み出した。
……………………………………………………………
屋根から飛び降りまた1人荒野を歩いていた。そういえばさっき斬りつけた男はどうなったのだろうか?死者が死んだ?なんか頭痛が痛いみたいな話ね。
死んでいるから死なないのか?死んでいるのに死ぬのか?よく分からない事を考えながら歩いていた。
ねぇ、あなたは生きているの?
不意に声をかけられて辺りを見渡すと1人の少女が居た。黒い髪を肩まで伸ばしショートパンツに黒いパーカーを着ている。
そうね、生きているわ、そう言うあんたはどうなのよ?
私は死んでるよ、でもこうして動いている
そうなんだ、それであんたに敵意はあるのかしら?
双剣の柄を掴みながら問いかけた。
私に敵意なんて無いよ、それよりお願いを聞いて欲しいんだ
何よ、聞くだけ聞いてあげるわよ
それはね、冥界の扉を閉じて欲しいの、私達は死者、またこうしてこの世界に存在して良いはずがないの
そう、でも信じられないわ、あんたが敵意が無いって事を私に証明しなさいよ
分かったよ、じゃあこれあげる
そう言うと左手で右肩を掴みそのまま肩から引きちぎった。
ほら、私の利き手を預けるよ、これなら信じてくれるかな?
無表情のまま私にちぎった右腕を渡そうとしてきた。そんな物受け取りたくも無い。
分かった、分かったから早くそれをくっつけなさいよ!そんな物預かりたく無いわ!
うん、じゃあ信じてくれる?
それなりに信じてあげるわよ、でも私の前を歩きなさいよ
分かった
その少女を先頭に荒野を歩いて行く。ついでに色々質問をしてみよう。
あの化け物達はなんなのよ
私と同じ死者だよ、君はどこから来たの?
天上世界からよ、黒い影に引きずり込まれたのよ
そうなんだ、向こうから歩いて来たの?
そうね、あの街の向こうから来たわ、それよりあの化け物を攻撃すると嫌な記憶を見せられるんだけど
それはその人の過去だよ、ユグドラシルに近づけば近づく程死者の力が強くなるの
何か良い対処方法は無いの?
離れて攻撃するか、それか逃げるか、魔を払う物なら大丈夫なはず
分かったわよ、あんた、名前は何て言うの?
クリスって呼んで、あなたは?
私はユリよ、よろしく
よろしく
しばらクリスに着いて歩いて行くとさっきより少し大きな街が見えて来た。
あの街に寄ろっか
分かったわ、案内よろしく
任せて
そう言って街へと入って行った。キョロキョロと何かを探している様だ。
何か探しているの?
うん、前私達が住んでた家があるの
へぇ、忘れ物?
歩くより良い物があるから
分かったわ、それより呑気に探している場合じゃ無さそうね
そうだね
建物の間や屋根の上から私達を狙う化け物の姿があった。
私が何とかしてあげるからクリスは探してなさいよ
ならお願い、すぐ戻るからね
そう言って何処かへ駆けて行った。それを見送り双剣を構えた。また幻覚を見せられるかも知れないけど戦うしか無い。
どっからでもかかって来なさいよ、私が斬り刻んであげるわ!
そう叫ぶと集団で私に向かって来た。これだけの人数の過去を見る事に寒気がするけどその不安をかき消す様に気合を入れ直す。
無言で振り回される槍を骸斬で防ぎ覚悟を決めて七元で斬り伏せる。
………………あれ?幻覚が見えない?見たかったって訳じゃ無いけど。
試しに骸斬で化け物を斬ってみる事に。七元で防ぎ骸斬で斬りつけると幻覚が脳内に映し出された。どうやらこの女の人は複数の男に誘拐されて乱暴を受けた後殺された様だ。その時の感情に包まれて行く。
ウォエ………
もう出るものは無いけど胃液を吐き出し唾を吐き捨て骸斬を鞘に収めた。七元ならアイツらと戦える、もう怖いものは無い。化け物の群れに斬り込もうとした時だった。なんか変な音がこっちに向かって来た。
その方を見ると馬みたいな奴に跨ったクレスの姿があった。
ユリ、乗って
何よこれ!?
良いから早く
クレスの後に飛び乗りそれに跨ると物凄い勢いでそれは走り出した。