幼馴染に貰ったオナホでオナニーしてたら幼馴染が妊娠してた話 作:タナん
「レイ=スコット、久しぶりだな」
「黒騎士……」
静かに俺の名前を呼ばれ、後ろを振り返る。
怒号が飛び交う戦場なのに、まるで彼と俺しかいないかのようにその声はよく通る。
全身を覆う一切の露出の存在しない黒い金属鎧は、金による装飾が施されている儀礼用のような鎧。
その姿は間違いなくジェイル=アブサロン、通称黒騎士だ。
馬には乗っておらず、武器は腰に差したロングソードのみ。
「会いたかったですよ」
「あの時は済まなかったな。続きをしよう」
やっと……会えた。
本当に長かった。
彼と会ったのはただの一度きりだが、シャロに会いたい思いが強くなる程、黒騎士にも会いたくてたまらなくなっていた。
彼の言葉を信じるなら、彼は王国の軍を率いる将軍であるという。つまり彼こそが、俺が戦争に来た理由。シャロと添い遂げるために必要な存在。
黒騎士と初めて会った時、俺は虚勢を張ったり、気分がハイになって武者震いしたと思えば、戦わなくてよかったと怯えて、もう気持ちがグチャグチャで迷いだらけだった。
でも、シャロと結ばれた日、俺に迷いはなくなった。
俺は何があろうと彼女を優先し、どんな相手でも彼女のために戦う。
彼が俺が英雄となるために必要な相手というならば、逃げるという選択肢は存在しない。
戦うしかないというのなら俺はシャロと共に彼を倒すだけだ。
首にかけたネックレスに手を置いてぎゅっと握る。
護りの魔法とシャロの思いが込められたこのネックレスには、何度も助けられた。つながりを感じられ、何度も勇気をもらったし、まだまだ脇が甘かった最初の頃は、当たればどうなっていたかわからないような攻撃を何度も防いでくれた。
このネックレスにはチェーンでつながれた赤い宝石が下げられていて、その宝石をよく観察してみると宝石の内部に小さな魔法陣が緻密に刻まれている。
宝石の内部という空間魔法により本来手を付ける事の出来ないような場所に、シャロが手作業で彫り込んだのだろう。
その魔法陣の一画一画に思いやりというか怨念のようなものを感じる。
そんなペンダントをしているからだろうか。
戦場にいる時もシャロが俺を見守ってくれている気がして、いつものようにこうして手で握ってみると、この日はするっと思ってもいない言葉が口から出てきた。
「俺、子供が産まれるみたいなんですよ」
なぜ俺はこんな事を言い出したのかだろうか。自分でもわからない。
毎日彼女との行為をしているが、彼女が妊娠しているかどうかなんて、直接彼女を見ていないのでわからない。
でも多分、この感覚は正しいのだと思う。
「そうか……奇遇だな。実は私の子供もそろそろ産まれている頃なんだ」
「それは……おめでとうございます。これはお互い死ねませんね」
「ああ」
心が熱いのに穏やかで……なんなのだろうこの感覚は。
何が可笑しいのか、俺の顔がフッと緩む。
兜に覆われて表情は伺うことはできないが、きっと彼も似たような表情をしていると思う。
「じゃあ……やりましょうか」
俺の声と共に、俺と黒騎士が赤く照らされた。
周りが巨大な炎の壁が地面より立ち登り、昼より明るく、夕より朱く照らされた。きっと英雄部隊のエルフの魔法使いマリウスだろう。
教会が語る地獄とはこんな光景なのだろうか。
気温が一気にあがり、炎から放たれる輻射熱によりおよそ生物が生きていくには相応しくない熱が、ジリジリと肌を焼いてくる。
もし俺が黒騎士と戦うことになったら邪魔が入らないようにして欲しいと、以前に頼んでおいたのだが、しっかりとこの日も俺の事を見ていてくれたようだ。
「安心してください。邪魔が入らないようにしてもらっただけです。決して手は出さないように言っています」
「ならば問題ない」
俺と黒騎士がゆっくりと歩み寄っていく。まるで散歩にでも行くかのような自然体。
黒騎士もその分厚い鎧の重さを感じさせない軽い足取りだ。
一歩、また一歩と近寄っていく。
「「!!」」
刹那、俺と黒騎士はお互いを斬った。
完全なる同時、届かないはずの距離。でも俺たちが距離を見誤るはずなどない。
俺の水の剣は長く伸ばされ、離れた黒騎士の右肩を叩いて、水の刃が鎧を食い破ろうとたすき掛けに纏わりついた。
対する黒騎士の剣は空を斬り裂くと、半ばから先が消え失せ、俺の胸の前に銀色に輝く剣先が現れた。
俺は剣を振りながらも、咄嗟に左足を後ろにずらして半身になることで、黒騎士の空中から突如現れた剣を避けた。
俺の水の剣は、剣そのものの鋭さで斬るのではなく、相手に当てさえすればいい魔法なので力を込める必要がなく、回避と攻撃を同時に行うことができる。
黒騎士は鎧が俺の魔法に削られきる前に姿を消した。
その先は俺の右後方10メートル。
俺の水のみを置き去りにして転移したのだろう。
俺は体を反転させ、右の利き足で地面を吹き飛ばし、黒騎士がいるであろう方向に接近する。
感じた通りの場所で黒騎士を視界にとらえた。
俺の間合いはクロスレンジではなく、槍より更に遠いミドルレンジである。理想は3メートル、重さと遠心力の関係で取り回しが悪化する事をいとわなければ5メートルほどまで水の剣を伸ばすことができるが、相手の間合いは剣だけを転移させるオールレンジ。近寄らなければ勝機はない。
8メートル……6メートル……5メートル……4メートル……
「?!」
目標である3メートルまであと少しというところで、目の前のマナが変質したのを感じ取り、ガチン!と歯を食いしばって、その場で急制動をかけて剣を振る。
すると、遥か黒騎士のロングソードの間合いの外のはずの俺の顔の前を剣が横切った。
黒騎士が例の転移魔法で横薙ぎの剣先を飛ばしたようだ。
俺の避けながら咄嗟に延ばした水の剣にも手ごたえがない。
(どこいった!)
一瞬目の前を横切った黒騎士の剣により視界がふさがれたコンマ何秒で、俺は黒騎士を見失ってしまった。
黒騎士を見つけ出そうと辺りを素早く見回そうとすると、また後ろにマナの変質を感じ、なりふり構わず前に飛んで転がる。
直後、頭上を何かが力強い風切り音と共に通り過ぎた。
ザリっという地面を踏みしめる音が聞こえる。俺の回避に合わせて黒騎士が踏み込んできたらしい。
俺は地面を転がったため、まだ中腰で立ち上がっている途中だ。このタイミングで二の太刀を受けるのは不味い。
俺は下に下げた左手の掌を、親指だけ折り畳み、後ろにいる黒騎士の足音の方向へ向けて小手に刻み込んだ魔法陣にマナを流し込むと、俺の手から炎が広がるように噴き出した。
こうして親指を曲げると、俺の掌から指にかけて刻まれたファイアボールの魔法陣が指で途切れて不完全になり、投擲に適したしっかりと形を保ったファイアボールではなく、不定形の自然の形そのままな炎になる。
黒騎士は大きく広がった炎に包まれることなく、また姿を消す。今度は死角ではなく、俺の目の前に剣を頭上に振り上げた態勢でだ。
「ぐっ!」
俺は剣を頭上に振り上げ迎え撃つ。
耳障りな鈍い金属がぶつかり合う音が鳴り響き、衝撃で目がちかちかする。
俺の剣を上から押しこんで来る黒騎士の剣は重かった。
手が痺れ、腕の筋肉がプチプチと弾ける音が聞こえる。その衝撃を受け止める足は硬い地面を割り、膝を折りそうになる。
これが国の命運を任される男の剣。
この一合で改めてわかる。彼は転移魔法による初見殺しに頼るだけの男ではない。
この剣に宿る重さは、剣に人生を積み重ねてきた本物の戦士にのみ宿る重さだ。
だがこの重さ、黒騎士が目の前にいる証拠、転移魔法を操る彼を捉えるチャンスだ。
俺は刀身に纏わせている水を、相手ではなく自分の剣の周りを高速で循環させる。
すると俺の剣と鍔迫り合いになっている黒騎士の剣に、ダイアモンドとレッドドラゴンの鱗の粉末が含まれた水が黒騎士の剣に激しくぶつかって黒騎士の剣の刃を削っていく。
黒騎士はすぐに鍔迫り合いを拒否して、転移魔法で俺の右後方に移動したので、俺は体を左に回転させながら、遥か東方の武術にある背負い投げという技のように、急に重さの消えた剣を肩から引っこ抜くように振り抜く。
黒騎士の剣と俺の剣が再びぶつかると、また俺の魔法により黒騎士の剣が削られていく。黒騎士の剣を半ばまで切断したところで、黒騎士は再び姿を消すと今度は10メートルほど前方に姿を現した。
(不味い!削り切れない内に距離を取られた!)
俺がまた黒騎士に向けて走り出す。
黒騎士はその場で剣を振り上げると先ほどと同じように、刀身を転移魔法で転移させて俺の肩を切り落とそうとする。
俺は転移魔法の予兆を感じ取り、同じように回避しようとした。が、
「?!ぐっ……」
肩に振り降ろされた剣は半身になる事で避けることができた。だが、俺の左の太ももを外側から縦に、腹部を水平に、焼きゴテを当てられたかのようなカッと熱い痛みが走る。
(一体何が?!)
やられた。
自分が今何をされたのかも、どれ程のダメージをおったのかもわからないうちに、黒騎士が振り下ろされた剣を返す太刀で振り上げて追い打ちをかけてくる。
今度は喉の前のマナが変わった。だがそれだけではない。
同時に背中、左足首にもマナが作り変わるのを感じ取る。
このままいけば喉が断たれる。後ろにのけぞれば背骨を砕かれる。足を踏ん張って上半身の動きだけで避けようとすれば足を失う。
ならばと俺は前に踏み込む。
喉元に転移魔法の出口が現れる前に突っ込んで通りすぎれば何も問題なく避けられる。
先程斬られた太ももから血が吹き出すのを感じるが、痛みに悶てる場合じゃない。我慢できなければもっと痛いのだ。
痛みを意思で封じ込めて黒騎士へと駆け、剣を振るおうとすると、腕のあたりのマナがまた変質するのを感じ取る。
俺は咄嗟に横薙にしようとした剣を、片手で無理やりその場で止め、左手を前に突き出しファイアボールを黒騎士に放つ。
黒騎士は俺のファイアボールを避けようともせずに剣を横に構えて次の攻撃の動作に入っている。
黒騎士が爆炎に包まれて姿が見えなくなるが、転移魔法を使ったわけではないようだ。
炎を振り払うように刀身が消えた剣が、炎を巻き込みながら振るわれる。
俺が後ろに跳びながら、肩を空振りした部分を横目で見ると、刀身が根元しかなく、それより先がまた別の転移魔法の入り口へ入り込んでいる。
どうやら黒騎士は刀身を3分割して別々の場所に転移させているようだ。
その出口はアキレス腱なのか、手首なのかは確認している暇はないが、彼は転移魔法を同時に最低でも3つ同時に行使でき、それにより一刀で完全に同時な3連撃を可能にしているらしい。
シャロは同時に一つしか転移魔法を用意できないのでこの攻撃は予想していなかった。
幸い、元々の剣を別々の場所へ分割させる性質上、それぞれの転移魔法ので口から現れる剣の長さはそれほどではなく、さっき斬られた傷は直ちに戦闘不能になるほどではない。
ほっとくと失血死するかもしれないが。
シャロの護りの魔法は意識的にマナの動きに干渉してあえて発動させなかったのだが、痛みで崩れ落ちそうになる膝に、失敗だったかという後悔がよぎる。
また首のまわりのマナが変質したのを感じ取る。
俺はすぐに痛みをこらえ、まだ無事な右足で地面を蹴ってバックステップでその場から離れた。
異変を感じた首のあった部分には一見何も起こっていないように見える。
だが、きっとあの場所にはこの世で最も鋭い首輪状のギロチンが通ったはずだ。
たぶん俺の首の周りの空気を空中に固定して、分子単位の薄さの刃物にしたのだろう。
これはシャロもよくやる手だ。
僅か数十秒のはずが、俺には途轍もなく長く感じた一連の攻防だが、黒騎士の動きが止まることで一息つく余裕が生まれる。
口が大きく開き、荒い呼吸で必死に空気を取り入れると生き返った気分になる。
どうやら息を止めていたようだ。
「貴様……見えてるな?」
黒騎士の声色には驚きが混じっている。
恐らくここまで攻撃を避けられるのは予想していなかったのだろう。
彼が空間魔法を使う事を知らなければまだしも、はっきりと空間魔法の使い手だと知っている。なら俺が対策できないわけがない。
なぜなら俺は
「さあ?どうでしょうね?」
空間魔法の最も向いている戦闘方法は暗殺だ。
基本的に目に見えない魔法ばかりで、特に転移魔法を応用した攻撃は、死角と意表を突く暗殺のためのような魔法だ。
最後に黒騎士が使った魔法は、理屈はわからないが、物質を固定することでどんな物質でも破壊不能にすると言うもので、その対象を自分たちが吸っている空気に使えば不可視の刃にすることができる。
だが一見無敵にも思える空間魔法だが、感知できないわけではない。
転移魔法により転移するゲートを作るとき、入り口と出口を作るために大気に漂うマナが変質するのだ。
俺は自分のマナによりコントロールした水を、周りに立ち上る炎の壁で蒸発させて、水蒸気として周りに滞留させていた。
黒騎士の空間魔法が発動した時、俺のコントロールするマナを宿した水蒸気が、黒騎士の空間魔法のマナと反発して押しのけられる。水蒸気ほど細くしてしまうと制御は効かなくなるが俺はそれを感じ取ることができる。
非常に繊細な感覚を必要とする魔法ではあるが、俺はシャロ相手に何度も試して完全にものにしている。
この魔法に名前を付けるのなら『水の領域』といった所だろうか。
別に他人に広めるつもりがないので、基本的に俺の魔法には名前を付けていないので今付けた。
本来なら左手に刻まれたファイアボールの魔法陣を使って水を熱するのだが、左手がメラメラ燃えたまま戦っていると明らかに怪しいので、今回は周りの炎の壁を利用した。
一対一の戦いで他人の魔法を利用するのはズルいかもしれないが、俺は騎士ではなく平民だし、プライドなどよりシャロとの幸せ結婚生活を取る。
「これは……貴様……何をした?」
黒騎士が困惑の声をあげる。
恐らく黒騎士は
サウナ状態であろう黒騎士の鎧では気付けないだろうが、時間がたてばたつほど、俺たちの周りの湿度が上がっていく。
そしてやっと今、この辺りに漂うマナを押しのけて転移魔法の出口を作れないくらいには掌握できた。
他人が指向性を与えたマナを自分のマナとして使うことは、かなりの実力差がないと難しい。
この場には俺の色に染まったマナばかり、黒騎士が転移魔法のために使うマナはほとんど存在しない。
つまり、
「もう逃がさないってことですよ」
その言葉の言い終わりと共に、俺は横に水の剣を振るった。
黒騎士は後ろに飛んで避けようとするが、伸びる剣の前に重い鎧を着ていて転移魔法無しに避けきれるはずがない。
俺の攻撃は黒騎士の胸のあたりに命中する。
黒騎士の鎧を削り取ろうと、胴体にぐるっと水が巻き付くが、黒騎士はその場から動かない。
俺はそのまま何度も水の剣を黒騎士の鎧めがけて振るう。
太もも、右肩、顔面、左腕、足首、次々と遅延性の必殺の一撃が黒騎士に叩き込まれていく。
でも黒騎士は動かない。
俺の竜をも殺した水のノコギリは黒騎士の鎧を動かせない。
いつまでたっても鎧は斬れず、ダイヤモンドと竜の鱗の粉末を含んだ水が表面を滑るのみ。
これは……
「動かなければ勝てませんよ?」
「わかりきったことを……」
どうやら鎧を空間に固定しているようだ。自分の触れている鎧であれば、この辺りのマナを掌握されていても影響を及ぼすことができるということだろう。
今の彼の鎧はまさに鉄壁。この世のどんな攻撃をも防ぐ最強の鎧。
だけどこの魔法、物質をその場に固定する魔法だ。
残念ながら、固定化させた物質はその場から動かすことはできない。
彼は今、鉄壁という文字の通り、壁のように動くことができないのだろう。
もし鎧への固定化の魔法を解除すれば俺の水の剣が容赦なく彼を襲うことになる。
一応この対策も用意してあるので、俺は動かない黒騎士へと走り寄る。
左拳を握り込み腕を引いて黒騎士の腹に鎧の上から叩き込もうとする。
「だが……まあその通りだ」
黒騎士のつぶやきと共に、俺の肩あたりの皮鎧に切れ込みが入っていくのが肌の感覚でわかった。
黒騎士が剣を持った手を動かし片手のみで剣を振り上げている。
鎧を俺の魔法が削り取るわずかな間、肩から先のみ、固定の魔法を解除して攻撃してきたようだ。
黒騎士の斬撃は、剣を持った腕のみを動かした手打ちの剣にも関わらず、非常に重い太刀筋だった。
雑兵の剣なら防ぐはずの皮鎧が切り裂かれ、俺の骨まで一緒にきるとは、あまりにも化け物じみた力だ。
その結果として俺の突き出された拳は、黒騎士の剣により肩から切断され、黒騎士に届くことはなかった。
この黒騎士の腕を犠牲にした攻撃、当然、シャロのネックレスが俺を守ろうと反応する。今度は護りの魔法を意図的に妨げる事はせず、そのまま発動させる。
シャロから渡されたこのネックレスに込められている魔法は、空間そのものを大きく波打たせ、どんな運動エネルギーを持つ物でも弾き、退ける護りの魔法である。
俺はこの戦いが始まってから、このネックレスを首からではなく、今突き出している左拳に巻き付けていた。
そのため、首に巻かれている事前提で構築していた護りの魔法は、上手く俺の事を守ってくれずに俺の腕を落とされてしまった。
だが、黒騎士の腹の前に突き出された拳に巻かれたネックレスから、空間そのものを揺らす波が発生し、固定されていたはずの黒騎士の鎧を大きく揺らし、一時的に只の鎧へと変化させる。
空間魔法による固定を失った黒い鎧に、表面を滑るのみだった水の剣による研磨が始まる。
黒騎士の全身に巻き付いていた水の輪が次々と黒騎士の鎧を切断し、バラバラになった鎧が地面に積み重なるように落ちていく。
転移魔法も固定化の魔法も封じた。
鎧の中では逃げ場もないはず。
これでチェックメイトのはずだ。だが、
「手ごたえがない……」
ドサッというなにかが落ちる音が後ろから聞こえた。
そこには見知らぬ男が立っていた。
ガタイがよく、キッと吊り上がった意志の強そうな目をしている。
白髪交じりの黒髪は短く刈り上げていて、歳の頃は40程だろうか。年齢が顔にでているが、それは決して老いではなく、武人としての経験値が刻み込まれている。
その男は右腕を失っているようで、右腕から血が噴水のように噴き出している。右足首がありえない角度に曲がっていて折れているようだ。
顔は知らないが、腕を失ってなお失わないこの威圧感、間違いなく黒騎士だ。
「今のは危なかったぞ」
「その手がありましたか……」
想定外だ。
黒騎士はどうやら鎧を捨てて転移したらしい。
入り口は、鎧を固定化させる魔法で耐えるのと同時に、その鎧の内側を固定化の魔法で使用した体内のマナで満たして作り出す。出口は、遥か上空の俺の水の領域の及んでいない場所に作り出したという所か。
まあ完全なる推測だが。
マナは血に宿る物だ。
空間にあるマナに干渉する魔法も、元は血の中にあるマナが働きかけて行使している。
肩から無くした右腕から血が吹き出たことでマナの流れが乱れる上、激痛による集中力の欠如、底を見せていないが、魔力消費の激しい空間魔法の行使、多分もう魔法は使えないだろう。
だが、それは俺も同じだ。
俺はさっきから腹と太ももから血を流しているし、左腕を失った。
なんとかマナをかき集め、魔法を使っていたが、もう水の剣も形を保てない。
お互いに魔法は使えない。
使えるのは己の片腕のみ。
さて、戦況は五分ではなくさっきから血を流している分、俺が不利か。
なら、まあ悪くないな。