※この作品はR-18です。

鳥籠と博士は無知である   作:織部よよ

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我慢できなくて一日早く投稿


まとわりつく現実②

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら数日前から待たせてしまっていたらしいが、何の用だクラヴィス。ナイチンゲールまで同伴して」

 

 

あれから……リズが不感症かもしれないという疑惑が発覚してから4日後。私たちは、学会が終わりいつも通りの生活に戻ったケルシーの元へ赴いていた。

研究室で椅子に座っていた彼女は、手に持っていたコーヒーカップを机に置いた。

 

「ああ、少し検査をお願いしたくてな」

 

「検査……って、君(・)たち2人か?」

 

「いえ……私です。ケルシー先生」

 

リズが一歩前に出る。

ちなみに、流石にケルシーに対面するときに繋いでいた手は外しておいた。彼女の前に繋いだまま姿を見せる勇気はない。

 

「ふむ……何か体調に変化があったのか?」

 

ケルシーが席を立ち、それほど空いていない彼我の距離を詰めてきた。この圧力というか、オーラには未だに慣れず、半歩後ずさりかけたが。

 

「……ええ。実は…膣に、異常があるかもしれなくて……」

 

リズは何とも感じなかったのか、特に動きはせず原因を口にする。改めて言葉にすると凄まじい。

 

「………」

 

しばしの沈黙。

ケルシーは珍しく、本当に珍しく、その無表情が崩れ顔を呆けさせている。

 

数秒、あるいは数分か、誰も何も言葉を発さない緊張が場を支配し。

 

 

「………何だって?」

 

 

____もう一度、聞き返されてしまう事態になったのだった。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

「……ナイチンゲールは鉱石病の影響で無月経を患っている。それに伴い長期間活動を停止していたために膣の機能そのものが衰えているんだ。軽度の不感症もそれが原因だろう……この馬鹿者が!ただでさえナイチンゲールは鉱石病に加え複数の後遺症を抱えているんだ、生殖器そのものには鉱石は分布していないが粘液接触による感染のリスクはゼロではないし、何より病態が悪化する可能性だって十分にある。それらを承知の上ならまだしも……いやそれもあまり良くはないが、そんな状況での性交などあまり勧められるものじゃない______もっとよく考えろ!」

 

 

「………はい……」

 

そして、現在。

検査を通して判明した私たちの考えの至らなさを、ド正論で叱られていた。今まで全く見たことがないくらいの剣幕で。

 

「…………はぁ……まったく、いきなり検査してほしいなんてコンタクトを取って来たと思ったら……言葉が出ない」

 

「……め、面目ない……」

 

「クラヴィスはともかく、ナイチンゲールは最も気を付けなければいけない立場だ。医療チームの中でも突出して医療知識を持つ君だ、可能性くらい考慮できただろう」

 

「……おっしゃる通りです、ケルシー先生」

 

 

本当に正論過ぎて何も言い返せない。

長らく彼女と接してきたからか、それとも彼女の足が治ったからか……リズが鉱石病以外にも複数の後遺症を患っていることを、先日不感症が発覚するまですっぽりと忘れてしまっていたのだ。

 

「……申し訳ございません、クラヴィスさん」

 

「……どうして君が謝る、私が全面的に悪いよ、この件は」

 

少なくともオペレーターたちの上司兼指揮官として、彼らの体調やケアには人一倍気を遣うべきだったのだ。それをしなかったということは、職務放棄にも等しい。

 

「君の容態を知っていたにも関わらずリスクを無視して事に及ぼうとしたのは、間違いなく私の落ち度だ……少々、舞い上がっていた」

 

「それはっ………私も、同様です。貴方と共に未知のものを知れる高揚で、私の体にまで思考が及んでいなかったのですから……」

 

2人して項垂れる。

それを見ていたケルシーが、ひとつ大きくため息を吐いた。

 

「はぁ……この際、責任の所在は問わない。まあ、これからは性行為の類は控え「別に構わんのではないか、ケルシー」……誰だ?」

 

彼女の言葉が遮られる。声の主はケルシーの後ろ……部屋の奥からだ。

彼女と全く同じ感情で後ろを見やる。すると、そこには空のビーカーを片手に立っていた白髪の女性が。

 

 

「なに、妾たち医療班での支援を強化すれば、ナイチンゲールにだって性行為くらい出来るだろう、リスクを無視できる。生殖器に関しては妾に当(・)て(・)があるからな」

 

 

我らがロドスにおける問題児筆頭、ア(・)とセットで怪医と呼ばれ他のオペレーターにもたびたびアクションを起こしてはケルシーに減給をくらっている、医療チームきっての古株。

 

ワルファリンが、にやりとしながら飄々と立っていた。

 

「……ワルファリン?確かにそれは……可能かどうかで言えば可能だろうが、我々の忙しさを鑑みれば厳しい」

 

「なら、妾が主治医になろう。丁度時間はなくはないし、サポートは問題ないだろう」

 

「……それでも、性行為なんてしない方が寿命は確実に縮まらない。どうしてそこまでクラヴィスとナイチンゲールに拘る?」

 

………何故だろう、話が私たちを抜きにしてどんどん進んでいっているような気がする。隣のリズも展開に追いつけず目をぱちぱちしているし。

 

ケルシーの至極当然な疑問を受け取ったワルファリンはしばらく黙りこくった後、にやけた顔をふと柔らかいものへと変えた。まるで、私たちの身を本気で案じているような慈愛に満ちた笑顔。

 

見たことがなかった。

 

「…………ケルシー。ドクターとナイチンゲールのここ最近の変化には、とっくに気が付いているだろう?」

 

「……まあ、認めたくはないが」

 

「____そう、この者たちは、誰の目から見ても分かるほど劇的に変わった。そのことがとても嬉しくてな……つまるところ、妾もロドスに所属する医者、ということだ」

 

「………」

 

「つがいが互いを求めあうのは至極当然のこと。ならばその“当然”をさせてやるのも、我々の仕事だと思っている。それが可能な出来事なら、尚更な」

 

「………確かに、一理ある………君たちは?」

 

「うぇ?(……はい)」

 

ワルファリンの(とても珍しい)内心に耳を傾けていると、突然話を振られた。全く予想していなかったので素っ頓狂な声が。

 

「君たちはどうしたい。リスクを背負ってでも性行為をするのか、安全を取って差し控えるのか」

 

しばし考え込む。

したいかしたくないかで言えば、私としてはし(・)て(・)お(・)き(・)た(・)い(・)。あの昂りを、熱を得たい。もっと先へ……隣にいるリズと、行ってみたい。

だが、それは同時に常に彼女の寿命を脅かす危険と、より密接に隣り合わせになることを指し示している。ドクターとして、本来なら避けるべき行為。

 

ぐるぐると思考がまとまらず、答えが出ない。

 

「…………リズ。君の気持ちを聞かせてくれ」

 

とりあえずもう1人の本音を聞いてみる。

私同様に、彼女は言葉を受けてしばしの間視線を右往左往させたり顔を俯かせたりしていた。

誰もが黙って彼女の意思を待っている。

 

 

 

 

 

「…………私は、クラヴィスさんと……してみたい、です」

 

 

数十秒後。

リズは顔を上げて、確かな口調で言い放った。その表情は決意に満ちている。

 

 

「……私は、クラヴィスさんとこの生を過ごしたいのです。他でもないこの方と、様々な経験をしていきたい…………たとえ、この身が更に崩れようと、何もせずに消えゆくことだけは、したくありません」

 

「………リズ」

 

「………貴方は、どうですか?」

 

その碧眼が、私をしっかりと見据える。

瞬間、様々な感情が沸き上がって……自然と、彼女の手を握り上げていた。

 

「私も………私も、同じ感情だ」

 

「____決まりだな!後のことは妾に任せろ、ドクター」

 

ワルファリンが手に持っていたビーカーをケルシーの机にダンッ!勢いよく置いて、口を開いた。

 

「そうだな……1週間ほど猶予をくれ。膣活動の活性化に有効な薬をどうにかして用意しよう」

 

「……それほど短くて可能なのか?」

 

「元々ある不感症治療薬をベースにすれば、まあいけるだろう。それともなんだ、妾の実力をまさか知らないわけではないな?」

 

「それは……まあ、知ってはいるが」

 

「ならば良し。ケルシーも構わないだろう?」

 

「………ああ、この件はワルファリンに一任する。検査結果の進捗報告は怠るなよ」

 

「わかっておる。ほれ、ドクターとナイチンゲールは仕事に戻ると良い」

 

 

結局、話がいつの間にかとんとん拍子に進んでいって、気が付けばリズと一緒に廊下に出ていた。

 

「……とりあえず、どうにかはなりそうだな」

 

「………ええ」

 

「……執務室、戻るか」

 

「……はいっ」

 

リズから当然のように差し出された右手を、左手で握りしめる。小さくとも確かに命を感じさせる暖かさを手に取って、私たちの場所へと帰ろうと2人揃って廊下を右に歩き出して______

 

 

「……リズ、此処にいたのですね」

 

「……シャイニングさん?」

 

「シャイニングじゃないか」

 

 

丁度向かいの扉から出てきたシャイニングに呼び止められてしまった。

 

「何か、私に御用ですか?」

 

「………ええ。ドクター、リズと話がしたいので、少々お借りしても?」

 

「……?別に構わんが。なら私は先に戻ってるよ、リズ」

 

「承知しました」

 

 

シャイニングがわざわざ探してまでリズと話したいこと、というのはあまり想像が付かないが……まあ私は無為な詮索をすべきではないし、後で雑談の種のように軽く聞くか。

 

彼女がリズを向かいの部屋に連れ込んだのを尻目に、先に執務室へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

あまりいい雰囲気ではないのが、少しだけ気になっていた。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

「………さて。お掛けになって良いですよ」

 

それだけ言って、シャイニングさんは部屋の奥にある椅子の1つに座りました。私も倣って、すぐ近くにある別の椅子へ。

 

何もない、極めて標準的なロドスの個人部屋へと通されましたが……何をお話するのかは、見当は付きません。強いて言うなら、私の体のことでしょうが……。

 

「……それで、お話とは?」

 

「………ええ、そのことなのですが」

 

……やけに、シャイニングさんの纏う雰囲気が重苦しいものに思えます。何か不都合でもあったのでしょうか。

何も言わずに次の言葉を待つこと、およそ十数秒。

 

 

 

 

 

「………リズは、前に教えた私たち(サルカズ)とドクターの間にある因縁のことを、忘れてはいませんよね?」

 

 

 

 

 

_______

___

_

 

 

 

 

 

「俺たち(サルカズ)とドクターの間にあったあの内戦に関する因縁………それがあるというのに、今のお前は一体どうなってるんだ?」

 

「………エンカク」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、ワルファリン。お前が彼らに協力した本当の理由は?」

 

「?面白そうだからに決まっているだろう。医者は医者だから主治医云々の話はしっかりと守るが、それはそれとしてあやつらが獣のように乱れると思うと食事(血液)が進むからな」

 

「………まあ、責務をしっかりと果たすのであれば減給はしないでおく」

 

 

 

 

 

 









この作品の一番のご都合主義兼トラブルメーカーはワルファリンかもしれない(賢者タイム)

新規さんに簡単に説明しますと、ワルファリンはかつて「体が縮む薬」を間違ってリズにあげてしまったことがあります。そのせいで現実基準で11~12歳くらいの少女体にまでなってしまったことがあるのです。


たぶんまた出番がある。

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