※この作品はR-18です。

鳥籠と博士は無知である   作:織部よよ

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パーティー①

 

 

 

 

 

 

 

 

13:00 p.m.  ロドス/晴天

 

 

 

 

 

「ドクター、ナイチンゲールさん。いらっしゃいますか?」

 

 

コンコン、と数回ノックされ、扉の向こうからよく聞き慣れた声が聞こえてきた。アーミヤのものだ。

 

「どうぞ、アーミヤさん」

 

「失礼します……おや、ちゃんと仕事していますね」

 

いつものようにリズが応対すれば、すぐに執務室へと入ってきた。その顔はよく見慣れた仕事用の笑顔だ。

 

「流石にそんなサボっているわけではないだろう……それで、どうかしたか?」

 

確かに、確かに以前よりかは仕事への希求心というか、必死さはなくなったために効率が多少落ちたり理性の減りが早かったりして手が止まることが多々あるが、それはそれとして別にサボる気満々ではない。

 

ただちょっとだけリズの膝枕が恋しいなあと思うだけだ。いや駄目か。

 

「はい。今日の仕事は少なめにしますので、早めに業務を終わらせてください。今晩少し、お時間をいただきたいので」

 

「……な、何だ?」

 

何か嫌な予感がする。

 

「はい。少し、大事なお話が。そうですね……19時15分前にまたお伺いしますので、それまでにはちゃんと全ての業務を終わらせておいてくださいね。頑張れば終わるはずですから」

 

「………どういった、お話ですか?」

 

リズが恐る恐るといった感じでアーミヤに質問した。

そりゃそうだ。アーミヤからい(・)つ(・)も(・)の(・)笑顔でそんなことを聞かされれば、明らかに「私たちが何かやったのか」と邪推せずにはいられない。

 

そんな私たちの様子に気付いているのかいないのか、変わらない調子でアーミヤは答える。

 

「ええ、今後のあなた方について、いくつかお伺いしたいことがあるだけですよ。何も怖いことはありません」

 

「……いや、怖すぎるが」

 

「いいえ、本当になんてことないですよ。C(・)E(・)O(・)と(・)し(・)て(・)お2人の現状を把握しておこうと思っただけです。私情は一切入っていませんよ。ええ、入っていませんとも」

 

あらあらうふふ、とでも聞こえてきそうな感じの“いい”笑顔。それを聞いてもなお怪しさが満点で全く信用できないのだが、これはある意味上司命令だ。従わないわけにはいかない。

 

……頑張らなかったら業務が終わらなくて、なんとか時間を遅らせられないか。

 

「……わ、わかった。頑張ってそれまでに終わらせておくよ」

 

「ちなみに私も暇じゃないので、時間を敢えて引き延ばすために仕事を終わらせなかったりするのはダメですよ。減給します」

 

ギクッ。

 

「だ、大丈夫さ。ちゃんと終わらせる」

 

「必ずですよ……それでは、私は行きますので。ナイチンゲールさんも、あまりドクターを甘やかさないようにお願いしますね?」

 

「……心得ています」

 

「それでは、頑張ってくださいね」

 

最後に激励の言葉を残して、黒うさぎの代表は扉の向こうへと消えていった。

 

 

「……リズ、終わらせよう。アレは破ると怒られるタイプのものだ」

 

「……そうですね……お茶は、本日の業務が終わってからにしましょう」

 

 

その後、心持ち急いで仕事に取組んだ。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

「……ふぅ……今何時だ!?」

 

机の上の書類に全て印を付け終えた瞬間に、壁にかかっている時計を見やった。

簡素なアナログ時計の短針は5と6の間に居座っている。

 

「……かなり、早く終わった。リズ、そっちはどうだ?」

 

「……はい、こちらの分も既に完了しています。指定の時間よりもかなり早く終わりましたね」

 

「ああ。せっかく早めに済んだんだ、茶を飲んでゆっくりしよう……待ち構えている時間が恐ろしいので……1つ、アレでもしながらな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………すん、すん………そう言えば、リズはミルクめいた甘やかな香りがするのだが…………すん……はぁ…リズからは、私はどういった匂いがしているんだ……?」

 

 

ずっと前から気になっていた、素朴な疑問。

私はリズの体しゅ……匂い(ふわっとした表現)を存分に堪の……味わ……感じさせてもらってはいるが、それはもしかしれば彼女からすれば不快だったのでは、と。

 

そんなうすら寒い不安を覚えているので、思い切って聞いてみる。ちなみに、私の隣にリズが座っていて、私は彼女の角の辺りに顔を近づけている状態だ。

 

そんな彼女は、私の問いを受けてか………既にゼロ距離である彼我の距離を、更に縮めてきた。

いっそう匂いが強まる。酒のように酔ってしまいそうだ。

 

「……以前、シエスタで少しだけお話したときは、「安心する匂い」だと言いましたが」

 

「……ああ、そう言えばそんなこともあったな………ん?言いました、“が”?」

 

かつてシエスタで起きた街の存亡にかかわる大事件。その大詰めとなる作戦にかかる前に取った一時の休息のときにリズから言われた。

が、それを否定するような言葉尻に、冷や汗が垂れる。

 

 

 

 

 

「……はい。それは、あくまで当時の話。今は……………今は、安心するだけではなく、ずっと包まれていたいような……心地よさや依存性を、感じてしまいます……」

 

「………っ」

 

____そんなに、頬を染めて言わないでくれ。もっと近くに寄せたくなるだろう。

 

 

自分の心臓が加速度的に鼓動を強めるのを自覚する。止まらない動悸を鎮める手段はすぐには思いつかなかった。

ちらりと時計を盗み見れば、まだ18時に差し掛かろうかという時間。アーミヤが来るまで小一時間ある。

 

「……リズ、ここに。君という存在を、体全体で感じさせてくれ」

 

はっきりと自分の“欲”を口に出しながら、自身の膝をトントンと叩く。その動作だけでも、彼女にどこに来てほしいかは伝わるから。

私の促しに応じたリズは、少しだけ物欲しそうな眼をしながら膝に乗ってきた。

 

「………ん、しょ……」

 

「………こうして乗られてみると、意外とリズの頭は上に来るものだな……」

 

私とリズは、そこまで身長差はない。それ故、彼女が私の膝に乗れば、彼女の愛らしい顔を見上げる形になっていた。私の顔は、ちょうどリズの胸元辺りに来ている。

 

彼女は、私の上に乗ってからしばらく固まっていた。

 

「…………」

 

「……どうした、リズ?」

 

「………あの…失礼、します……っ」

 

「え……んむっ?」

 

 

しばしの硬直の後、私の頭はいつの間にか柔らかいものに包まれていた。

 

 

「………??」

 

「あ、あの……申し訳ございません……すーっ…すん……はぅ………」

 

……顔面全体でリズのなだらかな双丘を感じながら、頭の後ろに小さな手が回され、そのすぐ上に気配を感じた。

どうやら今、彼女にがっちりと抱き迎えられながら髪の匂いを嗅がれているらしい。

 

「…………」

 

____やはり、これはいけない。

 

彼女の胸元は、もはや私にとっての聖域とも化している。ぬるま湯のような心地よい温もりを感じる人肌、全身に入り込みいとも容易く私に安楽を齎す匂い、どんな高級クッションにも代えがたい柔らかさを全面的に顔に押し付けている胸。

 

全てが私に、泥沼のような深い快楽と安心感を齎す。

 

 

抜け出せない。

 

 

「……すううぅぅぅぅぅぅ………はあぁぁぁ………」

 

「すん………すぅ……ぅ、ん……」

 

 

___ただ、抜け出せないのは向こうも同じようだ。

 

 

 

 

 

その後しばらく互いの匂いを摂取していたが、夢中になり過ぎてアーミヤにノックされるまで時間のことなどとうに忘れてしまっていた。

 

正直バレるかと肝を冷やした。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

7:00 p.m. ロドス/晴天

 

 

 

 

 

「その前に、久しぶりに一緒に夕ご飯を食べませんか、ドクター。ナイチンゲールさんとは初めてですけど……」

 

なんとか身なりを整え、私たちはアーミヤに引き連れられてロドスの無機質な廊下を歩いていた。

 

「……確かに、リズはアーミヤとは食事を共にしたことはないだろう。これもいい経験になると思うが、リズはどうだ?」

 

「……そうですね、せっかくですから、ご一緒させていただいても構いませんか?」

 

「はい、大丈夫ですよ。それでは私の部屋に行く前に、食堂へ向かいましょう」

 

 

………大丈夫だろうか。

 

今まで、アーミヤのリズへの態度は傍目から見ても事務的なものばかりだった。それがいきなりこのように踏み込んでくるのは、この後に控えている「お話」と合わせて考えれば、明らかに違和感があるとしか言えない。

 

だが、私のことを常に心配してくれていたのもまたアーミヤ。彼女の厳しさに隠れた優しさは、しっかりと知っているつもりだ。

 

だから、今はこのまま彼女についていこう。

 

「もうすぐですね、今日は確かマッターホルンさんが厨房にいらっしゃったと思います」

 

「そうか、それは特別味わい深い料理が楽しめそうだ。マッターホルンは厨房担当のオペレーターの中でも味付けに秀でていることで有名だからな」

 

とか、

 

「ナイチンゲールさんの好きな料理は何ですか?」

 

「……私は、グムさんの作るシチューが特に。アーミヤさんはどうでしょうか?」

 

「私はサベージさんのキノコパイですね。故郷を思い出すので」

 

など。

 

(思いのほか)他愛無い雑談をしながら歩いていると、もうすでに見慣れた広い通路に来ていた。

と、ここであることに気が付く。

 

「……なあ、リズ。やけに食堂が静かじゃないか?」

 

「………はい。あまりこの時間帯に来たことはありませんが、昼でさえ喧噪が聞こえてくるというのに……」

 

そう。

19時という時間帯は、お昼時と同じように多くの人が集まりやすい。以前アンブリエルと映画を見たときにも20時頃に食堂を訪れたことがあったのだが、それなりに人はいたし話声も聞こえていた。どういうわけか、他の部屋と比べて扉が薄く踏み入る前でもその騒々しさは伝わってくるというのに。

 

「なあ、アーミヤ」

 

「何もおかしなことはありませんよ。私に付いてきてください」

 

「…………わかった」

 

こうなったら、覚悟を決めよう。

もう引き返せない。

 

そのせいか、自然とリズの方へ手が伸びる。柔らかく小さい五指がしっかりと私の右手にしがみついた。

 

「それでは、食堂に入りましょう」

 

 

その声を合図に、ゆっくりとアーミヤに続き食堂へ足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

「……誰も、いない?」

 

目に飛び込んだのは、閑古鳥さえ啼かないであろう完全な無人の空間。100はゆうに超えている席は一つとして人を座らせているものはなく、無機質なデザインと相まって別世界に入り込んだとさえ錯覚する。

 

「……なあ、アーミヤ」

 

「そういえば、最近食堂に新しいインテリアが追加されたんですよ。ご存じでしたか?」

 

「………いや、それは知らなかったが……違う、ちょっと待ってくれアーミヤ」

 

 

静止の声をかけるも、彼女の歩みは止まらない。

 

 

「なんでも極東の伝統的なものらしく、靴を脱いで床よりも高いところに上がり、床に空いている空間に足を降ろして座るそうです。珍しいですよね?」

 

「あ、ああ、それは確かにそうだろうが……アーミヤ、少し止まって説明してくれ」

 

「せっかくなので、私たちも利用してみましょう。すぐそこの扉の奥ですよ」

 

 

何も言っても止まらない、とりあえず、遅れないようにリズと先を急ぐ。

 

 

「ここですよ、扉を開けますね」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれアーミヤ!一体私たちをどこに押し込む気なんだ!?」

 

「まあまあ、そう怯えずとも。それでは、入ってください」

 

「ちょ、アーミヤ待っ______」

 

「えいっ♪」

 

 

抵抗空しく、扉へ背中を押される。人感センサーが付いているのか、扉は独りでに開き______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「ナイチンゲールさん、ドクター!快復おめでとう!!!!」」」」」」」」」」

 

 

ぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱん!

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

「………………?」

 

 

 

 

 

____その向こうには、予想とはかけ離れた光景が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 








パーティー回は次回がメインです。


皆さま、素敵な年越しを。私はウィーディをお迎えするべく運気を使い果たしてきます(死地に行く目)


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