104連で2W2ウィーディ8エリでした
_______扉を開けた途端に聞こえた、多数の破裂音と揃った声。
一瞬何が起こったのか理解できなかった。
一斉にこちらにクラッカーと笑顔を向けているオペレーター達、彼らが囲っている食堂のテーブルに並べられた色とりどりの料理。
「…………これは……一体どうなっているんだ?」
「ドクターの快復とナイチンゲールさんの足の完治を祝って、サプライズパーティーを計画してたんだよ!へへっ、驚いてくれた?」
「オペレーターとして、これ以上に祝うべきことはない。さあ、こっちに」
「……エクシア、テキサス」
最前線で私たちを迎えていたペンギン急便の2人に連れられて、皆が集っている円へと。
未だに半分くらい混乱している私たちを座らせた彼女たちは、それぞれ持ち場に。
ぐるりと周りを見渡せば、こういう場には集まらないだろうエンカクやスカジ、果てにはシルバーアッシュやマンティコア、ファントムまで確認できた。スペクターやらワルファリンやらも見つけたので、恐らく私の指揮下にいるオペレーターが本当に全員いるのだろう。
「えー……それでは、只今よりアーミヤさんから開始の音頭を取っていただきます」
「はい、ありがとうございます、エクシアさん」
マイクを受け取ったアーミヤが居住まいを整え、深呼吸する。
オペレーター全員が彼女に視線を向ける。数秒だけ時間が空いて、ゆっくりとアーミヤが口を開いた。
「……まずは、ドクターの怪我が無事に治ったことと、ナイチンゲールさんの足が完治したことを、とてもめでたく思っています。私たちオペレーターにとって、ドクターは大切な指揮官であり、また戦闘における要です。ナイチンゲールさんはロドスの中でもトップレベルの医療オペレーターであり、またドクターの
「この時間を、存分に楽しみましょう______それでは、グラスを手に取って、乾杯!」
『乾杯!』
*************
何も知らされていなかったまま始まった宴は、それはもう大いに盛り上がっている。
「エクシア、一発芸やります!お題は『久々の重い仕事が来たから表情は変えないけど明らかにダルそうにしているテキサス』!」
「クオリティによってはミルフィーユにすることも厭わないけど大丈夫かい、エクシア?」
「あたしがテキサスとどれ程の付き合いだと思ってるのさ、楽勝だよ!」
私たちから遠く離れた向こうの席で何やら盛り上がっている。宴をより楽しいものにしようという彼女たちの計らいが純粋に嬉しい。私だけでなく、リズもしっかりとロドスの一員だと認知されているみたいで。
思いのほか一発芸を披露するオペレーターが多く、エクシアに始まりウタゲとアンジェリーナのコンビだったり、セイロンとシュヴァルツのコンビだったりと皆いろいろ考えてきているようだ。
当然私は何も用意していないためずっと見る側になっている。
と、そこで、とある違和感。
「………?」
今現在私が座っている椅子……椅子?のような場所は、広い床が下にくり抜かれてその上にテーブルが置かれているような場所。すなわち、自身の足は思ったよりも動かせる状況にある。
そんな中で、右足に感じた軽い感触。
だが、机の下を見てみても特に何かがあるわけではない………気のせいか。
「……お、この料理は美味しい………な?」
つん、つん。
敢えて擬音にすればそうやって表現できるようなごく軽い衝撃が、また右足に二度。
誰がどう考えても、人為的なものだとわかる。そして、立ち位置的に、誰がやったのかも。
だから、どうかしたのかと思って自分の右側にいる人物、すなわちリズの方に顔を向けた。
「……………」
「………ぁ」
彼女の端正な顔は正面の一発芸大会へと向けられている______のだが、決定的におかしいところが目に入った。
それは、耳。サルカズ故に種族特有の耳は持たないものの、通常のものよりも長く尖っている耳が
「………??」
それに伴い、右足に定期的にアクションを感じている。
一定のタイミングで私の下半身に発生している衝撃の謎を解明しようと、その箇所を見れば__________白いハイソックスに包まれたしなやかな左足が、いじらしそうにこちらへアプローチをしていた。
視線を戻し、しばらく彼女の耳の奇妙な動きをじっと見つめる。数秒あるいは数十秒、能動的に揺れる様を見ていたが、私の視線に気が付いたのか彼女がこちらの方へと首を傾ける。
「……………クラヴィス、さん」
「______っ」
ただ、蚊の鳴くような声で名前を呟かれただけ。
そんなか弱い声音とは
それら全てが線のように繋がり、ある推論をはじき出す。
「……………ッ!」
瞬間、ゾクッ……と、自分の中でどうしようもない期待感がせり上がるのを感じた。
同時に、心の奥底から炙り出されるような背徳感。
「…………」
声をかけることもしない。会話を始めようともしない。サインも出さない。
何もせず、上半身はなんでもないように正面を向いたまま。
自分の
己のものではない、隣に座っている人物のそれを、両脚で挟み、絡めとり、引き入れる。
スラックス越しに感じる彼女のふくらはぎ。常人よりも遥かに少ない筋肉量のために、ひどく細い。すぐに折れてしまいそうにさえ感じてしまうので、優しく丁寧に触り____足で、こすり合わせる。
「…………」
「…………」
それに対し
だがちらりと横を盗み見れば、長い耳の振動が先ほどよりも僅かに激しくなっている……気がする。それに伴って、わずかに頬に赤みが差しているようにも見える。けれど、時折こちらに顔を向けてもこちらに期待するような目つきは変わらない。
瞬間に重なる、いつかの表情。
私たちが拙いなりにいろいろと探り、互いに深く歩み寄ろうと画策した
そのときにリズが見せた表情……感情がなく、抜け殻のようだった頃の虚ろな彼女からは、全く想像もつかなかった______昂りに濡れた表情。
「………ぉ、っ……」
あの夜の情事を思い出し、思わず呻きが漏れた。心臓の鼓動も加速し始めている。
「…………」
それを見て、リズはこちらへと薄く妖しげな笑みを浮かべる。まるでこちらの脳内を見透かすようなその微笑に、さらに動悸が高まった。
こちらが両脚でリズを絡み取れば、リズは左足までもこちらに差し向け私の足にじゃれついてくる。
まず右足の甲に着地され、しばらくゆったりとしたペースでさすり回ってくる。ひどく緩慢な動作なためにもどかしい。まるでこちらが愛撫されているような感覚で、衆人環境だという現実が、じわじわと体から抜け落ちていく。
「……………」
我慢できなくなって、細い足を絡めとっていた自分のそれを解き、甲に乗っかっているリズの左足のそのさらに上から、私の左足を乗せる。挟み、咥え込むように。
そのまま、先ほど彼女からされた愛撫と全く同じことを仕返しをする。すり…すり…と緩いペースで足の甲をさする。思い出すは以前リズに行った、顔への愛撫。
壊れ物を扱うような足つきで撫でる。
宝物を磨くように丹念に往復させる。
突然出会った小鳥にするように愛でる。
そうすれば徐々に、徐々に私たちの間で「ナニカ」が沸き上がってくる。
未だに得体の知れない、けれど確実に、私たちだけの空間が切り取られていくあの昂り。
「……………」
口は開かない。
ただ前を見て、宴に興じているように
“足だけに自分が集約され、確かにリズと繋がり合っているという感覚”。
そんな知らない状況は、私たちの交わりを加速させるには十分な効力を持っていた。
*************
「…………」
その夜。
リズを先に自室(と言っても隣だが)に返した後、1人執務室の机で椅子に腰かけていた。時計は1時を指している。
机の上にある情報端末の画面に映る文字列。そこには、私が
「…………っ……」
______見たくない。
ただそんな悪感情だけが、先ほどから私の体を駆け巡っている。
猜疑心と拒絶に塗れた私を癒してくれる人は、ここにはいない。
「みたくない」
オペレーターの個人資料。プロファイル。ロドスに来てからまとめられたオペレーターごとの情報。
その中のとあるオペレーターのそれは、最早、
一度受け入れてしまえば瞬く間に体に広がり、活力を奪う。
抵抗も反抗も出来ない、解毒剤すらない劇薬。
どうしようもない。ただ意思のみで無意味に抗っているしかない。
「しりたくない」
こんなものを知ってしまえば、それは永劫に私にとって悪夢となる。闇となる。足枷となる。
沸々と沸き上がる、
それは洪水か、噴火か、それとも別の何かか。
ぐるぐると、どろどろと。
「いや」
精神がまとまらない。
ひっくり返したジグソーパズルのように、心がバラバラだ。
考えたくない。
「______さん…………クラヴィスさん……っ」
______っ。
「…………ッ!!!!」
誰かに名前を呼ばれて、急激に意識が覚醒する。ガバっと体を起こしたので、きっと知らない間に意識が落ちていたのか。
「……っ、クラヴィスさん……良かった…………」
「え……っ、は…………」
____私を呼んだ本人は私のすぐ右で、ひどく不安げで焦った表情を浮かべていた。
ネグリジェと呼ばれている類の黒色の就寝着が非常によく似合っている。見惚れる。
「…………リ、リズ……どうして、もう自室で眠っているはずなのに……」
「……なんとなく、クラヴィスさんが
「……私は、魘されていたのか?」
いかんせん、私もリズもどちらも状況を把握できていないために場が混乱している。
「……はい。私がここに来た時には、既に」
「……そう、そうか……私は、そう………ああ……」
______苦しめられているのだろうか、私は。
そんな至極単純な推論がふと、頭をよぎる。
とても、腑に落ちた。
「…………はは……ああ、なんだ。簡単だ、簡単じゃないか。何も、迷う必要はなかった」
「……クラ、ヴィス……さん………?」
リズが不思議そうな表情を浮かべているが、構わない。
「……そう。最初から結論は出ていたんだ、リズ」
机に投げっぱなしの私の手は、心なしか力ない。それを彼女も感じ取ったのか、細く不健康な私のそれをぎゅっと両手で握りこんでくる。
「………以前、君は私に『自分がどうしてこうならなければいけなかったのか探してほしい』と言っただろう?」
「………はい」
「それに対して私は快諾の意を伝えたと思う______だが、撤回させてほしい……」
「…………」
「………君の過去なんて知りたくない、昔の私なんて考えたくもない、暴君だとかサルカズだとか内紛だとか、そんなものはどうでもいい……」
「私は君の過去を想像するのも苦しい、君の病状を認識するのだって本当は恐ろしい、このままずっと緩やかな日々を送るだけでいい他には何も望まない、例えいつか向き合わないといけなくとも他の人が苦言を呈しても世界がそれを許さなくても誰に強制されようと私はッ………!!!」
「……………私は………過去を知るのが、嫌だったんだ………」
「………クラヴィスさん…泣いて、おられるのですね………」
「ぇ…………ぁ…」
気が付けば、目から何かが零れている感触。
「……すまない、今のは忘れてくれ。この言葉は、あまりにも責任逃避だから…………私は大丈夫だ、もう部屋に戻るといい」
駄目だ、これは。
私が背負っているものに対して、ひどく無責任な発言。けれどここまで来たらもう取り繕えない、嘘偽りのない私の本心。
「…………強く当たってしまってすまない……疲れているのだろう、私ももう休……っ?」
椅子から立ち上がろうとして、阻まれた。
視界がクリーム色に覆われ、仄かに顔に感じる暖かく柔らかな感触。
「……………そのようなこと、仰らないでください……クラヴィスさんがこれ程心苦しそうにしているのに、私がそれを忘れることなど……出来るはずがありません………」
頭に、雫が染み落ちる感覚がする。
誰がどうなっているのかは、なんとなく予想がつく。
「…………私も、同じことを考えていました。かつての言葉が、今になって刃として翻って来る……これ程、恐ろしいと感じたことはありません」
するすると耳朶から入り込む、鈴の音のような声。そんな美声も、今はぐずぐずに崩れて泣きじゃくっている。
「………リズ。それが、私の名前です……他のことは、よく覚えていません」
初めて顔を合わせたときに言われた挨拶だ。今思えば、彼女はひどく孤独に覆われていたのだと思う。
「よく……覚えて、いないのです。私が何をしたのか、何をされたのか……
そう。全く身に覚えのないことで責め立てられるのは、この精神には責め苦が過ぎる。
「……………私が、赦します……いいえ、私も、赦す立場ではありません………貴方が苦痛に身を焼かれるのなら、私はそれを癒します……過去が貴方を責め立てるのなら、私も共に逃避しましょう……」
______だから、泣かないで。
「……………私は、逃げてもいいのか……?」
「……私が、ついています………」
瓦解する。
「………だって、私には、責任が………」
「……貴方だけのものではありません。私にも、存在していますから……」
崩壊する。
「………そんな………」
「……ご不安なら、私が溶かして差し上げます………」
そんな泥のように甘い囁きの後、顔を離されて両手で挟み込まれる。そこで彼女の顔を見れば、既に目尻は赤く腫れていた。
「ん……ちゅ、ちゅるっ………」
「んむ………ちゅ、れろ…………」
そのまま、緩やかに接吻。あまり間隔は空けていないのに、随分と久しぶりのように感じる。
熱っぽく唾液に濡れた口内から差し向けられる舌の感触が、何故だかいつもより慈愛を感じる。それなのに、ひどくこちらの昂りを煽るような慕情が口先を通じて伝わってくる。
比較的短い時間で、互いの口を離した。
「………ん、ちゅ…………クラヴィスさん。私は、今目の前にいる貴方に恋慕を寄せています……過去も、因縁も、現実も。そこに、持ち込みたくはありません………」
「……あ、ああ………そうか。そうだな………私も、リズという女性だけに傍にいてほしいと思う………」
「………決まりです。今は……今だけは、いかなる現状からも、逃げてしまいましょう………」
私たちは、今取り巻いている現実から一時的に目を逸らすことを決めた。
それがどんなにひどい悪手だろうと、私は____リズと、どこまでも落ちていく。
背中に感じる甘く蕩けた底なし沼が、ひどく心地の良いものに思えた。
オペレーター(Operator)は本来は“当事者”という意味ではありませんが、wikiで誰かが呟いていたのを気に入ったのでちょっと引用をさせていただきました。
現実逃避タグ回収。がっつり。
耳ピコピコのリスペクト先は「魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい?」というライトノベル……の漫画版です。あの耳ピコピコはまーじで砂糖。
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