繋ぎ回に見せかけて二度寝のシーンを書きたかっただけ(机に広がる砂糖の残骸)
「________ん……」
ぼんやりと聞こえた小鳥の囀りに、ゆっくりと瞼を開く。
薄暗い部屋の中で光の差す方____ちょうど目の前にある小窓を見やれば、爽やかな日差しが幾筋も降り注いでいた。少し寒気を感じてぶるりと身震いする。
「………朝か」
すぐ横にある小テーブルの上に置いてある時計は午前7時を指している。私にとっては全く持っていつも通りの時間であり、今日も正常に起床できたことを示している証拠でもあった。
と、そこで扉の外から聞こえてきたトントンという何かが軽くぶつかる音。それにジュウジュウという何かを焼くような音。
「………?」
覚醒していない頭では何の音か全く判別がついていない。まあそれほど大事ではないだろう。
「…………起き、る………か?」
起き上がって座り込んでいるベッドから出ようと思って、ふと違和感を抱いた。
私のすぐそばがほんのりと
そしてここで、自分の右手にもある感触を捉えた。
寝起きで重たい首を頑張って右に向ける。
「………すぅ…………すぅ……」
「………………」
そこには、天使がいた。
……………なかなかどうして、私は朝が弱いらしい。正常な時間には起床できても、正常に頭が働きにくいタイプのようだ。
天使……もといリズの寝顔は、誰がどう見ても___それこそ100人の中なら100人ともが___「美しい」と言うだろう。あるいは私には、一種のあどけなさすらも感じることが出来る。
一切の歪みも乱れもなく仰向けに目を閉じて浅く寝息を立てている様子は、もしかしたら「死んだように」とも表現できるかもしれないが……それほど、見ていて調和と安寧を齎すような寝顔だ。
「………ああ、そういえば………」
____リズと床を共にすることにしたんだったか。
二日前の会話でそう決まったことを漠然と思い出す。
思い出した途端、目の前に見えている光景が急速に現実味を帯びて来た。
「…………綺麗だ」
見惚れる。彼女が眠っている様子に。
まだ半分も覚醒していないだろう頭が、私の意思を一段飛ばしにして勝手に右手に信号を送る。
「………柔らかい……」
そして、いつの間にか右手の人差し指が、彼女の頬をつついていた。
果たして自分のそれと同じ部位なのかと疑いたくなるほどの絶妙な感触。いつまでも触っていられるくらいにすべすべとしていて、ちょいとつつけばマシュマロのように指がプニリと沈む。
「……ん………んぅ……」
少しくすぐったいのか、かすかにくぐもった声が彼女の閉じられた口から漏れる。頭に大きな角があるせいで寝返りとかは出来なさそうなものの、身じろぎする様子は非常に可愛らしい。
しかしそろそろ起こさないといけないな。
「……………リズ、リズ」
「ん………んん………………んぅ?」
「………おはよう、リズ」
何度か声を掛けると、リズは緩慢な動作で目を開けたのちしばらく瞼をぱちぱちさせている。一応声だけで起きてくれたようだ。
そして、これまた緩慢な動作でその細い上体を起こした。白いネグリジェと相まってどこかのお嬢様のような雰囲気さえ感じる。
「……………どうして……クラヴィスさんが……ここに?」
「……昨晩から、褥を共にすると決めただろう?」
「…………そう、でした……だから、でしょうか……こんなにも、心が、軽いのは………」
「………リズ……うお」
言うが早いか、リズは既に5㎝ほどしかなかった僅かな距離をゼロに詰めてくる。
そして______
「クラヴィスさん…………おはよう、ございます………ふふ……」
______上体を捻り私の真正面に持ってきて、そのまま両腕を私の背中に回してきたのだ。
普段日中でするような遠慮がちなものではなく、大切な物を無くさないようにしまい込むような力の入った抱擁。
同時にふわっと間近で感じる彼女の匂い。甘く、心の澱みが融かすような深く入り込んでくる匂い。
「………おはよう…………随分と、甘えただな」
「……すーっ……すうぅ…………いけませんか……?」
「………いいや。むしろ朝から、というのは……本当に、心地が良い………」
すれ違って互いの肩に乗せている頭を、それぞれ相手側へ近づける。首回りに鼻を押し当てられ匂いを嗅がれているのは分かるので、私も彼女の後頭部に左手をあてがい、少し寝ぐせでぼさついた髪を手櫛で梳いていく。
五指がさらさらの髪の隙間で流れていく感触が気持ちいい。
「……………暖かい、心が安らぐ、眠い。この三つが、揃っているから……布団から、出られない……リズ、私のここに来てくれ……」
「………はい………」
少し彼女の体勢を変えさせる。
流石に今の状態では体を捻り過ぎて疲れるだろうから、私の股座に体全体で正面から来てもらった。
先ほどよりも更に体の前面で密着する。寝間着ごしに押し付けられた胸の感触にドキドキしつつも、それ以上に体全体で彼女と触れ合えることにどうしようもなく心が融解しているのが分かった。
「リズ……………ちゅ」
「んん………んちゅ、ちゅる……ん、はあ……」
まだ私の脳は機能を回復できていないらしい。
偶然目に付いたリズの桜色の唇に躊躇いなくゆっくりと己のそれを近づけ、そのまま軽く啄んだ。
既に体はこのまま二度寝を決め込もうと再び重くなっていっていつものように本能のままに求め続けたりは出来ないが、その分じわじわと、異なる色のインクが水に溶けて混じり合うように、緩やかに舌を交わらせていく。
「…………ちゅ、はぁ……リズ」
「んっ………何でしょう……?」
「………もう少し、寝ないか」
「……………そうしましょう……」
私の後ろに2人して倒れ込む。そして彼女の柔らかさを存分に感じる重なり合った体勢で掛布団を手に取り、リズもろともひっかぶった。
「……この体勢で大丈夫か、リズ」
「………はい。貴方の温もりが、心地よいです………」
「………なら、いい。おやすみ、リズ」
「おやすみなさい、クラヴィスさん」
二度寝した。
*************
「それで今起きてきた、と」
「そういうことなら、仕方ありませんわね。もう一度料理を温め直して来ますわ」
「………すまない、アズ。底なし沼にはまってしまったと思ってくれ………」
結局、次に目が覚めたのは午前八時半。約一時間ほどの再眠を経てようやくまともに覚醒し、着替え、仮眠室から出た。
すると、ガラス越しに見えている給湯室の中に桃色の髪の女性が後ろを向いて立っていたのだ。
ここでようやく、起き抜けに聞こえていた音が彼女の料理する音だと気が付いた。
あ、やってしまったなと。
「8時ごろ、いつもなら起きている時間にまだ見当たらないと思ってそちらに伺いましたの
すると、それはそれは幸せそうな顔でお眠りなさっているお2人がいらしたではありませんか」
「………それは、あの」
「しかも、ドクターの上にリズさんが覆いかぶさってるし。あんまりにも安らいだ顔してたから起こすの躊躇っちゃったよね、アズさん」
「………何故だか凄く恥ずかしい」
結局、作ってもらったベーコンエッグとかコーヒーは再度温め直してもらい、アズの優しさが心に沁みる朝であった。
その後の朝の団欒は、意外にも久しぶりということもありとても楽しかったと言える。
*************
考えられる限り最高の朝を迎えられたことで、一日を非常にいい気分で過ごせたその日の夜。
「リズ。今日はこれを使ってみてほしい」
私は彼女にあるものを見せつけていた。
ビビッドピンクの紡錘形の物体。先端からコードが伸びており、その先には手持ちサイズのボタンが一つだけ付いている小さな直方体。
「……これは………何ですか?」
手のひらに紡錘をちょこんと乗せるだけになっているリズ。さしものきょとんとしていて、少し可愛い。
「ああ、これはローターといって、スイッチを入れることで振動が発生する機器だ。主に性感帯周りに振動を当てたり、膣内に入れたり出来るらしい」
「…………それは」
パッと顔を上げてこちらに視線を向けるリズは、予想通り少し困惑している。
それも当然、このよく分からない機器を自分の中に入れると聞けば誰でもそうなると思う。
「ああ、昨日は指が入ったろう。出番があるだろうと思って前々から用意していたんだ。聞くところによると、中々いい刺激になるとか」
「………これを、膣口から挿し入れるのですか?」
「ああ………怖いか?」
「……いいえ。これも必要なことであれば、私はいけます」
いい返事だ。
とはいえ、私も私で実際に使用するのは初めてだからある程度調べながらということにもなるかもしれない。
ひとまず同意は得られたので、早速2人して仮眠室へと向かう。ちなみに夜の九時である。仕事なんて今朝得られた気力にかかればちょちょいのちょいよ。おかげでアーミヤに怪しまれたが。
もう4日もやれば流石に多少は慣れるもので、手早く手を洗い清潔に保っておく。彼女の体はただでさえ重症だ、出来る限りのリスクは減らしたい。そもそも重症患者とナニやっているんだという話にはなるが。
それはリズの方も例外ではないらしく、初日に比べれば明らかに下着を脱ぐのに躊躇がなくなっている。それでもやはり恐る恐る脱いでいるので未だに恥ずかしいのだろうが。
「それじゃあ………まずはいつものように薬を塗っていこうか」
「………はい」
この時は思いもよらなかった。
まさか予想外の結果をもたらすとは、全く想像が付いていなかったのだ。
短め