変化①
ある日、ロドス艦内での一幕。
「ドクター、ナイチンゲールさんとは最近どうですか?」
「うぇっ?!り、りりりリズとか?!べ、別に何かあるわけではにゃいが……?」
「……?どうしてそんなに慌てているんです?」
「いや別に何もないぞさーて私はそろそろ仕事に戻るからそれじゃ!」
「………??」
その同時刻、食堂での一幕。
「そういえばリズ。最近ドクターとはどうなんだ?」
「っ!んぐ、ごほ、げほ………っ」
「す、すまない!大丈夫か?」
「……特段変わりなく、私とクラヴィスさんは平穏に日々を過ごしていみゃすよ……?」
「……そ、そうか。それなら良いのだが」
「……突然どうされたのですか、ニアールさん?」
「い、いや。なんでもない」
*************
昼下がり。
私はとある小さな作戦をさくっと片付けた帰り、ロドスの冷たい廊下を歩いていた。同じ隊のアズさんは医療班の方に行ったので一人で。他にもメンバーはいたけど特段仲よくしようとは思わない。何故だろう。
それでも私の足取りは軽い。それは今から向かう場所が原因だ。
目指すは執務室。ドクターの仕事場であり、彼とリズさんが普段から引きこもっている場所。最近はリズさんは医療チームにも顔を出しているらしい、というのはアズさんからの又聞き。
あの日、アンブリエルらと宿舎でちらっとだけ話題に挙がった、ドクターとリズさんがセッ……していないという話。私にしてみればそっちの方が二人らしいとは思うけど、それでもどこまで行ったかとかは気になるなあ、というのをふと思い出した。
そうこう思案しているうちに、いつの間にか見慣れた扉の前までたどり着く。最近プチ改装されたらしく、以前とは違う自動扉の前に立てばひとりでに鉄の扉がスライドした。
「来たよドクター、リズさん」
「や、やあプラチナ。よく来たな」
「ごきげんよう、プラチナさん……」
「………うん?」
____何かがおかしい。いや、具体的にどこが、というのは言えないけど。
何か……遠くない?
二人は大概、ドクターがデスクの方で画面や書類とにらめっこしつつ、リズさんが部屋のソファに座って端末で事務処理をしている。けど今日は、なんだか二人……というよりリズさんの座る位置が遠い。ソファの端、扉に一番近いところに座っているくらいには。
しかもさっき二人から受け答えをもらったときも、主にドクターの方が若干どもっていたような気がする。いつもならそんなことはないのに。
……まあ、考えても仕方ないか。
「リズのところに座っていてくれ。良い時間だし、せっかく来たなら茶の一つでも振る舞おう」
「……ありがとう」
「あ、あの……私は」
「あ、ああ。リズはプラチナと歓談していてくれ」
そう言ってドクターはそそっかしい動きで立ち上がって、何やら慌ただしい様子で給湯室に消えていった。
やっぱりどうにも怪しくて、ついその方をぼうっと見てしまう。
「……あの、プラチナさん。どうかされましたか?」
「いや………何か今日、二人とも様子がおかしいと思って」
こうして改めてじっくりとリズさんの方を見てみるも、外見的に変わったところは……あれ?
あれ、いややっぱり変わっている。それも、結構明確に。
「……リズさん、何かすごい綺麗になってない?」
「……そうでしょうか?」
そう。
何だか、前と違ってリズさんがすごく輝いて見えるんだ……いや、何を言っているのかと自分でも疑いたくなるけど。
でも確かに、視界に入ってくる印象が段違いに美麗になっている気がする。あれ、やっぱり目が……。
けど当の本人の様子を見るに自覚はないらしい。まあそういうことに疎そうなイメージがあったから、もしかしたらエイプリルとかに教えてもらったのかもしれない。元々持っていた儚さとか綺麗さが一段と強くなっているのだから。
「誰かに化粧でも教えてもらったの?」
「………い、いえ。そういうわけでは、ありませんが……」
「………??」
え、何もしないですっぴんでその美しさなの?いくら何でも持ってるものが強すぎないかな。
リズさんの衝撃の事実に私は驚きを隠せない。前……リズさんにドクターの異常性を聞かされる前から、たまに見かけては綺麗な人だとは思っていたけど……まさか無加工だなんて……アンジェリーナとかエイプリルとかが聞いたら嫉妬しそうだな。私はあんまりしないタイプだけど。
「じゃあ、何でそんなに綺麗になってるんだろうね……それに二人とも、様子がおかしかったし………あ、ドクターと喧嘩でもしたの?」
だとしたらかなり珍しい……というよりも、二人が何か言い争いをしたりという光景が全く想像が付かない。
悔しいけど、私の目からは、ドクターとリズさんは鍵と鍵穴のようにぴったり相性がいいように見える。お互いがお互いに対して全面的な信頼と感情を向けているだろうし、二人の境遇が似ている(らしい)のも相まって比翼のようだ。
「そんな、クラヴィスさんとそのような事…………少し、想像しづらいです」
「だよね。けどじゃあ、どうしてそんなによそよそしいのかなぁ……」
「……え、ええと。そのことなのですが……「お、お待たせ。良いのが出来たぞ」……クラヴィス、さん……」
リズさんから事の真相が話されようとしたところで、絶妙なタイミングでドクターが帰ってきた。本当に間が悪い、ドクターにも問いたださねば。
かちゃり、かちゃりとドクターが手際よくカップやお茶請けの入った皿を置いて行く。そういえば、結構様になってるなあ。長く淹れているし、雰囲気一つとっても板についてくるものなのかな。
「お、っとと………」
「っ、クラヴィスさん……」
とそのとき、ドクターが少しよろけてしまう。幸いにも手には何も持っていなかったからお茶が零れたとかはない。その代わりバランスを崩してこけそうになったんだ。
それを、リズさんが咄嗟の行動で支える。体の傾いだドクターを両手で受け止めていた。
「「………あ」」
「っ、すすすすまんリズ!」
「いっ、いえ、貴方にお怪我がないのなら、そりぇで……っ」
「……んん?」
おかしい。
互いに惚けた声を出したと思ったら、ニアールさんを彷彿とさせる速度でパッと二人が離れてしまった。
よく見ると、二人とも気まずそうな顔を浮かべているのにひどく頬が赤くなっている。どちらかというと、照れや羞恥とかそっち系統の感情に近そうに見える。
………もしかして、いやまさか。
けどこの様子なら、あり得るかもしれない。カマをかけてみよう。
「二人とも、あれだけ凄いことしたのに今更照れてるの?」
「ぶっ?!」
「っ?!」
あ、こいつらもうやってる。
*************
「はぁ………で、結局ヤったんだ」
その後かいつまんで事情を聴いた私。すると案の定、二人は先日とうとう性交してしまったのだとか。何でもワルファリンさんらの支援があってのことだったらしい。
それを聞いた私は、少しだけ顔がにやけてしまった。やっぱり好きな人たちがそういう風にしているのを見ると嬉しい_____私も、ロドスにかなり絆されちゃったな。
「おめでとう、二人とも」
「あ、ありがとう……」
「………でもさ。流石に
「「……そうだと、思います………」」
今現在、ドクターとリズさんは互いにソファの対頂角に座っている。しかもお互いに目を逸らしているし。
いつもなら自然に、この目を以てしても気が付きづらいほどすぐに隣に座るのに。あまりに信じがたい光景が目の前に広がっていた。
……けど、今まで
でも流石に……。
「……ま、本当はお互いを意識して、そこから恋人になって、ヤって……ってのが順序なところを、二人は三段くらい飛ばしてたからね。仕方ないと思うよ」
「……しかし、どうにもこのままでは良くないだろう。リズとの円滑なコミュニケーションが取れないなんてこれが初めてだから、どうすればいいか分からないし」
「……本当は、もっとクラヴィスさんに触れたいのですが………どうにも、羞恥の感情が沸き上がって阻害されるのです………」
「………う~ん……」
ぶっちゃけ私にも分からない。色恋沙汰を経験したことがないし。でも確かにドクターの言う通り、このままだとずっとぎくしゃくしてしまうだろう……見てて面白いけど。
「まあ、リハビリみたいに少しずつ距離感を元に戻していけばいいんじゃない。とりあえず目を合わせるところからかな、知らないけど」
「………そうか。そうだよな………リズ」
「………はい」
どうやら二人とも元のように戻りたい意志はあるらしく、私の(適当な)アドバイスを受けてその通りにしようと動いた……のだけど。
「………」
「………」
前までのような自然さは微塵もなく、しばらく互いにチラチラと互いの様子を窺ってはいつ目を合わせようかとタイミングを見計らっている。早く見つめ合え。
若干イライラしながら待っていると遂にドクターが動いた。ぎこちなくもリズさんの顔をしっかりと見やったのである。それを受けて観念したのかリズさんもようやく視線をドクターの顔に向けた。
「……ぁ………っ」
「………え、と。その………~~~っ」
けど、十数秒も経たないうちに二人ともバッ!と勢いよく顔を背けた。ご丁寧に違う方向に。
ドクターの割かし整った顔も、リズさんの人間離れした美貌も、どちらもこれでもかというほどに赤く染まって目を見開いている。
「……そんな調子で大丈夫なの?」
「……思った以上に、まずい……」
「………う、う、うぅぅ~~………」
うん、私もかなりまずいと思う。
心も体も繋がり溶け合ってしまい、そこで二人とも恥ずかしい思いをしっぱなしだったので、互いの姿を視界に入れているだけで脳裏にセックスの光景が思い出されてしまう。
そんな二人。