【シャニマス】中年プロデューサーの華麗なる暗躍 作:黒胡椒サラミ
「ほら甜花、あと少しだ。頑張れ」
「はぁ……はぁ……んぅ~~っ!」
「そうだ、もうちょっと、あと一センチ。……よし、よ~し、よくやったぞ、甜花」
「ひぃ……ひぃ……ふぅ。……にへへ、甜花、頑張った」
「ああ、甜花は偉いなぁ」
「にへへ……」
283プロのレッスン室で、ジャージ姿の陰平が熱心に指導しているのは、新人アイドルの大崎甜花である。まるで何かの大業を成し遂げたような二人のやり取りだが何の事は無い、甜花が長座体前屈で、ようやく自分のつま先に手が届くようになったというだけだ。
しかし、それも甜花にとっては大切な成果である。だから陰平は大げさに褒めそやした。
「偉いぞ、前よりもずっと身体が柔らかくなったじゃないか」
「うん……。甜花、プロデューサーさんに言われた通り、お風呂の後に、ストレッチしたりしたよ。……毎日じゃなくて、二回に、一回くらいだけど」
「いや、まずはそれでいいさ。毎日じゃなくても、出来る事から始めるのが大切だ」
「……本当?」
「ああ、ちゃんと自主トレしたおかげで、今日は足に手が届いたじゃないか」
「うん――!」
「俺も甜花を見習わないといけないな」
そう言いつつ、陰平は自身の肥満した腹を撫でた。陰平がほんのりと汗をかいているのは、彼も甜花と一緒になって、ストレッチで身体を動かしていたからである。ものぐさな甜花をレッスンに積極的にさせるには、自分も一緒に動いてみせた方が良いかもしれないと判断したからなのだが、思った以上に効果が有った。
「うん、甜花、プロデューサーさんよりも柔らかいよ」
「いや、そんな事は無いぞ。俺だって最近は運動してるんだからな?」
身体を動かすのは苦手だと甜花は言っているが、同じ遺伝子を持つ双子の甘奈はダンスが得意だ。楽しむことを優先させ、本人の苦手意識さえ取り払ってやれば、徐々に運動にも積極的になっていくのではないか。
それに甜花はゲーム好きで、その中にはアクション系の対戦ゲームなども含まれるという。ならば、本質的には人と競う事が嫌いではないのだろう。その際、一緒に身体を動かす相手として陰平はちょうど良いのだ。運動が苦手だという彼女のコンプレックスを刺激せず、ある程度の優越感を与えさせるためには。
「しかし、甜花はさすが、甘奈のお姉さんだな」
適度にこの言葉を織り込んでやるのも重要だ。
甜花にとって、これまでの人生で一番の比較対象は、双子の甘奈に決まっている。二人は仲の良い姉妹だが、その関係には歪なものが含まれている。甜花には、どこかに甘奈から自立したいという思いが有り、甘奈には、甜花に離れられるのが怖いという思いが有る。今日まで観察して、その事は陰平にもよく見えた。
そう、陰平の頭は今、かつてないほどに冴え渡っている。まるで頭の霧が晴れたようだ。彼は先日ようやく、自分にとって「アイドルと向き合う」という事がどういう事なのかを理解した。だから、行動にも思考にも迷いが無くなった。
甜花は自分のアイドルだ。
当然、甘奈も自分のアイドルにする。
犯して、愛して、隅から隅までプロデュースする。そして共にアイドルとしてのトップの座に昇りつめ、最高の景色を見せてやる。自分の中に溢れる愛を自覚した今、陰平には怖いものなど何も無かった。――たとえその「愛」が、余人にとって「狂気」と呼ぶものであったとしても。
「あ、スマホ鳴ってる。……プロデューサーさんの?」
「――ん? ああ、そうだな。取ってくれるか、甜花」
「うん、いいよ」
甜花は笑顔で承諾し、レッスン室の端に置いてあった陰平のスマホを持ってきた。
「プロデューサーさんのそれ、新しいやつ……」
「ああ、ずっとプロダクションの支給品を使ってたんだが……自分のが欲しくなってな。とりあえず、店で一番性能がいいのをくださいって言ってみた」
「甜花、それ欲しかったけど、お小遣いで買えなかった……」
指をいじいじしながら陰平の新品のスマホを見る甜花の瞳は、心なしか輝いている。
陰平がスマホの画面を見ると、ツイスタの通知アイコンが表示されていた。
「……ああ、灯織から連絡か。甜花、ちょっと待っててくれ」
陰平がそう言うと、甜花は彼のスマホの画面を見ないように離れていく。陰平のツイスタのアカウントには、灯織からのDMが入っていた。開くと、一枚の画像にメッセージが添えられている。
『お仕事は終わりました。上手くできたと思います。忠治さんをお腹に感じられたから、寂しくはありませんでした』
それは灯織の自撮り画像だった。灯織は今、あるテレビ番組の収録で、東京を離れた遠隔地に行っている。ホテルの鏡に映った灯織は下着姿だ。彼女なりに精一杯のセクシーポーズをとって、下腹部に、意味深に手を添えている。
出発前に、ザーメンをたくさん子宮内に詰め込んでやったから、メッセージはそれの事を言っているのだろう。山盛りの褒め言葉と、帰ってきたらまた抱いてやる旨を書いて送ると、すぐに返事が戻って来た。
『ありがとうございます。忠治さんも忙しいとは思いますが、時間があればよろしくお願いします』
ぶきっちょの灯織らしい、無機質なメッセージだ。しかし、しばらく経ってから、ハートマークのスタンプが送られてきた。そもそもこんな自撮りを送るなど、灯織の性格には似合わない行為だ。しかし自分を喜ばせるために背伸びをする灯織を想像して、思わず陰平の頬は緩んでしまう。それを見て、甜花が話しかけてきた。
「プロデューサーさん、良い事あったの?」
「ん? ああ」
陰平は素直に頷いた。自分は灯織とも、こうやって繋がっている。これまでならば、灯織を一人で遠隔地に送り出す事に不安を覚えたかもしれないが、灯織ならば一人でも立派に仕事をやり遂げてくると、今の陰平は信じていた。灯織だけでなく、陰平はめぐると真乃とも改めて向き合い、愛を確かめ、以前より深く分かり合った。
一時的に離れることがあっても孤独ではない。灯織がメッセージに書いたように、自分も常に彼女たちの愛を感じている。だから、陰平には怖いものなど何も無いのだ。
「終わった……?」
陰平がスマホを下ろすと、甜花が再び寄ってきた。
「……プロデューサーさんも、ゲーム、する?」
「え?」
「そのスマホなら、何でも動かせるし……」
もじもじ、チラチラと、甜花は陰平の表情をうかがっている。なるほどと陰平は思った。単にプライベートの連絡用に購入したスマホだが、こんなところにも使い道があった。
「そうだな、興味あるな。……でも、俺は最近のゲームなんか分からないからなぁ」
「……! じゃ、じゃあ、甜花が教えてあげる……! おすすめの、ゲーム……!」
「本当か?」
「う、うん! あのね――」
甜花は早速、指を折っていくつかのゲームタイトルを挙げ始めた。どのゲームがどんな風におすすめか述べる甜花の嬉しそうな顔は、とても惹き付けられるものがある。それは凡庸な人間には無いものだ。間違いなく、甜花もアイドルとしての一級品の才能を持っている。
「う~ん……どうやって検索すればいいんだ?」
まるで、わざと最新機器に疎いふりをして、娘とコミュニケーションを取ろうとする父親のような感じで、陰平は首を傾げた。
「――これ、このアプリで、ストアに入って検索するんだよ」
「これか?」
「うん」
ゲーム仲間ができるかもしれないという期待から、甜花は陰平に身を寄せて、陰平と一緒に彼のスマホ画面を覗き込んでいる。陰平は甜花の説明を聞きつつ、甜花の体臭を胸いっぱいに吸い込んで堪能した。
「――インストールしたから、これでプレイできるよ。……甜花も、いまこれやってるし……オンライン対戦とか、共闘もできるから」
一番のおすすめだというゲームを陰平のスマホにダウンロードすると、甜花はそう言った。暗に彼女は、陰平と一緒に遊びたいと言っている。陰平はすかさずに言った。
「ゲームなんて久し振りだから、分からないところが多いかもしれないな。良かったら、一緒にプレイして教えてくれないか?」
「う、うん!」
甜花は自分のプレイヤーネームを陰平に伝え、フレンドになろうと彼に言った。
こんな風に、甜花が陰平の事を全く警戒する様子が無いのは、彼女が生来警戒心の薄い娘だからというのもある。しかしもう一つの理由として、陰平の心に、何らやましいところが存在しないからという点も大きい。陰平は、今も甜花を押し倒したくて仕方ないが、それはあくまで純粋な愛ゆえの事である。陰平は今や、一種の包容力のようなものまで発散し始めていた。
――アナタは何か……、余裕が出てきたみたいに見えるね。
寮でも、咲耶がそんな表現を使った。
年上である陰平に対しそんな言い方をする事を詫びてから、彼女は付け加えた。
――そうだね、何ていうか……頼りになる感じだよ。
そして彼女は、いつもの女子に黄色い声で騒がれそうな笑顔を浮かべていた。
陰平にやましい心があれば、甜花もそれに勘づいたかもしれない。だが、彼にそんなものはない。陰平は一心に甜花のためを思って行動している。
少女たちを犯したいと思う心と、アイドルとして輝かせたいと思う心は、既に彼の中で矛盾する思いではなくなった。例えば今も、陰平はゲームの話題を口実に甜花に取り入ったかに見えるが、そこには甜花の事を理解したいという、心からの純粋な思いも溢れているのだ。
狂っているのかもしれない。だが、アイドルたちを幸せに出来るなら、狂っていても構わないと、彼は答えるだろう。
陰平はスマホをしまうと、甜花を励ました。
「よし、休憩終わり。レッスン再開だ」
「え……ゲーム、しないの?」
「それはレッスンが終わってからな?」
「あぅ……」
陰平は、倒れて入院する前以上に、精力的にアイドルたちのレッスンを手伝い、方々を駆けずり回って彼女たちの仕事を探していた。それは決して無理をしているからではなく、アイドルへの愛と、アイドルが与えてくれる愛が、彼の力となっているからだった。
「ひぃ……ひぃ……ひぃ……」
一時間後、レッスン室の床で、甜花が四つん這いになって汗を垂らしている。グロッキー状態の甜花だが、倒れて床にへばり付かないだけ、以前よりも確実に体力は付いている。家で彼女なりに自主練をしているというのは偽りではないようだ。ペットボトル入りのスポーツ飲料を差し出しながら、陰平は言った。
「甜花は本当に頑張ってるな。……でも、そうだな。いつまでもレッスンばかりだと何だし、そろそろ仕事をしてみるか」
「――んっ――んっ――んっ……ふぅ。……お仕事?」
床にペタンと座り、スポーツ飲料で喉を潤すと、甜花がこてんと首をかしげる。そうだと陰平が頷いた。
「で、でも……甜花、まだ踊れないし……歌えないし」
「アイドルの仕事は他にもあるさ」
陰平が考えていたのは、ゲーム紹介サイトのコラムの仕事だ。イルミネと放クラの知名度が上がったお陰で、「283プロさんにどうですか」と、向こうから持ち込んでくる仕事もポツポツ増えていた。その中に、甜花に向きそうな仕事があった。
甜花は正式なデビュー前だが、いや、デビュー前だから一層のこと、レッスンだけに時間を費やさず、実際のアイドルとしての経験も積ませたい。
この案件は派手に人前に出る仕事ではないだけに、逆に甜花の性格には都合が良いだろうとも思った。
「――っていうサイトなんだが、知ってるか? あんまり大きい会社じゃないが」
「う、うん……知ってる。ちゃんと攻略して情報も載ってるし……ちゃんとレビューとかしてる、いいサイト」
「……? 攻略サイトなら、それが普通だろ?」
甜花は、作文は苦手だと不安がっていたが、さっき自分に紹介した感じでやってくれればいいんだと陰平は励ました。実際、これだけしっかり一つのジャンルについて語れるというのは、アイドルとして立派な武器になる。
「分かった。甜花、頑張る」
無理強いまでするつもりは無かったが、最終的に甜花は頷いた。慈しむ顔で陰平も頷く。短い期間で、陰平は甜花と確実に信頼関係を築いていた。
「――そうだ、できればこの話は、甘奈には内緒にするようにな?」
「え……なーちゃんに……? どうして……?」
陰平の意図が分からず、甜花は理由を質問したた。甜花と甘奈は、一日が終わればその日あった事を情報共有するのが普通だった。
「向こうの会社に対する守秘義務っていうのがあるんだ。それに、ちゃんと出来上がったものを見せたほうが、甘奈も驚くし、喜んでくれると思わないか?」
「なーちゃんが、喜ぶ……?」
「ああ、さすが自分のお姉さんだってな」
「そっか…………うん! 甜花、秘密にする」
「いい子だ」
陰平は満面の笑みで頷いた。
「――プロデューサーさん、今日はもう、レッスン終わり?」
「ああ、お疲れ様。ちゃんと宿題もやって、明日の授業もしっかり受けるんだぞ? 勉強だって、アイドルには大切だ」
平日の放課後であるから、元々そんなに長時間はレッスンできない。陰平に終了を告げられると、甜花はにへらと笑った。
「うん……! プロデューサーさんも、お疲れ様……でした。…………ね、プロデューサーさん」
「ん? どうした?」
「……いつものマッサージ、しないの?」
「あ~、そうだったな、忘れてたよ。……するか?」
「うん……!」
「じゃあ、そこに寝てくれ」
陰平が甜花と信頼関係を築けた秘訣として、「適度な」スキンシップがある。レッスン終わりに陰平が行うマッサージを、甜花は当たり前のものとして受け入れ、それどころか、自分から要求するようにさえなっていた。
「――んっ……ふっ……」
うつ伏せになり、陰平の太い指で指圧を受ける甜花は、自分の口から、オスを誘うような悩まし気な声が漏れてしまっている事に気付いているのだろうか。陰平は甜花の背中を押し、腰を丹念に揉み解しながら、その声に耳を傾ける。この娘の身体のツボも、大分理解できてきた。このレッスン終わりの「マッサージ」のたび、甜花の漏らす声に混じる艶は徐々に割合を大きくしている。
「甜花、今日はもうちょっと本格的にマッサージするぞ」
そんな断りを入れて、陰平は甜花の太ももを掴んだ。
「――んぅっ……」
良い反応だ。実に良い感度である。この分ならもう少し大胆に行ってみるべきかと、陰平は甜花の太ももを揉み解しながら、手を段々と少女の股の付け根のあたりに近づけていった。
「――ひゃんっ♡」
デリケートゾーンぎりぎりの位置を指圧した際、甜花の口からひと際大きな声が漏れた。
「――に、にへへ、変な声出ちゃった」
「痛かったか?」
「ううん、甜花、びっくりしただけ」
「もう終わりにするか?」
「まだ、もうちょっと。――んっ」
陰平は甜花の上に跨ると、より本格的なマッサージを開始した。太ももの次はふくらはぎを指圧し、靴を脱がせて足裏のツボも押す。上半身も、腰から背中、肩、首回りと、余すところなく丹念にほぐしていった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
数十分後には、別に激しい運動をしたわけでもないのに、甜花の息は荒くなっていた。血行を促進された彼女の身体は、湯気が出そうなほどにポカポカと温まっている。
「よし、今日はこれくらいだな」
頃合いと見るや、陰平は変に執着せずに甜花の身体から降りた。下ごしらえは丁寧なほうが良い。甜花は性の自覚が薄いが、それでも立派に発育した思春期の少女である事に変わりない。こうやって内側にある性感を目覚めさせれば、発散されない欲求が、澱の様に彼女の中に溜まっていく事だろう。
「甜花、起きろ。そろそろ甘奈も帰ってくるぞ」
甘奈は伊庭の指導の下で、別メニューでレッスンしている。彼女は甜花と違って既にある程度動けるから、今日は外部のダンス指導員に見てもらっていた。甜花と離れなければならないという事について、甘奈は少し不満な様子だったが、伊庭が上手い具合に彼女を説得してくれた。
甘奈については、しばらく伊庭に預けておこう。陰平が素直にそう思えるようになったのも、精神的余裕を得たお陰かもしれない。伊庭もきちんと指導ができる男だし、何より、甘奈も最終的に自分の手元に来るのなら、細かい事でとやかく言うつもりはない。
「うん……」
陰平に促され、甜花はよろよろと立ち上がった。その呼吸は、まだ少し乱れている。
瞬間的にだが、陰平の手を見た甜花の表情に、「少女」ではなく「女」の色が走り抜けた。
「ただいまー。甜花ちゃんは? 甘奈、寂しかったよー!」
ドアの向こうから、甜花を探す甘奈の大声が聞こえてきた。
――――――――――――――
事務所に戻ってきた甘奈は、甜花の着替えの世話を焼いて、それから二人で仲良く帰宅した。
大崎姉妹が帰ると、陰平は早速次の仕事にとりかかった。陰平は忙しい。彼がプロデュースしているアイドルは一人だけではないのだ。283プロのバンに乗り込むと、彼は日が落ちた街を走り、都内のラジオ局に向かった。
ラジオ局の入口の外で彼を待っていたのは霧子である。霧子はこの局のある番組にコーナーを持っていたが、それが人気を博して来たので、急遽出番を拡大して、ほとんどメインパーソナリティーのような扱いになる事になった。今夜は彼女がメインとしての、記念すべき初回放送である。収録には絶対に立ち会うと約束していた。
「こんばんはプロデューサーさん……。来てくれて、ありがとうございます」
「霧子、こんな場所で待ってなくても良かっただろう。もう冷えるぞ。喉を傷めたらどうする」
そう言いながら、いつもより包帯が多くなっている霧子を見て、陰平は心を痛めた。霧子の包帯が多くなるのは、彼女の不安の表れである。初のメインに緊張しているのかもしれないが、こうなってしまうのは、自分がまだ霧子を安心させられるような存在ではないという証拠だ。陰平は己を恥じた。
「不安なのか、霧子」
「あ……」
陰平は霧子を抱きしめ、己の胸に彼女の頭を抱き寄せた。そして、自分の心臓の音を聴かせてやる。
霧子は目を閉じ、しばしその音に聞き入った。
「とく……とく……」
「どうだ?」
「――プロデューサーさんの音……いつも通りです」
「霧子を信頼しているからだ」
「はい……」
ほうっと息を吐き、霧子は陰平の胸に手を這わせる。
「いけるか?」
「もう少し……このままでいさせてください。私の心臓が、プロデューサーさんと同じリズムになるまで、このまま……」
「分かった」
そうして十分もすると、霧子は落ち着いてきたようだ。陰平の胸から離れると、彼女は朗らかに笑った。
「――もう、大丈夫です」
「そうか、良かった」
「今日は最後まで、見ていてくれますか?」
「もちろんだ」
「ありがとうございます」
ようやく離れたのに、霧子はまた陰平の胸に頬を寄せた。陰平は霧子の頭をポンポンと撫でると、小さく囁く。
「今日はお前の部屋に泊まるからな。お祝いに、たっぷりチンポをハメてやる」
「あっ……♡」
中年親父のそんな気持ちの悪い台詞にも、今の霧子は喜んでしまう。愛おしそうに陰平の胸に頬擦りをして、お願いしますと彼女は言った。
番組の収録は何事もなく終わった。今の霧子の実力であれば、それは当たり前だと陰平は思った。彼が霧子を信頼していると言ったのは真実である。霧子の声は電波に乗って、多くのリスナーに癒しと安らぎを与えたに違いない。
収録を終え、一緒に夕食を済ませると、陰平は霧子を彼女の寮に送り届けた。そして当然のように、彼女の部屋に上がり込む。霧子のほうも、まるで陰平こそがこの部屋の主人であるかのように、嬉々として彼を迎え入れた。
「プロデューサーさん……、忠治さん……」
霧子はもう我慢できないという様子で、陰平に縋りつく。呼び名が変わっているのは、陰平は霧子とも以前より深く分かり合ったからだ。
一方的に貪るのではなく、お互いに与え合って、どろどろに溶け合うセックスを繰り返した結果、既に陰平は、霧子にとってなくてはならないものになった。――当然、それは陰平の側も同様である。
「霧子、今日は大事な話がある」
しかし陰平には、今夜も溶け合う前に、一つ霧子にしておかなければならない話があった。
それは他ならぬ恋鐘の話だ。
陰平は恋鐘とも関係を持っている。それ以前に、イルミネの三人やはづきとも関係を持っている。それをいつまでも霧子に隠したままにするのは、彼女に対して不誠実だ。だらだらと引き延ばさず、伝えるべき時が来た。陰平はそう決意していた。
だが、二股を打ち明けるとかそういう話ではない。浮気などと呼ばれる筋合いも無い。愛するアイドルたちを平等に犯し、全てを大切に身の内に取り込むことが陰平の純粋な願いだ。例え一般的な倫理観に外れていても、そうする事で、彼女たちを最高の幸せへと導く勇気と覚悟が、今の陰平には有った。
例え霧子がその関係を拒絶したとしても、陰平は彼女の心を快楽で強引に溶かし、彼女の常識すらも塗り替えるつもりでいた。それが彼女のためであると、彼は信仰しているのだ。それはもはや人間の精神構造よりも、悪魔のそれに近いだろう。ただ、この悪魔の心は愛で満ちていた。
「分かってます……忠治さんの言いたい事……」
感受性の強い霧子は、肌を合わせながら、この悪魔に宿る狂気を既に察知していた。しかし、霧子がそれに気付いた時には、彼女の魂は陰平の魂とほとんど癒着し引きはがせなくなっていた。だから、それが彼の癒しになるのならと思ってしまう。それが他の少女たちにとっても幸福なのだと思ってしまう。なぜなら、霧子自身の心も、これほどまでに幸せに満ちているのだから。
「恋鐘ちゃんも……わたしみたいにしたいんですよね……? 恋鐘ちゃんだけじゃなくて……みんな……みんな……♪」
陶酔した霧子は、自分の体重を陰平に全て預け、熱い吐息を吐いている。清らかな天使ほど、堕ちるとより強い淫蕩の光を放つという。今の霧子は、まさにそれだった。
衣擦れの音が響く。スカートが床に落ち、ぷちぷちとシャツのボタンが開けられる。自分が下着姿になると、霧子は甲斐甲斐しく陰平のスーツを脱がせにかかった。陰平が仁王立ちに立っているだけで、霧子の手によって全ての衣服が取り払われる。膝立ちになった霧子が最後に残ったブリーフを脱がせると、ビィンと雄々しくそそり立ったモノが出現した。
「ちゅ……♡ ちゅぅ……♡」
まるで誓いを立てるように、霧子は太い血管が浮き出た陰平の肉竿に口づけを繰り返す。パンパンに膨れた鈴口からは、粘度の高いカウパーが垂れてきていた。
「お前も脱げ、霧子」
「はい……♪」
陰平に命令され、霧子はブラとショーツも脱いだ。乳首は既にピンと立っており、股間からは湿り気を帯びた生暖かい空気が漂っている。
「包帯もだ」
「え…………」
霧子がお守りにしている包帯も、霧子自身の手で取れと陰平は命令した。衣服が身体を保護しているものだとすれば、霧子の包帯は、心を保護するという意味合いが強い。それを取り払い、全てをさらけ出せと、陰平は要求しているのだ。
霧子が若干のためらいを見せると、陰平は優しく微笑んだ。
「霧子、俺がいる」
だから安心してくれという想いを、陰平は込めた。霧子が自分に癒しを与えてくれたように、自分も霧子の不安を取り除くために努力すると、霧子を含め全員を幸せにしてみせると、言葉ではなく目で語った。
瞳を通し、彼が偽りを語っていないという事が霧子には分かってしまう。この男に抱かれれば幸せになれると、身体が覚えてしまっている。それが女としての最高の幸福なのだと、理性より先に心が納得してしまう。
「はい……。見てください、わたしの、全部。あなたに、わたしの、全部をあげます」
そう言うと、霧子は額のガーゼを剥がし、包帯をするすると解き始めた。そうやって、彼女は陰平の前に剥き出しの美しい心をさらけ出す。
「俺に犯されたいと思う体勢になれ。自分でマンコを拡げろ」
「――は、はい……。――んくっ」
霧子は息を飲んでから、ベッドに上がる。
彼女は正常位でハメ犯されることを選んだ。ベッドに寝転がると、彼女は自分の脚を抱え、いわゆるマンぐり返しの体勢になると、己の秘所を陰平の前に差し出す。プロデューサーとアイドルとして、二人の関係はあくまで対等である。それでも彼女がこの体位を選んだのは、陰平の雄々しいチンポに真上から突き刺してもらい、己があくまで陰平に支配されている存在だという感覚を得たいからのようだ。それをもって自分はあくまで、彼の癒しのために奉仕する存在であると理解したいのだ。
そんないじらしい姿に、陰平はこの愛しい少女を犯したくて仕方が無くなる。それを霧子が望むなら、彼女の全てを支配してやりたくなる。彼は肉棒の先端を、愛液で湿った霧子の割れ目にあてがった。
「んぅ……!」
「怖いのか? 霧子」
確かに、霧子は恐怖心を抱いていた。彼女はぎゅっと目をつぶり、その身体は小刻みに震えている。もしかしたら、処女を失う時よりも、霧子はこれから始まる行為に恐れを抱いていたかもしれない。
これから彼女が陰平のチンポで犯されるのは、身体というよりも魂そのものなのだ。今から吐き出される陰平の精液は、肉体よりも、心に染み付いて取れなくなるだろう。あるいは、定期的に陰平に抱かれなければ、逆に不安で日常生活すらままならなくなるかもしれない。
「――霧子、大丈夫だ。安心しろ」
だがそうなっても、自分が必ず責任を取ると陰平は断言する。
初めて彼女を犯した時、陰平の心は弱り、迷いがあった。しかし今は違う。彼の中には、彼女を幸せに出来るのは自分しかいないという絶対の確信と、不退転の決意がある。そんな陰平に微笑まれ、霧子も同様に微笑んだ。
――ズチュン!!!!!!
「――……え?」
そこで、霧子の全身を恐ろしい衝撃が貫く。自分に何が起こったのか、一瞬霧子には把握できなかった。
彼女が自分の下腹部に目をやれば、陰平の長大な肉棒がいつの間にか姿を隠し、霧子の下腹がぽっこりと膨らんでいる。腰が激しく、ガクビクと震えだす。
「……? …………!? ――――あっ!?!!!???」
余りに強すぎるために脳がシャットアウトした快感が、遅れてやってくる。気持ちよくて、気持ちよくて、気持ちよくて、気持ちよくて、気持ちいい。反射的に、霧子は陰平の身体の下から逃れようと身をよじる。
「――――――♡♡♡♡♡♡」
だが、陰平は霧子の両手首をガッチリと掴みベッドに縫い留め、彼女が逃げられないようにしてしまう。このオスは本気なのだ。自分を完全に捕まえて、彼無しではいられないようにするつもりなのだと、霧子の肉体は本能で悟る。
――ドチュッ!! ドチュドチュドチュドチュ!!!!
「――――あああああっ!!!!????♡♡♡♡」
手加減など一切考えない、荒々しい抽挿。
支配される。逆らえなくされる。一突きごとにこれまでの幽谷霧子が壊され、彼の望む形に作り変えられていく。
「――んぅうううううっ!!!!♡♡♡♡」
人間の言葉を発する余裕などない。ただの動物になって、霧子は陰平が与えてくれる快楽に溺れた。
――ズッッッッチュン!!!! ズッッッッチュン!!!!
「――ひぅっ!!?? ひぁぁっ!!??」
肉棒に内臓をかき回され、勝手に鳴き声が出てしまう。それは、とても普段は大人しい霧子が発しているとは思われないほどにはっきりとした嬌声だった。
(――あ、おちんちんさん……膨らんだ)
頭のほんの片隅に残された理性で、霧子はそれを察知した。
射精が来るのだ。そして、自分は改めて、正式にこの人のものになる。心と心がくっついて、もう二度と取れなくなってしまう。
(嬉しい……とっても嬉しいよ――)
今日から自分は、この人のためだけに生きるのだ。自分ではなく、誰かの幸せのために生きる。霧子にとって、これほど幸せな事は他にない。
「出すぞ、霧子」
荒々しいピストンとは対照的な、優しい優しい陰平の言葉に、霧子は涙をこぼしながら微笑んだ。
――ブビュ!!!! ブビュルルルルルッ!!!!
満たされていく。子宮が精液で満たされていくのと同じように、心が満たされていく。
そして、霧子が陰平で満たされているように、陰平も霧子で満たされているのだ。それは言葉で確かめるまでもない。
霧子は陰平の渇きを癒す水になろうとしたが、陰平も霧子にとっての水だったのだ。お互いをお互いで満たし合う事の幸せが二人を包み、どちらからともなくキスをする。その幸福感は、脳が焼き切れるような激しい絶頂すらも上回っていた。
「――忠治さん」
数時間後、そうやって交わり尽くした挙句、陰平のものとなった霧子は、自身の最愛の人に呼びかけた。
彼女は陰平に、一つお願いをした。これからは自分に自信を持って、できるだけ包帯に頼らないようにしたい。ただ、その代わり――
「分かった」
陰平は頷いた。
その日の行為の最後に、彼らがしたことは何だったのか。
次の日、霧子の高校の学友たちは、霧子にいつもとは違う部分がある事に気が付いた。
霧子の巻いている包帯の数が、いつもより少ない。それもあるが、もっと変わっていた事が一つ。
霧子はその日から、ほとんど必ず首に包帯を巻いてくるようになった。その首の包帯は、最初は霧子が巻いたとは思えないほど不器用に巻かれていたが、すぐに他の場所の巻き方と見分けがつかなくなっていった。
「――ふふ♪」
霧子は時折、いつもの優しい微笑みを浮かべながら、首輪の様にも見えるその包帯を、愛おしそうに撫でていた。