【シャニマス】中年プロデューサーの華麗なる暗躍 作:黒胡椒サラミ
「う……。な、なーちゃんには、秘密」
甘奈は、甜花の口からその言葉を聞いた瞬間、腰から砕け落ちそうになった。
甜花が甘奈に隠し事をするなど、これまでの人生で数えるほどしかない。しかし、その数えるほどしか無かった事が、最近は立て続けにもう何度も起こっているのだ。
「ど、どうして甜花ちゃん。甘奈、何か甜花ちゃんに嫌われるようなことでもしちゃった?」
「ち、違うよ、なーちゃん。甜花、なーちゃんのこと大好きだよ」
「そ、そっか……そうだよね! じゃあ――」
「でも、内緒なの」
「え……」
甘奈と甜花は双子の姉妹だ。二人はとても仲が良い。しかも、その辺にいる兄弟姉妹とは、仲の良さの度合いが違うと、甘奈は自負している。
甘奈は姉である甜花のことが可愛くて可愛くて仕方ない。ものぐさな甜花のため、朝夕の着替えや食事時の箸の上げ下ろしまで手伝っているほどだ。甜花自身も、自分はなーちゃんのお世話が無ければ生きていけないと公言している。
そんな仲の良い二人の間には、隠し事など無い。その日にあった事は全て共有して来た。だから、甘奈は甜花の事ならば何でも知っているし、甜花も甘奈の事を何でも知っている。そう思ってきたのだが――
「甜花、明日は学校から、一人で帰るから。なーちゃん、先に行っててだいじょぶだよ」
「ひ、一人で……? そんなの危ないよ甜花ちゃん! 車とか、道路にいっぱい走ってるし……」
「だいじょぶ、だから」
二人は家のリビングルームで話をしていた。そこで甘奈はただ、「甜花ちゃんは、明日はどんなレッスンをするの?」と聞いただけだ。だが、その答えは「秘密」である。
アイドルを始めて以来、別行動する時間が増えた。それだけでなく甜花は、どんなレッスンをしたのかとか、そういう事まで甘奈に秘密にするようになってきた。それでも、いつもは一緒に下校して、一緒にプロダクション事務所まで通っていたのだ。それすらも一人で行きたいと言われて、甘奈は目の前が暗くなった。何だか、ぐんぐんと甜花が遠くに行っている気がする。
「甜花、そろそろ部屋に戻るね」
「え、もう? ――あ、そっか、この間買ったゲームだよね?」
「うん、甜花、ゲームもするよ。でも甜花、プロデューサーさんと約束したから。お風呂上りに……あ、これも秘密、だった」
「…………え?」
「お休み、なーちゃん」
「――あ、う、うん。お休み、甜花ちゃん……」
半ば茫然として、甘奈はそう答えた。ソファから立ち上がった甜花は、彼女が好きなデビ太郎のクッションを抱えたまま二階に上がっていく。リビングに一人取り残された甘奈は、ソファに座ったままでうつむいた。
――プロデューサーさんと約束したから。甜花の隠し事が多くなってきたのは、まさにそのせいだと甘奈は思っていた。甘奈と甜花は同じユニットだが、彼女たちのプロデュースは、伊庭と陰平という二人のプロデューサーが合同で行っている。そして、普段のレッスン担当は、甘奈が伊庭で、甜花が陰平だ。少しややこしい。ともかく、「プロデューサーさん」という単語も、甘奈と甜花では意味するところが違う。
どうやら、甜花が甘奈に秘密を持とうとするのは、プロデューサーである陰平の指示が大きいようだ。
(そうじゃないと、甜花ちゃんが甘奈に隠し事なんてしないよね……)
仲の良い姉に隠し事をされたという単純なショックとは別に、漠然とした不安と、焦燥感のようなものが甘奈を包んでいる。この正体はいったい何なのだろう。甘奈はきゅっと握り締めた拳を、自分の胸に当てた。
(プロデューサーさんに、相談してみたほうがいいのかな)
だが、甘奈には自覚があっただろうか。甜花が彼女に隠し事をしたように、彼女も甜花に対し、打ち明けていない思いが有ったことを。
相談相手として甘奈が思い浮かべた人は、彼女のプロデューサーである伊庭だ。伊庭なら、きっと自分に適切なアドバイスをしてくれるに違いないと考えた時、そこに単なる仕事上の責任者とか、頼りになる年上の男性に対する以上の感情が含まれていなかったとは、即座に断言できないだろう。
(プロデューサーさんなら、きっと何とかしてくれるよね)
甘奈はそう考え、何とか甜花が自分から離れていく不安を誤魔化そうとした。
(でも……明日一緒に帰らないで、甜花ちゃん、どこに行くつもりなんだろう)
もう一度それを甜花に尋ねてみたかったが、それでまた秘密と言われてしまったらと思うと、勇気が出ない。甘奈は、甜花の部屋があるあたりの天井を、曇り顔で見つめた。
――――――――――――――
「偉いぞ甜花、ちゃんと一人で来れたな」
「うん……!」
大崎姉妹の家でそんな場面があった翌日、陰平は、姉妹の高校の近くにある駅で、甜花と待ち合わせしていた。陰平に褒められた甜花は、少しドヤ顔をして頷いた。そんな彼女を、陰平はもう一度よしよしと褒めてから、甜花に確認した。
「甘奈には勘付かれなかったか?」
「うん……たぶん、だいじょぶ」
「……ふむ」
甜花は大丈夫と言うが、ならば、あの壁の影から見えている甜花と同じ色の髪は何なのだろうと陰平は思った。
(姉が心配で、尾行して来たってところか……)
しっかり者に見えても、甘奈にも少し抜けたところがある。当人は気付かれていないと思っているようだが、あんな露骨に後をつけて気付かないのは、甜花くらいのものだろう。
「どうしたの、プロデューサーさん。早く行こ?」
「ん? ああ、そうだな」
甜花に急かされ、陰平は頷いた。
どうしようかと思ったが、今日は特にやましい事をするつもりではないし、尾行したいならさせてやればいい。じゃあ行くかと陰平は言った。
今日の行先は、甜花のゲーム紹介・攻略コラムを載せてもらう予定のウェブサイトを運営している会社だ。会社と言っても、雑居ビルの一室に入っている小さなベンチャーであるが、甜花のあいさつ回りの練習としては、そのくらいから始めるのがちょうどいい。
陰平は甜花を連れて改札をくぐると、甘奈が尾行しやすい歩調でホームまで歩いた。
「甜花、あの電車に乗るぞ」
電光掲示板を指さして、わざわざ時間と行先を声にだしたのも、甜花というよりは甘奈に示してやるためだ。電車に乗り込む時、自分たちから数両離れた車両に甘奈が乗り込むのを、陰平は目の端で確認していた。
(姉と離れ離れでレッスンするのが、そんなに堪えたのか……? それとも、俺みたいなオッサンに、大切な「甜花ちゃん」がどうこうされるとでも思ったのか……?)
陰平は思わず失笑してしまう。甘奈がここまで姉離れできていないとは、さすがに予想していなかった。と、そこで彼は、前方からくいくいとスーツの袖を引っ張られるのを感じた。
「ね、プロデューサーさん。甜花、昨日もちゃんと、自主トレしたよ?」
通勤ラッシュの時刻前だが、電車に乗り込んでいる人間の数はほどほどに多い。そのため、陰平たちは席には座れずに立っている。甜花がドアを背にし、陰平が彼女を人垣から守っている格好だ。陰平の懐にいる甜花は、上目遣いで彼の袖を引っ張って、褒めてほしそうな顔をした。
「今日行く会社の事も、wikiとかニュースとかで、ちゃんと検索した。……下調べ」
「そうか……偉いぞ、甜花」
本当に甜花を褒めてやりたいと思う気持ちが八割、どこからか様子をうかがっているに違いない甘奈に見せてやろうと思う気持ちが二割、陰平は甜花の頭に手を置くと、ポンポンとあやすように撫でた。
「にへへ……」
日頃の「マッサージ」の甲斐あって、このくらいのスキンシップは、甜花はもう当たり前のように受け入れる。陰平に撫でられると、甜花は目を細めて、喉をゴロゴロと鳴らした。
「甜花はいつも頑張ってるし、この仕事が上手く行ったら、何かご褒美を考えないといけないな」
「ご褒美?」
陰平は甜花の頭を撫で続けている。その手に向かって、どこかから険悪な視線が突き刺さっている気がした。しかし、彼は平然と甜花との会話を続けた。
「じゃ、じゃあ、お休みちょうだい……? 甜花、お昼寝したい」
「そうだな、甜花ならそう言うと思ったよ。ああいいぞ。ちゃんと仕事をするアイドルには、ちゃんと休みを用意するさ」
「にへへ……プロデューサーさん、ありがとう、ございます。あ、あとね」
「まだあるのか?」
「うん」
そこで甜花は、再び陰平の袖を摘まむと、声を潜めて言った。
「甜花、プロデューサーさんに、マッサージして欲しいな」
「…………!」
ドクンと肉棒が脈打った気がした。
甜花は、自分で自分が何を言っているのか分かっているのだろうか。これを無自覚でやっているとしたら、恐ろしいメスの才能だ。
「……そんなに俺のマッサージが気に入ったのか?」
「うん……あれやると、身体がポカポカして、ぐっすり眠れるの」
「そうか、そりゃあ良かった。……もちろんいいぞ。マッサージくらい何時でもしてやる。……そうだな、今日の帰りに、ちょっとやっていくか」
予定変更だ。今日はやましい事をするつもりは無かったが、自分は伊庭とは違う。メスがおねだりしているというのに、放置して帰るような馬鹿ではない。甜花について、次の段階に進むのはまだ先だと思っていたが、好機を逃してはならない。
(だが、場所をどうするか……)
案外それが難しい。事務所のレッスンスタジオでは、今日は伊庭が放クラ組を指導しているはずだ。と言って、まさかラブホテルに連れ込むのは早計だし、怪しまれずに二人きりになれる場所というのは、案外限られている。ちょっと悩んでから、陰平は結局、最も勝手知ったる場所を使う事にした。
女子寮の空き部屋は、こんな時のためにあるのだ。
―――――――――――――
(どうしよう……甜花ちゃんが……甜花ちゃんが……)
甘奈は取り乱していた。
出来心で甜花の後をつけてみたら、とんでもないものを見せられてしまった。それほどに、甜花が陰平に頭を撫でられているシーンは、甘奈にとっては衝撃だった。
(どうして……? あんなおじさんに甜花ちゃんが……)
人垣に遮られてよく見えなかったが、ちらりと見えた甜花の顔は、陰平に撫でられて間違いなく喜んでいた。家族以外の前でああいう喜びかたをする甜花を、甘奈は今まで見た事がない。
二人が何を話していたのかまでは聞こえなかった。しかし、甜花があの中年男に対して心の壁を作っていないという事は、双子である甘奈にはよく分かった。それだけに、凄く嫌な予感がする。あの男に甜花が騙されて、甘奈の手の届かない、どこか遠くに行ってしまうのではないかという予感だ。
甜花と陰平は、乗車してから数駅過ぎた場所で電車を降りた。人混みを無理にかき分けるようにしながら、甘奈もそれを追った。
動揺した甘奈は、既に物陰に身を隠す事も忘れて、甜花たちの背後数十メートルの距離で、道の真ん中を歩いていた。
その町は、ごみごみと雑居ビルが立ち並ぶ繁華街だった。夜ともなれば酔客が集まり、風俗店の無料案内所などもある。ただでさえ、明るい雰囲気の美少女である甘奈は目立つ。しかも、高校の制服を着たままこんな所を歩けば、人目を引くに決まっている。道端に立つホスト風の男などから興味深そうな視線を投げかけられている事に、甜花の背中しか見ていない甘奈は気付いていなかった。
甘奈は、甜花たちがビルの一つに入っていくのを見た。彼らの姿が見えなくなると、甘奈は小走りにそのビルに近づいた。
(あれ……甜花ちゃんたち、何階に行ったんだろう……)
二人はエレベーターを使ったようだが、甘奈が階数表示を見た時には、既に彼らを運び終わったエレベーターが、一階に戻ろうとしていた。それでも、甘奈はすぐにエレベーターに乗り込むと、勘を頼りに適当な階のボタンを押した。
(甜花ちゃん……甘奈に秘密で、こんな所で、あんなおじさんと何してるの……?)
怖い。それを知ってしまうのが怖い。甘奈の手は小刻みに震えていた。
「……!」
甘奈が押したのは六階だったが、三階で一度扉が開いた。乗って来たのは、浅黒い肌の金髪の男だ。短髪には剃りこみが入って、唇にピアスを付けている。甘奈は思わず、教科書が入ったバッグを抱えてエレベーターの端に身体を寄せた。
男はじろりと甘奈を見た。上から下まで甘奈を見る目が、なんとなく品定めしているように感じる。甘奈は、片手でスカートの裾を掴んで、できるだけ太ももを隠そうとした。
「――――っ! ――はぁ、はぁ、はぁ……」
男が四階で降りていくと、甘奈は止めていた息を吐き出した。ほんの一瞬の出来事だったのに、心臓が口から飛び出そうなほどに暴れている。タバコ臭いエレベーター内の空気が、甘奈の肺に満たされる。六階に到着しエレベーターを降りた時には、甘奈の脚はふらついていた。
「甜花ちゃん……」
そのフロアの床は、廃雑誌などが積まれている上に掃除が行き届いておらず、荒廃した印象を甘奈に与えた。廊下の脇には扉が並んでいて、中には誰かが居る気配がする。扉の一つの看板を見ると、○○プロダクションの文字。283プロとはだいぶ雰囲気が異なるが、ここもアイドルのプロダクションなのだろうかと、甘奈は少し安心しかけた。
そうならば、甜花は他事務所のアイドルと何かの打ち合わせをするために、陰平にここに連れて来られたのだ。
おあつらえ向きに、そのプロダクションの扉は少しだけ開いていた。中の様子をうかがってみようと、甘奈はそっと扉を押した。
「…………? ――――!!」
危うく悲鳴が出かかった。入口の壁に、いきなり裸の女性のポスターが貼られている。水着のグラビアとかではなくて、隠さなくてはならない部分が全て露出した淫らな写真だ。大きな女性の裸の横には、煽り文と、これも裸の男性たちと揉み合っているような小さな写真が並んでいる。
(何、なにこれ!? 甜花ちゃん? 甜花ちゃん!?)
何の事は無い、ここはただのアダルトビデオ制作のプロダクションだ。甘奈がもう少し大人なら、そうでなくともいつもの様に平静な状態なら、ここまで取り乱す事は無かったかもしれない。しかし、今の甘奈は甜花の事で動揺していたのだ。
「なぁに、君。ウチに興味があるの?」
「――――――ひ!!」
背後から声を掛けられ、甘奈は飛び上がった。
後ろに居たのは、さっきエレベーターで遭遇したのと似たような男だ。目は濁っており、紫色のワイシャツのボタンを胸まで開けて、どう見ても堅気ではない風貌をしている。
「君、高校生? カワイイねぇ。だけどウチは高校生は――」
男が何かを言っている間に、甘奈は逃げ出していた。脱兎のごとく駆けて、エレベーターではなく、廊下を突きあたった先にあった階段を駆け下りた。甜花を助けなければならないはずなのに、怖くて怖くてどうしようも無くなっていた。
雑居ビルを出ると、甘奈は良く分からないまま走った。道を歩いている男性が、その時の甘奈には全てが恐ろしく見えていた。
「――はぁッ、はぁッ、はぁッ……!!」
走り回った挙句、甘奈はどこか知らない路地に来ていた。そこにへたり込んで、甘奈は頭を抱えた。
「甜花ちゃん……甜花ちゃん……」
甜花の事が心配だし、自分の事が情けない。視界が涙で滲んでいく。それでもさっきのビルに戻るべきだと思うが、今度は足がすくんで動かない。それにそもそも、戻ろうにも場所が分からなくなってしまった。
この街から出て、大きな通りに出ようと思っても、身体が言う事を聞かない。そうこうするうち、段々と日が暮れてきた。
「甜花ちゃん……」
自分は何て情けないんだろう。普段はお世話をするような事を言っておいて、肝心な時に姉のために何もできない。
「助けて……甜花ちゃん……」
それどころか、あべこべに姉に助けを求めてしまう始末だ。
甘奈の中で自己嫌悪が増幅されていく。しばらくの間、その路地裏には甘奈の嗚咽だけが響いていた。
(…………プロデューサーさん)
どれくらい時間が経っただろうか。体育座りでうずくまっていた甘奈の頭に、その名前が浮かんだ。
(プロデューサーさんなら、助けてくれるかも……)
それは何とも虫のいい願いであったが、甘奈はスマホを鞄から取り出していた。
数十分後、甘奈の連絡を受けた伊庭が、彼女がうずくまる路地に、息を切らして駆けつけてきた。
どれだけ必死に走り回ったのか、髪を乱して汗だくになった伊庭を見た時、甘奈は思わず彼に駆け寄って抱き着いていた。
――――――――――――――
「ちょっと待ってくれ、甜花」
胸ポケットにスマホの振動を感じ、陰平はそう言った。鳴っているのは社用のスマホだ。画面には伊庭総士という名前が表示されている。
「――もしもし、伊庭君ですか? ――ああ、うん。甜花? 甜花なら俺と一緒に居るけれど……。ああ、もうしばらくしたら家に帰します。それが何か? ……? あ、おい、伊庭君」
伊庭からの電話はそれで切れた。気にしないで下さいと言っていたが、あの男は一体何のつもりで自分に電話して来たのだろう。仕事に関わる話ではなさそうだったが、ならばどうして甜花の名前を出したのか。
(ひょっとして、何か勘付いたのか……? いや、まさかな)
そんなはずは無いと、陰平は首を振った。せっかく甜花と重要なコミュニケーションを図ろうとしていた時に、水を差された気分だ。
今日の甜花との仕事は大過なく終わった。先方の会社が入っているビルが偉いボロで、そこの社長が剃り込みの入った金髪に唇ピアスの男というのには少し度肝を抜かれたが、話してみると至って真面目な商売相手だった。
――あなたが大崎甜花さんですね? この度は私共のオファーを受けて下さり、誠にありがとうございます。すみませんでした。こんなむさくるしい場所までわざわざご足労頂いて。何しろ零細企業なものですから、こういうビルしか借りられないんです。
そう言って社長は気さくに笑った。甜花は最初はビビりまくっていたが、社長の腰の低さと、言葉の端々から伝わってくるゲームへの愛情に、すっかり心を許してしまった。
わざわざ挨拶に出向いた甲斐あって、仕事の面では有意義な話ができた。先方はサンプルに送った甜花の文章を気に入って、ぜひ彼女にこの案件を任せたいと言っただけでなく、うちの広告を付けて、流行りのゲーム実況をやらないかと持ち掛けてきた。その場での返答は保留したが、一考してみる価値は有った。
そうして仕事が終わると、陰平は甜花を連れて寮まで戻って来た。約束の、ご褒美のマッサージを彼女に施すためだ。尾行していた甘奈を、どうやって巻こうかと考えていたのだが、ビルから出た時には甘奈はいなくなっていた。きっと陰平たちを見失って、諦めて帰ったのだろう。
「すまない甜花、じゃあ再開するぞ」
「――んぅ」
ここは283プロの寮の空き部屋の一つだ。ジャージ姿の甜花が、部屋の中央に敷かれたヨガマットに、うつ伏せで横たわっている。陰平がその背中に跨ると、甜花の口から悩まし気な声が漏れた。
事務所のレッスン室と違って、ここならば誰かに邪魔をされる心配は無い。陰平はもう小一時間かけて、執拗なまでに丹念に甜花の身体を揉み解し、彼女の思考をふやかしてきた。
「あぅ……ひゃぁ……♡」
肩甲骨の下をちょっと押してやっただけで、甜花は陰平のチンポを苛立たせる喘ぎを漏らす。陰平はもう、この少女の身体のツボをほぼ完全に把握してしまった。甜花の感度が良すぎる事も手伝って、そのつもりになればマッサージだけでイカせる事ができそうな気さえする。
「もう一回腰を押すぞ、ダンスの時も、腰が一番重要だからな……」
取って付けたようなそれっぽい事を言って、陰平は甜花の腰に両手を添える。そして少し力を入れて、グイっと強く揉み上げた。
「おうっ――ふっっ――♡」
ひと際大きな声を出し、ビクリビクリと甜花の身体が跳ねる。もうずっとこの調子で陰平にいいようにされて、既に彼女の意識は朦朧としていた。
「あっうっ――♡ ああっ――♡」
しかし、ぼんやりとした意識の中でも肉体は正直だ。カイロのようにポカポカに温められた彼女の身体は、中年男の太い指によって今まで持ち主が知らなかった未知の快感への扉を次々と開けていた。
「はぁ――、はぁ――、はひぃ――」
さらに三十分後、甜花はまるで本物のチンポに犯され抜いた後のように、汗だくになってヨガマットにへばりついていた。
焦点の合わない瞳に、ほつれた髪が唇にかかって、実に劣情をそそる光景だ。大切な姉のこんな痴態を甘奈に見せてやれなくて、非常に残念と言ったところである。
(……ん?)
と、そこで陰平は気が付いた。甜花のジャージの股の部分が、ぐっしょりと汗でないもので濡れている。
(ほほう、一丁前に濡らしてるのか。しかし不味いな……この状態じゃ、家に帰せんぞ)
ほとんどお漏らししたようになっているから、この状態で帰宅させれば、甘奈をはじめ、甜花の家族に何を言われるか分からない。
(――お、そうだ)
しかし、逆に考えればこの状況は使えるかもしれない。陰平は心の中で頷くと、甜花の肩を叩いて、彼女を正気にさせた。
「おい、甜花、甜花」
「――あ……う……」
「起きろ甜花」
「あ…………甜花、寝ちゃってた……?」
「かもな、ちょっとこれ見てみろ」
「え……? あ――」
陰平に起こされた甜花は、しばし中空に視線をさ迷わせていたが、やがて己の股間部の水たまりに目を止めた。
「――どうする、甜花」
彼女の横では、陰平が大層困ったように眉をひそめている。
「甜花……お漏らし……?」
「う~ん、そうみたいだなぁ」
「えぁ……う……」
甜花は顔面を蒼白にし、次に耳まで真っ赤になった。羞恥心の薄い彼女でも、高校生で失禁したという事実は重いようである。
「……うっ……ひっく」
「……甜花? 泣いてるのか?」
「……ひっく……ごめんなさい、プロデューサーさん……。うぇぇ……」
「甜花……」
「うぇぇぇん……!」
甜花はべそべそと泣き始める。自分で泣かせておいて、陰平は甜花に少し同情した。彼は甜花を優しく抱きしめると、後頭部と背中をぽんぽんと叩いて慰めた。
「大丈夫だ甜花、これはお漏らしじゃない」
「うっく……ひっく……お漏らし、じゃない……?」
「そうだ。これは……そうだな、気持ちよくなると出てくる、汗みたいなもんだ」
こういう中年親父に騙されないために、甜花も保健体育の授業くらいは、もう少し真面目に受けておいたほうが良かったかもしれない。しかし、17才にしてはあまりにも性知識に乏しい甜花は、あっさりと陰平の言う事を信じてしまう。
「甜花……お漏らし、してない?」
「ああ、そうさ。俺が調子に乗って、マッサージし過ぎたのがいけなかったんだな」
「……ううん。プロデューサーさんは、悪くないよ。甜花、気持ち良かったから」
「そうか……。……どんなふうに気持ち良かった?」
どさくさに紛れて自分を抱きしめている相手が、どれほど危険な人間かなど、甜花は想像もしていない。甜花の身の安全を心配した甘奈は正しかった。だが、その甘奈も、残念ながらこの場には居ない。
「腰をぎゅってされた時、凄い、ビクビクってなった」
「他には?」
「お腹、撫でられた時も気持ち良かったよ」
「なるほど。……うん、甜花は別に変じゃないな。それが普通だ」
「ほんと……?」
「ああ」
陰平が鷹揚に笑うと、甜花もにへへと笑顔を浮かべた。そして、陰平の胸に頬擦りをする。
「でも、そんなに濡れてちゃ帰れないなぁ。……甘奈も、もしかしたら、甜花がお漏らししたって勘違いするかもしれないし」
「あ……」
「心配するな。この寮には乾燥機が有るからな、そいつを使えば一発だ。ちょっと濡れた服を貸してくれ。誰にも見つからないように、俺が行ってくるから」
それはつまり、この男の前でズボンとショーツを脱ぐという事を意味する。替えの下着は無いから、甜花は無防備な股間をしばらくの間晒さなければならない。
「分かってる。もちろん脱ぐところは見ないさ。――早くしてくれるか? 寮の誰かに勘付かれたら不味いからな。そろそろ、樹里や凛世がレッスンから帰って来る時間だし」
譲歩するところは譲歩し、タイムリミットを設け、陰平は甜花の思考を揺さぶった。甜花はしばらく迷っていたが、やがて彼に「あっちを向いていて」と頼むと、ジャージの下とショーツを脱いだ。
「じゃあ、ちょっと待ってろ」
ぐっしょりと濡れたそれを甜花から受け取ると、陰平は立ち上がった。廊下に出ると、彼は甜花のショーツをまじまじと眺める。桃色の可愛らしいショーツが、絞れば液体が滴ってきそうなほどに濡れている。ニヤリと笑い、彼は階下の乾燥機にそれを叩き込むと、甜花の待つ部屋に戻ってきた。
「あぅ……プロデューサーさん……」
甜花は下半身に何も身に着けていない状態だ。彼女は秘部を陰平に見られないように、部屋の床にぺたんと座り、ジャージの裾を目一杯に手で伸ばしている。今の彼女をころんと床に転がせば、未だ誰も目撃したことのない少女の秘境が広がっていると考えると、陰平のチンポもいきり立たずにはおれない。
しかし、今日の彼はそんな愚息をなだめると、まるで父親のように、優しく彼女の頭を撫でた。
「すぐに乾くから、もう少しここで待ってような」
「……ごめんなさい」
「だから、甜花が謝るような事じゃないさ」
本当に、甜花には謝る要素は何一つ無い。悪いのは全てこの男だ。しかし、もはや彼は罪悪感など感じない。これも全て、最終的に甜花を幸せにするためなのだ。
「でも、やっぱり今日の事は、甘奈には秘密にしておいたほうがいいだろうな」
「うう……」
陰平に念を押されるまでもなく、甜花にはこの話を甘奈に語る勇気は無かった。お姉さんとして尊敬される事を目指してきたのに、これを知られれば、逆に呆れられ、見捨てられてしまうかもしれない。
「プロデューサーさんも、なーちゃんには、言わないで……!」
「もちろんさ」
陰平はよしよしと甜花の背中を撫で擦る。そうしていると、甜花の動揺もだいぶ収まって来た。
「……でもなぁ、少し残念だな」
「……? 何が?」
「甜花がこんなふうになるってことは、マッサージはもうできないなぁ」
「あ……」
「もっと本格的に気持ちよくなれる奴を用意してたのに、残念だよ」
「もっと……? さっきより……?」
「ああ、もっともっと、もっともっとだ」
「………………」
さっきよりも、さらに強烈な快楽が得られる。その可能性を陰平が匂わすと、彼の胸の中で、甜花がコクリと唾を飲むのが分かった。
「――まあ、それは後で考えるか。甜花、今日はお疲れ様だったな」
この場での結論を、敢えて陰平は保留させた。この日はそれ以降、陰平に抱きしめられたまま、甜花はずっと何かを考えこんでいた。
だが、甜花の身体がより強い刺激を欲しがっている事など、陰平はとうに見抜いていた。目の前にぶら下げられた快楽を、メスとして目覚め始めた彼女の身体が我慢できるはずが無い。その確信は、次に彼女が事務所に現れた時に、早くも的中した。
「プロデューサーさん……。また、マッサージしてくれる?」
陰平と甜花の秘密のマッサージは、段々と過激の色を濃くしていた。