【シャニマス】中年プロデューサーの華麗なる暗躍 作:黒胡椒サラミ
「――う……ん……っ。はぁ……っ」
照明が消えた部屋の中で、悩ましい吐息の音が繰り返し聞こえる。自室のベッドの上で、千雪は何度も寝返りを打っていた。
「はぁ……っ、ん……く……っ」
本来なら寝付きの良い千雪だが、ここ数日は眠りが浅い。身体がどうしようもなく火照って、眠れないのだ。だから彼女は、いつもこんな風に、日付が変わる時間になっても、ベッドの上で身もだえしている。
あまりに頻繁に寝返りを打つせいで、掛布団と毛布は既に床に落ちている。そのせいで、淡いパステルカラーのパジャマを着た千雪が、ズボンの中に右手を突っ込み、それをもぞもぞ、もぞもぞと動かしている様子が丸見えになっていた。
「ア……っ♡」
千雪の口が開き、やや大きな声が漏れた。若い男が聞いたら、即フル勃起間違いなしの淫らなメス声だ。
眠れない千雪が何をしているのかは明白である。彼女は、自分の卑しい肉体の火照りを冷ますために、自慰に勤しんでいるのだ。
「ンああ……♡」
しかも千雪がしているのは、道具を使っていないというだけで、かなり遠慮のないオナニーである。肥大したクリトリスをいじくり回し、中指を膣内に突っ込んで、ぐちゅぐちゅと卑猥な音が鳴るくらい、激しくそれを動かしていた。
ショーツは既に用をなさなくなるくらい濡れそぼり、パジャマにも染みができてしまっている。あとでそれらを共用のランドリーに持っていくとき、どんな顔をすればいいのか、それも考えられなくなるほど、千雪はオナニーに没頭していた。それくらい、彼女の肉体は疼きに疼いて、自身の精神を苛んでいたのである。
「――ふぅっ♡♡ ン゛~~っ!!♡♡♡」
仰向けになっていた千雪の脚がピンと伸びて、軽く腰が浮いた。ぴくぴくと腰が震えて、彼女はイったように見えた。
(だ……だめ……。ぜんぜん収まらない……)
しかし、肉の疼きは収まるどころか切実さを増し、それに突き動かされ、千雪はさらに指を激しく動かした。
「あ……ああ……♡ んぅ……♡」
ぐちゅぐちゅという水音は、既に千雪の部屋全体に聞こえるほど大きくなっている。軽くブリッジした状態で、パジャマのズボンの中に二本とも腕を突っ込んで、浅ましく淫らに彼女は動いた。
「か、陰平さん……!♡」
千雪の思考を占めているのは、同僚の中年プロデューサーの身体だった。女神のように美しい千雪の肢体と並べて比べるのもおこがましい、中年男の脂ぎった肉体だった。千雪の想像上では、陰平は裸で、同じく裸の千雪を力づくで組み伏せて、荒々しく犯している。陰平は背後から千雪に覆いかぶさり、千雪の頭を手で地面に押し付けるようにして、男と女の力の差を千雪に見せつけている。
そこで千雪の膣内に挿入されているのは、指とは比較にならないくらい太く、長く、熱い物体だった。
「陰平さん……っ♡ 陰平さん、もっと……っ♡」
陰平に犯される自分をオカズにオナニーしようと、千雪が最初から考えていたわけではない。むしろはじめは、淡い恋心を抱く伊庭のことを想像し、彼に優しく抱き締められるシーンを夢想して自分を慰めようと試みた。
だが、無理だった。千雪の求めに、想像上の伊庭は全く応えてくれず、千雪の寂しさはかえって増した。そして、そこに割って入ってきたのが陰平だ。陰平は、伊庭から千雪を乱暴に奪い取ると、どこかに千雪を攫い、二人きりになれるそこで、千雪を飽きることなく犯したのだ。
「陰平さぁん……っ♡ もっと……もっとしてぇ……♡」
待ち望んでいた白馬の王子ではなく、王子に退治される蛮人のような男に穢されることを夢想して、千雪はオナニーに励んでいる。千雪がそうしたいわけではない。彼女は決してそんなことを望まない。しかしそうしなければ、彼女を苛む肉の疼きは、安らかに眠れるほどには鎮まらないのだ。
「――んっ♡ くぅ…………っ♡ ア――っ♡」
頭の中の陰平に膣内射精されたと同時に、千雪は再び軽いオーガズムに達した。白いシーツの上で、千雪の足の指が艶めかしく開いて伸び、パジャマの股間部の濡れ染みが大きくなる。ブルブルとあごまで震わせて、喜悦の声が口から洩れる。
「――ンっ、はぁ……っ、はぁ……っ、はぁ……っ」
だが、収まらない。
こんな指で満足できるはずがない。
胸も股間も、股間の奥にある場所も切なくて、切なさのあまり、千雪はすすり泣きを始めてしまった。
「ぐす……っ、うう……」
この疼きを鎮める手段はある。それは実に簡単な手順だ。
今すぐにでもこの寮の部屋を出て、一階にある寮監室の扉を叩き、中から出てきた人にお願いすればいい。「どうか、千雪を犯してください」と。しかしそれは、千雪にとって最後の手段なのだ。それをしてしまえば、千雪は彼の奴隷と変わらない存在になってしまう。それだけはできない。
(そうよ……陰平さんとそんなふうになるなんて、有り得ないもの……。だって……だって陰平さんは……)
なぜなら陰平は、伊庭と違い冴えない外見をしているからだ。
(……ううん、男の人は外見じゃないわ)
ならば、陰平がもう若くないからだ。
(……年で人を判断するの? だったら、あなただって他のアイドルと比べたらおばさんよね? 外見とか年齢とか……そんなことで人を決めつけたらいけないと思う)
なら、
(……陰平さんは、プロデューサーのお仕事にも熱心だし……甜花ちゃんや他の担当の子たちも、みんな陰平さんのことが好きだって……尊敬してるって言ってたわ。それに……あなただって、陰平さんと一緒にお酒を飲んだりして、楽しかったでしょ? たくさん話を聞いてもらえて、私の趣味にも興味を持ってくれて、アドバイスしてくれて、頼りになって)
(……じゃあ、なにがだめなの? 私が陰平さんとそういう関係になったら、どうしてだめなの? ねぇ、千雪)
いつの間にか、千雪は、自分の中にいるもう一人の自分に語り掛けられていた。そのもう一人の自分は、「諦めて陰平のものになってしまえ」と千雪に囁いてくる。
(陰平さんに抱かれて……セックスされて、すごく気持ち良かったのよね? ならいいじゃない。もう一度抱いてくださいってお願いしましょう?)
千雪は再び呼吸を荒くし、胸と股間をまさぐり始めていた。もう一人の千雪は悪魔のような姿をしていて、千雪が内側に秘めた欲望を、あっさりと暴露する。
(セックスがあんなに気持ちいいんだって、知らなかったからびっくりしたのよね? だから嫌がるフリをしたのよね? でも、本当はもっとして欲しいなって思ったんでしょ?)
反論すべき良心は、既に悪魔の手管に囚われ、現実の千雪と同じように、悪魔の囁きによって思考を蕩かされつつあった。
(甘奈ちゃんや甜花ちゃんの前でお姉さんぶってるけど、本当のあなたは彼女たちより子どもだったのよね? 男の人とまともに付き合ったことが無くて、コンプレックスだったのよね? ――そんなあなたを、本当の「オトナ」にしてくれたのは誰?)
「ああ……っ♡♡♡」
(もう認めちゃいましょう……? あなたはもう、陰平さんの「女」なのよ……?)
「か、陰平さん……っ♡♡♡ イっ――んぅうううっ♡♡♡」
千雪は絶頂した。だがそれは、陰平が教えてくれた本当の絶頂には程遠かった。もっともっと高いところがあると知っているのに、頭のすぐ上に蓋をされて、それ以上昇り詰めることができないような感じだ。パジャマを脱ぎ捨て下着だけになり、狂ったように激しくオナニーを繰り返しても、「満足」は決して得られない。
「もう……やだぁ……っ」
もう、こんな拷問に耐えることはできない。千雪は誰かに助けてほしくて仕方なかった。
むしろ千雪は、陰平のほうから部屋に来てくれることを期待していた。寮監の陰平は、千雪の部屋の合鍵も持っている。それを使って千雪のパーソナルスペースに侵入し、彼のほうから無理やり千雪を犯して欲しい。千雪はそれを待っているのだ。
しかし、ドアは無慈悲なほど動かなかった。その理由は千雪にもわかっている。
次があるなら、それはお前のほうからだと、彼は千雪にはっきりと伝えたのだ。
「陰平さん……っ! 私とセックスして……! お願いですから……千雪を……千雪を犯してください……!」
千雪はますます淫らな言葉を口にして、まるで娼婦のように腰をくねらせた。
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「千雪さん、はい、お水」
「――あ、ありがとう、甘奈ちゃん」
「今日のレッスン、め~っちゃ疲れたね。もう汗べとべとだよ~」
本日のメニューが全て終わると、甘奈は千雪にペットボトルを差し出した。それからタオルで自分の顔をぬぐう。心地よい疲労感が甘奈の身を包んでいた。甘奈はジャージの上を脱ぐと、Tシャツ姿になった。そのTシャツは甘奈が流した汗で生地が濡れて、ところどころ彼女の肌に貼り付くようになっていた。
「ふぅ~♪ これならちょっと涼しいかも。千雪さんも汗すごいよ? 脱がないの?」
「えっ、あっ、そうね、えっと……。う、う~ん、私はあんまり暑くないかも……」
「ほんとー?」
「うん、ちょっと寒いくらい」
自分と同じようにジャージを脱がないかと、甘奈が千雪に誘いをかけると、千雪は妙に挙動不審になって、結局それを断った。それどころか、千雪は、レッスンで激しく動いたせいで下がっていた身体正面のジッパーを、せわしない手つきで首元まで上げた。
甘奈は少し首を傾げた。あれだけ激しく運動したあとで、しかもこのレッスンスタジオは暖房が効きすぎている。千雪の顔にも汗が浮いていて、ジャージがしっとり湿っているようにさえ見えるのに、どうしてと。
「千雪さん、もしかして風邪気味? それとも寝不足とか?」
「え? ど、どうしてかしら」
「ほっぺたが赤いし、レッスン中も、ちょっと足がフラフラしてたかも」
「そ、そんなことないわ!」
「……?」
千雪は変に強い声色で否定した。今日の千雪の様子は、こんなふうにどこか妙だ。レッスン前から疲れ果てたように足元がおぼつかず、簡単なステップでミスをしていた。
だが、甘奈はそれ以上、詳しいことを聞かなかった。というより聞けなかった。千雪がそそくさとした感じで、シャワー室のほうに行ったからだ。これも甘奈にとっては、少し気にかかることだ。少し前から、千雪は甘奈と一緒にシャワー室に行くのを、さり気なく避けるようになった。
まるで、甘奈に身体を見られたくないとでも思っているかのように。
(考え過ぎかなぁ……? まさか、そんなことないよね……?)
気になることは気になるが、だからと言って、わざわざ千雪を追いかけて問い詰めるような話でもない。スタジオに一人になった甘奈は、もう一度だけと思い、鏡の前でステップを踏み始めた。
ここ最近の甘奈の生活は、おおむね充実していた。コミュニケーション能力の高い彼女は学友も多く、もとより学校生活は順調だ。レッスンで身体を動かすのも嫌いではない。相変わらず甜花とスケジュールが合いにくいというのが悩みの種ではあったが、それはなんとか我慢していた。甜花が陰平から仕事を与えられたように、甘奈も伊庭から仕事を貰って、「アルストロメリア」としてデビューするための事前準備的な顔売りを開始していたからである。
(甜花ちゃんがあんなに頑張ってるんだし、甘奈も頑張らないと!)
甘奈の中には、甜花に置いていかれたくないという強い思いがあった。甜花が甘奈より先にアイドルとしての仕事をはじめてしまったことで、甘奈は一時期不安定になった。それは、甘奈が常に心のどこかで抱いていた、「甜花が甘奈を必要としなくなる日」がいつか来るのではないかという恐れが、現実のものとなりかけたように思ったからだ。
しかし、伊庭から雑誌の仕事を与えられ、それに一生懸命に取り組んでいるうち、甘奈の心は少し変わった。成長したのかもしれない。少なくとも、甜花が頑張ってアイドルをやろうとしているのを、曇った目で見るのは間違いだと気付いたのだ。甜花が頑張るから、甘奈も頑張る。自分たちはそういう関係であるべきなのだと。
だが、何も甜花のことだけが、甘奈の心を前向きにさせたのだとは限らない。甜花とあともう一人、甘奈の考え方を変えた者がいるとすれば――
(それにしても……プロデューサーさん、遅いなぁ。今日は来れないのかな?)
やはりそれは、彼女のプロデューサーである伊庭だった。
いつもは常に様子を見に来てくれて、こまめに差し入れも持ってきてくれる伊庭だが、彼は今日、このレッスンスタジオに現れていない。事務所で会議があるから、もしかしたら来れないかもしれないという連絡は事前に有ったが、それでも珍しいことである。
ステップを踏み終えると、甘奈は床から拾い上げたスマホの画面を見て、伊庭から新しい連絡が来ていないことを確認した。そして少しだけため息をつくと、画面をタップし始める。
「…………や~めたっ」
ぷんすかと怒っているゆるキャラのスタンプ付きで、「まだ~?」というメッセージを伊庭に送ろうとしたのだが、送信ボタンを押す前に削除してしまった。
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「…………」
「…………」
「…………」
ある日、283プロの社長室では、三人の男が顔を突き合わせていた。283プロ社長の天井、プロデューサーの伊庭と陰平、彼らの表情は、まるで弔事のごとく一様に沈痛である。その中でも、最も苦しい表情をしているのは伊庭だ。彼は天井のデスクの前に立ったまま、唇を噛み締めて床を見ている。
しばしのあいだ、時計が針を刻む音しか聞こえない重苦しい静寂が流れた。それを中断して渋い声でつぶやいたのは、肘掛椅子に座る社長の天井である。
「そう、か……田中と三峰が……」
「すみません」
「謝るなよ、総士」
「……すみません」
首を垂れる伊庭に対し、天井は彼をファーストネームで呼んで慰めた。ぶっきらぼうな言い方だったが、天井の声には優しさが垣間見えた。だが、それが余計に伊庭の心を重くしたようだ。
アンティーカに所属する田中摩美々と三峰結華、その二人から、プロダクションを辞めたいという言葉が飛び出した。それが今日の緊急議題の内容だ。二人は担当プロデューサーである伊庭に、単に可能性をほのめかしただけだったのだが、伊庭はその中に、彼女たちの隠された本気を読み取った。また、そうである以上、社長の天井にそれを相談しない訳にはいかなかった。
「彼女たちが自信を失ったのは、俺の責任です。俺が……もっとしっかりやれてれば」
しかし、だから俺も辞めますとは、伊庭は口にしなかった。以前までの彼なら、軽々しくそう言ってしまったかもしれない。だが、彼がプロダクションを辞めるということは、話題になっている二人に加え、その他の担当アイドルに対する責任を放棄するということだ。それだけは、一度プロデューサーの道を志した者として口にしてはならないと、今の伊庭は理解したのだろう。
そして、そういった部分に若い伊庭の成長を感じたのか、天井は目だけで笑うと、「その通りだな」と言った。
「総士、お前がもっとしっかり『アンティーカ』をプロデュースしていれば、こんなことにはならなかった」
「はい」
「だが……それなら俺も同罪だ。俺が社長として、お前にもっとしっかりアドバイスしてやれれば、こんなことにはならなかった。――すまない。謝るのは俺のほうだ」
「そんな……!」
「だから――」
だから後ろを見るのではなく、これからのことを考えよう。天井はそう言った。それから次に、彼はこう付け加えた。
「田中と三峰は、絶対に辞めさせない。何としてもウチに引き留める。彼女たちは、両方ともトップを目指せる逸材だ。手放して、他の事務所にさらわれでもしたら、ウチは大損だ。――な?」
最後の「――な?」のところで、天井は悪戯っぽく笑ってみせた。
「総士、二人とも、お前が見つけてきた素材じゃないか。――自信を持てよ」
「……ありがとうございます、社長」
「さぁ……それじゃあどうするかな。――忠治、お前に何か案はあるか?」
「…………」
陰平は、今まで無言で天井と伊庭のやり取りを聞いていた。
案はある。それは、自分にアンティーカのプロデュース全権を任せて欲しいというものだ。しかし、その案を口にするには、懸念事項が二つあった。
一つは、田中摩美々と三峰結華が、他のアイドルにも増して繊細な少女たちだという懸念だ。彼女たちは、例えば恋鐘のように、「どうしてもアイドルになりたい」という強い動機があって283プロに所属したわけではない。二人とも、伊庭によるスカウトを受けて入ってきたアイドルで、その点では伊庭個人との繋がりが大きい。かつての恋鐘ほど露骨ではないものの、伊庭に異性としての興味を向けているフシもある。それを伊庭から無理やり引きはがして、「じゃあ辞める」と、火に油を注ぐ結果にならないかということだ。
「どうだ、忠治」
もう一つは、陰平をこの業界に拾ってくれた天井が、プロデューサーとしての伊庭の成長を望んでいるということだ。
「そう、ですね……」
結果、陰平の返事は、珍しく非常に濁したものとなった。
アンティーカ全員を自分にプロデュースさせろ。その一言を陰平が言えないでいるうちに、伊庭が決意した表情で顔を上げた。
「――陰平さん!」
伊庭はかつてなく真剣な表情で、陰平の目を見た。そして彼は、心の底から発していると分かる声で、陰平に頼んだ。
「俺に……俺に、恋鐘と霧子を返してもらえませんか!」